397 :名無草 :2007/06/30(土) 13:40:10.41 ID:HWVRbRI0
春休みの半分が過ぎて、私は少し気の早い五月病に陥っている。
五月病、とは少し違うか。沈んだ気持ちが重く私の両肩にのしかかるようで、
「はぁ」
漏れるのは溜息ばかり、何でこんな気持ちになっているのかすら分からないなんて……。
外は俄かに活気付いて沈んだ私なんて忘れ去られてしまいそうで。
「はぁ……」
もう幾度目とも知れない溜息が漏れる。
この気持ちはどこから来るんだろう?
考えたところで分かるわけもない、なんだってこんな気持ちになっているかすら分からないんだから。
五人で買い物に行ってから四日が経って、“男”と“友”はもう以前と変わらないくらいなのに。
「はぁ」
二人の代わりに私が沈んでどうするんだ。そうは思ってもこの重い気持ちは消え去ってくれなくて。
何だかもう自分が嫌になってきた。
398 :名無草 :2007/06/30(土) 13:41:46.02 ID:HWVRbRI0
その後も溜息は止まらなくて。それがどれくらい続いただろう、お母さんと叔母さんが仕事に向かった頃。
「はぁはぁ煩いな、お前はいつから変質者になったんだ?」
いつの間にか“友”が部屋に入ってきていた。
「うるさい、ほっといてよ」
ベッドに倒れこんで言い放つ。
「放っておけるか、同じ家で生活してる奴がそんなじゃ気になって仕方ない」
言いながら近付いてきた“友”はベッドに腰掛ける。
「女の部屋に勝手に入ってきておいて、どっちが変質者よ」
うつ伏せのまま言う。
「ちゃんとノックしてから入ったよ」
視線を感じるけれど知らん振りで話す。
「了解も取らずに入ってきたらノックしたって同じよ」
今度は“友”が困ったように溜息を吐いて、
「ノックどころか部屋に入ったことすら気付かない奴から了解が取れるのか?」
そんな事を言う。
「だから入ってくるなってこと、分かったら出て行って」
声を張ろうにも力が入らなくて、空気が抜けるような声は聞き取りづらいだろうに、それでも“友”は返事をする。
「出て行っても良いけどな、いつまで閉じ籠ってるつもりだ?」
春休みが終わるまでよ。そう言うと“友”は諦めたように溜息を吐いて、
「そう言うなら出て行くけどな、飯の時くらいは降りて来いよ」
それだけを言うと部屋から出て行ってしまった。
「はぁ」
ドアの閉まる音を聞いて、また溜息が漏れた。
399 :名無草 :2007/06/30(土) 13:44:53.43 ID:HWVRbRI0
行き交う人、住宅街のただ中にあるこの家からはそう多くの人影を見ることはないけれど。
それでも目前の道を右から左へ、左から右へ。数え切れない程の人達が通っていって。
――私は、きっとあんな風には歩けずに道端で立ち止まって、しゃがみ込んでしまっているんだろうか。
普段の自分からは想像も出来ないそんな事を考えながら。
「お昼ご飯、出来たよ」
後ろからそんな言葉が聞こえた。
「何で勝手に入ってくるのよ」
振り向きもせずに答える。
「ノックしても返事が無かったし、そのまま放っておいたら絶対下りてこないと思ったから」
振り返ると“男”はいかにも心配していると言う表情で――実際心配しているんだろうけど――こっちを見ていて。
「……気が向いたら食べに行く」
それだけ言って、また窓の外を見る。“男”の視線に耐えられずに、振り払いたくても出来ないくせに。
それでも“男”は動かない、私も振り返れない。
背中に刺さる視線が痛くて、だからって追い出すことも出来なくて。
こいつが女の子になって初めて思ったことを思い出して。なんて自惚れ、私に誰かを守ることなんて出来ないのに。
それなのに思ったことは『この子を守ってあげたい』だなんて。
勘違いも甚だしい、私はそんなに強くないのに。
沈黙に耐えられず言葉を零す。
「何で食べに行かないの?」
「“女”が食べに行かないから」
「“男”は食べに行けば良いじゃない」
「“女”が食べないなら僕も食べない」
「私が食べなくても関係ないでしょ?」
言いながら振り返る、と。
春休みの半分が過ぎて、私は少し気の早い五月病に陥っている。
五月病、とは少し違うか。沈んだ気持ちが重く私の両肩にのしかかるようで、
「はぁ」
漏れるのは溜息ばかり、何でこんな気持ちになっているのかすら分からないなんて……。
外は俄かに活気付いて沈んだ私なんて忘れ去られてしまいそうで。
「はぁ……」
もう幾度目とも知れない溜息が漏れる。
この気持ちはどこから来るんだろう?
考えたところで分かるわけもない、なんだってこんな気持ちになっているかすら分からないんだから。
五人で買い物に行ってから四日が経って、“男”と“友”はもう以前と変わらないくらいなのに。
「はぁ」
二人の代わりに私が沈んでどうするんだ。そうは思ってもこの重い気持ちは消え去ってくれなくて。
何だかもう自分が嫌になってきた。
398 :名無草 :2007/06/30(土) 13:41:46.02 ID:HWVRbRI0
その後も溜息は止まらなくて。それがどれくらい続いただろう、お母さんと叔母さんが仕事に向かった頃。
「はぁはぁ煩いな、お前はいつから変質者になったんだ?」
いつの間にか“友”が部屋に入ってきていた。
「うるさい、ほっといてよ」
ベッドに倒れこんで言い放つ。
「放っておけるか、同じ家で生活してる奴がそんなじゃ気になって仕方ない」
言いながら近付いてきた“友”はベッドに腰掛ける。
「女の部屋に勝手に入ってきておいて、どっちが変質者よ」
うつ伏せのまま言う。
「ちゃんとノックしてから入ったよ」
視線を感じるけれど知らん振りで話す。
「了解も取らずに入ってきたらノックしたって同じよ」
今度は“友”が困ったように溜息を吐いて、
「ノックどころか部屋に入ったことすら気付かない奴から了解が取れるのか?」
そんな事を言う。
「だから入ってくるなってこと、分かったら出て行って」
声を張ろうにも力が入らなくて、空気が抜けるような声は聞き取りづらいだろうに、それでも“友”は返事をする。
「出て行っても良いけどな、いつまで閉じ籠ってるつもりだ?」
春休みが終わるまでよ。そう言うと“友”は諦めたように溜息を吐いて、
「そう言うなら出て行くけどな、飯の時くらいは降りて来いよ」
それだけを言うと部屋から出て行ってしまった。
「はぁ」
ドアの閉まる音を聞いて、また溜息が漏れた。
399 :名無草 :2007/06/30(土) 13:44:53.43 ID:HWVRbRI0
行き交う人、住宅街のただ中にあるこの家からはそう多くの人影を見ることはないけれど。
それでも目前の道を右から左へ、左から右へ。数え切れない程の人達が通っていって。
――私は、きっとあんな風には歩けずに道端で立ち止まって、しゃがみ込んでしまっているんだろうか。
普段の自分からは想像も出来ないそんな事を考えながら。
「お昼ご飯、出来たよ」
後ろからそんな言葉が聞こえた。
「何で勝手に入ってくるのよ」
振り向きもせずに答える。
「ノックしても返事が無かったし、そのまま放っておいたら絶対下りてこないと思ったから」
振り返ると“男”はいかにも心配していると言う表情で――実際心配しているんだろうけど――こっちを見ていて。
「……気が向いたら食べに行く」
それだけ言って、また窓の外を見る。“男”の視線に耐えられずに、振り払いたくても出来ないくせに。
それでも“男”は動かない、私も振り返れない。
背中に刺さる視線が痛くて、だからって追い出すことも出来なくて。
こいつが女の子になって初めて思ったことを思い出して。なんて自惚れ、私に誰かを守ることなんて出来ないのに。
それなのに思ったことは『この子を守ってあげたい』だなんて。
勘違いも甚だしい、私はそんなに強くないのに。
沈黙に耐えられず言葉を零す。
「何で食べに行かないの?」
「“女”が食べに行かないから」
「“男”は食べに行けば良いじゃない」
「“女”が食べないなら僕も食べない」
「私が食べなくても関係ないでしょ?」
言いながら振り返る、と。
“男”はなんだか怒ったように私を睨みつけていた。
400 :名無草 :2007/06/30(土) 13:46:47.16 ID:HWVRbRI0
「関係なくなんてないよ」
睨みつけていた目は形を変えて、
「“女”が居ないと、なんだかご飯が美味しくないんだ」
表情は見る見る弱弱しくなって、
「女になって、自分で自分が分からなくなって。不安で、怖くて潰れそうだった時に言ってくれたよね」
目が僅かに潤んでいる。
「『ちょっとだけ信じてあげる』って。僕はその一言に救われたんだ」
瞳にこれでもかってくらいに涙を溜めて、
「“友”と会った時だって、『今は私がついてる』って言ってくれたじゃないか!」
涙が音も立てずに零れ落ちる。
「中学に入った頃からずっと話しすらしなかったけど、それでも“女”は僕が好きな“女”のままだった」
涙は止まらず零れ続ける。
「その“女”が苦しそうにしてるんだよ?」
涙でクシャクシャな顔で、“男”が叫ぶ。
「好きな人が、ずっと閉じこもって俯いて。それが関係ない訳ないじゃないか!!」
嗚咽に負けないように、ちゃんと伝えられるようにと祈るように。
「ずっと強かった人が、好きな人がそんなで、心配にならない訳ないじゃないか!!」
何故だか、“男”を見ることが出来なくて、
「私は、強くなんてない」
目を逸らしながら、呟く。
「強いよ、僕も“友”も。“女”が居るから潰れないで居られるんだから」
400 :名無草 :2007/06/30(土) 13:46:47.16 ID:HWVRbRI0
「関係なくなんてないよ」
睨みつけていた目は形を変えて、
「“女”が居ないと、なんだかご飯が美味しくないんだ」
表情は見る見る弱弱しくなって、
「女になって、自分で自分が分からなくなって。不安で、怖くて潰れそうだった時に言ってくれたよね」
目が僅かに潤んでいる。
「『ちょっとだけ信じてあげる』って。僕はその一言に救われたんだ」
瞳にこれでもかってくらいに涙を溜めて、
「“友”と会った時だって、『今は私がついてる』って言ってくれたじゃないか!」
涙が音も立てずに零れ落ちる。
「中学に入った頃からずっと話しすらしなかったけど、それでも“女”は僕が好きな“女”のままだった」
涙は止まらず零れ続ける。
「その“女”が苦しそうにしてるんだよ?」
涙でクシャクシャな顔で、“男”が叫ぶ。
「好きな人が、ずっと閉じこもって俯いて。それが関係ない訳ないじゃないか!!」
嗚咽に負けないように、ちゃんと伝えられるようにと祈るように。
「ずっと強かった人が、好きな人がそんなで、心配にならない訳ないじゃないか!!」
何故だか、“男”を見ることが出来なくて、
「私は、強くなんてない」
目を逸らしながら、呟く。
「強いよ、僕も“友”も。“女”が居るから潰れないで居られるんだから」
401 :名無草 :2007/06/30(土) 13:48:30.61 ID:HWVRbRI0
違う。
「私は、二人も支えられない」
支えたくても、私はどうしようもなく潰れそうで。
「自分だって支えられないのに、何で誰かを支えられるのよ」
何で潰れそうになってるのかすら分からなくて。
「潰れそうなのに誰かを支えて、それじゃあ誰が私を支えてくれるのよ!」
その苛立ちを“男”にぶつけても仕方ないのに、
「私は、どうやって立てば良いの!?」
分かっているのに、止まらない。
「僕が、支える」
なのに“男”は、
「“友”も“妹”ちゃんだって支えてくれるよ」
そう言いながら私を抱き寄せる。
「頼りないかもしれないけど、頑張って支えるから」
いつもと逆だな、なんて考えながら、
「精一杯、支えるから」
今は、なんだかこうして居たい。
「……バカ、泣きながらそんなこと言っても説得力ないよ」
そんなことを思って。
細くて弱弱しい腕が、なんだって今はこんなに頼もしいんだろう?
私を必死に抱きしめる腕が、なんだかとても愛しくて。
気付けば頬が暖かい、泣くのも久々だな。
不思議と涙を止めようとは思わなくて、そのまま泣き続けた。
違う。
「私は、二人も支えられない」
支えたくても、私はどうしようもなく潰れそうで。
「自分だって支えられないのに、何で誰かを支えられるのよ」
何で潰れそうになってるのかすら分からなくて。
「潰れそうなのに誰かを支えて、それじゃあ誰が私を支えてくれるのよ!」
その苛立ちを“男”にぶつけても仕方ないのに、
「私は、どうやって立てば良いの!?」
分かっているのに、止まらない。
「僕が、支える」
なのに“男”は、
「“友”も“妹”ちゃんだって支えてくれるよ」
そう言いながら私を抱き寄せる。
「頼りないかもしれないけど、頑張って支えるから」
いつもと逆だな、なんて考えながら、
「精一杯、支えるから」
今は、なんだかこうして居たい。
「……バカ、泣きながらそんなこと言っても説得力ないよ」
そんなことを思って。
細くて弱弱しい腕が、なんだって今はこんなに頼もしいんだろう?
私を必死に抱きしめる腕が、なんだかとても愛しくて。
気付けば頬が暖かい、泣くのも久々だな。
不思議と涙を止めようとは思わなくて、そのまま泣き続けた。
402 :名無草 :2007/06/30(土) 13:49:33.25 ID:HWVRbRI0
小さな花はいつの間にか少し強くなっていて。
少し背の高い花を支えようと背伸びして。
支えられた花はどうだろう? いつだって支え続けたその花は。
小さな花はいつの間にか少し強くなっていて。
少し背の高い花を支えようと背伸びして。
支えられた花はどうだろう? いつだって支え続けたその花は。