轟音が鳴り響く戦場の一角。
「(何か・・・作為的なものを感じるわね・・・)」
過激派救済委員の1人である刈野は、戦闘相手である一厘の戦法に疑問を抱いていた。
「(さっきから、わざと後退しているような気がするわ)」
先程から一厘は、周囲にある物体による波状攻撃を仕掛けた後に、刈野が近付いて来ると後退するという動きを何回か繰り返している。
その行動に刈野は違和感を感じていた。
「(彼女の能力は念動力系。結構な数を操作できるようだけど、どれも比較的重量の軽い物ばかり。・・・おそらく1つに割ける重量の限界値は想像以上に低い。
もし重量限界値がもっと上ならば、周囲にある物体を操るよりも私の動きを念動力で制限した方が効率的な筈。・・・強度は私と同じレベル3程度かしら)」
今までの戦闘から、そう推測する刈野。
「(だからこそ・・・何か企んでいそうね。さっきから同じ攻撃を繰り返しているとこを見ると・・・“本命”があるわね。それと“罠”も。両方は同一かもしれないけど。
さっきの会話でも思ったけど・・・彼女、隠し事が下手ね。感情的というか、わかりやすいわ。フフッ)」
刈野が思考している間も一厘の攻撃は断続的に続いている。それを、『発火能力』で全て叩き落す傍ら、自身の“本命”を何時繰り出すのか算段を練る刈野。
「(かと言って、このままみすみす彼女の“本命”ないし“罠”に飛び込むのは愚の骨頂。
“宙姫”が暴れ回っているようだから余り目立つ真似はしたくないんだけど・・・仕方無いわよね。私の能力って目立つ方だし)」
戦場に響き渡る轟音に少しだけ意識を向ける刈野。この発生源が“花盛の宙姫”だとすると、自分もうかうかしてはいられない。
早急にこのターミナルから脱出しなければならないのだ。
「(それじゃあ・・・彼女の仕掛けが発動する前に、こちらから戦況を動かしてみましょうか!!)」
『発火能力』により発生させた熱風に赤色交じりの髪をはためかせ、刈野は疾走する。自身の勝利を確実なものにするために。
「なっ!?」
一厘は刈野が突っ込んで来たことに意表を突かれる。今までの攻防は、全て中・遠距離に終始していた。そして、それは一厘にとって都合がよかった。
だが、相手はそれを見越したのか接近戦を仕掛けてきた。一厘の苦手な接近戦を。
「くっ!!」
『物質操作』で操作する木材や鉄パイプを刈野に振り向けるが、刈野は紙一重でそれ等をかわしていく。
「はっ!!」
「!?」
刈野が火炎球を一厘へ向けて放った。一厘は、ボロボロの小型コンテナを盾にする。
一厘の目の前で衝突する火炎球と小型コンテナの衝撃に思わず身を竦ませる一厘。このわずかな隙を、刈野は見逃さない。
「やはり、接近戦は好きじゃないようね!!」
「!!」
刈野は手に握る焼き印を一厘へ直接ぶち込む。これは、投擲では一厘の念動力で防がれるのを見越した上での攻撃である。
一厘は、顔に向かって来たそれを条件反射的にかわすが・・・
「フッ!!」
「ガアッ!!」
それは、刈野の二段構えの妙。左腕での突きに一厘が反射的に屈んでかわした瞬間、咄嗟に左腕を“引いた”のである。つまり、一厘の首へ突き刺さる肘撃ちとなったのだ。
この至近距離では火炎球を使えない。そう判断した刈野は、一厘の苦手な肉弾戦に持ち込んだ。
「それっ!!」
「グハッ!!」
肘撃ちを首に喰らい、よろけた一厘の腹に刈野の右回し蹴りが叩き込まれる。数メートル吹っ飛ばされた一厘が目にしたのは、
「ハアァッ!!」
「!?キャアアアァァァッッ!!!」
刈野の放った火炎球であった。一厘は倒れ込んだ体をわずかに動かし直撃を避けるが、地面に着弾したその衝撃で更に吹っ飛ばされる。
「ハァ、ハァ。っっ!!!」
「まだ、終わりじゃないわよ!!!」
火炎球が、次々と一厘とその近辺へ向けて放たれる。『発火能力』というスタンダードな能力は、単純故の強みがある。
それは、汎用性。使用者次第で幾らでも応用が利く己が能力を、刈野は気に入っていた。
すなわち、“刈野が”応用する『発火能力』の応用とは何も焼き印だけでは無い。例えば・・・
「ゴホッ、ゴホッ!!け、煙が・・・ゴホッ!!」
自らの『発火能力』で燃やして発生させた煙を、炎を調節することで任意の方向へ気流を生み出し、敵を
行動不能にするという応用もできるのだ。
「フフッ。苦しいでしょう。目にも鼻にも・・・呼吸にも」
「ゴホッ、ゴホッ・・・!!」
一厘は煙に目をやられ、視界不良状態になっていた。息も満足にできない。燃焼の音と刈野の声だけが一厘の耳に届く。
「今・・・その苦しみから解放してあげる。ハァッ!!!」
「!?」
刈野のもう1つの応用。それは、既に発生させた炎の操作。
範囲は近距離に限られるが、既に発生させた炎や、その炎が『何らかの理由で』燃焼規模が大きくなった分まで刈野は操作できるのだ。
故に、一厘へ向けて殺到するのは刈野から放たれた火炎球と・・・周囲にある炎。それらが、一挙に一厘へ収束する。
未だ目がよく見えない一厘は、自分に迫ってくる脅威の音だけを便りに、支配下に置いていた物体による防壁を試みる。だが、当然ながら防ぎきれるわけも無く・・・
「キャアアアアアァァァッッ!!!!!」
爆発。そう形容できるほどの衝撃と炎熱が一厘を襲った。今度は数十メートルも吹き飛ばされ、着用しているサマーセターにも炎が点火する。
「ふぅ。まぁ、ざっとこんなものかしら」
その光景―炎のゆらめきの隙間に倒れている一厘の姿が見える―に目をやり、己が成果に満足気な笑みを浮かべる刈野。
「さて・・・後は彼女の腕章を剥奪するのみ。『風紀狩り』の名に懸けて・・・ね」
刈野は歩き始める。最後の仕上げに取り掛かるために。
「グウゥゥ・・・!!!」
一厘は度重なるダメージに動けない状態になっていた。その体には打撲や火傷が多く存在していた。
サマーセーターを炎が蝕み始めたことにも気が付いてはいるが、体も動かず、能力もまともに発動できない現状ではどうすることもできなかった。
「(やっぱり・・・こんな私には無理だったのかな?春咲先輩を助けることも・・・あの人に応えることも)」
一厘は思う。結局自分は何もできなかった。春咲達の思いを察することも、助けることも何一つまともにできなかった。
刈野の足音が近付いて来る。彼女は一厘の腕にある風紀委員の腕章を奪うだろう。風紀委員失格の証として。
「(何でこんな私が・・・風紀委員なんかになったんだろう?仲間にすら碌に応えられない・・・先輩の思いにも全く気付かなかった私が・・・一体何を守れると思ったんだろう?
こんな私に・・・春咲先輩を助ける資格なんて・・・本当にあったのかな?)」
何時しか一厘の目から涙が零れ落ちていた。それは、不甲斐無い自分への失望か。
「(ごめんなさい・・・春咲先輩・・・界刺さん。私は・・・もう・・・)」
瞳を閉じようとする一厘。いよいよ間近に迫る刈野の足音を耳にし、意識を手放そうと・・・
『それがいけないんだよ、リンちゃん。それはそれ。これはこれ。あのお嬢さんの問題と君の問題を混合するな。
そんなことに囚われてちゃあ、本当に大事な時に間違った一歩を選択しちまうぜ?囚われるな・・・見誤るな・・・見極めろ・・・掴み取れ・・・!!』
今まさに意識を手放そうとした一厘の目が見開かれる。瞳に強い“何か”が宿る。
「(・・・!!そうだ・・・!そうだ・・・!!そうだ・・・!!!)」
強い“何か”は、一厘の手に、足に、全てに宿る。
「(囚われるな・・・!見誤るな・・・!!見極めろ・・・!!!掴み取れ!!!!)」
一厘は、もう一度心で捉え直す。自分が何のためにここに居るのかを。
「(私は・・・私はここへ何をしに来た!?風紀委員にふさわしいとかふさわしくないとかを判断するため!?
春咲先輩に対する懺悔のため!?自分が『正しい』のか『間違っている』のかを判断するため!?・・・違うでしょう、私!!?)」
『物質操作』を行使して、ブラウスまで火の手を広げようとする炎をサマーセーターごと脱ぎ去る。
「(私はただ、春咲先輩を助けたいからここへ来た!!それ以外のことは何もいらない、関係無い!!
春咲先輩が私達に抱いた感情も、私達に救済委員になったことを打ち明けなかった理由も、私が大馬鹿で、力不足で、醜くて、最低な人間なのも、今は全部どうでもいい!!!)」
一厘は歯を食いしばって立ち上がる。体中が悲鳴を挙げながらも、それでも確と大地を両の足で踏み締める。こんな所で負ける訳にはいかない。倒れるわけにはいかない。絶対に。
「(助ける資格なんて、そんなもの最初から何処にも無い!!助けたいから助ける!それだけで、私は・・・戦える!!“私の足で立ち上がれる”!!!)」
そして、一厘は『確認』する。自分の支配下に置かれている、ある物を。
「(私の背後は・・・コンテナが高く積み立てられている。前方は火の海。あの女にとっては大きな武器になる炎・・・。これなら・・・いける!!)」
一厘は、自分が用意していた“罠”と“本命”を使用することを決断する。チャンスは一度きり。失敗は許されない。
『俺って光を操る関係上、周囲の位置取りとかって気にするんだよねぇ』
「(あの人の言葉を絶対に無駄になんかしない!!必ず・・・活かして見せる!!!)」
界刺の言葉を胸に、一厘は静かに時を待つ。“罠”及び“本命”を確実なものとするために。
「あら。まだ立ち上がるだけの力が残ってるなんてね。意外だわ」
刈野は目を丸くする。あれだけのダメージを与えた一厘が、再び立ち上がった様を見て。
「でも・・・そんなボロボロのあなたに何ができるのかしら?後ろはコンテナで塞がり、前には私が居る。あなたの念動力じゃあ、その大きなコンテナは操れない。違う?」
刈野は余裕をもって一厘に相対する。勝利は目前にある。そう確信しているが故に。
「・・・えぇ。そうですよ。私の能力じゃあ、こんな大きいものは操れません」
「やっぱり。だったら・・・」
一厘は刈野の声を遮るかのように“罠”を発動させる。
「でも・・・私は負けない!!」
「!?」
それは、一厘の後方にある高く積み上がったコンテナの更に後ろから出て来た小型コンテナ。
先程まで操作していたのとは違い傷一つ無いそれこそが、一厘の“罠”。それは、一直線に刈野を襲う。
「ハアアァァッ!!!」
「フッ。今の私には・・・そんな物は通じないわ!!」
刈野は自らが発生させた火炎球と、周囲にある火の海を小型コンテナへ殺到させる。確かに、刈野が放つ火炎球だけでは損傷の無いコンテナを一撃で潰すのは不可能である。
だが、今の刈野には既に発生させた炎がある。炎の大群が小型コンテナへ殺到する・・・その時!!
パカッ!
「!?」
小型コンテナに炎が直撃する瞬間、小型コンテナの蓋が開いた。
1個に割ける重量が低くとも、精密な操作に長ける一厘だからこそ開閉のタイミングをドンピシャで合わせられたそこに詰め込まれていたのは・・・
バチバチバチバチバチ!!!!!
「キャッ!!?」
爆竹。かつて、穏健派の救済委員達があるスキルアウトを潰した時に押収していたそれ等を、一厘は何かに使えるのではないかということで花多狩から貰い受けていた。
その目論見はズバリ当った。自身の炎により、予想だにしない爆竹の爆発と甲高い音を引き起こしてしまった刈野は怯み、気を取られる。
その隙を・・・今度は一厘が見逃さない。
「私は・・・」
それは“本命”。爆竹が詰め込まれた小型コンテナとは別個の小型コンテナを、“罠”発動時に一緒に操作し、蓋を開け、その中にあった“モノ”を自身の手に引き寄せた。
「絶対に・・・」
「なっ!?」
それは“警棒”。界刺から護身用として預かった“モノ”を連結させ長棒とし、刈野へ向かって振り上げる。
刈野が看破し、一厘自身も自覚していた苦手な接近戦を、今度は自分から仕掛ける。
その不意打ちに刈野は咄嗟に対応しようとするが、間合いの長い長棒故にそれは間に合わない。
「負けないんだからあああああぁぁぁっっ!!!!」
長棒が刈野の頭に思い切り振り下ろされる。一撃。まともに喰らった刈野は・・・昏倒する他無かった。
「ハァ・・・ハァ・・・」
一厘は、近くのコンテナに背を預け呼吸を整えていた。隣には手錠を掛けた刈野の気絶した姿があった。
「ハァ・・・。もう、クタクタ。体のあちこちが痛いし、火傷してるし、最悪だわ」
そう言いながらも、一厘の表情は何処か晴れやかであった。
「結局こんな体じゃあ春咲先輩の応援に行けないし、戦闘が終わって自分の中の『正しさ』を見極められたかと言われたらう~んだし。
人生そんなに甘くないかぁ。・・・遠いなぁ・・・あの人の背中は」
界刺から預かった警棒に視線を向け、嘆息する一厘。
「界刺さん。あなたの言う通りでしたよ。春咲先輩を助ける資格とか、風紀委員失格とか、『正しい』とか『間違っている』とか・・・そんなことでウジウジ悩む暇があったら、
今本当に何がしたいのか、何をしなければならないのかを最優先に考えて動くべきなんですよね。
それは私自身の問題であって春咲先輩の問題じゃ無い。それは問題であっても私が動けない理由にはならない
だって・・・あの時春咲先輩に会えて・・・本当に嬉しかったんだもの」
色んなしがらみを振り解いて、一厘はあの公園で春咲に飛び付いた。そして、春咲が記憶を取り戻した後に自分の名前を呼んでくれた時、心の底から嬉しかった。
あの笑顔に出会えたのも、自分の歩みを止めなかったから。それだけは、一厘も胸を張って断言できる。
「はぁ。私も人を見る目を養わないといけないなぁ。人の機敏に敏感になりたいなぁ。そしたら、こんなことになる前に何とでもできるのになぁ。
なぁなぁなぁ~。はぁ・・・。なぁなぁばっかりじゃ駄目だよねぇ。どうしよう。何かいいアイデアはないかな~」
一厘は、体を休めている間に今後の自分の在り方に思考を巡らせる。すると・・・
ブオォ!!
「!!」
それは、先程刈野との戦闘で一厘が追い詰められた高く積み上がったコンテナ群。それらが、突如浮遊したのだ。
「(まさか・・・“花盛の宙姫”!?)」
浮遊範囲が一厘達のいる方面に迫って来る。今の一厘はある意味お忍びである。別の言葉で言い換えると単独行動である。
今回の件は、一厘達が所属する159支部はある理由から原則関わらないようにしている。そんな中で159支部に所属する一厘が“宙姫”と接触するのは―単独行動とは言え―好ましくない。
「(クッ・・・。体が動かない!!)」
刈野に受けたダメージから体がうまく動かない一厘に、浮遊範囲―無重量球―から逃れられる術は無かった・・・が!!
シュッシュッシュッシュッシュッシュッ!!!
無重量球を発生させている“花盛の宙姫”―
閨秀美魁―に向かって圧縮・開放された水の弾丸が撃ち込まれた。
閨秀がそれを避けるに当って、現在進行中で操作していた無重量球の範囲拡大を停止させ、範囲分のコンテナ等を自分の元へ引き寄せた。
無重量球は多大な演算をもって構成されているため、本人に危害が及ぶか何かの理由で演算が止まったり乱れたりすると、無重量球の操作が困難になることがある。
最悪は無重量球の消滅である。故に、そうした事態を避けるために今のように中途で切り上げたりすることで、無重量球の操作に掛かる悪影響を最小限に留めているのだ。
「(あれは・・・水楯さん?)」
一厘の推測は当っていた。程なくして、大量の水を引っ提げる水楯が姿を現した。一厘の存在に気が付いていたのか、水楯は一厘へ視線だけを向け、アイコンタクトを送る。
「(一厘さん・・・)」
「(助かりました)」
一厘も同様にアイコンタクトを返す。そして、すぐに満足に動かない体を無理矢理動かし、気絶している刈野を担いで退避しようとする。
「へぇ・・・。こいつは驚いた。まさか、こんな所であたしの通う学園の後輩に出会うたぁなあ。それだけの水量を操る所を見ると・・・レベル4か?」
「わぁー!!あのバッジ、わたしと同じ学年ですよー!!」
水楯の姿を認めた閨秀と抵部が驚きの声を漏らす。その間に、上空から閨秀達と戦っている不動達から水楯に声が掛かる。
「水楯!!」
「水楯チャン!!」
「不動先輩・・・仮屋先輩・・・。私も参戦します」
不動達に、水楯が参戦の意思を示す。相手が自分の通う学園の生徒であっても、自分達に危害を加えるなら容赦はしない。
その意思は、水楯の周囲を暴れ回るように渦巻いている水が証明している。
「・・・3対1。しかもレベル4ばかりか・・・。ふ~ん」
「そ、そらひめ先輩ーい!!わたし、わたし!!」
「あっ、そういや抵部も居たっけ?忘れてた、忘れてた」
「ひ、ひどーい!!そらひめ先輩のイジワルー!!」
「あ~、ゴメン、ゴメン。冗談だよ、抵部。頼りにしてるぜ!!」
「へへ~ん♪なんたって、はなざかり支部の準エースですからねぇ~」
「切り替え早っ!!っつか準エースって何だ?初耳だぞ?」
閨秀は抵部との会話の傍ら思考を纏める。そして・・・1つの決断を下す。怒り渦巻く心情の発露のままに。それでいて、冷徹に戦況を見定めた上で。
「抵部。こっからは・・・『本気』から『殲滅』に切り替えるぞ。いいな?」
「そ、そらひめ先輩。それって・・・先輩と一緒に行動するわたしですら見たことがないあの・・・」
「あぁ。お前には初お披露目だな。・・・ビビッて腰を抜かしちまうかもな?」
「ふ、ふふ~ん!わたしは準エースなんですから、そらひめ先輩が何を見せようともビビったりなんかしませんよーだ!!」
「おう。その意気だ。自分にはちゃんと『物体補強』を掛けとけ。あたしに掛けてもらう時はちゃんと合図するからよ。いいな?」
「りょーかいです!!ドーンとこいです!!」
後輩の強がりに頬を緩ませながら、閨秀は目の前に立ちはだかるレベル4達に厳しい視線を向ける。
閨秀は激昂していた。まさか、自分も通う学園の生徒が自分の敵に加勢する姿を見ることになるとは夢にも思わなかった。それ故に・・・譲れない。
こんなことを堂々と行う“後輩”を放置すること等・・・閨秀美魁には絶対に許容できない事柄である。
「さ~て、そんじゃあまずは・・・」
右手に無重量球を発生させる。そして、それを飛ばす。狙いは・・・
花盛学園高等部1年生、
水楯涙簾の・・・
「その水を頂こうか!!!」
「!!」
「!?水楯!!水を切り離せ!!」
閨秀の宣言に水楯が反応し、閨秀の狙いを看破した不動が警告を発した直後、閨秀の無重量球及び念動力が水楯の支配する水に飛来し、同時に干渉する。
無重量球に囚われることを恐れた水楯は不動の警告に瞬時に反応し、干渉外の水を利用してその場から即座に離脱する。
「まぁ、こんなモンか。あんまり多くてもなぁ。固体と液体って操作するにしても勝手が違うしねぇ」
閨秀が水楯から引き離した―水楯が切り離した―水量はそれ程多くない。精々200tかそこらの辺りである。大部分の水は未だ水楯の元にある。
「・・・・・・!!!」
閨秀は腕を顔の前で交差させる。この構えは閨秀が集中する時の癖みたいなものである。
自分を中心に巨大な無重量空間を発生させ、水を、石を、木材を、鉄くずを、残骸を、コンテナを、クレーン車を、範囲内に存在する全てを浮遊させる。
「ハアアアアアァァァッッ!!!」
閨秀が交差した腕を解いたと同時に、それ等の多くが“集中”する。
閨秀の右手には石、木材、鉄くず、破壊したコンテナの残骸等が“集中”する。それはまるで巨大な“腕”の如き威容を醸し出す。
一方左手にはクレーン車を中心に、石やコンテナが高速で回転している。さながらそれは、石やコンテナを弾丸とした巨大な“ガトリング砲”の如き形容を示している。
他にも閨秀の周囲には、攻防両方に使用するであろう余ったコンテナや水が浮遊している。
これ等全ての現象を、閨秀は『皆無重量』にて実現させていた。まさに・・・化物である。
「そ・・・そんな・・・!!」
同系統の能力を持ちながら、自身とは比べ物にならない程の実力を誇る“宙姫”に
一厘鈴音が驚愕を通り越して恐怖を抱き、
「ば・・・化物め・・・!!」
「不動・・・!!」
「・・・!!」
「わぁー!!何だか、昔テレビで見たロボットアニメを思い出しますねー!!」
後背に居る
抵部莢奈が“宙姫”の格好を見て無邪気に騒ぎ、
「さぁ、始めっか・・・。何一つ満足に残らねぇ『殲滅』ってヤツをよおおぉぉっっ!!!!」
“宙姫”閨秀美魁が念動力で制御した“腕”を上空に居る不動達へ猛烈な速度でもって振るい、石やコンテナを弾丸とした“ガトリング砲”を地面に居る水楯へ高速でもって射出する。
「ちぃっ!!!」
「くっ!!!」
「・・・!!!」
レベル4の3人は自分達へ向かってくる脅威を危うくかわす。だが、“花盛の宙姫”の席巻は―未だ留まることを知らない。
continue!!
最終更新:2012年05月24日 00:50