とある一見普通のカラオケ店に、何とも統一感のないメンバーが集まる。
黒いバンダナを巻いたオレンジ頭の男を先頭に、前髪を目のあたりにおろした風紀委員と思われる三白眼の男、
黒い袖なしシャツの筋骨隆々とした坊主頭の大男、臍出しTシャツに短パンといったラフな格好の少女が続いていく。
統一感といえば、少女以外は全員どこかに黒を用いた服装をしていることくらいだろうか。
彼らは全員最近勢力を急激に伸ばしている新興スキルアウト『
ブラックウィザード』のメンバーである。
バンダナの男・
片鞠榴に風紀委員風の男・
網枷双真が声をかける。
「片鞠君、会場のセッティングはきちんとできているか?」
「うす。会場のセッティング完了っす。幹部会って事で十人部屋用意したっすよ」
「わー、食事まで用意してくれたんだ!片鞠君いつもありがとっ!これあげるっ」
そう言うと少女・
伊利乃希杏はどこからか手品のように小さなダリアの造花を出してきて、片鞠にわたした。
「あ、ありがとうございやす」
「もともと自由参加で出席率低いし、この際片鞠君も参加しちゃう?」
「今日の彼の役目は会場のセッティングのみだ。ご苦労。君はもう帰っていいぞ」
「へ、へい。それじゃ失礼するっす」
(ダリア…確か花言葉は……感謝……よっしゃああああ!俺の時代キター!幹部昇進ももうすぐじゃああ!!)
片鞠は思わず普段はしないスキップをしながら帰って行った。もう一人の大男、
阿晴猛はその様子を羨ましそうに見ていた。
片鞠が去ったことを確認して、網枷はいやらしい笑みを浮かべながらつぶやいた。
「ダリアの花言葉は感謝の他に、移り気・不安定・気まぐれ……まあ知らないほうが幸せなこともあろ」
「相変わらずこの二枚舌はエグいことぬかしやがるな」
「伊利乃がどのようなつもりで奴に渡したのかは知らんがね。ヒヒッ」
「二枚舌ァァ!伊利乃さんがテメェみてえな陰険な真似するわけがねえだろうが!!表出ろやコラァ!」
阿晴が腰に下げた刀を抜こうとしたそのとき、後ろからぶっきらぼうな声がした。
「黙れバカども。さっさと席につけ」
男がその場に現れただけで場の空気がピリっとしたものに変わる。腰まで届くような長い白髪で
右眼に眼球の刺繍が入った眼帯をしており、無地の黒シャツとダメージジーンズに、黒いウインドブレイカーを羽織っている。
右手には『武器形成(ウエポンクリエイト)』が装着されており、左手にはピアス、ブレスレットが幾つも付けられている。
細身の長身だがひ弱な印象は薄い。アスリートのように引き締まった肉体の持ち主だ。
この男こそが『ブラックウィザード』の荒くれ者や個性の強いメンバーを率いるリーダー、
東雲真慈である。
「「東雲さん!」」
「やっほー真慈!今日は遅かったね」
(伊利乃さんすげェな……東雲さんのこと下の名前で、しかもタメ口って……)
(チッ、相変わらず東雲さんへの忠誠心が足りん女だ)
ブラックウィザードの幹部会は重要度により、強制参加と自由参加の場合がある。
東雲があまり強くとがめないことと、もともと自由気ままな無法者集団であるスキルアウトゆえに
自由参加にすると極端に出席率が悪くなる。今回のメンバーは自由参加でもほぼ100%出席するメンバーだ。
東雲はそんな様子を特に気にすることもなく、奥の席についた。
「俺は貴様らのように暇ではない。暴れるしか脳がないバカでも理解できる計画を練るのに忙しい」
「そんなバカが既にここに1人いますがね。ヒヒッ」
「アァン?誰のことだコラ二枚舌!」
「んもう!またすぐ2人ともケンカするんだから!でもさ、わざわざ幹部会開いたってことは……」
「ああ。例の品物、キャパシティダウンがやっと届いた」
東雲のその一言に幹部たちは騒然とした。昔は名前が売れていたが鳴りを潜めていた、ビッグスパイダーという
別のスキルアウト集団が最近再び勢力を伸ばしてきた原動力とも噂されるシロモノの名前が急に飛び出してきたからだ。
「おぉー、噂の能力者の演算妨害するとかいう機械?さっすが真慈!」
「でもそれって試作品だったんじゃねえっスか?」
「他のスキルアウト集団にもモニターとして配っているそうだ」
「しかしそんなシロモノ一体何者が……相手は信用できるんですか?東雲さん」
「何者だろうが俺の役に立てばそれでいい。害があれば切り捨てるだけだ。これが説明書だ」
そう言うと、東雲は大型のサウンドスピーカーのような機械の説明書を机いっぱいに広げた。
「コイツの操作方法を叩き込め。下っ端でも構わん。できるだけ多い方がいい」
「もう少しコンパクトにできれば、私の暗器レパートリーにも入りそうなのになぁ」
「「「どうやって仕込む気だ」」」
そんな中、阿晴は伊利乃がよく暗器を隠すとある部分に目をやった。
(伊利乃さんはここに……隠すつもりなんだろうか……)
「ん?どうしたの?阿晴君?」
「さっきから伊利乃のどこを見ている。茹でダコ坊主」
「アァ?べべべ、別に、にに二枚舌には関係ねえだろうが!ぶった斬るぞコラァァァ!」
「会議を続けるぞバカども。ところで、また勝手に薬を流したゴミがいるようだが網枷、そいつらはどうした?」
「既に
戸隠禊に『粛清』させました。奴なら証拠隠滅も完璧です」
「ご苦労。奴の幹部昇進も考えておくか」
「それはまだ待ったほうがいいかと思います」
「腕っぷしなら二枚舌より遥かに役に立つのにな」
「……フン」(あの男はいずれブラックウィザードに災いをもたらすかもしれん……俺と同じ裏切り者の匂いがする)
「ねえ真慈、今回いない人にはどうやって知らせるの?」
「まあ今回はキャパシティダウンの知らせと業務報告くらいだから自由参加にした」
「不参加者やその部下にはいつも通り私から通達しておきましょう」
「ああ。計画が固まり次第、次は強制参加で行う。以上、解散だ」
そう言い放つと東雲は足早に店を後にした。
「えーっ、カラオケしないのー?」
「あいにく手駒に薬(エサ)をやる時間だ。私も失礼するよ」
「手駒って……まさか……私、網枷君のそういう所きらーい」
「ぶはっ、二枚舌ざまあああww伊利乃さん!俺が付き合いますっ!」
「本当?阿晴君ありがとー!人数多いほうが楽しいから仰羽ちゃんたちも呼ぼうかなっ♪」
「……………そ、そうっスね」(チクショオオオーーーあと少しで2人きりだったのにーーーーーorz)
こうして学園都市の片隅の夜は恐ろしい計画の序章を刻みながら更けていった。
阿晴の顔ドラムの音を響かせながら。
END
最終更新:2011年11月21日 10:00