0045:微かな希望 ◆zOP8kJd6Ys
「うーん、どうするか……」
仙道彰は富士山麓に降り立ち、どうするかを考えていた。
彼の姿は綾南のユニフォーム上にジャージの上下という試合用の出で立ちである。
最も富士山と言ってもこの日本を模した小さな島では標高400mに満たない小さな山だ。
夜間の登山は危険と言われるが、頂上までの道のりは月明かりに煌々と照らされいる。
「ま、下山して夜の樹海に入るよりは日が昇るまで山頂で身を隠していた方がいいな」
桜木や流川たち知り合いを探しに行くのはそれからだ。
それに朝になって山頂から見渡せば、誰かを見つけることが出来るかもしれない。
そう判断して上へと進路を取る。
一応、山道は舗装されていたのでそう時間をかけることも疲労することもなく山頂に辿りついた。
その時――――
ヒュオ ガコォンッ
風を切り裂く音がしたかと思うと仙道の一歩隣の地面が破裂する。
「うおぉぉ!?」
まともに喰らっていればおそらく重傷を負っていたか、下手すれば死んでいたであろう威力の攻撃だ。
仙道は衝撃で転倒するが、反射的に起き上がり音がした方向を見る。
月下、岩を椅子にして不敵に笑い仙道を見つめる銀髪の男が居た。
その男の発する重圧を感じ取り、仙道はその場を動かない。
どんな攻撃をしてきたのかは判らないが、背を向けて逃げ出せば後ろから撃たれると確信していた。
「ほぉ、逃げないかい。まずは合格だな」
「?」
相当な距離があるため仙道には相手がなんと言ったのか聞こえない。
そしてその場に身を伏せたまま、数十秒の時が流れた。
脂汗が仙道の頬を伝う。
『……おかしいな。何で追撃しないんだ?
俺は動いてないんだからそのまま攻撃すればいいのに……』
銀髪の男から発せられている重圧は未だ変わらぬ強さで仙道を縛る。
といっても動けないというわけではなく、相手が攻撃動作を見せたらすぐさま走って傍の巨岩に身を隠すつもりだった。
しかし相手はニヤニヤとこちらを見つめたまま微動だにしない。
こちらを嬲るつもりだろうか。
もし、そうならお手上げだ。
仙道は最初に主催者に対面したときに、自分達の常識では計り知れない存在がこのゲームに参加していることを知った。
理解、無理解の問題ではなく、「そういうもの」として割り切らなくてはここでは生き延びられないと肌で感じていたのだ。
そして今対峙している相手はまさに「そういうもの」であることは疑いようが無い。
自分ではどうあがいても倒すことなど出来ない相手。
しかし……
「む?」
不意に銀髪の男は訝しむ。
身を伏せていた仙道が無造作に立ち上がり、こちらに向かって歩いてくるからだ。
その瞳には意志の光が宿っている。
決して諦めたわけではないことはその瞳が語っている。
「フフン♪」
男は愉しげに鼻を鳴らすと、まだ相当な距離があるにも拘らず仙道に向かって拳を繰り出した。
空を切り裂く音と同時にまた仙道の右手前の地面が破裂する。
仙道はギョッとするが、自分に当たっていないことを確認するとすぐさま気を取り直して歩みを再開する。
すると今度は連続で来た。
仙道の周囲の地面に男の拳から繰り出される威力が次々に炸裂する。
炸裂するたびに仙道の心臓が跳ねる。
それでも仙道はジャージの胸元、心臓の辺りをギュッと握り締めながら銀髪の男に近づいていく。
そして……ついに仙道は男の座る岩の前へと立った。
見つめ合う両者。
「おい、小僧。何故逃げずに向かってきた?
それとも逃げ切れないと思って玉砕覚悟か?」
男からの重圧はさらに増して仙道に圧し掛かってくる。
仙道はそれに全力で対抗しながらも答えた。
「いや、あんたが俺を殺す気がないとわかったから……
それに逃げたら後ろからやられると思ったし……」
「いつからだ?」
男は嬉しそうな表情で質問を重ねてくる。
「最初の攻撃で俺が伏せた後、二回目の攻撃が全然来ないときにもしかしたらと思った。
歩いてくる途中であんたが一度しか攻撃できないわけじゃなかったこと、
二度目の攻撃が俺に当たらなかったことで確信した。その後も……ヒヤヒヤもんだったけど」
すると突然男は笑い出した。
「ぐわっはっはっはっはっはっはっは」
そして岩から飛び降りて、仙道の前に立つ。
「60点だ。
俺に攻撃を当てる気が無いことは、最初の時点で見抜いてなきゃいけねえぜ。
それに身を晒す賭けに出るにはちと根拠が弱かったな。
まぁ度胸と勘は認めてやる。ちと辛いが合格だ」
いつの間にか男から発せられていた重圧が消えている。
それに気付いた仙道は安堵と共にその場にへたり込んだ。
満月を見上げながらその男は語りだした。
男の名は
デスマスク。もちろん本名ではない。
ある理由から付けられた通り名だが、こちらが定着してしまい誰も本名で呼ばなくなってしまったそうだ。
後で知ったそうだが、誰も彼の本名を知らなかったため慰霊地の墓碑名も通り名で刻まれてしまっていたらしい。
「笑い話さ」
彼はそう言って自嘲気味に笑う。
デスマスクは過去に一度甦った経験があるという。
彼はアテナの聖闘士として地上の正義を守るために戦う戦士だった。
しかし従うべきアテナを殺害しようとしたサガを彼は正当と認め、
アテナ抹殺と教皇に成り代ったサガの覇権拡大の為に尽力したそうだ。
「一度目の人生はそりゃ愉しかったぜ?
力だけが正義。それが俺様の信念だった。
正義の名の下に鍛え上げた力で悪をぶっ殺すのは快感だった。
その過程で女子供が巻き添えになろうと気にもならなかった。
最期こそ不本意だったが俺はその人生を後悔しちゃいねえ……」
そして彼はアテナの宿敵、ハーデスによって仮初めの命を与えられ復活した。
永遠の命を餌にアテナの首を取れと命じられて。
「そん時は俺が認めたサガも前教皇シオンも一緒に甦らされちまってた……
あいつらはアテナの為に冥王に釣られたふりをして牙を剥いた。
俺も冥王は気に入らなかったからな、奴らの尻馬に乗って一矢報いてやろうとしたさ。
これが……結構気持ちいいもんだった。悪役は慣れてたしよ。
気に喰わない後輩どもを先輩面して導いてやるのも……悪くなかった。
こんな生き方もアリだな……そう思ったぜ」
仙道は黙って
デスマスクの話を聞いている。
デスマスクも気にした様子もなく話を続ける。
「そして今回また甦っちまってよ。
正直迷っちまってるんだな、この俺様としたことが。
星矢たちがしくじっちまったのか冥王の野郎が勝手に甦ったのかは判らんが、
冥王は確実に今存在している。異様なおまけまでつけてな。
しかし奴らの思惑に乗るのも気に喰わねぇ。
かといってこの糞ゲームを抜け出す妙案もわかねえ。
だから、情けねえ話だが誰かに下駄を預けちまおうってな。
最低限てめえのことはてめえで決断できる野郎に付いていこうってよ。
それがお前だ」
デスマスクは仙道を睨み付ける。
「仙道っつったな。オメーは俺様に何を望む?」
「え?」
話を振られた仙道は戸惑う。
「ぶっちゃけ俺様も自分が弱っちい考え方してると思うぜ。
だが自分ではどうにも答えがでねえ。
一度目も二度目も生き方に後悔なんざしてねえからな。
三度目なんて言われても今更って感じがして心が萎えちまってるんだ。
だからもう一度聞くぜ。
仙道、お前は俺に何を望む? 俺はどう動けばいい?」
「いや、いきなりそんなこと言われても……う~~ん」
仙道は腕を組んで考え込み始めた。
デスマスクはその場に座り込み目を閉じて仙道の答えを待つ。
そして数分の時が流れ……仙道は
デスマスクを見据えた。
「
デスマスクさん」
「答えが出たか」
デスマスクは立ち上がる。
「はい、
デスマスクさん。俺を助けてください。
俺はゲームに乗って誰かを殺すなんて出来ないし、殺されたくもない。
知り合いも何人かこの島にいるようだから、合流したいしできるなら守りたいっす。
でも俺にそんな力はない。
取り得といったらバスケだけだけどここでは役に立たないし……
だから、
デスマスクさんが俺の力になってくれると嬉しいっす」
仙道は姿勢を正し、
デスマスクに向かって頭を下げる。
「お前の知り合いを探して、守って、それからどうする?
それだけじゃこの首輪は外れねーぜ?」
「外せる人を探します。あの広間には常識では考えられない人たちが大勢いました。
その中にはこの首輪をどうにかできる人がいるかも知れないっす。
可能性は低くても……俺にはそれしか思いつけませんから」
仙道は顔を上げ、
デスマスクを見つめてくる。
『へっ、迷いのない面してやがるぜ……生意気な。
だが、それでこそだ』
デスマスクは肩を竦め両手を挙げた。
「OKだ。おめーに付き合うぜ」
「あ、ありがとうございます!」
仙道は再び頭を下げ、こうして今はまだ二人だけの同盟がここに誕生した。
「ところでよ、オメーの支給品はなんだったんだ?
それ次第で動き方変わるぜ?」
「え、はぁそれが……」
デスマスクに問われ、仙道はデイパックからホイポイカプセルを取り出す。
中から現れたのは巨大な鉄製のボールボーガンだった。
ボールは二個付属している。
「ほぉ、中々に年代物じゃねーか。威力も高そうだ」
「いや、それがこの弦、固くって引けやしないんす。
指が裂けるかと思うくらい引っ張ってもビクとも動きやしない。
これじゃ使い物になんないっすよ」
恨めしそうに仙道はボーガンを見やる。
「まぁ普通のボーガンも滑車を使って弦を引くらしいからな。
どれ、貸してみな」
ボーガンを受け取った
デスマスクは渾身の力を込めて弦を引く。
ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、……ガチン!
見事弦は引かれ、カタパルトにはまる。
「すげっ」
「へっ見たか。これが黄金聖闘士の実力よ」
余裕の表情を見せる
デスマスクだが、内心では焦燥が生まれていた。
『ちっ、思った以上に力が出せねえ!
弦を引くのにこんな時間かかってちゃ戦闘では使いにくいぜ。
それにこれじゃあ俺の冥界波もまともに撃てるかわからねえな……』
ならば力の不足は武器の威力で補うしかない。
内心を押し殺し、
デスマスクはボーガンにボールをセットして20mほど先にある巨岩に照準をつける。
撃った。
バヒュンッ ヒュゴッ バゴォォン!!!
鉄球は巨岩を粉々に粉砕し、貫通してどこかへと飛んで行ってしまった。
「おーすげー!
でも二個しかないボールどっかに飛んでっちゃいましたよ……」
「ふん、まぁまぁの威力だな。
それにボールのことなら心配いらねぇよ」
そういって
デスマスクは掌を目の前にかざし、念を凝らし始めた。
すると、
デスマスクの手に突然先ほど飛んでいった筈の鉄球が現れ、その手に握られる。
「テレポーテイションだ。この世界じゃあ俺様自身や他人を飛ばす芸当はできねえみたいだが、
これくらいの代物なら充分に回収可能みたいだな」
最もそれも念を凝らす時間が必要になるので戦闘中には使えないだろうが。
だが使い方次第でこの武器は戦力になる。
「俺には使えないし、そのボーガンは
デスマスクさんにあげますよ。
でも……」
「わかってるよ。普通の奴に当てたら木っ端微塵にしちまうからな。
使いどころはわきまえるさ」
その言葉に仙道は安堵する。
そして
デスマスクはボーガンをカプセルに戻し、代わりに別のカプセルをデイパックから取り出した。
「礼と言っちゃあなんだが、代わりにコイツをくれてやる。
マニュアルを読んだが、使い方次第じゃあ強力だぜ?」
そのカプセルの中身は……5枚のカードだった。
「トレーディングカード?」
五枚のカードを見比べてみる。それぞれ特殊な効果があるようだ。
確かに使い方次第では文字通り強力な
切り札になるだろう。
「真紅眼の黒竜」
「光の護封剣」
「闇の護風壁」
「六紡星の呪縛」
「ホーリーエルフの祝福」
怪物カードは一枚だけだが魔法カード、罠カードが充実している。
デスマスクをサポートするのに相応しい手札といえた。
「よし」
仙道はカードを懐に入れた後、両手で髪を撫でつけ気合を入れる。
「さ、いこーか」
夜は白み始めていた。
そんな仙道を見て
デスマスクは思う。
『こんな異常な状況だってーのに、一般人にしてはえらく肝が据わってやがる野郎だ……
パニックにならずに飄々とマイペースを貫いてやがる。
なんだか妙な期待を持っちまうぜ。
コイツなら……コイツならきっとなんとかしちまうんじゃねえかってな……
【静岡県 富士山頂/黎明】
【仙道彰@SLAM DUNK】
[状態]:健康
[装備]:遊戯王カード@遊戯王
「真紅眼の黒竜」「光の護封剣」「闇の護風壁」「六紡星の呪縛」
「ホーリーエルフの祝福」
[道具]:支給品一式
[思考]:知り合いを探す/首輪を解除できる人を探す
【デスマスク@聖闘士星矢】
[状態]:健康
[装備]:アイアンボールボーガン(大)@ジョジョの奇妙な冒険
アイアンボール×2
[道具]:支給品一式
[思考]:仙道に付き合う
時系列順で読む
投下順で読む
GAME START |
仙道彰 |
139:再会ならず |
GAME START |
デスマスク |
139:再会ならず |
最終更新:2024年08月15日 03:58