【初出】
創約三巻
【解説】
学園都市の暗部で流れている
都市伝説。
その内容は「学園都市最大の禁忌」とも呼ばれる、誰も知らない学園都市の「抜け穴」にまつわるもの。
曰く、本来学園都市全体が外から取り寄せている資材の量に比べて、『暗部』で使っている資材が数倍単位で多いという。
学園都市がやたらとリサイクルを推進しているのは、資材の総量を分かりにくくさせ、資材量のズレを隠蔽するためとされる。
しかし『暗部』で使っている資材があまりにも多い以上、その資材量のズレは、
いくら無理やりに隠そうとしたところで揉み消しきれないほどに膨れ上がっているはずである。
だが現実には、そのような資材量の巨大なズレは発見されていない。
その理由は、公的な記録に残らない資材をこっそりと搬入するための、学園都市の外と通じる秘密の抜け道があるからに違いない。
その抜け道は学園都市の大深度地下に存在し、入り口は
第一〇学区にあるのだ...という都市伝説である。
この噂が「学園都市最大の禁忌」とまで言われている背景には、
「非合法な活動をする『暗部』が、なぜ豊富に資源を使えるのか」を合理的に説明しているのと同時に、
「この都市伝説が本当ならば、学園都市のセキュリティという絶対的な壁が揺らぐ」という事情がある。
学園都市は技術の外部漏洩を防ぐため、学園都市への出入りを極めて厳しく制限している。
また
能力開発を受けた学生は、帰省・旅行などで一時的に外に出るだけでも、厳重な審査を経て追跡用のナノデバイスを注射しなければならない決まりになっている。
このため、学園都市の中に居場所や逃げ場が無くなったとしても、学園都市の外へ出ることは現実的に不可能であり、
暗部や
スキルアウトの中には、そのせいで追い詰められて闇に手を染めた人間も少なからず存在する。
こうした背景もあり、この都市伝説が本当かもしれないと聞かされた
浜面は大きな衝撃を受けていた。
実際のところこの都市伝説で語られる地下施設は実在し、
第一〇学区某所の入口から地下通路を通り、一番奥の鉄扉を開けた先に存在する。
ドアを開けた先は、円形闘技場や地下神殿を思わせる、鉄筋コンクリート製の円筒状の巨大空間になっている。
円筒の直径は軽く250m以上、高さはさらにその2倍以上。
工事用の照明機材が多数置かれ、内部は人工的な光で明るく満たされている。
円形の壁に沿って狭いキャットウォークが設けられ、
そこを下った底面には15両編成の列車が停車していて、ターンテーブルとそこから12方向に延びる線路がある。
さらには信号機・変圧器・整備機材・管制室までもが完備され、『暗部』の資材を搬入するための設備が整えられている。
その正体とは、
虚数学区の一部分を現実世界に引き出したものであり、平たく言えば
AIM拡散力場の塊。
木原端数曰く「本来ならどこにも存在しない建造物」である。
曰く、虚数学区の一部を物質として切り取り、加速器よりもマクロかつ安価な手段として資源化するプロジェクトの一環でこの地下施設が作られた。
しかし、虚数学区の動向をこちらから完全に制御することは不可能であるため、
計画を進めていた研究者の思惑とは裏腹に、虚数学区が何らかの危険な存在を吐き出しただけで外の世界がグロテスクに変異して破滅する危険があった。
今までそのようなことにならなかったのは、虚数学区を構成する
風斬氷華のような
AIM思考体達が
そういった事に興味を示さなかっただけという「ただのラッキー」の賜物である。
最終的に計画は制御不能に陥ったため放棄されたが、出来上がった地下施設は消し去る事ができず、そのまま現在に至っている。
自然半減期はおよそ1万2000年と言われている。
最終更新:2023年11月10日 11:15