「…………………………(どうしよう…)」
少女は街の中に一人佇んでいた。
その姿は小さい。歳相応と言う言葉が良く似合う程に。
「…………………………(道を尋ねようにも、私一人じゃあ無理だし…)」
彼女の名前は「罪木 瞳」と言う。
一見何処にでも居る小学生の女の子…という訳では無い。
染めている訳でもないのに、むらの無い灰色一色な髪の毛。
じとっとした目つきに反して、異常なまでに澄んだ青色の瞳。
「…………………………(何だか奇異の目線を感じる…仕方ない事だけど)」
そんな見た目をしていながら、愛らしい顔つきをも併せ持つ瞳の姿は人目を惹く。
街を歩いているだけでも周りから黄色い声と、邪な感情が流れ込んでくる。
「…………………………(人の多いところは、やっぱり疲れるなぁ)」
耳に聞こえる噂話だけなら構わない。内容も「なに、あの子!お人形さんみたいでかわいいー!」とか
そういう声が大半を占めている。それ自体は嫌な気はしないし、むしろ誇らしくもある。
でも問題は…
「…………………………(さっきからちょくちょくと邪な思考が流れ込んでくるのが…。ロリコンさん恐い)」
少女の姿を見た一部の男共の言葉に出来ない類の妄想が能力を通じて流れ込んでくるのだ。
脳に直接響いてくる分、こっちのほうが精神衛生上よろしくない。
「…………………………(おっと、そんな事より現状をどうにかしないと)」
彼女が現状陥っている事態は、ある意味で深刻な事ではあるのだが彼女の風貌も相まって、微笑ましくも見えてくる。
まぁ、要するに―――
「…………………………(完全に迷子かな、これ…)」
そう。学園都市の市街地で、彼女は迷子になっていた。
―――これは、とある小さな女の子のいつもとちょっと違う一日のお話である
とある猫娘達の日常 5話 とある瞳の普通じゃない一日(思い立ったが吉日編)*****
「…………………………(予防接種?)」
親友である
四方視歩の口から発せられた言葉に思わず聞き返す。
大事な話があると言うから、どんな事かと思っていれば、意外な答えに少しばかり意表を突かれる。
「そ。予防接種。君は受けてないだろう…って、周りに誰も居ないしこんな話し方する必要ないね、そういえば」
彼女は普段から口調を偽っている。瞳から見れば必要の無い努力にも見える物だが、上に立つものとして威厳を保つ為、と言うことらしい。
正直な話、上に立つものとしてなら素の彼女のほうが適しているのでは、と思っているのは内緒の話である。
「…………………………(今年って何か流行病があったっけ?)」
首を傾げてみる。言葉を使えない分、こういう感情表現が瞳には必要不可欠だ。
最も、視歩と
血晶赤に関してはそれが無くても伝わるけれど。
「例の如くインフルエンザよ。科学が発達しても、こればっかりはどうにもねぇ」
学園都市の技術のおかげで、流行病の被害も軽微なものにはなっているが0ではない。
そして予防接種と言うのは、現在においても最も有効な予防策であるのだ。
「…………………………(そういう事なら…。どこで受けるの?)」
この二人はあまり素性を表ざたに出来ない立場の人間だ。
まず、正式な戸籍という物が存在しない。仮の戸籍を持ってはいるが、それを活用するのはリスクが高い。
病院で診察に掛かるのも、少しばかりの手間が必要なのだ。
「いつもの所よ。明日に予約を入れているから、知らせておこうと思って」
いつもの所、と言うのは私達の素性を知った上で協力してくれている支援者の経営している病院だ。
彼女達の協力者はそれなりに存在している。資金面や情報の提供など、手段は多々あれど彼女らを支える者は少なくない。
「…………………………(視歩も一緒に来るの?)」
わざわざ前日に伝えておく事に疑問を感じ、質問してみる。
一緒に行くのであれば、事前に伝えておく必要はあまり感じられないが…。
「あー…。そのつもりだったんだけど。明日外せない用事が出来ちゃって…」
ああ、やっぱり。と瞳は思った。
事前に伝えに来たのはそういう理由らしい。予想できていた答えなのでとくには気にせず返事を返しておく。
「…………………………(わかった。明日、焔にでも頼んで一緒に来てもらう)」
焔ならば暇であるだろうと踏んで、そう返しておく。
それに焔ならば何かあったときにも安心だ。空を飛べる者はあらゆる面で頼もしい。
「…ありがたいけど、随分とあっさり分かってくれたのね?前までならこういう時はすぐ拗ねてた癖に」
視歩は訝しげな目で瞳を見ている。
失礼な話だ。私だって成長しているのだから当然だろう、と思いながら瞳は非難の目線を向ける。
「…………………………(私だって何時までも子どもじゃない)」
そんな無言の主張を受けても、視歩は素知らぬ顔で
「私にとっては何時まで経っても手の掛かる子よ、あんたは」
と言ってのけた。言葉とは裏腹に優しいその目は、安心感を与えてくれるのと同時に
まだまだ子ども扱いであるという所への少しばかりの不満を生じさせる。
「…………………………(視歩は、何時まで経っても失礼)」
あんまり子ども扱いしないで欲しいものだ。
お互いいつ死ぬとも分からない身だが、いつか大人になった暁には見返したいと思う。
「…………………………(ともかく、明日は焔に頼むから心配しなくても良いよ?)」
話の方向を変えて、本題へと戻す事にする。
明日の予防接種に視歩が来れないのならば誰かに付いて来て貰うしかない。
「まぁ、焔なら暇そうだし別にいいわね。そんじゃあ、私から話を…」
そう言って席を立とうとする視歩のポケットから、突然電子音が流れ始めた。
「あれ、電話かな?ごめん瞳、電話出ても良いかな?」
携帯を手に持って瞳に問いかける。様子から見るに『仕事』の話だろうか?
だとすれば邪魔するのは良くない。瞳は電話に出るように促し
「…………………………(焔には私から頼むから、視歩は電話に出てあげて)」
と付け加えた。つくづく出来た子だ、と自分で思ってから瞳も席を立つ。
…自分で思ってしまうあたり、いろんな意味で台無しである。
「あ、瞳!…自分で頼むって、大丈夫かなあの子」
心配しつつも、走り去っていくその小さな背中を見送りながら、携帯の通話ボタンを押す四方であった。
しかし、ここでの会話こそが迷子の原因となってしまう事を二人はまだ知らない。
~~~少女移動中~~~
場所は移って、チャイルドデバッカー拠点(屋内版)
「あ、瞳ちゃんなの!やっほー!」
駆け寄ってくる姿に気付いた「
富士見焔」は、その小さな姿に手を大きく振りながら声をかける。
それに対して小さく手を振り返しながら歩み寄る。
「…………………………(焔、ここに居たんだ)」
と目で訴えかける。外の拠点に居るのではないかと踏んで探し回っていたため、私の額には少し汗が浮かんでいる。
最も、目で訴えかけるだけでは普通の人には正確には伝わらないのだが。
しかし、伝わるかもという期待を込めて瞳は毎回同じ様に接する。
最近では完全とはいかなくても、多少は察してくれる事もあり嬉しい心持ちの瞳であったが…
「ん~?もしかして私の事探してたの?ごめん、手間掛けさせちゃったの」
どうやら今回は正しく察してくれているようだ。
何だかんだと焔とも付き合いを重ねてきた甲斐があったという事だろうか。
「…………………………(通じた…。今日は調子が良い気がする)」
思わぬ意思の疎通に思わずほっこりとした表情を浮かべるが、用を思い出して表情を戻す。
そんな一人百面相な瞳を見ながら、焔もまた穏やかな顔で
「うーん、今の嬉しそうな顔もかわいいの。何か女として負けた気分するけど…」
和んだり自分で落ち込んだりと、こちらも百面相と言われかねない様相だった。
ともかく、用を伝えなければと瞳は焔に向き直り、
「…………………………(明日の話なんだけど…)」
と意思を伝える。それを受けて焔は、また今回も正しく察し受け答える。
その表情と目線から、言いたい事を考えて…
「うーん。明日の話って言ってる様な気がするの…」
運が良いのか悪いのか、今回もそれは正解だった。
正しく察してくれている事に安堵しつつ
「…………………………(そうそう)」コクコク
頷いて返すと、焔のほうも安どの表情を浮かべて微笑む。
「最近は何となく言いたい事が分かる様になってきたの!」
お互い、今日は自分の意思が正しく伝わるだろうと確信し会話を開始する。
「…………………………(明日、予防接種に行くことになったんだけど…)」
本題に入る瞳。明日の予防接種に付き添う様に頼みに来たのが今回の目的だ。
正しく伝えなければ、と意気込みながら意思を伝えに掛かる。
「明日、予防接種…?あ、そっか。視歩ちゃんから話は聞いてるの!」
その言葉に瞳は疑問を覚える。
視歩が既に話をつけていたのかな?と考えて、自分で話すって言ったのに、と少々拗ねてみたり。
(明日、予防接種に行くって視歩ちゃん言ってたもんね。瞳ちゃんも一緒に行くのかな?)
既に勘違いが始まっている事に気付かぬまま会話は続く。
「…………………………(聞いているなら話は早いけど…。じゃあ、明日頼んでも良い?)」
明日の予防接種について来てくれるように頼んでみた、つもりであったのだが
この場においては言葉が、もとい意思が足りていなかったようだ。
(明日…ああ、視歩ちゃんと二人でお出かけするのをわざわざ知らせに来てくれたのかな?)
黙って行くと焔が拗ねるのでは無いか、そう考えてわざわざ知らせに来てくれたと焔は思った。
それゆえ、そんな瞳の気遣いに対して焔は笑顔で
「大丈夫なの!その位なら私は気にしないの!」
笑顔と共に返された答えに安堵しつつ、話が早く済んだことに関しては視歩に感謝する。
用は滞りなく済んだので、笑顔で礼を伝えつつその場を後にする事にした。
「…………………………(ありがとう。明日、よろしくね)」
焔もまた笑顔で手を振りつつ返す。
「はーい、なの!瞳ちゃん、明日お楽しみなのね!」
…?なんとも不思議な言い様に疑問を感じつつも追求はしなかった。
妙なテンションなのはいつもの事だったと思い出し、気にしないことにしたのだ。
踵を返して去っていく瞳の背中を見送りながら、焔はニコニコとして
「うーん、瞳ちゃんってば視歩ちゃんとお出かけするのが嬉しくて堪らないんだろうなぁ、なの」
わざわざ私に言いに来るくらい嬉しかったんだねー、と盛大に勘違いしながらその場を後にしたのだった。
~翌日~
「…………………………(え、居ない?)」
次の日、予防接種に出かける為、焔を呼びに行った瞳であったのだが焔は拠点には居なかった。
何でも朝から出かけているとの事で、その場に居合わせた吉永に事情を説明されている。
「もしかして、焔と何か約束でもしてたの?」
昨日の話を忘れてしまったのだろうか、と考えたがいくら焔と言えどもそれは無いだろう。
昨日の会話に何か誤解があったと見るのが妥当か。
「焔が言うには、昨日の瞳ちゃんは視歩とお出かけできる事になって浮かれてた、って話してたけど」
「…………………………(え、昨日の私が?)」キョトン
昨日の言動を思い返してみる。…そういえば、結局詳しい話は私からはしてなかったんだっけ。
…うん。確かに私の説明が足りて無かったかな。でも、焔は視歩から聞いていたんじゃ…?
「それより、瞳ちゃん?今日は視歩と予防接種に行くんじゃなかったの?焔が視歩からそう聞いてたらしいけど…」
ああ、そういう事か。と瞳は思った。焔は瞳が予防接種に行く事しか聞いていなかったのだ。
四方がそれに付いていけないことは知らなかったのだろう。これは私の早とちりだったらしい、と考えてから
「…………………………(焔が帰ってくるまでどれくらいかかる?)」
と、自分の腕時計を指差して意思を伝える。
正しく察してくれたらしく、吉永は少し思い出すような仕草をした後
「多分…夜まで戻らないと思うわよ?あいつに用事があるなら明日のほうがいいと思うわ」
どうやら焔の帰りを待つというわけには行かないらしい。
となれば…代わりに誰かに来てもらうしかないが、今拠点には吉永しか居ない。
「…………………………(芙由子。これから予定ってある…?)」
意図は正しく伝わらなかったが、私の表情を見て吉永は
「うっ…。そんな捨てられた子犬みたいな目をされても…。私も学校に行かないといけないし…」
そうなのかー、と瞳は落胆する。もちろん両手を横に伸ばして十進法のポーズも忘れない。
…我ながら分かりにくいネタだったかもしれない。
「と、ともかく。一人で留守番は危ないから、粉原の居る風紀委員支部に行く事、いいわね?」
釘を刺された。まぁ、予防接種が終わった後はそうするとしよう。
瞳はまだ十二歳と幼い身だ。安全な拠点とは言え、一人で残るのは避けたい。
そんな訳で、瞳が一人で残る事にならないように、風紀委員を勤める粉原を頼る事にしている。
今や、瞳は風紀委員一六八支部においてもマスコットの役割を果たしていた。
ちなみにその際の建前は近所に住んでいる子ども、という事になっている。
「…………………………(うーん…。仕方ない、一人で行こう…)」
道は覚えているし…。と、記憶を頼りに歩みだす。
~~~そして、話は冒頭に戻る~~~
「…………………………(どうしよう…。まさかいつも通る道が工事中で通れないなんて…)」
そう。道を覚えていたはずの彼女が何故、迷子になってしまったかといえば工事のせいである。
いつも通っていた道が工事で通れず、迂回路を選んでいるうちに道が分からなくなってしまったのだ。
「…………………………(ここ、どこだろう…。とにかく知ってる道に戻らないと)」キョロキョロ
目的地への道へ戻るために、知っている道を探し始める瞳だったが一向にうまくいかない。
こういう時、他人に尋ねるのが一番楽かつ確実なのだが瞳にはその手段はとれない。
「…………………………(こういう時に限っては、喋れない事が恨めしいかな…)」
言葉を発する事の出来ない瞳には、他人に道を尋ねるのすら至難の業。
意思疎通の出来る人間は限られてくる。一つは、読心系能力者だ。
「…………………………(テレパシーを使える人が居ればいいんだけど…それも高レベルの)」
能力を使っての対話も、ある程度能力強度の強い人物でなければ意味が無い。
瞳の、同系統かつ「悪意を察する」という能力の仕様上、瞳への干渉に制限が掛かる。
瞳の心を読もうとしても半端な能力では勝手にレジストされてしまうのだ。
「…………………………(高位の能力者とばったり、って言うのは期待できないよね…となれば)」
可能性はもう一つある。能力も言葉も関係なく意思疎通出来る人物と出会う事だ。
要するに四方視歩と血晶赤の事である。この二人ならば言葉が無くとも意図を読み取ってくれる。
「…………………………(でも、視歩は今日は居ないはずだし…。血晶赤は会おうと思って会える相手じゃないし)」
仕方がない。少ない可能性に掛けて歩き回ってみるとしよう。
知ってる道に出る事が出来るか、もしくは意思の疎通が出来る人物と出会えるか。
「…………………………(気の長い話になりそうだけど……ん?)」ピタッ
足を止める。周りの街の雰囲気がいつの間にか変わっている。
道自体は知らないところだが、この町並みの雰囲気は見覚えが…。
「…………………………(あ、ここ『学舎の園』だ。前に視歩と血晶赤と来た)」キョロキョロ
そう、彼女はいつのまににか第七学区の学舎の園までやってきていた。
ちなみに瞳と視歩が住んでいるのは第十学区。学園都市で最も治安の悪い場所である。
「…………………………(この前通った道は…ダメだ、思い出せない)」
むむむ。と瞳は唸ってみた(もとい、唸る真似をしてみた。声は出ないし)
「…………………………(折角の一日を迷子で潰すのは避けたいし…)」
時間をかけて歩き回る事に専念すれば知ってる道に出ることが出来るだろうが、それではつまらない。
このままでは疲れるだけで終わりそうだ。ならば、この非常時においても楽しみを見つける事が必要だ。
「…………………………(さて、ならばまずはこの学舎の園にて面白そうな人たちを見つけよう!)」グッ
さっそく趣旨が変わってしまった瞳だが、そんな事は気にせず歩みを進める。
そして歩く事数分、目線の先に一人の女の人が見えた。
『さーて…今日は黒子も居ないし。これから何しようかしら』
前方の茶色い短髪の少女は、そんな事を考えていた。
別段、負の感情は無いように見えるが『退屈』という鬱屈が条件に引っかかっているようだ。
「…………………………(というか、あの人は…!)」
そう。その短髪の少女とは、学園都市の中ではかなりの有名人であった。
第三位、『超電磁砲(レールガン)』の異名を持つ超能力者(レベル5)。
「…………………………(御坂美琴、だっけ。まさかこんな人と会うなんて)」
すると、美琴はキョロキョロと視線を回し始めた。
熱視線を送り過ぎたか、と瞳が思っていると脳内にイメージが流れ込んできた。
『あれ、なんか目線を感じるような…』
あ、ばれたかな。と思いつつも見ることをやめずに居ると、美琴の視線は私とは別方向で止まった。
その方向にはツインテールの赤毛が特徴的な女の子が居た。
「あれ、朱善寺さん?」
美琴はそう声を掛けた。どうやらその先に知り合いが居たらしい。
朱善寺と言ったか。同じ制服を着ているし、常盤台の人だろうな。
「あら、御坂様ではありませんか。学校帰りですの?」
どうやら本日の授業は半ドンであったようだ。
今の時刻が1時過ぎ。昼ごはんを食べて下校中といった所だろう。
「ええ。どこかに寄っていこうかと思ったんだけど、見知った顔が見えたからね」
この二人の関係性を探るために、瞳ズーム!
説明しよう!瞳ズームとは対象の心をより深く見るために、相手を凝視する事だ。嘘だけど。
「…………………………(あの二人は知り合い程度、って感じかな。それでもあれだけ気さくに話せるのは超電磁砲の人柄か)」
見ていると二人は世間話を開始したようだ。
ちょうどいい。あの二人の会話と心を覗いてみよう。
二人の心の中は『』で表示されます***
「…………………………(システムメッセージ…?)」
謎の音声が聞こえてきた気がするが、気にしてはいけないような…。
そんな事をしていると、前方の二人は会話を既に開始していた。
「で、朱善寺さん。ちょっといい?」
美琴が改めて声を掛ける。
それを受けて朱善寺は首を其方へ向けつつ、キョトンとした顔で
「はい?なんですの?」
と尋ねる。どうやら会話が更に続くとは考えていなかったらしい。
挨拶だけで去ろうと考えていたのだろうか?
「いやー。今、黒子が居ないから聞きたいんだけど…黒子と朱善寺さんってどうして仲悪いのかしら?」
『この子と黒子が会うたびに喧嘩するから、仲裁が大変なのよねぇ』
そんな思想が読めた。不仲の原因を突き止めて改善しようとしてるようだ。
仲裁の手間を省くためか、単に二人の為か。あるいはその両方かもしれないが。
「あー…それは…。まぁ、単純に相性が悪いという奴ですわ」
『キャラが被ってるから、と正直に言うのもなんですし…御坂様にそんな事を言うのも…』
どうやらキャラが被っているのが気に入らないらしい。
前に焔が似たような理由でブーブー言ってたのが思い出される。
「へー。最初は、貴女達ってすごく仲良いのかと思ってたのよ」
『最初に朱善寺さんを見かけた時は、思わず二度見しちゃったのよね。…似てたし』
どうやら先ほどから話に出てきている黒子…恐らくは風紀委員の白井黒子の事だろう。
その白井黒子と
朱善寺佑乃は良く似ているようだ。
「え…。それはまた、理由が気になりますわね」
『あの女と仲が良く見えるなんて…これは理由を聞き出さないと』
本格的に仲が悪いのか、頭の中のイメージでは額に青筋を浮かべている様だ。
それに対して美琴は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、指をくるくる回して
「だって、ほら。髪型とか似てるし、何となく雰囲気も似てるからさ」
と答える。頭の中には二人の良く似た女の子が並んでいるイメージが。
確かに結構似ている。これならば姉妹と言われても違和感は無いかもしれない。
「まぁ、見てくれやキャラが被っているのは自分でも思いますけど…」
『今思い出しても忌々しいですわね…!あそこまで被せてくると悪意があるかと疑ってしまいますわ!』
朱善寺のイメージの中で、彼女が白黒柄のハンケチを噛み千切る。
まだ幼げな少女の顎が、ハンケチを凌駕する瞬間。そこまで想像して我に返る。
「だって最近は仲良い女の子と、ペアルックみたいな事をするらしいじゃない?」
そういえば、視歩が私にネクタイを勧めるのも同じ類の事なんだろうか。
別に私はネクタイでもリボンでもどちらでも良いのだが、視歩が強く勧めるので断れないのだ。
「ああ…。確かにそういう方達もいらっしゃいますわね」
『そうですねぇ…。ゆくゆくは湖上お姉さま相手と…ふふふふふっ』
先ほどまで怒っていた脳内イメージが今度は桃色に染まる。
朱善寺の脳内では、二人の女の子がペアルックで百合百合している様子が映し出されている。
「だから貴女達もそうなのかな、って」
ぱっ、とその妄想が弾ける。美琴の言葉で現実に引き戻されたようだ。
慌てて美琴の言葉を否定するように首を振りつつ、呆れ顔で答える。
「いやいや…。私はもともとこの髪型ですし、第一すこし前までは面識すら無かったのですし」
『何だかんだと文句言いながら、初めて会ったのは一ヶ月くらい前の話でしたわね』
実際にあってみてイメージは更に悪化しましたけど、と思想する。
とことん同じである事が気に食わないようだ。同属嫌悪の類だろうか。
「そういえばそうだっけ?なんていうか、朱善寺さんって黒子と雰囲気が似てるから仲良くなれそうかな、なんて」
『あれ、そういえば学校で私に良く似た奴を見たことがある様な…』
おや?美琴の脳内に新たなイメージが湧く。
どうやら学校内でのイメージの様だが、視界の端に美琴と似た風貌の少女が見える。
ふむ…。常盤台では似た風貌の人間が集まりやすいのか…。あ、でも胸の大きさはかなり違うな、うん。
「…ふふっ。私も御坂様の事はお慕い申していますわ。そこだけは、白井黒子に同調いたします」
『不本意ですが。ええ、不本意ですけれど!…まぁ、御坂様が尊敬に値する人物であるのは疑いようの無い事実ですし』
どうやら白井黒子とやらへの敵対心は置いておいて、美琴への尊敬は本物の様だ。
それは朱善寺からの特別な感情と言うよりは、美琴自体が人に慕われる人間なのだろう。
「えっ…ああ、それは嬉しいんだけど…黒子みたいになるのは勘弁ね?」
『一瞬、黒子の普段の様子を思い浮かべてしまった…。流石にそれは失礼だったわ』
次に浮かぶのは先ほど思い浮かべられた白井黒子であろう少女が、美琴へのセクハラじみた愛情表現を強行する情景。
おお、この風景はいつも見ている物と良く似ている。主に焔とか、血晶赤とか淑女連中的な意味で。
「って、私は『ああ』はなりません!例えそれが湖上おねえさま相手であってもです!」
急いで顔を紅くして否定する。さっきの妄想を見る限りその言葉の信憑性はとても薄いが。
いやしかし、自分で覗いていてなんだが、この二人は随分まっすぐな人物のようでびっくりした。
「………そ、そう」
心の中で抱えている感情と、態度に悪い意味で相違が無い。
心を覗いていて、嫌な気分にならない人間と言うのはそれなりに珍しく、尊い。
世の中こういう人間ばかりなら楽なんだけどなぁ。…あ、もう一人近づいてきてる。
流れ込んでくるイメージの座標が転々と途切れているのが分かる。転移系能力者のようだ。
「おっ姉ぇぇぇぇさっまぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『ぐふふふふふ、今日は午前授業で時間がたくさんありますし、これからお姉さまと二人きりでのランデヴーが待っていますわー!』
おお、確かにさっきのイメージ通りの少女だ。
どう考えても今急に現れ、美琴に抱きついている少女が白井黒子だろう。
「うわぁっ!」
抱きつかれて悲鳴をあげている。脳内から感じるのは『またかコイツ』という呆れと苛立ちとそれと、平和な日常に対する安心。
超電磁砲の事を詳しく知っているわけでは無いが、学園都市第三位という立場には様々な厄介事が舞い込むであろう事は想像に難くない。
「なっ!?でましたわね、白井黒子!」
そんな事情があるならば、あんな風に接してくれる友人の存在は有難いのだろう。
そして同時に、なんだか見慣れた光景だと思ってしまった。すっごい身近に似たような人たちが居るし…。
どこでもこういう人たちって居るんだなぁ、と関心と呆れが押し寄せる。
「はっ!?貴女は、朱善寺佑乃!私が居ない間にお姉さまに何を!?」
強い力を持った人物には自然といろんな人が引き寄せられると言うけれど…。
彼女達も、その例に漏れないのだろう。となれば…
「いや、何もされてないから」
超電磁砲―――御坂美琴こそがその中心点だろう。
うん、こうやって見てると何だか主人公オーラが見えてくるし。
「御坂様は私と話していましたの。邪魔者はお引取り下さいまし」
片腕を掴んで引き寄せる朱善寺。そしてそれに引っ張られるがままの美琴。
「ほぉう…。そういうセリフは死亡フラグでしてよ…?」
逆の腕を掴んで同じ様に引っ張る白井。やはり引っ張られるままの美琴。
奉行の前で我が子を取り合う女達の話を思い出す光景だ。
「やめんかお前ら!何で会って早々戦おうとしてんのよ!?」
いよいよ耐えかねたのか、美琴が目を吊り上げ二人の腕を掴み返しているのが見えた。
なんかバチバチ言ってる気がするけど、大丈夫なのかなあれ。
「離してください、お姉さまっ!今ここでコイツとは決着をっ…!」
腕を掴まれてなお、二人は揃って相手を威嚇している様だ。
しかしあまり険悪な感じはしない。きっとじゃれ合いに過ぎないんだろう。
「望むところですわ。いい加減貴女の事も目障りになってきましたしっ!」
うーむ。ぼーっと眺めていて、思いついたことがある。
時折街で、普通とは違う雰囲気を持っている人物を見かける。
今眺めていた、美琴からも同じものを感じたのだ。
言うなれば…そうだな。さっきも言ったが『主人公オーラ』とでも言うべきか。
「いい加減にしろっ、この馬鹿共がぁぁぁぁ!」
あ、そうだ。せっかく街を歩き回らざるを得ないのだから、副目的を作ろう。
彼女達のような。そう、言うなれば『主人公とその仲間達』のような、そんな人たちを探してみるというのはどうだろう。
―――中々に面白そうな休日になりそうな気がする。
「「ぎにゃぁぁぁぁぁぁっぁ!!」」
視界の端で光る稲妻と、悲鳴をあげる少女達に微笑を残して、私は踵を返した。
よし、そうと決まれば面白そうな人たちを探さなくては!
~~~同じく、学舎の園にて~~~
学舎の園から出ようとすると、外から中へと駆け込んでくる集団が目に入る。
随分と騒がしい。…あれ、なんか見覚えのある人影もあるな。
「だわはははー!こういう時は逃げたもんが勝ちなのよ!
プライドなんか安い安い!」
『こんな所で捕まれるかってーの!この先を突っ切ればこっちのモノっ!』
最初に駆けてくるのは、金髪ショートカットの少女。
大声を上げながら掛けていく様は非常に元気が良い。
「うわわわー。待ってよー晴ちゃーん!」
『晴ちゃん足はやーい…。こんなに走らされるのも後ろのあの人のせいなんだよね。うざったいですね~』
次に駆けてくるのは黒髪のぱっつんの少女だ。のんびりとした雰囲気が伝わってくる見た目だ。
あと体の一部もぱっつんぱっつんだ。ええい、妬ましい。あと見た目の割りに黒いな、この子。
「って、おいおい!きゃつ、すげぇ勢いで追ってきよるぞ!?」
『こいつらとおるといっつも走ってる気がするわ。ま、それが楽しいんやけど』
次はベリーショートの少女だ。褐色の肌が、活発そうな外見に良く似合う。
だがボーイッシュな外見のせいで少年に一瞬見えてしまう様な子だった。
「くんくんくんっ!こっちの方からはデンジャーな匂いがしますです!こっちですっ!」
『いつも通り、みんなと居ると退屈しませんですね。最近慣れてきて楽しくなってきましたです!』
次の一人が、鼻を鳴らしながら駆けてくる。幼さを感じさせる雰囲気だ。
見た目は灰色がかった黒髪を三編みにした少女だ。どことなく犬っぽい。
「って、待て!散々コケにしやがって!今日と言う今日はゆるさねーぞ、テメェら!」
『面倒くせーが、わざわざ目につくところで騒ぎを起こされたら追いかけるしかねぇだろ!』
そして最後…って、あの姿は…
「…………………………(あれ、粉原くんだ。風紀委員の仕事かな)」
そう、最後の一人は我らがチャイルドデバッカーのメンバーにして、風紀委員でもある粉原くんであった。
多分、前の四人が何かしらの騒ぎを起こしたのを追いかけているんだろう。
駆けて行く五人の姿を見ながら思う。
最後の粉原くんはともかく、前の四人は多分お目当ての人達だろう。
「…………………………(多分、いつも騒ぎを起こしているんだろうな、あの四人)」
言うなれば、バカルテット。そんな名前が似合う四人。
悪い意味ではなく、愛されるべき馬鹿達。そんな『物語』が目に浮かぶ。
よし。最初はあの人たちに密着取材してみることにしよう。
決めたら行動は早く、だ。踵を返して集団が通り過ぎた方向へ向き直る。
「…………………………(ひとまず粉原くんに追いついてみようか)」
てててっ、と走って追いかけてみる。向こうのほうが足は早いけど、
先頭の子がどの道を通って逃げるのか読み取れるので先回りして追いつこうと思う。
~~~程なくして~~~
案の定先回りできた。道から飛び出すと横からは粉原くんが走ってきていたので
進行方向上に躍り出てみる事にする。
「うおっ!?おい、いきなり飛び出してくるな!あぶねぇだろ…って、罪木!?」
予想通りいい反応をしてくれた。
粉原くんはぶっきらぼうの癖して反応は純粋だから面白い。
「…………………………(こんにちは。粉原くん)」
とりあえず笑顔で挨拶してみる。目をしっかりと見て挨拶するのがミソだ。
「…………。お前、こんな所で何してるんだ?四方の奴は一緒じゃないのか?」
あ、目を逸らされた。やっぱり恥ずかしがり屋の様だ。
しかし挨拶を返されないまま終わるわけにはいかない。主に私の気分的な意味で。
「…………………………(こ・ん・に・ち・は。粉原くん?)」
笑顔を動かさないままもう一度繰り返す。
言葉は伝わらないだろうが、求めるところは正しく伝わっている筈だ。
「ぐっ…………………………!」
そむけた顔が冷や汗をかいている。
挨拶くらい普通に返してくれてもバチは当たらないと思うんだけど…。
「お、おう…。こんにちは…」
顔を此方には向けないまま、それでも確かに挨拶を返してくれた。
うわ、やばい。なんか顔がにやけてきた。反則的にかわいいぞ、男なのに!
「おい…何にやにやしてんだ…」
気付くと粉原くんが額に青筋を浮かべながら此方を見ていた。
おっと、いけないいけない。表情を引き締めなくては。
「…………………………(さて、何の話かな?)」キリッ
我ながら完璧な真顔だった…、と自分自身に賛辞を送ってみる。
目の前の人の顔が更にアレな事になってるけど関係ないよね。
「………こいつ、殴りてぇ」
わお、目の前に物騒な人が居る!こんないたいけな少女を殴りたいなんて…
助けてお巡りさん、と言いたいところだが、むしろこの目の前の男がお巡りさんみたいな物だから始末が悪い。
「…………………………(そろそろ、かな?)」
さて、わたしの目的は前を走っていた四人なのに、なぜ粉原くんと戯れているかというと。
さっきの人たちの心を見る限り、こっちで粉原くんを抑えれば興味をもって戻ってくるかな、との算段での事である。
「ちょっと、そこの風紀委員。急に追いかけてこなくなったかと思えば、なに小さな女の子にちょっかい出してんのよ」
よかったよかった。目論見どおり戻ってきてくれたらしい。
ちゃんとお仲間さんも引き連れて来てくれたみたいだし、私に興味を向けてくれてるみたいだし。
「追ってこなくなったからって、わざわざ戻ってこんでもよかろうに…」
「危険を顧みずにUターンするなんて、金束さんは好奇心のカタマリですっ!」
「ふふふ~。そこが晴ちゃんのいい所なんだよ~」
見れば見るほど個性的な人たちだ。いやはや目をつけて正解だった。
気を取り直して四人に向き直ると、頭をぺこりと下げつつ挨拶。
「…………………………(こんにちは。バカルテットの皆さん)」
通じなくても言葉を紡ぐのが私なりの礼儀だ。
意味は無くとも意義はある、とでも言うべきだろうか。
「あら、良く見ると随分かわいい子だわ」
褒めてくれたので微笑んで返す。
こういう好意は素直に嬉しいので、この笑顔は作ったものでは無く天然モノだ。
「わ、ほんとにかわいい。髪の色とか、お人形さんみたい」
続けてまた褒められる。やっぱり悪い気はしない。
やはり此方にも笑顔を返す。もちろんこれも天然モノである。
「ほぉ~、こりゃあ確かに別嬪さんになりそうな子やわ」
…なんか、最近になって男の人より女の子にモテる気がするな…。
あれ?すごく身近に似た境遇の人居た気がする。
「わ~!ホントにお人形さんです!お持ち帰りしてもいいです?」
まずい…このままでは私を待ち受けるのは視歩の様な百合百合ワールド!?
いくら何でもあの境遇に立ちたくはないなぁ。
「で?そこのロリコン風紀委員はこの子にナンパでもしてた訳?」
一番手前に居た人が、金髪を揺らしながらトンデモ発言をぶっぱした!
「え、ロリコン?うわ~近づかないでくださいね?」
「も、もしかして私も身の危険が危ないです!?」
いきなり投下された爆弾に、背後の気配が露骨に反応する。
おー、ピンポイントで触れてはいけない所に…。
「だっ、誰がロリコンだコラァァァァァ!?」
いつもの感じは何処へやら。
目を吊り上げて怒鳴る粉原くんに私もびっくり。
「そ、そこまで怒鳴らんでもよかと…?」
怯えたような様子でベリーショートの彼女が声をあげる。
あまりの剣幕に向こうの四人もびっくりしているようだ。
まぁ、この状態になる事は時々あるんだけどね、彼。
「ぐっ…。こいつは、ただの近所に住んでる子どもだ…」
こんな所にいるのに驚いて声を掛けただけだっての、と弁明する。
…まぁ、嘘ではないよね。態度のせいで誤魔化してるようにしか見えないけど。
「なんだか怪しいよね~。何か焦ってるし、もしかしてホントにロリコンさん?」
おかっぱの子がのほほんと首をかしげながら尋ねる。
すげぇ、この状況でそれをもう一度聞けるとは中々の猛者だ、この人。
「いやいや銀鈴さん!?このタイミングで追い討ちかけないでくださいですっ!?」
かかさず止めに入るのは三編みのメガネちゃん。
多分ツッコミ要員だよね、この子。ベリーショートの子が慌てる役で、おかっぱの子が天然。
「…………………………(完璧な布陣だ…。隙の無いパーティーだなぁ)」
いやはや、果てしなくどうでも良かった。
~~~閑話休題~~~
「…………………………(ちなみに、閑話って言葉には無駄話以外に『心の落ち着く話』って意味もあるんだって)」
誰に対してなのだか分からない豆知識をぶっぱしつつ、現状を整理。
「だから!俺はロリコンでも何でもねぇって言ってんだろ!?」
ロリコン疑惑の掛かった粉原くんが弁明している。
いつの間にか追いかける側と追いかけられる側の攻守が逆転している様だ。
「そんな風にムキに否定するところが怪しいですよねぇ。ね、晴ちゃん」
「へっへっへっ。早く吐いた方が楽になれるわよ?」
「なんじゃあ、その笑い方は…」
「まるで悪い刑事さんみたいです…」
ノリノリな前者二人と呆れ顔の後者二人。
この場面だけで彼女達の特性が見え隠れしてくるという物だ。
「ぐっ、こいつら話聞く気ねぇだろ…」
今更な話でもある。助け舟を出してあげたいが、声を出せない私じゃあ難しいし…。
おや?なんだか覚えのある感じの人が近づいてきてる。
「お、やっぱり粉原だったか」
現れたのは「
木岡隆興」風紀委員に属する中学生で、粉原くんとは仲の良い人だ。
ちなみに私との面識もあり、チャイルドデバッカーの存在もしっている人物だったりする。
「木岡!ちょうど良い、こいつらどうにかしてくれ!」
ん?と首を傾げながら木岡くんが近づいてきて、私の存在に気付く。
「瞳ちゃんじゃないか。…それと、そっちの四人は常盤台の子か?」
どうやら今の状況はいまいち掴めていないらしい。
まぁ、これだけ見て理解できるならそいつはニュータイプか何かだろう。
「ん?そうだけど…何、そのロリコンの仲間?」
『あの腕章…風紀委員だわ。ま、こいつの仲間ってのは間違いなさそうだけど…』
訝しげな目で木岡くんを見る金髪の子。
ナチュラルに粉原くんの呼び名がロリコンになっているのは指摘すべき?
「あぁ、俺も風紀委員だよ。って、ロリコン?」
さらに疑問を強めた木岡くんの前に、灰色三編みが身を乗り出した。
どうやら説明役を受け持ってくれるらしい。
「えーと、それは私から説明しますです」
『このままじゃあ粉原サンがあまりに不憫です…』
~~~少女説明中~~~
「はははっははは!!粉原、そりゃまた随分な疑いをかけられたもんだな」
事の顛末を聞いた木岡くんは大笑いしている。
こういう一面からも二人の仲の良さが伺える。他の人たちが笑えば粉原くんは怒るだろうし。
「笑い事じゃねぇっての…ったく」
頭を抱えながらもどうにか言葉を漏らす粉原くんの姿は、割と良く見る姿だ。
普段から、視歩達から弄られ慣れてるのに耐性ができないのはある種の才能だよね。
「まぁ、粉原の言ってる事は本当だよ。瞳ちゃんは昔から粉原と交流のある子でね」
どうやら事情を知っている木岡くんはいつも通りの建前で誤魔化してくれるらしい。
…まぁ、あながち嘘でもないし。
「ホントにそうなんですね~。良かった、勤務中に小さな女の子をナンパする風紀委員って言うのはあんまりだもんね」
『ナンパじゃないのは分かったけど、ロリコンじゃないかどうかはまだ微妙かな~』
まだ疑いは晴れてないらしいぞ、粉原くん。
ベリーショートの子と三編みちゃんは納得してるみたいだけど。
「…………………………(道のりは険しそう。粉原くんのロリ疑惑解消の日は遠い…)」シミジミ
多少の哀れみを込めた視線を送ってみる。
原因が私にある事なんて気付きもしない感じの棚上げ感が私のチャームポイントだ。
「罪木…お前なんか失礼な事を考えてるだろ?」
「…………………………(はてなんの事やら)」メソラシ
口笛を吹いて誤魔化す。音が掠れてるが気にしちゃあいけない。
「ま、ナンパしてる風紀委員なんて
リコールものだわね」
金髪の子が頷いている。
確かに風紀の番人が風紀を乱していれば世話は無い。
「だ、大丈夫だろ。流石にそんな風紀委員はいないさ」
『居るかもしれない…。良くも悪くも変な奴多いしなぁ…』
脳内に浮かぶのは街を歩く女の子の胸を遠目から凝視している同僚と思わしき風紀委員。
あれは巨乳だろ!馬鹿か、あれは美乳と言うんだ!などの会話がイメージとして伝わってくる。
…風紀委員の世界も一枚岩では無いようだ。
この場で読み取れるだけでも保守派と急進派が居る事は確からしい。
「…………………………(何て下らない派閥争い…)」ペターン
別に悔しくなんて無いんだからねっ!…そんな事は置いておいて。
「ん…?電話か。ちょっと失礼するよ」
木岡くんが携帯電話に耳を当てる。
仕事の電話だろうか?…どうやら緊急の要件の様だ。焦りが心を読むまでも無く表情から読み取れる。
「粉原!すぐ近くで事案発生だ!今すぐ向かうぞ!」
どうやら通報の類だったらしい。
お仕事なら引き止めるのも悪い。付いて行けば役に立てるかも知れないが…
「…………………………(周りの目もある以上、私を連れて行くのは体裁が取れないか)」
粉原くんも一瞬考えたようだが、すぐに木岡くんに向き直り歩き出そうとする。
顔だけを振り向かせ、私に向かって
「俺はもう行くが、あまり一人で行動するなよ?…あー、仕方ない。金束!」
途中で何かを思いつき、一瞬悩んで決意したかの様に視線を金髪の子に移す。
突然名前を呼ばれた金髪さんは、首を傾げる。
「不本意だが、その子の面倒を見てやってくれ!あんまり一人で居させるのは不安だからな」
言い残して駆け出していった。
急な展開についていけてないが、本来の目的を考えるとありがたい事でもある。
「は、はぁ?急にそんな事言われても、って待てやコラァァァァァ!」
話を聞かずにすっ飛んでいった粉原くんに怒鳴りつけるも、その姿は既に曲がり角の向こうに消えていた。
あらら…よっぽど切羽詰った状況なんだろうか?
「…………………………(ま、何にせよ粉原くんGJ。これでこの四人と行動をともに出来そうだし)」
振り返ると、いまだ唖然としている四人の姿が目に映る。
そのうちの一人、ベリーショートの子がいち早く正気に戻ると、言葉を漏らした。
「ど、どげんするん?…この子?」
『まぁ、この三人なら返答は予想できるんやけど…』
周りの仲間達に問いかける。
私としては面倒を見てくれれば嬉しいんだけども…
「まあ、害がある訳では無いだろうし良いと思うよ~」
『晴ちゃんに何かしようとするなら容赦しないけど~♪』
おお、こわいこわい。金髪の子、晴ちゃんと言ったか。
彼女には何もしないでおこう。そもそも害を加える気なんてさらさら無いんだけど。
「私も良いわ。言う事聞くのは癪だけど、この子に当たる意味も無いし」
『というか、粉原の奴…。過剰に心配し過ぎだわ。まさか、ホントにロリコン…』
ここまで心配するのはデバッカーという背景があるんだけど…。
それは話せないしね。粉原くん、南無~。
「皆さんがそういうなら私としては反対理由はないです!この子とも仲良くなりたいですし」
『思わぬところでチャンスが…。この子と友達になれたらいいなぁ』
随分と好かれてるみたいで何よりだけど…。
言葉を喋れない事を知ったらどう思うのかすこし不安だ。敬遠されなければ良いけど。
ともかく、この四人と挨拶を交わさなければ。
出来る事なら今日の終わりには仲良くなれている事を願って。
「ま、いいわ。少しの間だけどよろしく。えと…罪木、瞳だったけ?」
「そうやろうな。さっきの二人もそう呼んどったし」
「…………………………」コクコク
「よろしくね~瞳ちゃん」
「よろしくです!仲良くしてくださいですっ!」
「…………………………(よろしくね)」ニコニコ
さて、この人たちと過ごす休日は楽しくなるだろうか。
期待に胸を膨らませる私なのだった。―――――以下次号!
最終更新:2014年08月15日 19:58