校門を潜って、すっかり通い慣れた学び舎へ足を踏み入れる。
  柱時計の時刻は八時半ばほどを指していた。
  少しジョギングのペースを誤った感はあるが、それでも遅刻にはギリギリならなそうだ。
  吹雪。K市の某高校へ通う、高校一年生。そういう扱いに、この世界ではなっている。
  最初こそ慣れなかった生活も、今となっては少しばかりの物寂しさが残る程度になっていた。
  環境に適合する生き物なのは、艦娘も人間も関係ないらしい。

  時が来れば、消えてなくなる偽りの日常。 
  この静かで平和な世界は、しょせん零と壱の羅列で構成された電子再現空間に過ぎない。
  吹雪は決して精密機械に明るい方ではなかったが、役目を終えたソフトウェアがどうなるかには察しがつく。
  目的を果たしたソフトウェアは無情にワンクリックで閉じられ、それで何もかもが消える。
  再び起動の時が来るまで、保存処置がされていなければそこで重ねた時間も、手間も、あらゆるものを無に帰して数字と電子の底で眠り続ける。
  此処もまた、言ってしまえばその程度の軽さでしかないのだと、こうして暮らしている分にはとても信じられなかった。すれ違うと会釈をしてくれる先生や学友は、皆それぞれ個性を持って、生き生きとした顔をしている。

 「――ううん」

  かぶりを振って、吹雪は過ぎりかけた不安を払拭した。
  希望を探すと決めたのだ。
  間違ったやり方で願いを叶える聖杯戦争を否定し、この八方塞の状況に活路を切り開くと。
  決めたのだから、迷ってはいられない。それに、今自分が抱こうとしていた迷いは、きっとこれから先の道を往く上で決して抱いてはならないたぐいのものだった。

  彼らは、木偶だ。
  NPC――Non Player Characterの名の通り、人格らしいAIに従って動いているだけの存在だ。
  要は舞台装置。救うとか救わないとか、希望とか奇跡とか、そういう次元ですらないオブジェクト。
  その行く末に想いを馳せるのがどれほど生産性のないことであるかは、さしもの吹雪にも理解できた。
  心を鬼にして……もとい割り切って、仮初の日常に浸るくらいでなければ、先が危ぶまれるというもの。
  それに、こんなことでライダーに迷惑はかけられない。
  彼女に何の心配もなく戦ってもらうためにも、マスターである自分がしっかりしなければ。

 『……吹雪。貴女、今何か考えてたでしょう』
 「えっ!? ……ど、どうしてですか?」
 『分かりやすいのよ、貴女。すぐ顔に出るって言われたことない?』

  吹雪は気付いていなかったが、確かに彼女の顔は、校門を潜った時に比べて幾分か晴れやかだった。
  いかにも新しい第一歩を踏み締めた、という感じの自信に満ち溢れた表情。
  それを見事に看破されて、吹雪は頬を朱に染める。
  前向きなのはいいことなんだけどね、とライダーは霊体化したままで苦笑した。
  そんなやり取りを交わしながら教室へ入れば、それとほぼ同時にSHRのチャイムが鳴る。

  どうやら、相当ギリギリだったらしい。明日からはもう少し時間配分に気を配る必要があるなと自分を戒めて、吹雪は着席し、担任教師の諸連絡に耳を傾けることとした。
  生徒達はと言えば、眠そうに、怠そうにしているのが大半だ。
  遅刻寸前だった吹雪はこの様子だと、まだ真面目な方に部類されると見ていいだろう。
  中には既に夢の世界に足を踏み入れているものさえおり、教師もそれを特に咎めるでもない辺り、このクラスの雰囲気というものが窺える。

  連絡事項は概ねテンプレート。
  テストが近いから勉強しておくように、だとか。
  インフルエンザが流行してくる季節だから手洗い、うがいをしっかりするように、だとか。
  そういった定例通りのものがいくつか語られた後に、最早お決まりとなったある話題が来る。

  例の殺人鬼の被害者が、また増えたそうだ。

  担任のそんな連絡を耳にした時、吹雪の表情に影が差した。
  この街に住む人間で、かれこれ数週間に渡り街を騒がせている連続殺人鬼の動向に注視していない者はよもや居ないだろう。犠牲者の数は五十人を超え、にも関わらず警察は未だにその足取りを掴めていない。
  本来なら、学校になんて出ている場合ではない状況だ。
  にも関わらずどこの学校も休校措置を取ったという話がない辺り、やはりそういうことなのだろうと思う。
  舞台装置は舞台装置。滞りなく、日常は回る。

 『まだやってるのね、例の殺人鬼。十中八九どっかのマスターでしょうけど』

  ライダーの呆れたような声に、吹雪は周囲に不自然がられない程度の小さな動きで頷いた。

  これだけの騒ぎを、たかが1NPCが引き起こすとは考え難い。
  ペナルティを恐れない何者かが、魂喰いの目的でなのかは知らないが、こうして犯行を繰り返しているのだ。
  いくら虚構の街といえども、これだけの人数が塵のように殺されたことに義憤の念を抱かない吹雪ではない。
  どうにか止めたいと、彼女は常々思っていた。それは、今も変わらない。
  危険は承知で、今度動いてみるべきだろうか。
  後で暇を見つけて、ライダーさんに相談してみよう――吹雪がそう思った矢先。

 「ああ、それと吹雪。HRが終わり次第、生徒指導室まで来るように」
 「えっ!?」
 「一時間目の先生には私から伝えておくから、心配するな。じっくり話をしようじゃないか」

  からからと笑う担任と、何をやったんだと茶化しながら囃し立てるクラスメイトたち。
  当の吹雪にしてみれば、堪ったものではない。
  虚構の世界とはいえ、好き好んで面倒事に巻き込まれたいと思う者はまさか居るまい。
  自分は何かしただろうかとあれこれ記憶を掘り返しながら、やはりそんな覚えはどこにもなく、溜息をついて分かりましたと答えるしかなかった。


   ◆  ◆


  号令が響いてSHRが終わり、吹雪は担任の後に続いて教室を出る。
  この高校はそこそこの広さがある。
  生徒数が多いのもそうだが、なんでも戦時中から存続している歴史の長い学び舎であるから、必然的に増築等の関係で建物が広くなってしまったらしい。
  校舎の一部に至ってはそもそも使っていないというから、贅沢なものだ。
  そして生徒指導室は、その『ほとんど使われていない』教室群の中にぽつりと存在していた。
  生徒指導室に学生が呼ばれる理由というと、およそ八割は良からぬことをやらかしたことへのお叱りである。
  怒鳴り声や場合によっては泣き声がなるべく一般教室へ漏れ聞こえないようにという配慮なのかは知らないが、とにかく件の部屋付近は人気がない。
  担任の後ろ姿を追っていく吹雪に、念話でライダーが声を掛けた。その声色は、怪訝なものだ。

 『吹雪。一応、気をつけておきなさい』
 「へ?」
 『無いとは思うけど――その男、マスターの可能性もあるかもしれない』
 「ええっ!? 先生がですか……?」

  あくまで可能性の話よ、とライダーは吹雪を宥める。
  警戒し過ぎのような気もするが、些か怪しいのは否めなかった。
  人気のない密室に生徒を呼び寄せるだけならばまだしも、当の吹雪には呼ばれるような心当たりがまるでないときている。事務連絡なら教室ですれば済む話であって、こんな所まで足労させる理由は全くない筈だ。
  過剰注意ならそれでいい。吹雪には気の毒だが、少しお叱りを受けてもらうだけだ。
  だがもしも本当に聖杯戦争の関係者であった場合、純粋な戦闘自体にこそ慣れているものの、聖杯戦争についてはズブの素人もいいところな吹雪には危険な事態ともなり得る。
  この数週間、ずっと吹雪を見てきたライダーにはそれがよく分かった。
  神経を尖らせながら、彼女は霊体のままで、吹雪に続いて指導室の中へと入っていく。

 「先生、それで……お話っていうのは?」
 「なあに、そう身構えなくてもいい。大した話じゃないんだ……」

  人を安心させる、優しい笑顔だった。
  ライダーに言われ警戒していた吹雪の方が毒気を抜かれてしまいそうなほど、穏やかな顔だった。
  手にしたままの分厚い辞書をテーブルの上に置いて、笑顔のまま教師は口を開く。

 「お前、御目方教って知ってるか?」
 「ええと――それって、最近流行りの宗教団体でしたっけ……?」

  その名前には、確かに覚えがあった。
  御目方教。最近積極的に勧誘活動を始め、勢力を広めているらしい所謂新興宗教団体の一つ。
  実態が黒なのか白なのかはさておいても、あまり近寄らないようにと学校では伝えられていた記憶がある。
  ……というより、今目の前でその名前を出したこの男自身がそう言っていた筈。

 「そういう言い方は感心しないぞ。
  まるで彼らをインチキか何かと軽んじている風に聞こえる」
 「ご、ごめんなさい」
 「まあ、先生もつい最近まではそう思っていたからな……けれどあんまりにもしつこく勧誘してくるもんだから、一度文句を付けてやろうと思って、御目方教の総本山に行ってみたんだよ」

  口調に、高揚が見え始めた。
  少しだけ、室内の空気が変わったような気がした。
  吹雪は自然と、じり、と一歩後退る。

 「でも先生は知った! 彼らは――御目方教は! 『あのお方』はインチキなどでは断じてないと!
  御目方の教えを聞き、それを実践するようになってからの人生ときたら素晴らしいものさ。
  私を軽んじ裏切った妻も、侮蔑の目を向ける娘も、皆彼らのために活躍できるよう躾けてやった。
  そうしたらきっとお褒め頂けると思ったんだ。けれど……ああ、けれど。それじゃ、どうやら足りなかった」

 『吹雪、そいつから離れて』

  口角泡を飛ばして捲し立てる男は、もう吹雪の知る温厚な教師とは全く違う人物になっていた。
  眼球は血走り、涎が滴り、麻薬中毒者のように息継ぎすら碌にせず意味不明の、しかしおぞましい内容だということだけは分かる文言を吐き散らしている。
  御目方教。その教え。そして、彼が何をしたのか。
  それは定かではないが、一つだけ確かなことは。


 「だから、なあァ――お前」


  彼はもう、まともな人間ではないということ。
  それを示すように、服の袖で隠れていた左腕に刻まれた歪な文様が発光し。
  刹那、タイル張りの床面から汚泥のようにどろどろと爛れ果てた人の皮膚が間欠泉がごとく溢れ出し――


 「ごちゃごちゃ煩いわ。消えなさい」


  男がその先を口にする前に、その上半身が生まれかけた怪異諸共爆散した。


  吹雪を守るように前へと出、実体化した金髪の美女。
  吹雪が今は纏っていない艤装を装備し、全身から漲るカリスマにも似た存在感を醸す彼女。その艤装、15cm連想副砲の砲口からは、一筋の白煙が立ち昇っていた。
  先ほど、担任教師「だった」男は何か異形の術を行使しようとしていた。
  明らかに、吹雪を害する意図で。それさえ分かれば、ライダーに躊躇はない。
  砲口を合わせ、ぶちかます。それだけで、全ては事足りる。
  飛び散ってなお蠢く爛れた皮膚の怪異を軍靴で踏み潰して消滅させながら、吹雪へ振り返る。

 「怪我はない?」
 「だ……大丈夫、です。一応。えっと、その、何が」
 「さあね。ただ――」

  ライダーは怪訝な顔をした。
  敵を屠ったのは間違いない。
  しかし一つ、おかしなことがある。

 「こいつ、マスターですらないわ。多分元はNPCよ」
 「NPC!? でも先生はさっき……」
 「ええ。何かしようとした。それは間違いなく、NPCの領分を過ぎた行動。
  こいつがNPCだと分かった根拠はね、これの腕にあった刻印よ。それが一瞬見えたの」

  悪趣味な印だった。
  この現代ではナチスドイツのハーケンクロイツが忌まれているというが、その比ではない禍々しさがあった。
  ああいう形の令呪がよしんばあったとしても、あんな波長を放つものである筈がない。

 「これはどういうことだと思う? 吹雪」
 「……誰かが、先生に力を与えた……?」
 「百点満点の答えよ。きっとこいつは、本当に抗議の意志で御目方教とやらに行ったんでしょうね。
  しかしそこは彼が思うようなインチキ団体でもなければ、怪しげな能力者が居る本物でもなかった。
  居るのはサーヴァントと、そのマスター。クラスは大方キャスターあたりかしら。とにかくそのサーヴァントに捕まり、まんまとその手中に落ちてこうなった……哀れな話ね」

  吹雪は、上半身を失った教師の死体を見た。
  内臓が千切れて焦げ付き、骨や血飛沫が飛散し指導室を惨憺たる有様に変えている。
  いつから彼が、御目方教の傀儡になっていたのかはわからない。
  けれどそれまでの彼は、確かに優しくて生徒思いの人物だった。
  それが、あんな風になってしまうなんて。
  悲しくて、怖くて、おぞましくて――吹雪は思わず口許を抑える。

 「違ウよ」

  その時、声がした。
  吹雪のものではない。
  ライダーのものでも、発声器官ごと急所という急所をまとめて吹き飛ばされた哀れな男のものでもない。
  声は、窓の外から聞こえていた。
  いや、正しくは。


  そいつは逃げも隠れもせず、窓の外から堂々と『覗いて』いたのだ。


 「お前ガ今殺シタ男は、自ら望んだ。
  力が欲シイ。自分をコケにした連中を、一人残さずブチ殺す力が欲しいとナ」

  仮面をまとった、黒尽くめの『何か』。
  白面の下から覗く四つの眼がそれぞれ違う方向にぎょろぎょろ蠢いている。
  ニヤニヤと嗤いながら、それは施錠されたままの窓を文字通り抉じ開けて、ゆっくりと。
  嘲り嗤う声を聞いた時、吹雪は腐敗した生ゴミに無数の黒蝿が集っている様子を思い出した。
  無論声であるのだから音としては全く違うが、その声色から受ける印象はまさしくそれが一番近い。
  不快感と恐怖感を同時に駆り立てる、人間が本能的に忌み嫌う音色――即ち。


 「初めましテ 我が名ハ、ティキ」


  どう転んでも。
  どう見ても。
  どう聞いても。
  どう理解しても。
  どうやったところで。


 「之より――地獄の門を開コウ」


  "これ"は、人間にとって害以外の存在に決してなり得ないのだと。
  吹雪も、またライダーも、全く同時に理解した。
  室内であることを鑑みている暇はないと即断し、ライダーは連装副砲を躊躇なく仮面の悪霊目掛け放つ。
  意図したのは殺害ではなく、一時的な撤退だ。吹雪を抱えて、教室を瞬く間に飛び出す。騒ぎを聞きつけてやって来た数人の教師の首筋へ手刀を当てて、騒ぎをこれ以上大きくさせない為の措置をするのも忘れない。
  背後から追尾して飛来した光の弾を片手で弾き飛ばし、駆け抜けるは上階へ続く階段。


  走りながら、ライダーは確かな焦りを抱いていた。
  戦場を駆け巡り、数多の武勲を残した彼女の胸に恐怖はない。
  あるのはただ、生物の根源から来るような嫌悪感。
  仮面の底から除く眼が蠢く様は、さながら腐乱死体に涌く蛆虫の群れを浴びせかけられたような印象を見る者へと抱かせた。サーヴァントである彼女でさえこうなのだから、マスターである吹雪が平静を保てる筈がない。
  はあはあと荒い息を吐きながら、吹雪は小さく震えていた。

 「ら、ライダー、さん――なんですか、あれ」
 「……分からないわ。けど」

  あれが何なのかなど、自分が聞きたい。
  まず間違いなく英雄の類ではないだろうし、そもそも英霊なのかどうかすらはっきりとしない存在だった。
  気配そのものが……存在自体が淀んでいるとでも言うべきか。
  ティキ――真名を堂々と明かしたということはつまり、それがさしたる不都合にならないという意味。
  単に自信過剰なだけなのか、それとも一瞬の邂逅では推測し切れない、悪辣な絡繰りが仮面の裏側で回っているのか。答えがどちらであったにせよ、今自分達がすべきことは決まりきっている。

 「撃退しなきゃ、間違いなく被害は膨れ上がるでしょうね。
  あいつを見たのはほんの一瞬だったけれど、あれは人の命を私欲のために使い潰すことに何の呵責も覚えない質よ。外道と呼ぶのも憚られるような――鬼畜の類」

  ライダーは戦徒だ。
  WW2――血と硝煙に満ちた大戦を生き抜いてきた、第三帝国最強の決戦兵器。
  そんな生前を送ってきた彼女なのだから、人道倫理の範疇では語り尽くせないような悪逆無道も山程目にしてきた。そういうものは戦場の摂理の一つとして、割り切れるだけの精神構造も持ってはいる。
  だが、それを差し引いてもあのティキは異常だった。
  あれは間違いなく、人間の悪意ではない。
  悪魔だとか邪神だとか、そういったものと同列視すべき存在だ。

 「でも、これはあくまで私の意見。決めるのは貴女よ、吹雪」
 「…………、」
 「あれが此処で暴れて、犠牲を山程出したとする。
  そんなことをすれば当然、ルーラーのサーヴァントが黙っちゃいない。
  その内討伐令なりペナルティなりが下されて、さっきの奴は勝手に弱体化してくれるわ」
 「それは……この場をやり過ごして、次の機会に賭ける……ってことですよね」

  ええ。頷くライダーの語る理屈は、理にこそ適ってはいたが、その分倫理面を完全に排斥したものだった。

 「ティキの実力は未知数だけれど、余程自分の実力に自信があるやつでもなければこんな大胆な真似はしないわ。そもそもからして、宗教施設を乗っ取ってNPCを操作してるって時点で大分ギルティ。
  それならせめてペナルティなり何なりを下させて弱体化してもらってから殴る、っていうのも一つの手。
  少なくとも万全のあれと真っ向勝負を張るよりはよっぽど勝算があるってものよ。
  ――でも、それを決めるのは貴女次第。だって貴女が、私のマスターだもの」
 「戦いましょう、ライダーさん!」

  返事は、一秒の間隔さえない内に返ってきた。
  お姫様抱っこの体勢で抱えられながら、その目には先程までの恐怖の色は欠片も残っていない。
  彼女に言わせれば、そんなものは迷う余地もなく答えの分かりきった問題だった。
  確かに、打算を優先するならこの場は逃げに徹するという選択肢もあるだろう。
  しかしそれをすれば、虚構のものとはいえ、沢山の犠牲が出るのは間違いない。
  吹雪は――人の海を守り、世に平穏を齎すために建造された艦娘の少女は、それを許容できなかった。
  最適解ではなかれども、これが彼女の答え。
  変わることも、揺らぐこともないアンサーにライダーは一瞬だけ驚いたが、すぐにそれは笑みに変わった。

 「それでこそ私のマスターよ」

  そうだ、そうでなくてはならない。
  もしもここで逃げようなどと口にした日には、張り倒していたところだ。
  利益の観念に囚われず、不合理な選択肢を躊躇なく選び取る真っ直ぐさ。
  それでこそ、この私を指揮する提督(マスター)に相応しい。

  駆け上がる階段、見えてきた屋上の扉。
  そこへ辿り着かんとした矢先、磨りガラスの向こうに見えていた光が黒に閉ざされた。
  硝子の鏡面から這い出る、黒衣の仮面。四眼の屍面相。
  そちらから姿を現してくれたか――ならば話は早い。

  航空戦艦、空母、水上機母艦、駆逐艦、巡洋艦、潜水艦、その他諸々。
  海の砲撃戦を彩る艦種は数ほどあれど、花型を飾るに相応しいのはただ一種だ。
  戦艦こそは戦の花型。最強無敵の艤装を纏いて、いざや人の営みを脅かす外敵を討滅せしめん。
  這い出した仮面の中央へと、打撃の要領で砲口を文字通り叩き付ける。
  この距離なら、外す道理はない。

 「Feuer」

  連装砲の超火力が、ただ一点を目掛けて炸裂する。
  ティキは扉を突き破り、その向こうへと吹き飛んでいった。
  ウインクをしつつ振り返って、ライダーは自らのマスターへと確認する。

 「覚悟はいい?」
 「……はい!」
 「Gut!」

  吹雪の世界とはまた別な形の変遷を辿った並行世界の戦艦英霊、その真名は超弩級戦艦『Bismarck』。
  第三帝国最強と謳われた最初で最後の超弩級戦艦が、地獄の禁魔法律へ鋼の雷火で牙を剥く。


  ◆  ◆


 「――やれやれ」

  巻き上げられた粉塵の中から、ティキは砂埃を払い除けながら姿を現した。
  並のサーヴァントならば霊核を粉砕されていてもおかしくない当たりだったにも関わらず、彼の負っている手傷の度合いは極めて浅い。そもそも手傷になっているのかすら怪しい節があった。

 「サーヴァント相手も楽じゃナイな。流石に強イ……死ぬかと思ったぞ」
 「ふふ、もっと褒めてもいいのよ?」

  嘘を吐け。
  心の中で毒づきながらも、ビスマルクは普段通りの自信満々な表情で迎え撃つ。
  さも絶望的な戦いを演じているような口振りだが、それと裏腹に仮面の底で蠢く目玉は嗤っていた。
  信じ難いが、先の一撃程度ではまるで堪えていないのだろう。あれを喰らってさしたる損害にならないという破格の耐久値には目眩がするが、されども此方の消耗は未だ零に等しいのだから戦況は決して悪くない。
  ティキの指先が何かを放った――凝視すると分かる。あれは人間の眼球だ。
  しかしその内側からは黄燐のような炎を揺らめかせ、人魂のように爛々と照り輝いている。
  馬鹿正直に接触するつもりはない。連装副砲の爆風でそれらを吹き飛ばし、吶喊して鋭い蹴撃を見舞う。
  兵器にあるまじき肉体攻撃に面食らう様子は見えないが、回避の隙へと更に砲撃をくれてやった。
  手応えは確かにあったが、それでもやはり沈む気配がない。

 「無意味なことを」

  爆風の向こうに幽けく佇む仮面の魍魎。
  四つの眼が妖しい輝きを見せたかと思えば、今度は虚空を突き破って悪霊の手が出現する。
  数は数本の域には留まらない。三桁に達しているだろう死霊の腕が、ビスマルクを捉え、その麗しい肉叢を喰らい貪らんと猛り狂って押し寄せてくる。
  そのどれもが、現世を彷徨う浮遊霊などとは比べ物にならない怨念を含んでいた。

 「死霊使いってわけ? ……悪趣味ね」

  吐き捨てるようなその声には、これまでのものとは質の違う嫌悪の色が宿る。
  彼女は人の死を、敵味方問わずに数え切れないほど見てきた。
  怨嗟の声を叫びながら逝った者。 
  祖国へ残したままの家族へ謝罪しながら逝った者。
  護国の勇士として息絶えることに誇りを抱きながら水面へ消えた者。
  はたまた、何かを残すことすら叶わなかった者。
  その生き様を否応なしに見せつけられてきた『戦艦』だからこそ、死霊を扱うというやり口には反吐が出る。

 「死霊使い、カ――半分正解、半分不正解と言ッタところダナ」

  ビスマルクの火力を前に冥界へ導く腕は次々とその残量を減らしていく。
  一見、戦いは彼女のペースに見える。
  しかしながらティキにいまだ堪えた様子は見られず、また、彼の悪辣さもまだまだ序の口だ。

  ビスマルクの足下から、木々の蔓にも似た触手が出現してその両足を絡め取る。
  締め付ける力は非常に強いが、ビスマルクの筋力値ならば力づくで振り払える範疇だ。
  そんなことはティキとて百も承知。重要なのは、その振り払う動作に生じる隙。
  わずか一瞬の間隙すら、禁魔法律の怪人にとっては付け込む隙間には十分過ぎる。
  指先から迸った呪念の魔光が、彼女の右太腿を貫いた。
  顔を顰めながら拘束を脱したビスマルクの砲撃がティキの手駒を一掃するが、手数は確かに刻まれた訳だ。

 「ちっ」

  傀儡師のような手付きで手繰る霊体の茨を引き千切り、放つ砲火とティキの右腕が衝突する。
  戦艦の砲撃と素手の膂力で拮抗するというのは驚嘆に値するが、さしもの彼もそこまでの地力を有してはいない。禁魔法律家が力を行使するにあたり用いるエネルギー……『煉』を手先より放出し、魔術師で言うところの魔弾に相当する芸当を行うことで相殺せんとしているだけの話。
  彼の魔力は確かに潤沢だが、超弩級戦艦の砲撃は壮絶な威力を秘めている。
  徐々に押し切られかけているのを見かね、魔力を更に注ごうとして、ティキの胴がくの字に折れ曲がった。

 「グ……!」

  後続の砲弾が、一切の容赦なくティキを打ち据えたのだ。
  ティキは確かに並外れた耐久値を持つが、それも決して無限というわけではない。
  あくまでも、度を逸して堅い――真実怪物めいた生命力を持つというだけの話。
  そして戦艦の火力ならば、それを押し切ることも難しくない。
  彼女達艦娘の攻撃には、ランク値に見合わないだけの破壊力がある。
  それこそ、禁忌の呪術という異能の力を圧し得る可能性さえ生まれてくるほどのものが。

 「そら、次ハこれダ」

  だが、禁魔法律家の生み出す怨霊に際限はない。
  次に呼び出されたのは、これまでの雑把に等しい小物とは訳が違うと一目で分かる人面の巨躯。
  それは幾何学模様を体中に刻んで意味を成さない文言をぶつぶつと呟きながら、点の一つ一つが色の異なった鮮やかな複眼をアンバランスに揺らめかせていた。
  かつて御目方教の信徒であったが、身に余る力に肉体が耐え切れなくなった哀れな成り損ない達の末路。
  本来一人前のものでしかなかった魂を十ほど結合させることで生み出した、外法の大怨霊である。
  ビスマルクはそれを見るなり、思わず舌打ちをした。
  キリがない。大した魔力消費もなしにあのレベルの怨霊を連発されては、燃費に優れる彼女でもいつまで保つか疑わしい。手早く勝負を決めるには、やはり術者のティキを叩く必要があるのだろうが。


 「吹雪! あれのステータスはどう!?」

  ビスマルクは声を張り上げる。
  仮にサーヴァントであるならば、必ず固有のステータスが用意されている筈。
  それ次第では、どう攻め立てるのが効率的か浮かび上がってくるかもしれない。
  そう思ったのだが、吹雪の返した答えは最悪のものだった。

 「見えない……駄目です、見えません……!」

  ステータスが見えない。
  それはつまり、何かしらの隠蔽宝具かスキルが作用しているか。
  もしくは――そもそも敵は、サーヴァントではないということを意味する。
  前者ならばまだいいが、後者だったなら最悪だ。特に、この仮面がそうだとしたら尚更のこと。
  サーヴァントでないということは、彼は他のサーヴァントが動かしている使い魔もしくは宝具ということになる。英霊と互角に戦える戦力の持ち主が、悪意を持って自立活動しているとなればいよいよ始末に負えない。

 「どうシタ、休んで居る暇なゾナイと思うが?」
 「うるさいわね!」

  泡立つ剛腕の薙ぎをステップで躱すビスマルクだが、やはり水上での戦闘に比べれば動きにキレが欠ける。
  戦いにおいて、巨大な相手というのはそれだけで脅威だ。
  まして敵はそんじょそこらの魔物程度なら軽々凌駕するだろう、禁魔法律家の成れの果てたる怪物。
  ただ掠めただけでもコンクリートを吹き飛ばし、吐く息は色を帯びた瘴気に等しい。対魔力のスキルを持たないサーヴァントが浴びれば、呪いの汚染を免れまい。
  砲撃を見舞う度、巨大な猿のような悪霊の面影に風穴が開く。
  ビスマルクほどの艦船英霊が相手な以上、砲弾の直撃で受ける影響はただのダメージのみに留まらない。
  着弾の衝撃による一時的な動作の麻痺、並びに爆音による聴覚へのジャミング。
  これほどの要素が揃っていながら、彼女の砲撃によって吹雪が消費する魔力量は反則的なほどに少ないのだ。
  英霊ビスマルクは、紛れもなく驚異的な強さを秘めた英霊であった。

 「Feuer!」

  砲撃を連続で見舞う。
  風穴の数が七つに達した時、悪霊の体が漸く揺らいだ。
  しかし、横着している暇はない。
  傷口がぼこぼこと泡立つ音色を奏で、癒着していくのが見えた。
  このままでは再生される――幾らペースさえ握れれば容易い相手とはいえども、あくまでこいつは召喚物。
  本命ですらない相手に、そう長い時間を掛けてはいられない……そう思ったから。

  ビスマルクは、嫌悪感を放り捨てて人面の真ん中へ自らの右腕を突き立てた。
  おぞましい手応え。肉が癒着を始め、自分の腕ごと喰らおうとしている。
  事実数秒後には、ビスマルクの腕はあっさりと砕かれてしまうことだろう。
  されど数秒の時間があるのなら、彼女には。

 「Feuer」

  五回は、これを殺すことが出来る。

 「やれやれ」

  ティキの呆れたような声が、爆音の少し後に聞こえた。
  禁魔法律家という存在は数居れど、その中でも彼は最強と言っても誤りではない実力者である。
  単純な脅威度ならば、それこそ彼を使役する少年にすら優るほどに。
  歴史の闇を糸引き、ドス黒い悪意を糧に暗躍してきた仮面の怪人。
  その彼をして、眼前の女は少々『想像以上』だった。
  第一に隙がない。
  戦闘練度の高さ、無双の砲撃能力、おまけに呪殺の怨念に臆することのない精神性。
  どれを取っても第一級と呼ぶに値する、この上なく直球に『強い』サーヴァント。

 「本来は炙り出す、程度の予定ダッタのダガ。
  予定が狂ッタ挙句、容易く狩り殺セルような相手デモないらしイと来た」

  語り終えると同時に、ビスマルクの連装砲が火を噴き、ティキの体に着弾して爆発を引き起こす。
  いつしか黒尽くめの体はボロボロと崩れ落ち始め、消滅が近いらしいことを窺わせた。
  それでもビスマルクは油断も、慢心もしない。単なる言葉上だけでなく、もっと深い部分で理解したからだ。
  このティキという男を前に隙を晒すことは、死よりも恐ろしい破滅の到来を意味する。
  他者の弱り目に付け込み、力という甘い商売道具で容易く心の綻びに取り入って、マリオネットを扱うよりも遥かに質の悪いやり口でそれを踊らせる。
  その結果誰がどれだけ死のうが構わない――先程吹雪へ軍人としての合理的判断力の片鱗を示したビスマルクですらも反吐が出るとしか言いようのない、終わった価値観から紡がれる悪魔の一手。

 「――あの」

  口を開いたのは、吹雪だった。
  その体はやはり、小刻みに小さく震えている。
  無理もないだろう。目の前の存在は、戦場とはまた別種の恐怖を内包した存在なのだから。
  単純な死ではなく、死後すらも玩弄する者。英雄とも神秘ともかけ離れた、悪意の塊。

 「あなたは、どうして……どうして、こんな事をするんですか?」

  それでも吹雪は、そう問わずにはいられない。
  彼の本来の意図には嫌でも察しが付いた。
  学校へ手駒に作り変えたNPCを潜り込ませ、適当な生徒を悪霊化させることで大混乱を引き起こす。
  そうやってサーヴァントを炙り出し、あわよくば交戦して打ち倒そうという腹積もりだったのだろう。
  しかしティキの誤算は、一発目の準備段階にして『当たり』を引き当ててしまったことだ。
  結果的に目論見は失敗し、犯した手間は徒労に終わった。
  事の顛末のみを見れば、吹雪にとっては幸運に物事が働いていたと言う他ない。
  ティキの手駒が彼女を選んだことで、事態は間違いなく最小限の犠牲で解決に至った。
  少女が幾度となく発揮してきた、土壇場における幸運――それはこの地でも健在ということか。

 「どうシテ?」

  問いを反芻し、ティキはクネクネとその体を歪ませる。
  嗤っているような、煽っているような動きだった。
  滑稽なピエロか何かがそうしていたなら、さぞかし似合っていたに違いない。

 「どうシテ……どウシて?
  コレは聖杯戦争、魂ト命を懸けた殺し合いダロウ? 
  ならば勝つための手段を選ぶ必要がどこにある」

  消えかけの体を捩らせ。
  悪意と狂気に淀んだ瞳を蛆虫のように蠢かせ。
  仮面は嗤う。
  仮面は嘲笑う。
  輝きだけを見てきた少女の未来を悟ったかのように、愉快そうな顔で哂う。


 「ああ、ソレとも今マデはそれでどうにかなっていたのかナ?
  なら可哀想に――キミは遠からヌ内に思い知るダロウネ。その輝きノ愚かさを、自分の青さとちっぽけさを」


  ティキは数百年を生きる怪異である。
  富士の山を噴火させ、京の都へ数千の悪霊を放った事もあった。
  彼は遥か昔より邪悪なる怪人であり、その在り方は今後も変わることは決してない。
  誰よりも人心を掌握して弄ぶことに慣れた神出鬼没の怪人は、ただ一度の問いから吹雪という娘を理解した。
  彼女は前向きだ。居るだけで他の者にすら希望を与える、勇者じみた素質の持ち主と見た。
  それは当然、人の絶望を糧とするティキや主たる者にとって都合が悪い。
  しかし、仮にこのまま永らえたとしても、彼女はきっと遠からずその輝きを挫かれる。
  ティキはそう理解した。その時流れる甘い汁と絶望の程に期待し、歓喜し、惜しいと思いながらも。


  先はないからここで死ねと――ティキは彼女を殺すことにした。
  もはや消え去るのを待つばかりだった黒い躰が、ぶくぶくと膨張し始める。
  空気を注がれ続ける風船のように膨れ上がるその内側に充満しているのは、膨大な煉のエネルギー。
  彼の体内を器として限界まで溜め込んだそれが爆ぜたならどうなるか、それは想像に難くない。

 「こいつ!」

  咄嗟に意図を理解したビスマルクが砲口を向けるが、彼女とティキを隔てるように樹木に似た悪霊が出現した。砲撃を続ければ打ち破れる程度の堅牢さだとしても、やはり完全破壊には十数秒ほどの時間が掛かる。
  万事休すか。いや、諦める訳にはいかない。

 「っ、どうすれば――」

  考えろ。
  考えろ、考えろ。
  吹雪は必死に、頭をフル回転させる。
  せめてこの場に艤装があれば、自分にも出来ることがあったかもしれないのに。
  日常生活の一部なのだからと気を抜いた自分を叱責しながら、吹雪はそれでも諦めない。

  果たして、限られた僅かな時間で身命を削る勢いで活路を探す彼女の想いに神が応えたのか。
  ビスマルクの砲撃が怨霊の体へ穿った風穴を、針の穴を通す精度で通り過ぎたものがある。
  誓ってそれを放ったのは、吹雪でもビスマルクでもない。
  仮にビスマルクが穿たれた穴を利用して向こう側のティキを攻撃しようとしていたなら、低レベルとはいえ知性を有する悪霊はそれを察知し、防ぐように動いていたことだろう。
  だから彼女には、今の芸当は不可能だった。
  出来るとすれば、この場の誰にも存在を察知されていない、第三者。それしかいない。

 「おォ……!?」
 「悪いわね、横槍入れるみたいになって」

  爆発寸前のティキを射抜く、61cm四連装魚雷の一撃。
  爆発ならぬ暴発を引き起こした煉は彼の体内で反響するのみに留まり、それが最後の後押しとなって、仮面の男は完全に消滅するに至った。
  扉ごとぶち抜かれた屋上の入り口へ立ってそれを見届けるのは、銀髪の幼い少女と、吹雪よりも学年が上であろう長身の美青年であった。

 「でも、これ以上暴れられると流石に面倒なのよ。朝っぱらから派手にやらかしてくれちゃって」

  ビスマルクとの交戦で弱った悪霊については、最早敵ですらない。
  連装砲の射撃一発で顔面を打ち砕き、苦悶の叫びとともに消滅していった。

 「サーヴァントと……マスター?」
 「そういうことだ。勿論ただの酔狂でお前たちの前に現れた訳じゃあないが――」

  力が抜けたようにへたり込む吹雪へと手を差し伸べて、青年は悪戯っ子のように笑った。

 「直に先公達が駆け付けてくる。俺について来な、話はそれからだ」


  ◆  ◆


  屋上を舞台にした砲撃戦。
  陸上で、しかも学校を舞台に行うにしてはあまりにも目立ちすぎだった。
  幸いだったのは、テロの危険性などを勝手に危惧して学校側が慎重になってくれたことだろう。
  結果的に吹雪達は青年に連れられて、誰かの目につく前に離脱することが出来た。
  後で追及はされるだろうが、そこは俺に任せておけ、そう言って青年は不敵に微笑んだ。

  彼の名は、棗恭介
  この学校に通う三年生『ということになっている』、聖杯戦争の参加者。
  そんな自己紹介を終えるや否や、彼は早速吹雪へ切り出した。
  あの場に駆けつけた本当の理由。吹雪にとっては願ってもない申し出を。

 「お前――俺と組まないか?」


  ◆  ◆


【一日目・午前/C-3・高等学校B/どこかの教室】

【吹雪@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態] 疲労(小)
[令呪] 残り三画
[装備] 高校の制服
[道具] なし
[所持金] 一万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争からの脱出。
1:同盟……?
2:ティキが恐ろしい。

【ライダー(Bismarck)@艦隊これくしょん】
[状態] 疲労(小)、右太腿に貫通傷
[装備] 艤装
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:吹雪を守る
1:恭介に対処
2:ティキは極めて厄介なサーヴァントと認識。御目方教には強い警戒
[備考]
※アーチャー(天津風)が既知の相手であるか否かは後の話に準拠します。


【棗恭介@リトルバスターズ!】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] 高校の制服
[道具] なし
[所持金] 数万円。高校生にしてはやや多め?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯入手。手段を選ぶつもりはない
1:返事を待つ。

【アーチャー(天津風)@艦隊これくしょん】
[状態] 健康
[装備] 艤装
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:恭介に従う
[備考]
※ライダー(Bismarck)が既知の相手であるか否かは後の話に準拠します。

※屋上で砲撃戦が行われました。


  ◆  ◆


  仄暗い部屋。
  昼間だというのに、薄明かりだけが照らす広間。
  格子の内側に坐す着物姿の少女と檻越しに向き合うのは、女顔の美少年だった。
  儚げで、触れれば壊れてしまいそうなほどの華奢な体格。
  とても強さらしいものは感じさせない筈の見た目には、しかし不思議な風格と存在感がある。

 「思ったよりうまくいかなかったようだけれど、サーヴァントの存在は確認できたか」

  彼こそは、キャスターのサーヴァント。
  最強の禁魔法律家を宝具として使役する、現代に蘇った箱舟の王。
  巫女信仰の末に暴走し、教義の名の下に陵辱を繰り返す狂った教団を瞬く間に支配して作り変えた、現在このK市で続発している怪現象の根源たる者こそが、彼――円宙継である。
  そして今日は、ルーラーに目を付けられるのを覚悟の上で駒を放った。
  ティキによって生み出された即席の禁魔法律家を自滅承知で送り込み、聖杯戦争の参加者を炙り出す。
  流石に台本通りの進行とはならなかったようだが、しかし問題はない。
  倒すべき敵が確かにその場へ存在するということと、戦闘方法のデータ。また、そこから浮かび上がってくる真名推測に繋がる幾つかのキーワード。
  それを持ち帰れた時点で、手間を払った甲斐は十分にあったといえる。

 「でも驚いたよ。幽体とはいえ、君をさしたる犠牲もなく撃退してのけるなんてね。
  これまでが順調すぎたから、サーヴァントという存在を侮っていたようだ。改めなくちゃね、そこは」

  広間に居るのは、二人のみではなかった。
  影法師のような黒づくめの体に、四つの眼が覗く白い仮面。
  その姿は紛れもなく、先程消滅した筈の怪人ティキと同一だ。

 「そうだネ……次は横着せず、手ずから出向くくらいが丁度良さソウダ」

  ティキは、禁魔法律家とした人間に刻まれる反逆者の印を通じてそれをコントロールすることが出来る。
  悪感情の増幅。
  狂的な行動の誘発。
  たとえその人物の心から闇が消えようとも、印がある限り、相手はティキから逃れられない。
  例外があるとすれば対象の過度の動揺による印自体の弱体化だが――NPCが相手ではそれは望めまい。
  先刻高等学校で吹雪たちが一戦を交えたティキは、潜入させていた禁魔法律家の印を通じて出現させた幽体の分身であって、例に漏れずその戦闘力は本来の彼に比べ大きく減退している。
  ビスマルクの砲撃によってほぼ即死状態だった教師の命を無理矢理に繋ぎ止めさせることで印を維持し、ああやって戦闘へ及んでいたという訳だ。

 「全ては順調だよ、椿。
  僕らの活動を察知して首を突っ込んでくる連中も居るようだけど、それも含めて順調だ」

  キャスターの足下に転がるのは、異色に輝く糸で雁字搦めに縛られた一匹の幻獣。とあるサーヴァントが偵察に送り込んだものであった。
  現在、総本山の周辺には強力な結界を貼ってある。
  何しろキャスターが展開したものだ。普通の使い魔では結界へ接触した瞬間に強力な呪いに体の節々までを冒され瞬く間に死亡する。しかしこのグリフォンはそれを貫通し、内部へ侵入したところで力尽きていた。
  死んではいないが、非常に弱っている。このまま捨て置けば呪いに蝕まれた末、あと数十分と掛からない内にむなしく消滅の末路を辿るだろう。

 「さあ、君も――お家へ帰る時間だ」

  その目が、一瞬だけ赤色に発光した。
  深く根付いた呪いが体中を駆け巡り、グリーングリフォンという使い魔の内部構造を改造していく。
  優れたキャスターに使い魔を捕縛させるチャンスを与えたことは、グリフォンの主――仁藤攻介にとって、間違いなく致命的なミスであった。
  しかし悔やんでも時は既に遅い。
  グリーングリフォンは今、禁魔法律家の手に堕ちた。
  これから幻獣の使い魔は仁藤の下へと帰り、獅子身中の虫として行動する。

 「キャスター……」
 「大丈夫だよ、椿。僕らは負けない。僕らの願いは、他のあらゆるすべてを淘汰する」

  少年は笑い、釣られるようにして椿も笑った。
  破滅と復讐の願いはいびつに共鳴し、ただ怪異と化した心臓が脈動を続けていた。


【一日目・午前/C-4・御目方教本部】

春日野椿@未来日記】
[状態] 健康、禁魔法律家化(左手に反逆者の印)
[令呪] 残り三画
[装備] 着物
[道具] 千里眼日記(使者との中継物化)
[所持金] 実質的な資金は数百万円以上
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、世界を滅ぼす
1:キャスターに依存

【キャスター(円宙継)@ムヒョとロージーの魔法律相談事務所】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の力で、復讐を成し遂げる
1:ティキを通じて他参加者の情報を収集する


※グリーングリフォン@仮面ライダーウィザード が、エンチューの支配を受けました。非常に強力な呪いなので、解くには相応の手段を用意する必要があるでしょう。





  輝きを胸に進む少女の姿を、見ているのかいないのか。
  軍装の支配者は、ひとり忌まわしげに舌を打った。
  彼女は在りし日の己より目を背け、すべてを推し進めるために舵を取る。
  己の舞台に綻びなどはないと、そう信じながら。
  夢見る少女とは縁遠く、されども確かに夢を見て、電子の世界を回すのだ。


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最終更新:2016年01月27日 02:46