「…まったく、誰が『ハタ隊長』だ!!いつもいつも変な名前で呼びおって」

リムジンの中で揺られながら、アドラーは携帯電話に向かって忌々しげに声を吐き捨てた。
先ほど、ミスターフラッグに対して一条蛍の身辺調査を依頼し終えたところだ。
曰く、「お返しをくれるならいいジョー」とのことで、アドラーもそれに了承した。
ミスターフラッグのいう「お返し」とは金ではなく、それ以外のフラッグ・コーポレーションの利益となるものであることはアドラーも重々承知している。
ミスターフラッグに返す借りとして最も手頃なものとしては、御目方教といういかにも怪しく、
なおかつミスターフラッグも手を焼いているらしい宗教団体の情報がいいだろうと考えていた。

そんな冷静な思考とは裏腹にアドラーの表情は不愉快極まりなく、まさに怒りによる熱がカッカと噴き出しているようであった。
アドラーに向かって命令を待っているU-511が、それを見てオロオロとぎこちない反応を見せる。
プライドの高いアドラーに対してミスターフラッグからの愛称である「ハタ隊長」はやはり気が障ったようだ。
アドラーからは電話での会話も数少ない顔を合わせる機会でも「ミスターフラッグ」と呼んでいるが、
ミスターフラッグは直接声を交わす際は「ハタ隊長」という親しみを感じさせる呼び名で呼んでいる。
そう、アドラーはミスターフラッグと会う時には旗(ドイツ国旗)を刺しているように見えるヘアバンドを着用し、
屈辱に耐えながらハタ隊長と呼ばれてやっているのである。
一応、ミスターフラッグとは今後ともコネクションを持っていて損はない相手であるため、
いつでも会いに行けるようにヘアバンドはいつも持参しているが、正直アドラーとしては旗を刺している様など誰にも見られたくないのであった。

「あ、あの…!」
「何だ!!」

ミスターフラッグと付き合うアドラーの姿を知るU-511が珍しくアドラーに声をかけた。

「旗を刺しているマイスターも、ハタ隊長っていう名前も…かわいいですよ?」
「…………」
「はぁん!?痛い…」

U-511としては苛ついているアドラーに対してフォローを入れたつもりだったが、それがアドラーの神経を逆撫でしたのは言うまでもない。
殺す気で、とはいかないもののサーヴァントを傷つけられる程度に強化した拳で拳骨を食らい、U-511は頭を押さえながら跪いた。

「フン、どいつもこいつも…」
「ごめんなさい…」

威圧的な顔面を崩さずに、アドラーは涙目でこちらを見上げるU-511を睨む。
U-511のクラスはアサシンだ。クラス特性として周囲に放出する魔力を断つ気配遮断を持ち、察知されることなく敵に近づくことができる。
アドラーの采配もあるが、一条蛍を一方的にマスターと特定できたのもU-511のクラス適正あってこそのものだ。

「ところでアサシンよ」
「…?」

だが、討伐対象となったサーヴァントもアサシンだ。おそらくはU-511と同じ強みを持っていることだろう。
そこで、アドラーの兼ねてより抱いていた疑問が浮かび上がる。


「なぜこの聖杯戦争に、同じクラスのサーヴァントが二騎いると思う?」
「え…?」

U-511はアドラーが何を言っているのか分からないと言う風に首をかしげる。

――やはり、それに関する知識はないか。

U-511の様子から、アドラーは聖杯から"従来の"聖杯戦争に関する記憶は持ち合わせていないと判断する。
アーネンエルベにいた頃から聖杯伝説についての知識はあったが、従来の聖杯戦争――それも各クラス一騎ずつの、
合計七騎のみで行う聖杯戦争のことを知ったのは、K市の図書館にあった聖杯に関する文献を読み漁っていた時であった。
その文献群によれば、聖杯には脱落したサーヴァントの魂が魔力の塊となって器に満たされていき、
最終的に聖杯が願望機としての機能を発揮するにはサーヴァント六騎分の魂が必要となるという。

だが、それらに記してあったこととこの聖杯戦争には大きく食い違う部分が多分にあった。
その一つが、アドラーの言うように同じクラスのサーヴァントが二騎以上存在することである。
U-511に、ヘンゼルとグレーテルのサーヴァント――現在既に二騎以上のサーヴァントが確認されている。
全クラスに二騎以上揃っていると仮定すれば、少なくとも十四騎以上のサーヴァントが同時に存在することになる。
もちろん、アドラーとしても敵となる主従は六組だけでは少なすぎることはとうにわかっていたが、
アドラー以外の全主従が脱落した場合、少なくないサーヴァントの魂が聖杯の元へ行くことだろう。

仮に、あの文献による情報が正しいとしよう。
そうなると、サーヴァントの合計数と聖杯に必要な魂の数が決定的に異なってしまう。
十分な魂が聖杯に満たされるまではまだいい。だが、そこから溢れた魂はどこへ行くのか?

――まさか…何者かが聖杯から溢れた魔力を利用して何か企んでいるのではあるまいな?

――とはいっても、聖杯戦争もまだ序盤だ。
頭に留めておいて損はないが、それを気にするような時期ではないだろう。
そもそもアドラーは、自ら望んで聖杯戦争に参加しているのだ。
ならしばらくはそいつの思惑通りに踊ってやろう。今を勝ち残らなければ、くだらぬことを企む愚者の顔すら拝めないのだから。

「間もなく目的地です」

リムジンの運転手が運転座席からアドラーへと伝える。
面倒なことだが、貸倉庫業者の▼▼港の倉庫を借りる手続きを済ませなければならない。
そして所持する電光機関一式の装備と資材を二つの倉庫に分散すればこちらの資源はさらに盤石のものとなる。
それが終われば、手持ちのタブレットにはミスターフラッグから一条蛍の情報が届いているはずだ。
それをチェックした後は、御目方教の情報を聞き出すための信者探しと並行して一条蛍の追跡を開始するとしよう。

「降りるぞ。霊体化して俺の傍に待機しておけ」
「…はい」

そう言ってアドラーはリムジンから降り、水平線を見渡せる広い港を一瞥しながら、貸倉庫業者のあるビルへ入っていくのであった。








せいぜい一時間から二時間が経った頃であろうか。
アドラーはビルの階段を下りながら、トランクボックスを片手に気分よさげな笑みをこぼしていた。
案外手間がかかったが、業者との手続きは無事に終わった。
担当の者によれば、すぐにでも貨物船による運輸を開始するらしい。
この△△港の倉庫群には購入した分の2/3の資材が納まった。
それだけでもU-511を一気に呂500へと改造するには十二分な量であることから、アドラーがどれほどの資材を買い占めたかがわかる。

ビルを出て、再び港の方を見ると大きな貨物船が燃料や資材をそこに積み込んでいる光景が見える。
電光機関を▼▼港の倉庫に運んでもらうよう現地の作業員に頼んでみるか…とは思ったが、それは業者のオフィスにいる社員に頼めば快諾してくれるだろう。
それよりも捕捉している一条蛍の情報が来ていないかを確かめるために、アドラーは適当な場所で立ち止まり、タブレットを開く。

当たりだ。受信メールボックスには一件の新着通知が来ていた。恐らくミスターフラッグからのものだろう。
だが、それ以外にもアドラーの目に留まる情報があった。
それは適当なニュースを自動で受信し、ホーム画面に表示するタブレットの機能だが、
そこには「S中学校とY高校にテロリストが侵入した」というニュースが一面に出ていた。

「学校に連続でテロリストか。どうやらヘンゼルとグレーテル同様大人しく待つ気のない連中がいるようだな」

そこに記載されている被害状況や下手人が不明な点からこの二件が主従によるものであることは、アドラーでなくともわかるだろう。
戦闘能力に秀でたサーヴァントが人の集中する場所を狙って適当に暴れれば、そこに潜伏していたマスターを守るためにそのサーヴァントは応戦せざるを得なくなる。
特に一条蛍という学生のマスターが潜伏していることが明らかになった以上、中学校と高校にもマスターがいる可能性は大いにあり得る。
何よりサーヴァントが襲撃したにしては被害があまりにも軽微であることが、その証明と言えよう。

「フン…なぜこうまでガキのマスターが多いのだ。ここは保育園じゃないぞ」

小、中、高とそれぞれの学校にマスターが潜伏しているという事実にアドラーは肩透かしを食らった気分だった。
学生のような世の中の道理もわからぬ青二才などが、どうしてこの世界にいるのだ。
どうやら参加者の中には完全に巻き込まれた被害者もいるらしいが、そんなことはアドラーにとっては関係ない。
同じ戦場に立っている以上、徹底的に利用しつくした後にサーヴァントもろとも葬ってやるだけだ。

「…まあいい。今は身近なことに集中するとして――折角だ、資材を積んだ貨物船でも見送ってやるとしようか」

今は順調に事が運んでいて気分がいい。
一条蛍の情報も得たことだし、▼▼港へ旅立つ貨物船を眺めつつゆっくりするのもいいだろう。
アドラーは顔に浮かべているニヤケ笑いを崩さずに、港の方へ歩を進めた。

海に面した、くすんだ灰色の埋立地を踏みしめてアドラーは▼▼港へ発とうとする貨物船の数々を見やる。
そこに積まれているのは山盛りの燃料の入ったドラム缶、鋼材といった資材。
この区画付近で戦闘になったとしても、U-511の能力である改造と自己修復を駆使すればその継戦能力は飛躍的に向上するであろう。
アドラーもアドラーで、電光機関と電光被服による強化によりサーヴァントにも対抗できる力がある。
最悪、駒のいない状況下ではアドラーが前に立って戦うことも視野に入れていいだろう。

出航を合図する汽笛が辺りに轟く。貨物船の一隻が出ると、親についていく雛鳥のように次々と船が港から去っていく。

「ついに発ったか。…今後は倉庫を嗅ぎつける連中がいないか調べる必要も出てくるな」

U-511と同様の能力を持つ艦娘が他にもいるとするならば、アドラーの買い付けた大量の資材は極上の餌になり得る。
その艦娘となったマスターはいずれ資材を掠め取るべく貸倉庫を狙ってくるはずだ。
そこを捕捉して主従をあぶり出すことができれば儲けものというものだ。
資源の分散も大量の資材も、いずれはアドラーの勝利の一歩となることだろう。
あとは、持っている手札ををどのように生かせるかがカギとなる。






そう、確かに全ての事がうまくいっていたのだ。今、この瞬間までは。
船団が沖合でC-1区画へ向かおうと舵を切った時に、それは起こった。

「な―――」

突如△△港の埋立地を地震と見紛うかのような大きな地響きが襲う。
アドラーも揺れを感じ、驚きの声をあげたものの態勢を崩すことなくなんとか踏み留まる。
他のNPC達も何が起こったのか分からないようで、現場の作業員やたまたまそこを通りかかった民間人が港に寄ってきている。

「何が起き――」

アドラーがそう言おうとした瞬間、周囲からこの世の終わりを見たかのような絶望感溢れる声が随所から木霊する。
声の主であるNPCの先を見てみると、先ほどこの港を出航した貨物船が火を噴いてその身を海の底へ沈めていくではないか。
さらにその炎は燃料を積んだドラム缶に引火し、大きな爆発を誘発している。
今にも沈みかけている船団に追い打ちをかけるように、船底からも火の柱が全ての船に上がった。
船は間もないうちに一隻残らず沈み、乗組員は一人として助かっていないとは港にいた誰もが悟っていた。
視線の先で沈んでいく数隻の船、それは紛れもなくアドラーの購入した資材を乗せた貨物船であった。
それが何を意味するかというと――。

「俺の……資材が……!!」

アドラーが大金と手間をはたいて用意した資材が、海の底へ消えていくところを、アドラーは目の当たりにしていた。

「俺の……大事な手札が……!!」

目の前の惨状にアドラーの顔は引き攣り、ニヤケていた口はポカンと開いていた。

【マイスター…!早く逃げた方が…多分、サーヴァント――】
【黙れ!!】

アドラーを案じ、念話で声をかけてくるU-511を念話で黙らせる。
その意思が声となって周囲に漏れなかったあたり、一応理性は保てているようだ。
しかし、そうしたことでアドラーの動かなくなった思考が再び働き出し、次第と現状の理解が追いついてくる。

「~~~~~~~~―――――!!!!!!」

そしてそれを完全に理解したアドラーは声にならない呻き声を上げた後、

「畜生めえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」

ありとあらゆる思いをまとめてぶちまけるかのように、アドラーは天に向かって轟き叫んだ。
その気分は有頂天から一転、地獄のマグマへと急転直下し、さらにそれが噴火する勢いで怒髪天を衝いていた。

だが、怒り狂うアドラーを嘲笑うかの如く海から一直線に砲弾が数発襲来する。
それは着弾すると同時に周囲に爆風を巻き起こし、直撃してしまった人間の肉体を跡形もなく四散させた。
当然、その場を覆いつくすのは海から来た脅威に対する恐怖。
港にいた野次馬達は踵を返し、早くここから逃げるために内陸に向けて走り出した。
しかし、海から飛来する弾幕は徐々にエスカレートしていき、見物していた人間は次々と焼かれていく。
近くにあった建造物や造船所、そして船までもが激しい炎に包まれている。
周囲の者が逃げ惑う中、逃げるよう説得するU-511にも耳を貸さず、アドラーは鬼の形相で立ち尽くしていた。

そんなアドラーに己の姿を誇示するように、ついに襲撃者が姿を現す。
いつしか、港に面した瑠璃色の海が変色していた。黒とくすんだ黄土色と深緑がマーブル状に混ざった汚色の面積が徐々に広がっているのが見て取れる。
ここの海の辺り一帯は、既に入りたくもない浄水場の汚染水のような濁った汚泥に支配されていた。

事実を言うと、アドラー並びに海路を取った貸倉庫業者は不運であると言わざるを得なかった。
本来はD-2でも造船所に同じ襲撃者が来襲したのだが、事件現場には未だ多くの有毒なガスが残っている上に火災が治まっておらず、
現場も混乱を極めるために報道記者の入る余地を許さず、K市市民にはその事件が十分に報道されていなかったのだ。
ゆえに貸倉庫業者は迂闊にもアドラーの資材運搬に海路を選択してしまい、襲撃者に狙い撃ちされてしまったというわけだ。

そして、汚泥はとうとう陸をも侵食し始める。
海面から弾き出された汚水が、埋立地の地面と同化して辺りを腐食していく。
それと同時に海から飛び出してきたのは、艶の無い黒いボディに不気味な歯と淡い緑に光る目を持った小さな鯨のような化け物三体だった。

「あれって…深海…棲艦…!?」
「…知っているのか、アサシン?」

もう周りにいた人間は死んだか、内陸の方へ避難している。
現れた化け物共――駆逐イ級――と相対しているのはアドラーと危険を察して実体化したU-511だけであった。

「…あぐっ!?」
「貴様なぜ奴等を知っていながら俺に伝えない…!奴等の存在を知っていれば資材を内陸へ避難させたものを!!」
「痛…い…!違うんです!!ユーは深海棲艦を知ってました…けどここにいるなんて、思わなかったし、何より腐食させる能力があるなんて知り、ません…!!」

アドラーは怒りの矛先をU-511に向け、U-511の長い髪をアドラーと同じ高さにまで引っ張りつつ問い詰めるが、U-511は痛みに悶えつつも何とか弁明する。
U-511は何処の世界にて艦娘となった側面も持ち合わせていたからか、深海棲艦についての記憶も引き継がれており、その存在を知っていた。
だが、あらゆる物質を腐食させる性質など本来の深海棲艦にはなく、ゆえに襲撃者の正体が深海棲艦だと気付くことはまず不可能だった。
アドラーに深海棲艦について教えなかったことは落ち度として否めないが、そもそもこの世界の海に深海棲艦が潜伏している可能性などU-511に考えられようもなかった。

「マイスター、危な――!!」
「っ!!」

アドラーとU-511は途端に殺気を感じ取り、アドラーは傍らにあるトランクボックスとU-511を片手ずつに抱え、電光被服により強化した肉体で高く跳躍、内陸の方へ退避する。
するとアドラーのいた場所には榴弾が撃ち込まれ、人間が巻き込まれようものならひとたまりもないような爆発が起きた。
駆逐イ級の内の一体口内からは砲塔が出ておりそこから打ち出されたのだろう。

「あ、ありがとうございます!」
「礼を言う暇があればこの状況の打開策を考えろ!」

アドラーに助けてもらったことにU-511はすかさず礼を言う。
契約を結ぶ従者が死ねば自身も消滅の危険が伴うため、不本意ながらアドラーはU-511を助けている、というのが真実だが。
今も汚泥はそこら中にまき散らされ、△△港を汚水の海へ変えて侵食しようとしている。
このままでは、比較的内陸にある残りの資材が入った貸倉庫が呑まれるのも時間の問題だろう。
それだけは、何としてでも阻止しなければならない。

「アドラー様!!」

緊迫する状況の中、アドラーのリムジンの運転手がアドラーの身を案じたのか、早急に退避させようと迎えに来る。
アドラーは煩わしそうな顔をしながら、この騒動の中で大した忠誠心だ、と心の中で申し分程度の称賛を送る。
専属の運転手であるため雇い主に死なれては困るというのが本音だろうが。

(その忠誠心にはしっかりと報ってやらねばならんな)

背後に駆逐イ級と汚泥が迫る中、アドラーは運転手の方へ向いた。

「こんなところで何をなさっているのです!?早く避難を――」
「丁度いい。実験台《モルモット》になれ」
「――へ?」

そう言ってアドラーは運転手の着用する上質なスーツの襟を掴んでその身体を今も港を侵食する汚泥の中へ投げ入れる。
次の瞬間――

「……ぎゃああああああああああああああああ!?!?!?」

運転手からこの世のものとは思えぬ断末魔が上がる。
汚泥の中へ投げ込まれた運転手は瞬く間に全身の皮膚が溶け、全身の筋肉が露出し、程なくして内臓すらも汚泥へと作り替えられ、最後には骨だけになった。

「やはり奴等の出す汚泥は危険か」

駆逐イ級が三体ともこちら側へ砲塔を出しながら近づいてくる。
アドラーの目に映るのはサーヴァントの情報群。つまり、この化け物一体一体がサーヴァントであるということだ。

「…アサシン、地面には潜れるか」
「ごめんなさい、汚れた水が地面の中を全部腐らせているみたいで、潜ると装甲が溶けてしまいます…」

U-511は軽く地面を潜った後に、汚泥から発する魔力が地中深くからも感じられることからそう断定する。
アドラーは軽く「そうか」と返すと、トランクボックスを内陸の方へ高く放り投げ、コートを脱ぎ捨てる。
外装を取り払ったアドラーは、赤と黒のカラーリングが為された電光被服を身に纏っていた。

「いいだろう、俺が直々に計画を潰してくれた報いを与えてやろう。アサシン、貴様は霊体化して待機しておけ」
「え…で、でも!」
「これは命令だ。まさか逆らう気はないな?」
「…はい」

できるならマスターに助力したいところであったが、U-511は渋々霊体化する。
アドラーはそれを確認した後に、電光機関の出力を高めて応戦態勢に移る。

「■■■―――!」

攻撃準備を整えた駆逐イ級の一体がその砲身から榴弾を吐き出す。

「…防禦」

それをアドラーは手の平を前に掲げるようにして構えをとり、前面にシールドのような壁を作り出した。

―――バチッ!!

すると、榴弾がシールドと接触すると軽快な音と共に、勢いを失ってその場に落下していくではないか!
アドラーは前面に電気を流すことにより電磁波で形成されたシールドを展開し、榴弾を受け止めてその脅威から身を守ったのだ。
そしてそれ以上に、電光機関を使用する上で無視できない特性が作用していた。
本来、既存科学に依拠するものは神秘の関係でサーヴァントの力に干渉することはできない。
もしその法則が電光機関にも適用されていたならば、駆逐イ級の榴弾はシールドを突き抜けてアドラーに直撃していたであろう。

だが、電光機関はその限りではなかった。
それは電光機関自体が、古代文明アガルタの英知を基にした技術であることに他ならない。
アガルタの超科学技術は、アドラーの所属していたアーネンエルベの求めていた聖遺物に等しきモノなのだ。
限られた範囲内ではあるが量産されたため本来のものよりは劣化するが、U-511に拳骨を食らわせた時のように、サーヴァントを傷つけられる程度の神秘を宿していた。
それを認識した上でアドラーは自ら駆逐イ級と戦う選択をしたのである。
忘れてはいけない。電光機関は現代科学の産物ではなく、一般には流布されていない上に『現代科学でやっと解明された』古代の産物なのである。

「お返しだっ!」

その駆逐イ級がうろたえている様子を見せている内に、アドラーは自身に加えられる衝撃をも失って爆発することすらなかった榴弾をすぐに拾い、強化した腕力でそのままイ級に向かってぶん投げた。
駆逐イ級は反応すら許されずに榴弾に直撃し、そのまま炎の中へ消える。

残りの駆逐イ級はいつの間にか左右方向へ散回しており、跳躍した後に両方向からの機銃による掃射を試みる。
既に機銃が発射されていたため銃弾を何発か掠めてしまったが、アドラーは音速と見紛う速度でその場を脱し、一方の駆逐イ級へ接近する。
その駆逐イ級は抵抗とばかりに榴弾を発射するがそれをアドラーはすぐさまシールドを張ることで無効化し、

「ハァッ!」

空中、密着の距離から拳を大きく振り下ろして態勢の整っていない駆逐イ級を墜落させた。
後方からは他方の駆逐イ級からの機銃がアドラーへ向かって降り注ぐが、アドラーはダウンしていた駆逐イ級を盾代わりにすることで難を逃れた。

しかし、掴まれた駆逐イ級も黙ってはいない。かなり大きなダメージを受けたものの、まだ致命傷にはなっていない。
大きく身を捩ってアドラーの腕から転げ落ち、離れ際に至近距離で相討ち上等の榴弾を放つべく口から砲塔を出した――が。

「ファレンッ!」

それを予期していたアドラーは上空へ向かって円弧を描くように駆逐イ級へ蹴りを放った。
それはもはや蹴りというよりはもはや斬撃に近い程で黒いボディをいとも容易く粉砕した。
トドメとばかりに空中からさらに音速をも超えかねない速度で急降下してキックを重ね、その衝撃でまだ腐食されてない、埋立地の硬い地面を大きく跳ねたところを――

「フォイヤッ!!」

超高圧な電気を籠めた巨大な電光弾を拳から撃ち出して二体目の駆逐イ級を撃破した。
そして、アドラーは高圧な電気に晒されて崩れ落ちていくイ級を見て、あることに気付く。
イ級は感電したことで生まれる熱により内部から焦がされ、結果、干からびて塵一つなく砕け散ったのだ。

「成程…弱点は熱というわけか」

そこから弱点を把握するのはアドラーにとっては造作もないことだった。
アドラーはしたり顔で最後の駆逐イ級の方へ向き直る。
駆逐イ級は依然として機銃を打ち続けてはいるが、未だに残っている電光弾に阻まれて弾が塵へと還ってしまう。

その隙を見計らい、アドラーは強化した強靭な脚力で跳躍、イ級はそれを確認して榴弾を砲塔から放つが、なんとアドラーは空を蹴ってさらに跳躍したのだ。
空中でジャンプし、射線上から外れたことで榴弾はあらぬ方向へ飛んでいき、アドラーの接近を許してしまう。

「そろそろ終わりとしようか」

アドラーはイ級の出す砲塔の死角へ飛び込み、すれ違いざまにイ級を掴んで直接電撃を加えつつ地面に叩きつける。

「Sterben!!(死ね!!)」

そして地面に両手を交差させた状態でぶつけ、周囲に放電した。
その常人なら1秒経たずに蒸発しかねないほどに圧縮された電気を絶え間なく放つ様は、さながら「電気爆弾」であった。
アドラーの精神性を反映してか、アドラーの背後には電気がうっすらと髑髏を形作っていた。
当然、駆逐イ級の肉体は崩壊、△△港への侵略者はひとまず殲滅した。

「フン…笑える弱さだ」

このまま△△港を侵食されては困る。
アドラーはそこら中にまき散らされた汚泥も電撃で片づけておくかと考えつつ、腐食能力を持つ深海棲艦への対策を練るのであった。


【D-3/△△港/一日目・午前】

【アドラー@エヌアイン完全世界】
[状態] 深海棲艦への怒り
[令呪] 残り三画
[装備] 電光被服、埋め込み式電光機関
[道具] トランクボックス(着脱式電光機関と電光被服×20個、アドラーの後方へ投げ出されています)、ドイツ国旗のヘアバンド
[所持金] 富豪としての財産+企業から受け取った金(100億円以上)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
0:シャイセ!!深海棲艦なんて大っ嫌いだ!!
1:ズーパーアドラーに、俺はなる!
2:討伐令には、今のところは乗らない
3:一条蛍とそのサーヴァントをどう利用してくれようか…
4:深海棲艦への対策を考えなければな…
5:主催者は脱落した魂を使って何か企んでいるのか?
[備考]
※聖杯戦争開始前に、永久機関と称して着脱式電光機関の技術を電機企業に提供しています
※企業に対しては、偽造の身分証明書と共に『ヒムラー』と名乗っています
※独自に数十個の着脱式電光機関と電光被服を開発しています
※ミスターフラッグ(ハタ坊)などの有力者とのコネクションがあります
※K市を呉市を元に再現していると認識しています
※聖杯戦争開始前に、図書館にて従来(冬木)の聖杯戦争についての知識を得ています。
※一条蛍をマスターと確認しました。そのサーヴァント(ブレイバー)については把握していません。
※NPCの肉体は脆弱で、電光機関による消耗が早いようです。どれくらい消耗が早いかは、後続の書き手にお任せします。
※電光機関には位が低いもののサーヴァントを傷つけられる程度の神秘が宿っているようです
※購入した資材の1/3がD-3沖に沈みました。
※一日目午前の段階でD-3/△△港においてライダー(ヘドラ)から零れ出た複数の駆逐艦イ級と交戦しました。同所において複数の死者及び爆発と火災、貨物船の轟沈が発生しています。
※ミスターフラッグからはハタ隊長と呼ばれているようです
※親衛隊長は渾身の策を台無しにされてお怒りのようです。

【U-511@艦隊これくしょん】
[状態] 頭に拳骨による小さなたんこぶ、霊体化
[装備] 『WG42』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う
1:マスターに服従する

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最終更新:2016年05月24日 19:47