0033:サッカーボールと少年




「あんたのその格好、サッカーをやっているのかい?」
「あぁ、そうだよ。ディフェンダーやってるんだぜ俺!」
少年と坊主が二人。
彼らの名は星矢と石崎了。二人は今、鳥取県南部ののどかな田舎にある小学校で身を休めていた。
彼らの間にはメラメラと火が燃えており、その火を囲み談笑をしていた。
「俺と翼の日本代表はワールドユースで優勝したんだぜ!」
彼は笑顔で語る。余程嬉しいのだろう。過去、血と汗と涙を流し、幾つもの苦難を乗り越えて得た優勝カップ。
それは自らの誇りであり、仲間との絆でもある。そのことを語るのに何故笑顔無しでいられるだろうか。
「俺はサッカーやったことないけど、仲間と一緒に何かをやり遂げるのって良いよな」
「へへへ」
仲間。熱き血潮の兄弟達。一輝とサガ…一応デスマスクも。彼らは今どこにいるのだろう。果たして無事でいるのだろうか。
それだけが気がかりだ。そしておそらく、彼、石崎も同じことを考えているはずだ。
「星矢。俺さ、もしもこのゲームで生き残れたら、もう一度サッカーがやりたいよ」
「チッチッチ、だぁ~いじょ~ぶだって!俺が守ってやるさ。こう見えても俺、中々強いんだぜ?」
彼は人差し指を左右に振りながら、少しふざけて言ってみせた。
しかし、それはあながち冗談ではなかった。彼は今まで様々な者と戦ってきた。
黄金聖闘士ほどではないが、自分はこの参加者のなかでは強いほうだ。きっと彼を守れる。そう思っていた。
「さーて、俺はもう少し薪を拾ってくるよ。石崎さんはここで待っていてくれ」
「分かったぜ星矢。でも寂しいから早く帰ってきてねぇ~ん、へへへ」
馬鹿野郎、と言い返し、薪を拾いに行く星矢。
星矢を見送ると石崎はそこらへんに落ちている小石でリフティングの真似事を始めた。
例えボールが無くても、それでもサッカーをしていたかったのだ。

星矢は持てる限りの薪を持ち、石崎の元に戻っていた。
よく見ると、彼の脇には汚れていて、所々破けてあり、空気もあまり残っていないサッカーボールがあった。
昔、子供たちが遊んでいてここで失くしたのだろうか。ともかく、星矢はサッカーボールを見つけたのだ。
石崎さん、こんなボールでも喜ぶだろうなぁー、と石崎の喜ぶ顔を思い浮かべながらさきほどに近い場所に着いた。
「おーい、石崎さーん!戻ったぜー。それに良い物も見つけてきたぞー」
…おかしい、返事が無い。ここからなら声も聞こえているはず。それなのに何故返事がないのだろう?
それになんだこの匂いは…生き物が焼けたような匂い…一体どこからだ?
妙な胸騒ぎを覚え、小走りで石崎の姿が確認できる場所まで急ぐ。
「……石崎さん!!!」
倒れている。そんな馬鹿な。さっきまで一緒に話していたじゃないか。なんでだ?なんでだよ?
星矢は目の前で倒れている石崎を抱き上げ、驚愕する。
…先ほど感じた匂いは…彼から匂っていたのだ。右半身がハンバーグみたいになっている。
「石崎!石崎!!!しっかりしろ!俺だ、星矢だ!一体何があったんだ!目を開けるんだぁ!!!」
星矢は叫ぶ。人目を気にせずに。もしかしたら石崎を襲った者に聞こえるかもしれない、そんなことすら考えていなかった。
「星矢…わりい、俺達のデイバッグ盗られちゃったよ…へへへ」
石崎は微かに目を開け、話し出した。しかし、その声は限りなく小さい。
彼の声はいまや燃え尽きる前の灯火のように小さく感じられた。
「あいぜん、って奴にやられちゃったぜ…白い袴に髪がオールバックのやつ…あっちのほうにいった」
「もういい、喋っちゃだめだ。傷に障る。こんな傷がなんだ。あんたはこのゲームから脱出して仲間とサッカーするんだろ?」
星矢は分かっていた。しかしそれは決して認めたくない事実。辛い現実…彼はもう助からない。
「へへへ…星矢、俺、もう一度みんなとサッカーしたかったよ…」
「石崎さん、ほら、サッカーボールだぞ?さっき森の中で見つけたんだ。一緒にサッカーしようぜ?
 俺さ、今までサッカーなんてやったことないんだ。だから教えてくれよ?なぁ?なぁ!」
「星矢…へへへ…二人でサッカーなんてできねえよ…ボール抱いていいかい?」
石崎はその真っ黒になった手でボールを求めた。とても汚かったボールが綺麗に見える。
星矢は一瞬躊躇し…彼にボールを渡した。
石崎は大事そうにボールを受け取ると両手で握り胸に抱え…息絶えた。
「石崎さん…ごめんな…ごめんな…」
星矢は自責の念に囚われた。守ってやると言ったのに、何故彼の側を離れたのだろう。
自分がそこそこ強いからってなんなんだ。彼には関係ないじゃないか。彼は弱い。何故その事実に気づかなかった!
彼とは今日、一時間前に会ったばかりだ。だが、死んだ。彼との思い出はたったの一時間分しかない。
なのに、なんでこんなに重く感じるのだろう。石崎了はこの数時間、ずっとサッカーの話をしていた。
それも楽しそうに嬉しそうに…彼はサッカーが心の底から好きだった。
そんな彼はもう二度とサッカーが出来ない。ボールに触れられない。仲間とプレイすることも出来ない。
その事実が星矢に重く圧し掛かっているのだ。
「仇はとってやるからね…終わったら新しいボール持ってくるよ。それまで待っていてくれ」
星矢は走り出す。その小さな体に抑えきれぬ怒りを抱えて。彼が向かう先は岡山。
石崎がその黒焦げた手で指し示してくれた方向。星矢の目に映るのは…
オールバックで袴の男………藍染ただ一人。




【鳥取県南部/深夜】

【星矢@聖闘士星矢】
 [状態]:追跡中
 [装備]:無し
 [道具]:無し
 [思考]:藍染を倒す


【石崎了 死亡確認】
【残り125人】


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最終更新:2024年08月13日 09:10