「え?速見先輩が警備員の取り締まりを受けているってどういうことですか、椎倉先輩!?」
今日は3日間に渡るテスト期間の1日目。テストは午前中に終わるため一般生徒はそのまま下校する。
かくいう風紀委員も本来は下校してもよいのだが、成瀬台風紀委員支部では支部員は学内に居残るのが通例となっている。
風紀委員の仕事をするも由、支部内でテスト勉強をするのも由という具合である。
「さあな。俺も詳しいことは知らない。何でも一般人への傷害容疑の参考人として取り締りを受けているそうだ」
「あの速見先輩が・・・。“速見スパイラル”・・・ついにやっちゃったんすかね?」
「馬鹿言え、押花!!あの人が、速見先輩がそんなことをするわけないだろ!!
今までだって“速見スパイラル”の暴走で自爆することはあっても、
“速見スパイラル”の暴走で自分ごとスキルアウトを川に吹っ飛ばしたことはあっても、
“速見スパイラル”で一般人を傷付けたことは一度も無いんだぞ!!」
「初瀬君・・・それ、フォローになってないよ」
その初日にある問題が発生していた。
それは、
成瀬台高校の風紀委員
速見翔が一般人への傷害容疑で警備員に取り締まりを受ける事態が発生したのだ。
普通なら支部内でテスト勉強の1つでもするのだが、今はそれどころでは無い。他の風紀委員が集まって今後について協議しているのだ。
「とりあえず、寒村が速見の所に行っている。とりあえずはその報告待ちだな」
「大丈夫だよ初瀬君。速見君が一般人にケガを負わせるような人間じゃ無いことくらい、皆わかってるさ。」
「・・・はい。大声をあげてすみませんでした」
勇路映護のフォローもあって
初瀬恭治は幾分落ち着きを取り戻した。
その時
椎倉撚鴃の携帯電話が鳴った。椎倉は立ち上がり支部の隅っこへ移動、通話を始める。静まり返る支部内の空気。そして・・・
「寒村からだ。とりあえず速見は釈放・・・というか嫌疑不十分で解放されたようだ。
今から寒村と一緒に支部に帰ってくる。詳しいことは帰ってから話すだそうだ」
「あ~よかった。やっぱそうっすよね。速見先輩がそんな大それたことするわけないっすよね」
「調子いいな・・・お前」
同じ1年生である
押花熊蜂の発言の変わりように呆れる初瀬だったが、ホッとしたのは紛れも無い事実だ。
支部内にも安堵の空気が広がる。その空気を切り裂くように椎倉が、
「しかしまあ・・・テスト期間中にってのがタイミング悪いよな・・・いや、テスト前からか?
初瀬!確かお前がこの前出してきた報告書・・・ありゃどういう内容だった?」
「この前のですか?あれは・・・校内で起きた2年生の制服が盗まれた事件です。
体育の授業中を狙った外部の犯行だと推測していますけど、まだ犯人を突き止めるまでは・・・」
「ウチの高校ってボロっちいもんな。監視カメラの1つも無いし。・・・そういえば1年生の間だけっすけど、
最近教科書が破られた被害とか複数出ているっす。自分もまだ犯人に関する情報は見つけられていないっすけど」
「・・・最近になってだけど、ある3年生の靴の中に画鋲が入っていたと聞いたことがあるな。
一応気にはしていたけどイタズラ程度だし、しばらくは様子を見ると判断してたから懸案事項には上げていなかったな」
「初瀬、押花、勇路。その被害を被っている生徒・・・もしかして不良連中か?」
「!!・・・ええ」
「そう、その通りっす」
「僕の知っている限りではその認識で合っているよ」
「やっぱな・・・。ふむ・・・」
椎倉は思案に耽り始めた。初瀬はたまらず質問する。
「椎倉先輩・・・まさか、繋がっていると?」
「確証は無えがな。だか、可能性としては十分に有り得る。ただでさえ、ウチの高校は一部の不良共のせいで評判が悪い。
その不良共も最近は落ち着いてきていたんだが、今回の被害はその不良共を中心に出ている。
今はテスト期間だから不良共も表立って暴れちゃいねえが、テストが終わったら・・・」
「ヤバイっすね、それ。校内外に渡って」
「でも、それじゃあ、何故速見先輩が狙われるんですか?速見先輩は不良でも何でも無い・・・」
「ターゲットは不良だけじゃねえってことさ。不良共が暴れだしたらそれを抑える役目は俺達風紀委員だ。
犯人の野郎はこのテスト期間中に風紀委員を狙って機能不全状態に追い込むつもりなんだろう。
そしてテスト終了後、俺達が自陣内の問題に掛かりきりになってる間に不良共が『自発的』に暴れて問題を起こし、
それによって校内外の治安やイメージを悪化させるのが狙いなんだろう。
不良共が暴れる理由は何だっていい。『ウサ晴らし』とかでもな。暴れちまったらそこでシメーだ。
手口自体は荒っぽいが、今回のホシが仕掛けつつある『爆弾』はそれなりに効果がありそうだな」
椎倉の推論が必ずしも正解では無いかもしれない。しかし、現実としてそのような事態が
起こり得る可能性が十分に考えられる。その一歩手前にいる状態なのを支部内にいる風紀委員全員が認識する。
「とりあえず寒村と速見の帰り待ちだな。今日は外に出ず事務作業を中心に行動する。何ならテスト勉強してもいいぜ」
椎倉から当面の方針を指示される。その的確な指示が初瀬の心理状態を落ち着かせる。押花も勇路も自分の席に戻っていく。そして・・・
「あああああ!!!忘れてた!!!」
「うおっ、何だ初瀬。急に大声を出して。びっくりさせんじゃねえよ」
急に大声を出した初瀬に椎倉がツッコミを入れる。
「すみません椎倉先輩!俺、今日は帰らせて頂きます!!」
「は?何で?」
「俺の大事な!大事な!!大事な!!!このスマートフォンが調子悪いんですよおおぉぉ!!」
「そんなん知るか!!」
「早く・・・早くケータイショップに行って診て貰わないと!!もし故障だったら新しい機種に交換してもらわないと!!!」
「ってか、お前の能力ならスマートフォンの状態くらいわかるんじゃねえのか?」
「演算に全然集中できないんです!!あああ!!今日のテストも全く集中できなかったし・・・どうしようどうしよう!!」
「(チッ、初瀬のスマートフォン依存症はホント厄介だな。だが、このままだと使いモンにならねえしな)」
初瀬恭治という男はスマートフォン依存症である。よって、スマートフォンに何かあった途端に激しく動揺してしまう。
目の前のテストや己の能力『阻害情報』の演算に全く集中できなくなる程に。
そんな初瀬の醜態を十二分に理解している椎倉は仕方無く、
「あー、わかったわかった。さっさとショップでもどこにでも行ってこい。
但し、そこでの用事を済ませたら寄り道せずに真っ直ぐ家に帰れ。いいな?」
「わかりました!!ありがとうございます!!では失礼します!!!」
そう言い残して初瀬はすっ飛んで行った。それから数十分後、
「寒村、只今支部に帰還したぞ!!」
「警備員の人、すごく恐かったよ~」
「あ、寒村先輩!速見先輩!」
寒村赤燈と速見翔が支部に帰ってきた。何時もは元気が有り余っている速見もさすがに疲れ果てているようだった。
「お疲れ様、寒村。速見君も災難だったね。はいお茶」
「いや、我輩に掛かればこれしきのこと、何ら問題無い」
「勇路先輩~ありがとうございます~」
勇路が出したお茶を啜る寒村と速見。そこに椎倉が声を掛ける。
「お疲れの所悪いが、こっちも聞きたいことが結構ある。ああ、飲みながらでいいからよ、聞かせてくれ。何があった速見?」
「それが僕にもよくわからないんです。今日からテスト期間に入るから何時もより早く登校しようと
6時に家を出て、何時も通りに“速見スパイラル”で登校していたらいきなり警備員の人に職務質問されて、そのまま・・・
はぁ、今日のテスト受けられなかったなあ・・・追試とかあるのかなあ?」
「そこから先は我輩が説明しよう」
「寒村?」
「どうやら最近他校生を狙って傷害事件が起きているようだ。その犯人は未だ捕まっておらんがな。
問題はその犯人が我等成瀬台高校の制服を着ていること、そして去り際に“速見スパイラル”と言い残して去っていること」
「寒村先輩・・・それって」
「ああ、速見の仕業にするつもりなのは明白。何とも狡い輩よ。この寒村直々に成敗してくれるわ!!」
「成瀬台の制服・・・。椎倉・・・これは」
「ああ、どうやら“当たり”のようだな」
初瀬はケータイショップにいた。やはりスマートフォンは故障していたようで、
今はどの色の機種にしようか悩んでいる所である。
「(やっぱり前と同じように黒色が・・・いやいや、折角変えるんだからここは明るい色を)」
悩み続ける初瀬。店員も顔には出さないがイラつき始めたその時、
「苧環様・・・本当にいいんですか?私なんかに付き合ってくれなくても」
「別にいいのよ月ノ宮。丁度私も携帯を変更しようと思っていた所だし。偶には派閥の長らしい所を魅せないと、ね」
「苧環様・・・ありがとうございます!!」
常盤台中学の制服を着た2人の少女が初瀬の前に現れたのだった。
continue!!
最終更新:2012年04月18日 20:46