0023:太公望と富樫(仮)・2





「ニョホホホホーーー」
「おい太公望…てめえ、さっきから気味悪いことしてんじゃねえよ」
太公望と富樫。二人は今、岡山県の海岸沿いから移動して同県の木々が生い茂る山の中にいる。
目的は富樫の食料調達。食料が豊富で、保存が利き、なおかつ魚のような強烈な匂いが無い物。
山菜や木の実などを求めて山にやってきたのだ。
幸いにもこの山には食料が豊富にあり、当分の間食料のことで悩まずに済むほど確保できた……が。
気がつけば太公望が怪しげなものを作っていた。
「急に姿が見えなくなったと思ったら今度は訳の分からねえもん作りやがって。
 てめえ本当に仙人かよ?ほんとは魔女かなんかじゃねえのか?」
「たわけ!そんな輩と一緒にするでない。それに仙人ではなく道士だ」
太公望の足元には原型を留めていない、おそらく植物であったろう物体が散乱しており、
更に周りには一体何に使ったろう、ヘビが大量にいる。おかげで富樫は迂闊に近寄れない。
目を凝らして見ると、先ほどは気がつかなかったが大量にいるヘビはたった二種類しかいない。
一種類は長三角形の頭と全長40~65cmくらいの太くて短く、体色は褐色で銭形のまるい模様が不規則な対になっている。
もう一種類は全長1~1.2mくらいで、褐色の地色に黒と黄色と赤色の模様が入り混じっている。
別段ヘビに詳しくない富樫にはそれらがどんなヘビが全く検討がつかなかった。
雷電がいれば、あ、あれは!!!と言って勝手に説明してくれるだろうに、と思った。
「いい加減何を作っているか言いやがれ」
「ニョホホホーーー」
馬の耳に念仏。暖簾に腕押し。太公望は一向に答えようとしない。
「かーかっかっか、あせるでない。完成したら教えるわい」
あとで覚えとけよこの野郎、富樫は頭に血管を浮き出しながら荷物を纏め始めた。
富樫は自分のデイバックの中身を今一度確かめる。
筆記用具、地図、コンパス、今しがた調達した食料、鍋などの調理用器具、そして支給品。
見た目は割と滑々した拳大の大きさの石だ。
太公望に見せたら、「それは宝貝というものだ。わしら仙道が使う武器だのう」と言った。
つまりこれは太公望の世界で使われた武器。ならばよく知っている太公望が使うべきだろう。
あとで渡そう。あいつは見た目貧弱そうだし、自分はなんとか生身でも戦ってきた。下手な拳法家相手じゃ負けない。
太公望を想ってのことだった。信頼できる仲間をみすみす死なすわけにはいかない。
「太公望、お前その格好なんとかならねえのかよ?」
「そうだのう…わしもなんとかせねばならんと思ってるのだが」
富樫は黒の学生帽と黒の学ラン。太公望は白い布を頭に当てていて、全体的に白と青の割合が多い服装である。
時間は深夜、場所は森。富樫は全く、むしろ風景に溶け込んでいるが、太公望はこの条件下では目立って仕方ない。
「あとで適当に枝を折って、全身に付けておくかのう」
「なんじゃそりゃ…まるで漫画じゃねえか…緊張感のねえ野郎だぜ」
「しかしあながち悪くないぞ。森の一部を利用してカモフラージュするわけだからのう」
確かにそうだが…こいつがやるとなんでもいい加減に見えるぜ…あぁ、ニョホホとか意味分からん声が聞こえてきそうだぜ。
「んでよう、いつまでここにいるつもりなんだ?もう食料は俺とお前の分も十分確保したぜ」
「そんなにせかせかせんでもよい。わしらはいくら時間を費やそうとも、状況が許す限り万全に仕上げねばならん」
「今作ってるその怪しげなもんも関係あんのか?」
「そうだ。それに装備だけが万全でも、わしらの考えがバラバラでは意味が無い。
 それも統一せねばならん」
現在彼らの装備はあまりにもお粗末である。
二人は武器といえる物は持ち合わせてはおらず、また、生身で戦える拳法家でもない。
富樫は今まで男塾で心身を鍛え、様々な敵と戦ってきたが、この戦場に存在する上級の存在、人間外の者には歯が立たないであろう。
太公望に至っては論外である。彼は本来知略の人間であり、また、仙道であるがゆえに宝貝という武器を使って戦ってきた。
宝貝は富樫が持っているものがあるが、残念ながらそれは宝貝の中では最弱の部類のものだ。
泥酔拳という武術もあるが、これは酒が必要である。今の太公望はあまりにも貧弱なのだ。
「俺たちは自分の仲間を探しながら、このゲームから脱出する術を持っている奴を探すんだろ?」
「そこが問題なのだ。仲間を探すといってもどこにいるか皆目検討もつかんだろうし、それにどっちを優先的に探すのじゃ?」
彼らの仲間。竜吉公主、男塾の塾生達。それにこれから探さないといけない脱出に必要な人物。
どちらを優先するか。
「……わしは脱出に必要な人間を探そうと考えておる」
―――竜吉公主。彼女は強力な仙女だ。だが、彼女の身体は仙人界の清浄な空気でないと生きていけない。
とても儚い存在なのだ。そして、恐らく宝貝も持っていないであろう。
彼女を一人ぼっちにはしておきたくはない。しかし、あまりにも情報が少ないのだ。
彼女には清浄な空気が必要。ならば都市圏にはいないだろう。いるとすれば自分たちがいるような自然に囲まれた場所。
だが、分かっているのはこれだけ…これだけでは彼女を居場所は到底特定出来ない。
見捨てるわけではない。が、現状では探しようがないのだ。
…ならば皆が助かるかもしれない、脱出の術を持つ人物を探すのが、彼女と再会する一番の近道なのだ。
「…俺も賛成だぜ。俺の仲間はそう簡単に死ぬような根性無しじゃねえ」
剣桃太郎。男塾一号生筆頭であり、富樫が誰よりも信頼する男。あいつはいつも通り気取った顔して生きているに違いねえ。
雷電や伊達だってそうだ。奴らとは驚羅大四凶殺で命を懸けて戦い、大威信八連制覇では共に戦った戦友だ。
あいつらの実力は俺がよく知っている。どいつもこいつも俺よりしっかりしていて強い連中だ。
大丈夫だ、俺が心配する必要はねえ。あいつらとはまた会える。きっとだ。
……塾長はあの台詞を言って回ってるんだろうな…むしろどこにいても声が聞こえてきそうだぜ。
「分かった。では次の議題だ。
 わしらの目的は脱出に必要な、なんらかの能力を持つ人間を探し出すことだ。
 つまり相手の情報を何も知らない状態で相手に接触せねばならん」
「そして、相手にどんな力を持っているか問い詰めるわけだな」
太公望は静かに首を振る。富樫はその真意が分からず、次の言葉を待つ。
「わしはすぐ接触するのではなく、しばらく監視、もとい観察するべきだと思う」
「なんでだよ?もしかして仲間になるかもしれねえやつにそんなことすんだよ」
「仲間にならなかった場合を考えてのことだ」
仲間にならなかった場合…考えても見なかった。
富樫は考える。その場合、相手はどんな人物なのか、を。
「ゲームに乗った奴だった場合のことだな」
「うむ、そうだ。ただ、ゲームに乗っていなくて、何らかの目的のために単独行動をとるやつもいるだろう。
 こやつらは問題ない。後に味方になるかもしれんからな。接触だけでもする価値はある。
 だが、問題なのはおぬしがいった連中だった場合だ。
 わしらは少なからず警戒して近づくが、相手にとっては格好の餌食だ。わざわざ獲物が近づいてくるんだからな。
 …最悪こちらの全滅も有りうる」
―――全滅。最悪の結果。これだけは避けたい。これは誰もが考えるだろうこと。
「富樫、わしらはこのゲームからの脱出、という目的を持って行動しておる。
 だが、それにはわしらが生き残らねばならん」
「ああ…」
「そのためにはわしらは非情になる必要がある。皆を助けるために。わしらが生き抜くためには」
太公望は本来、心優しき人間である。知性はあるものの、本来の彼は友人と談笑したり、一人でのんびりするような男である。
だが、仲間の命がかかると、そんな彼も非情な選択をしてきた……今回の提案も仲間の命を守るべくしたものだった。
「で、更に言えば近いうちに場所を移動せねばならんが、都市などの人が集まる場所に行くつもりはない」
「はぁ!?んじゃどうやって人を探すんだよ!このままビビってここに立て籠もるつもりなのかよ!」
「落ち着くのだ富樫、そうは言ってはおらぬ」
太公望はデイバックから地図を取り出し、広げる。
「人は人を求めて都市へ向かう。だから人が集まるのじゃ。だが、人は生きている限り、もう一つのものを求める。
 それはなんだと思う?水だ。人は生きていく限り水は絶対に必要だ。つまり水源がある場所にも人が集まる」
「なら俺達の次の移動する場所は水のあるとこだな」
「そうじゃ、ただ、普通の池程度ではだめだ。規模が小さく、隠れる場所も少ないだろう。
 あくまでわしらは観察するのだから見つかっては不味い。その点も考慮せねばならん。
 富樫、おぬしの国で水源と言えばどこだった?」
主催者たちがわざわざ富樫の国を真似て作ったのならその施設も忠実に再現しているはず。
太公望は静かに富樫の言葉を待った。確信に近いものを覚えながら。
「…ダム、だろうな。でもダムっつったってたくさんあるぜ?
 隣の広島にもあるだろうし、関東のほうにもある。ダムが無い地方なんて無いぜ」
「ならこの島はどうじゃ?」
太公望は四国を指差した。富樫はまたもや太公望の意図が掴めず困惑する。
「あるこたぁあるだろうがよ…なんでまた四国なんだよ」
太公望は満面の笑みで答える。その笑顔はいつの間にか立ち込めていた重い雰囲気を消し去っていた。
「この本州と呼ばれている島で水源がたくさんあるのならその分人も分散してしまうだろう。
 だが、この四国という島は本州より規模が格段に小さい。
 ダムの数も本州より少ないだろうから、より場所も特定できて人も発見しやすい。
 それに場所もここ岡山からほどほどに近い。網を張るには絶好の場所じゃ」
「なら早速出発か?」
「いや、早朝までここにおろう。装備やわしらの体調を整えてから出発じゃ」
ゲームが始まったばかりとはいえ、時間は深夜。この時間帯に木々が生い茂る山中を歩くのは思いの外体力を消費する。
それにいつどこで誰が襲ってくるか分からない状況だ。精神の疲労も軽いものではない。
「分かったぜ、ならお前が先に寝な。俺が見張っててやるぜ。少し時間がたてば交代でいいな?」
「うむ。任せたぞ富樫」
太公望はそういうと数分の間に眠りに落ちた。
「おい待て、寝るのはいいけどよ…この大量のヘビをなんとかしてから寝ろよ」
周りには大量のヘビが……まぁ、死ぬことは無いだろうが、それでもこの数は怖いな、と思う富樫であった。





【岡山県 北部山中/深夜】
【太公望@封神演義】
 [状態]:睡眠中
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式(食料補充済み)、支給品(不明)
     怪しげな液体、宝貝五光石@封神演義(富樫から譲り受けたもの)
 [思考]:黎明まで体を休め、脱出の術を持つ人物を探すため、四国へ渡る。

【富樫源次@魁!!男塾】
 [状態]:見張り中
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式(食料補充済み)
 [思考]:黎明まで体を休め、脱出の術を持つ人物を探すため、四国へ渡る。


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最終更新:2024年08月12日 21:31