0032:林の中での遁走曲




 「いい加減、しつこいアルヨ、このハゲ!」
 逃げる、逃げる、少女は逃げる。その足取りは羽毛のように、そのスピードは獣のように。
 「ったく、あのコ、なんて速さなんだよ」
 駆ける、駆ける、青年は駆ける。彼の姿は少年のようで、彼の気配は死神のようで。

 ━━━遡ること半刻ほど前━━━

 青年、クリリンは考えていた。自分たちを争わせている、張本人達について。
フリーザ…奴は強すぎる。奴ほどの禍々しい気は感じたことが無い。 正直、今になっても、震えが治まる気配が無い。
奴がナッパを爆破したときの笑顔…寒気を通り過ぎて思考が停止した。あの顔は花火で無邪気に遊ぶ子供の顔だった。
命をおもちゃにしている…まるでそれが当たり前のように。奴を止めなくては。このままでは、たくさんの人が死ぬ。
だが、自分はフリーザには敵わない。では、いったいどうすればいいのか。どうやったらフリーザを止められるのか。
支給された名簿を見て、仲間になってくれそうな、フリーザを止めることができそうな人物名を探す。
(悟空…ヤムチャさん…ピッコロ……ピッコロ?!)
その時、クリリンの頭に天啓のごとき考えが閃いた。

「そうだ!死んでも、生き返らせればいいんだ!」
(そうだそうだそれがいい!フリーザを止める必要なんて無い!ゲームに参加すればいい!そのあと、生き返らせればいいんだ!
 いや、ゲーム自体を無かったことにすればいい!そうドラゴンボールに願えばいい!そうだ、そうしたらみんな幸せだ!
 でも、ピッコロが死んじまったら、ドラゴンボールが消えちまうんだよな……なら、ピッコロが優勝すればいい!
 それがいい!それがいい!ピッコロ以外、全員を倒していって、最後に自害すればいいんだ!
 そうしたらピッコロが皆生き返らせてくれる!うん!あいつは強面だけどいい奴だ!悟空たちも話せばきっと分かってくれる!
 そうだ、これなら殺された人みんなが助かる!そうしよう!そうしよう!!そう、そうしないといけない!!!!)

 今後の方針が決まると、行動は迅速だった。早速、自分の支給品をデイパックから取り出す。それは、胴着。

 普段着のまま呼び出されたのでこの支給品はありがたい。
スタジャンとジーンズ、動きやすいことに変わりは無いが、やはり胴着には敵わない。
惜しむらくはそれが親友の息子、孫悟飯のものあることだが、自分と彼はそう背格好が変わらない。
「ていうか、悟飯の胴着なのに、サイズがピッタリなのってどうよ」
 希望に満ちた、燦々と輝く朝日を見つけたような気分で、悟飯の胴着に袖を通す。
その背面には、大きく「魔」の一文字が染め抜かれていた。青年、クリリンは闇の中から駆け出していく。


 神楽に支給されたのは、眼も眩むような金銀財宝であった。現在の自分が置かれている状況も忘れ、彼女は歓喜した。
(これだけあれば、家賃も払える。新八も、銀ちゃんも、きっとよろこんでくれるネ。酢昆布だって好きなだけ買える)
今まで慎ましい生活を送らざるを得なかった彼女には、その財宝の価値を正確に測ることなどできなかった。
ただ、それが彼女の大切な人を喜ばせることができるだろう、という漠然とした思いだけを抱いていた。
失くさないように、丁寧に財宝をしまいなおす。

 次に彼女が考えたことは、このゲームに巻き込まれている知り合いのこと。
(……銀ちゃん。銀ちゃんはダイジョーブネ。殺しても死なないヨ。
 ……新八。メガネは…う~ん…死んでないといいアルが。
 ……沖田。あいつは別にどうでもいい。
 でもダイジョーブ。皆私が守ってみせるヨ)
 彼女に流れるのは、戦闘民族、夜兎の血。昔はその血を恨んだこともあった。
が、今は。壊すためではなく、守るために戦うことを決意した今ならば。その血は頼もしいことこの上ない。
顔をあげ、少女、神楽は歩き出す。


 ━━━そして、数分前。林の中。神楽が出会ったものは、「完全にゲームに乗った者」の、底冷えするような笑顔だった。

 逃げる、逃げる、少女は逃げる。戦闘民族、夜兎の血が導くままに。
 駆ける、駆ける、青年は駆ける。眼前の獲物を確実に仕留めんがために。

(クソッ、このままじゃ逃がしちまう!目立つからまだ使いたくなかったけど…)
青年が突き出した右腕から一条の光線が伸び、少女の斜め前方に着弾した。足を止める、威嚇のための一撃。
効果は覿面で、少女の足はそこで縫い付けられたかのように止まろうとし、勢いを殺しきれず転倒した。

 神楽は、一瞬、放心していた。一体何が?数瞬後、後ろから光線で狙撃されたのだと思い当たる。
 後ろのハゲ男が放った熱線。広間で殺されたスキンヘッドの放った怪光線。神楽の思考回路が導き出した結論は……
(実はハゲはビームを撃てるアルか!!なら私のパピーもそろそろ赤外線ぐらいは出せそうネ)
 逃げ切れない!神楽はクリリンに向き直ろうとする。そう、今、自分を守るために戦おう、と。
「ソレ一体ナニアルか!光るのはそのハゲだけで充分ヨ!」
「いや、これ剃ってるだけなんだけどな……」

 しかし、青年、クリリンは、神楽が体勢を立て直すのを待つつもりは微塵も無かった。

「……ゴメンな。皆を助けるために、キミを殺さないといけない」
クリリンの右手に光、いわゆる「気」が集中していき……



……少女の悲鳴が静寂を破る……




 クリリンは、少女のデイパックを漁り、食料を見つけ出すと自分のホイポイカプセルの中に移し替えていく。
あくまでも、死体は見ない。いや、見ることができない。搾り出すような声音で、呟く。

「クソッ、フリーザの野郎、後味のわりぃことさせやがる……」

 足元に伏すのは少女だったものの遺体。

「ホント、ゴメン。後で、絶対に生き返らせてあげるから」

 遺体の傍らに立つのは、鼻と髪が無い男。出来る限り少女の惨状が目に入らないように、丁寧に屍体を埋葬している。

 クリリンは知らない。このゲームに参加しているのが”先代”ピッコロ大魔王であることを。
彼が、そのような頼みを聞くはずが無いということを。
そして、そのピッコロが死んだ場合、ドラゴンボールはどうなってしまうのか分からないということを。

 そして、何より、彼が失念すべきではなかった。
自身も含め、彼の仲間が、既に一度、黄泉還ったことがある、ということを。

 つまり。もしクリリンの予想通り、ドラゴンボールに願いを掛けることができても。

   彼と、その仲間たちは
             生 き 返 せ な い
                        というのは厳然たる事実。             

 魔の一文字を背負った男が、京都の山中を走り抜けていく……




【京都府 (1日目)/黎明】

【クリリン@DRAGON BALL】
 [状態]:健康、精神不安定
 [装備]:悟飯の胴着(背中に”魔”という文字が入っている)@DRAGON BALL
 [道具]:支給品一式(二人分の食糧所持)
    (※神楽の支給品、”六億円相当の財宝@ジョジョの奇妙な冒険”はその辺に放置してあります。)
 [思考]:1出来る限りの参加者を脱落させる
     2仲間(孫悟空、ピッコロ、ヤムチャ)との合流(写真が無いため、ピッコロが”先代”だと知らない)
     3ピッコロを優勝させ、ドラゴンボールでゲーム自体をなかったことにしてもらう


【神楽@銀魂 死亡確認】
【残り121名】


時系列順で読む

Back:天才 Next:切り札

投下順で読む


GAME START クリリン 111:風に溶ける願い
GAME START 神楽 死亡

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年08月13日 09:46