せっちゃんは――――――(前編)
はじめまして。
常盤台中学2年の
鉄鞘月代といいます。
今日は、私の親友である“せっちゃん”こと
銅街世津さんについて話します。
銅街さんを初めて見たのは初めての入寮日でした。
常盤台中学の女子寮では、合格が決定した生徒は入学式の半月前に入寮します。
常盤台中学の入学式となれば、学園都市のみならず、世界各国の報道機関が集まって報道するそうで、
入学式で恥をかかぬよう、当日までに新入生を常盤台らしく気品のある生徒にしなければなりません。
そこで常盤台に入るための最低限の品格と素養を入学式前の寮生活で養うそうです。
(嗚呼、名門常盤台中学。友も遊びも視力も犠牲にして手に入れた憧れのステータス。これで私もお嬢様の仲間入りよ~!)
そう思っていた時期が、私にもありました。
何故“思っていた”という過去形なのか、それはまた別の機会で語りましょうです。
それはさておき、お嬢様学校となれば、少女漫画でも印象的なのが派閥争いです。
漫画の中だけだと思っていた派閥争いが、ここ常盤台では現実であり、日常だそうです。
そして、私たち1年生も蚊帳の外というわけではないのです。
先輩方は名家のご令嬢や高位能力者を自分の派閥に入れるため、ありとあらゆる手段を使って来ます。
入寮日に勧誘はもちろん、入試の時点で目を付けていたり、場合によっては小学生の頃から、教師を操って常盤台中学に入るように促したりもします。
「ねぇ、私たちの派閥に入らないかしら?」
「この番号の部屋が私の部屋よ。来れば、至高の紅茶を用意するわ。」
「あら。そんなところよりも私の部屋に来ればいいわ。究極のスイーツがあなたを待ってるわよ?」
人目を憚らず、先輩方は積極的に後輩を勧誘しています。
「どうせ、父親が成り上がりで、強能力者《レベル3》の私には関係のない話ですよ。」
ちょっとお姉様に囲まれたムフフな生活をほんの少しだけ期待していた私は愚痴を零していました。
けど、ふと疑問に思ったことがあります。
それは、勧誘の声がある一定方向からしか聞こえないからです。
(いくつもの派閥から引っ張りだこなんて、どんな人なんですかね?)
金髪縦ロールの超名家のお嬢様や大能力者《レベル4》で愚考などない理知的な人、まるでテンプレのような人物像を浮かべながら、
私は振り向きました。
(先輩方が囲んで姿が見えません。)
ただでさえ低い視力を限界まで発揮しても見えないものは見えないのです。
絶対嗅覚《スメルサーチ》という能力を持っているというのに・・・
(うぉぉ!ここで都合よく目覚めて下さい!私の透視能力《クレアボイアンス》!!)
と心の声が叫んでも見えません。
すると、先輩方に囲まれて身動きの取れなかったその少女はついに言葉を発した。
「いやぁ、派閥げなそげん難しかこつ言われてもいっちょん分からんばい。」
「え?」
「はい?」
「ばい?」
「ごめんなさい・・・。よく聞き取れなかったわ。」
(え?それって日本語なの?)
突然、耳に入ってきた宇宙語(?)を脳内で日本語に処理しきれず、私は混乱していました。
それなのに彼女は立て続けに言ったのです。
「なんかなし、そげん大人数でしゃあしく言われても・・・、あ、でも何かにかたるって話ごたーけん、まぁ、良かばい。」
「・・・・・」
「???」
「・・・んまぁ、よろしくお願いね。」
「そ、そうね。あ、そろそろ寮監が来るわ。」
そう言ってお茶を濁し、先輩方はそそくさと逃げて行きました。
そこで囲まれていた女子の姿を見ることができました。
茶髪のベリーショートヘアー、以前に読んだ雑誌ではウルフカットと呼ばれていた髪形でした。
小動物を想わせる可愛らしい容姿をしており、肌は常人より小麦色に近く、日光の照らす元で過ごした健康的な肌でした。
身長は私と同じか少し低めでしたが、私とは同い年とは思えないほど胸部は豊かでした。(とても羨ましいですわ。)
気がつくと残っていたのは私と彼女でした。当然、彼女は私の方を振り向きました。
無論、私は日本語の話せない外国人に道を訊かれた時のようにパニックになりました。
「そんで、わたしゃの部屋はどこにあると?」
これが、銅街さんとのファーストコンタクトでした。
銅街さんと出会った私は、しどろもどろになりながらも「あなたと同じ1年生だから分からない」と言いました。
まぁ、それは事実でしたし、標準語は伝わるようなので助かりました。
その後、寮監さんが私たちを案内してくれたので事なきを得ました。
常盤台女子寮はルームメイト制であり、基本的に2人で一つの部屋を使うそうです。
私のルームメイトは
金束晴天さんという方で、名のある財閥のご令嬢らしいです。
きっと素養も気品も出来ている方なんでしょう。同じ部屋にいて恥ずかしい思いをしたりしないかとても心配です。
私が部屋に入ると、部屋の片隅に私のルームメイトがいました。
色白で金髪のショートカット、背は160センチ弱といったところです。
「何よ。あれ・・・。同学年が超能力者《レベル5》とか。しかもみんな火を出したり、水を操ったり、電撃ぶっ放したり・・・、
希雨も氷漬けにする能力だし・・・どうせ肉体強化《チューンナップ》なんて地味な能力ですよ」ブツブツ
(そんなこと言わないでください!絶対嗅覚《スメルサーチ》の私なんて、目立たない上に“犬の代わり”でしかないんですよ(泣))
悲しいことですが、どうやら、彼女とは気が合いそうです。
素養教育は翌日の朝から始まります。
新入生は制服姿で食堂に集まり、朝食の時から教育が始まります。
ちなみに席は自由になっていて、みんな思い思いの席に座ります。
既に派閥が完成されているところもあるようです。
(昨日、金束さんと愚痴を交わしながら、マナーについて聞いてて良かったです。)
そう思っていると、金束さんが身を乗り出して誰かに手を振ります。
「希雨~!こっち!こっち!」
金束さんが手を振る先には胸まで届く前を切り揃えた黒髪(俗に言うぱっつんです)の生徒がいました。
銅街さんほどではないですが、胸もあり、微笑みのお姫さまでした。
「あ。晴ちゃ~ん。」
向こうも眩しい笑顔を向けてこっちに手を振りながらやって来ます。
「紹介するね。幼馴染の
銀鈴希雨。」
「初めまして~。銀鈴希雨です。」
「は、初めまして。て、鉄鞘月代です。」
友達のいない小学生時代を過ごした私としては、こういった会話も慣れていません。
(ああ、何でもっとはっきりとしゃべれないんですの?私のバカバカです。)
「希雨~。目の下のクマが酷いよ。もしかして、緊張して眠れなかった?」
「いやぁ、眠れなかったのは当たりなんだけど、理由は違うんだよね~。」
「ああ、もしかして深夜までルームメイトと語り尽くしてたの?そう言えば、希雨のルームメイトは?」
「もうちょっとしたら来ると思うよ~?制服になれてないから時間がかかるの。」
「希雨より時間がかかるって・・・、どんなにトロいのよ。」
「晴ちゃん。それ酷いよ~。」
「あはは。ゴメンゴメン。」
そう談笑している間に銀鈴さんのルームメイトが到着したようです。
「せっちゃ~ん!こっち!こっち!」
銀鈴さんが手を振る先には10数人ぐらいの別の生徒のグループが立ち話をしており、誰が彼女のルームメイトか分かりません。
「とぅ!!」
突然、何かが高く跳び上がり、女子グループの上を超えて行きます。
瞬時にそれは人だと理解しましたが、人だとは認めたくありませんでした。
昔の映画のワイヤーアクションのように不自然なくらい高く跳び上がり、私たちが座る席の向かいへと着地しました。
「はわわわわわわ・・・・」
「え?何?私と同じ肉体強化系?」
あまりの出来事に私と金束さんは気が動転していましたが、銀鈴さんはにこやかに彼女を迎えました。
「あれ?あなたって・・・」
その時、私は銀鈴さんのルームメイトが昨日会った方言少女だと気付きました。
「紹介するね。私のルームメイト。せっちゃんこと銅街世津ちゃん。」
「はじめまして。銅街世津ばい。何かとよろしく頼むっちゃ。」
今、話してみると、昨日ほど方言や訛りが酷くなかったです。
昨日、頑張って標準語でも練習したのですね。それにしても上達が早いようにも思えますが・・・
「せっちゃん?」
「ん?どうしたと?希雨。」
すると、銀鈴さんは水の入ったペットボトルを取り出し、能力か何かで内部の水を凍らせ始めました。
後で金束さんに聞いたのですが、氷結籠手《アイスハンド》という能力で凍らせたそうです。
水が凍る光景を銅街さんはトラウマを蒸し返されるかのように恐怖に包まれた目で見つめました。
「制服はちゃんと着てって言ったよね?」
銀鈴さんは笑顔を向けながら、凍ったペットボトルを震える銅街さんへと近付けました。
「わ、分かった!分かったっちゃ!やけん、それをこっちに向けんどいて!」
必死に懇願する銅街さんの頼みを聞いて、銀鈴さんはペットボトルをテーブルの上に置きました。
「次からはずんだれんようにするけん、もう勘弁してくれっちゃ!」
泣きながら制服の綺麗に着直す銅街さんと笑顔で監視する銀鈴さん。
寝不足といい、銅街さんの口調の改善と言い、なんとなく整合性がつきました。
(嗚呼。もしかして一晩で調教済みって奴ですか・・・。)
銅街さんといい、私といい、まともに中学生活が送れるかどうか、心配になりました。
後編に続く
最終更新:2011年11月17日 23:28