0031:呪縛
一人闇に潜み、緋村剣心は思考していた。
殺し殺されを命じられるのは慣れっこだが、
このような状況は初めてだ。
こんな行為に、いったい何の意味があるというのだ?
理想も信念も無い、まるで遊戯だ。
だが、ここでいくら考えても主催者の意図は掴めないだろう。
頭を切り替え剣心は現状を確認する。
潮の香りがする。海岸が近くにあるようだ。
夜だというのにこの蒸し暑さ、かなり南の方だろう。
おそらくは九州か四国辺りか。
おおよその位置をつかんだ剣心は、続いて支給品を確認する。
「これは…斎藤の刀か」
幸か不幸か、取り出したそれは使い慣れた日本刀。
逆刃などではない、正真正銘の刀…
なにがあるかわからない状況だ、流石に使わない訳にも行かないだろう。
躊躇いながらも、剣心は日本刀を腰に差した。
逆刃刀とは重心が微妙に違うこの重み。
それだけで、昔の感覚を呼び起こさせる。
天誅の名の下に人を斬り続けるあの日々。
その信念に後悔は無いが、人斬りという事実は消えないし、その罪も許されはしない。
剣心は頬の十字傷に触れる。
自分はいつまでも、人斬り抜刀斎の呪縛から逃げられないのか。
いけない。
剣心は迷いを払うように首を振る。
迷っている場合ではない。
薫を探さねばならない。
斎藤もこのようなことで悪即斬の信念を曲げる男ではない、合流できれば心強いだろう。
問題は…
「志々雄か…できれば、会いたくない相手でござるな」
死したはずのあの男。
ここに書かれている志々雄真実が、あの志々雄真実であるのならば、出会えば戦いは避けられないだろう。
そうなればこの刀を抜かざる得ない。
自分が酷く不安定なのは知っている。
おそらく一度人を斬ってしまえば、後はズルズルと堕ちてゆくことだろう。
そうでなくともこの殺し合いという状況に、自分の中の人斬り抜刀斎が疼いている。
戦闘は避けるべきだ。
だが、襲われている人間がいたならば、放置しておける訳も無い。
どうする…?
迷いながら、剣心は腰に差した日本刀を見つめた。
【鹿児島県(1日目)/深夜】
【緋村剣心@るろうに剣心】
[状態]:精神不安定
[装備]:日本刀@るろうに剣心
[道具]:荷物一式
[思考]:薫、斎藤を探す、人を斬らない
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最終更新:2024年08月12日 21:34