0044:月夜の出会い





Lと呼ばれる彼は当惑した。
このゲームには人智を超えた怪物が多数参加していることは承知していた。
しかし……まさか月と会話することになろうとは…
「……ええ、そうですね」

見知らぬ相手との接触に対し特に構えていなかったのは不用意からではない。
そのあまりに特徴的な顔を認識する前から、既に自分に近づく気配に殺意がないことを察知していたからだ。
(速い動きではないな…)
非常にシンプルな理由。それだけで充分だった。
もし殺人者であるにせよ、何らかの問答を自分に期待しているであろうことが読み取れる移動スピード。
ならば、自分の能力があれば殺し合いをしないように持っていくことは造作もない。
このゲームを主催する人物に対し取った行動はスタンドプレーではなく、
今近づきつつあるようなタイプの人物に対するアピールでもあったのだ。

「なぜ私に声を?」
答えの出ている問いを投げかける。
「いや何、月が綺麗だからね。こういう夜はいい出会いがあるものなのさ」
そう言ってムーンフェイスは微笑んでいる。Lの意図する答えではないが、
それはLの意図を汲み取れていないが故の発言ではない。軽い自己紹介のようなものだ。
「私は仲間を探しているんだ。お互いのためになる仲間をね」
「……貴方の目的は何ですか?」
「そうだねえ…とりあえず自分が生き残れればいいかな」
「人殺しは?」
「別にどちらでも。あえて隠す必要もないから言うけど、私は人食いの化物なんだ。
 ただ、食欲を満たす以上の殺しを望むことはない。必要な時に必要なだけ殺すだけさ」

Lは決して清廉潔白な君子ではない。大事の前の小事を地で行く性格である。
大量殺人鬼キラを捕まえるためなら、大罪を犯した者を死の危険のある状況に置くことも辞さない。
今回のゲームでも、積極的に殺しを行う者に対し躊躇するつもりはなかった。
そういう意味では目の前の怪物の考え方は自分とある程度似ていた。

「人食い……ですか…少なくとも私の知る限りの生き物ではないですね……」
ならば彼らにとって殺しは食事。それを許すことが出来るのか…裁く権利はあるのか……
瞬時に答えが出る類の問題ではないことを認識したLは、当面の状況を解決することに重点を置くことにした。
「私は人間ですが、私を食べないという保証は?」
「む~ん…困ったね、ちょっと証明のしようがないよ。私の人柄で判断してもらうしかないな」

ムーンフェイスは出来る限りLの期待に応えようとしていた。
これまでの問答で何度かLの人柄を見定める言葉を投げかけ、彼を補佐に回るのに値する人間と感じていた。
人殺しや人食いを否定も肯定もしないこと。
あの武藤少年のように異常なほどの正義漢でも制御に苦しむほどの好戦的性格でもなく、いたって論理的で中庸な物事の考え方。
そして言葉の端々から見て取れるその思考レベルの高さ。文句の付けようがなかった。
「………では、私達が組むメリットは?」
まるでどこかの面接のような質問が飛んできて、ムーンフェイスは少し笑った。
「そうだねえ…私は普通の人間より丈夫だから、行動や監視が楽になるかな?
 あとは私の世界の情報。私は君の頭脳をアテにしたいんだ」

数瞬の沈黙の後、世界最高の頭脳は答えを弾き出した。
「……わかりました。貴方の名前を教えてください」
「む~ん。ムーン・フェイスさ」
三日月型の頭をした素敵なホムンクルスは、そう言って満面の笑みを浮かべた。





【静岡県/深夜】

【ルナール・ニコラエフ(ムーンフェイス)@武装錬金】
[状態]:健康 
[装備]:なし 
[道具]:荷物一式、双眼鏡 
[思考]:Lを補佐する。最終的に生き残るなら後は割とどうでもいい。 

【 L(竜崎)@DEATHNOTE 】
[状態]:健康 
[装備]:なし 
[道具]:荷物一式(支給品は不明だが、本人は確認済み) 
[思考]:1.ムーンフェイスの観察と現状に応じた方針の決定 
    2.ゲームの出来るだけ早い中断     


時系列順で読む


投下順で読む


003:月触 ルナール・ニコラエフ(ムーンフェイス) 046:死帳万華鏡
003:月触 L(竜崎) 046:死帳万華鏡

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年08月13日 09:00