0061:それぞれの思惑





(思ったより力の消費が激しいな)
男は近くの木に座り込み、デイバッグの中に仕舞っている盤古幡を見つめ、考える。
自分はこの宝貝、盤古幡をどこまで使いこなせるのか。
先刻の戦闘では重力を50倍に増加することが出来た。全力で行えば100倍は到底無理でも、それに近い出力が出るだろう。
攻撃を広範囲に行え、一方的に重力を倍増させることができるこの宝貝、支給品の中でも間違いなく最強の部類に位置する。
唯一つ問題があるとすれば、使用者の力を大量に消費すること。
スーパー宝貝であるこの盤古幡は通常、本来の持ち主である崑崙の教主元始天尊以外が使用すると1分で死に絶えるという恐ろしい物。
この世界では盤古幡の力が弱体化しており、その分、力の消費も抑えられている。
が、それでも盤古幡を使用した場合、極度の体力の消費を避けられないだろう。
(50倍…あれでも余力を残したつもりだったが…予想以上に体力を消耗した。全力で発動すれば半日は確実に動けなくなるだろう)
藍染は考えを改める。私はこの盤古幡を侮っていた、と。
例え動けるようになったとしても、恐らくまともな歩行すら困難だろう。1日回復に費やしてもどこまで元に戻るか分からない。
(15倍の時点では平気だった。それでも鬼道を数発繰り出す程の力の消費なのだが。しかし50倍はその程度の消費では済まなかった)
盤古幡の出力を50倍にまで上げたあのとき、藍染は体力の半分以上を持っていかれた。自分の意思で消費したのでない。
気がつけば吸い取られていたのだ。まるで盤古幡が藍染を殺そうとするかのように。
(この宝貝…盤古幡には意思、のようなものを感じ取れた。そして、その意思は…)
拒絶。この盤古幡は私を受け入れていない。故に私を殺そうとしたのか。なんと気位の高い武器だろう。
宝貝は本来、宝貝自身が主と認めない限り、仙道であろうがその手に持つだけで体力を吸収する。
更に使用するとなると、せいぜい数発が限度である。
この何もかもが制限されたこの世界、通常の宝貝であれば、主と認められていなくても使用する分では何も問題ないだろう。
威力は軽減されているが、その分、上記のデメリットもある程度軽減されている。それでも力の無いものが使えば有害だろうが。
しかし、このスーパー宝貝『盤古幡』は違う。この盤古幡も力を制限され、デメリットも軽減されているが、それでも格が違う。
主と認められていない者、力の無い者が持てばたちまち力を吸い取られる。更に使用するとなると、下手をすれば命さえ奪われるだろう。
その比は通常の宝貝とは全く異なる。藍染もそのことを理解していたからこそ、普段はデイバッグに仕舞っているのだ。
今は平然と木に座り込んでいるが、その実は盤古幡を使用して消費した体力を少しでも回復させてようとしている。
藍染は決して弱くない。むしろ護廷十三隊、いや、尸魂界でも最強の部類に属するだろう。
しかしその藍染ですら盤古幡に主と認められず、その結果、休息を余儀なくされたのだ。
(だが、いつかはこの盤古幡に私を認めさせ…いや、私に屈服させて使いこなしてみせよう。さすれば…)



(外傷は無い。だけど体の内部、内臓にダメージがあるな…くそ)
キルアは今、藍染の背後から数メートル離れた場所にいる。あの戦闘の後キルアは藍染の軍門に下った。
が、隙あらば藍染を拷問にかけ、この世界からの脱出方法を吐かせようとしている。
藍染の背後にいるのはそのためである。しかし、先程の戦闘でその全身に盤古幡の力を浴びたキルアにそれは出来ない。
いや、正確に言えば、ダメージのせいで動きが鈍くなっており、藍染に全く隙が見当たらない現状では不可能なのだ。
(あのやろう…あんなとんでもないもん使っておいて、平然と本なんか読んでやがる…)
キルアは知らないが、藍染は盤古幡を使用した代償として、半分近く体力を消費している。
しかし藍染はそれを全く悟られず、更に隙さえ見せていなかったのだ。
(戦いの後、あいつは俺の能力『念』ついて訊いてきた。
 苦し紛れに『燃』を教えたが、あの野郎のことだ。すぐに気づくだろう)
『燃』とは『念』の存在を隠すために方便として使われる教え。
その教えは大まかに言えば、心の中で強く念じることによって、力を得る、といったものである。
(俺の念、オーラを電気に変える能力をあいつに見られていたら、即座に看破されていただろう)
不幸中の幸いである。キルアが先程の戦いでその能力を見せていたら、ものの一瞬で嘘と見破られていただろう。
だが、石にオーラを込めて投げつけたことで『燃』では説明できない事象を見られてしまった。
(…もしかしたらもう気づいているかもしれない。だが、あいつは今のところ、念に興味は無いみたいだ。
 恐らく、あの本を読み終えてから本格的に念を調べ始めるんだろう。
 もしそうなれば下手すれば俺の命が危ない。俺はあいつに嘘をついたから。)
そうなる前に、脱出方法を聞きだして逃げなくては。だがどうする?現状ではそれは不可能。
なら今から逃げるか?…駄目だ、体はなんとか戦闘を行える状態に戻ったが、もう一度あの武器を使われたらおしまいだ。
あの武器がある限り一人で奴を締め上げるのは無理だ…仲間が必要だ。数人、それも強力な力を持つ仲間が。
いくらあの武器が広範囲に攻撃が行えるとしても数人いれば…なんとかなるかもしれない。
希望的観測に近い考えである。それはキルアも分かっている、しかし一人では何も出来ないのも事実。
(…今は体の回復に努めるか…)
キルアは待つ。藍染の背中を見つめながら…奴が隙を見せる一瞬を。



「おい、あいつらどう思う?」
「う~む…そうだのう」
藍染とキルアを遠くから見つめる影が二つ。それは太公望と富樫であった。
二人は四国へ向かうため下山していたが、近くから叫び声が聞こえたのでここまでやってきたのである。
幸いにも太公望たちは下山の途中であったため、森と街道の境目にいるキルアたちを見下ろす形になり、
キルアたちには決して居場所を悟られることが無い位置につくことができたのだ。
「わしらのような関係ではないということはたしかだのう」
「どういうこった?」
「純粋な協力関係ではないということじゃよ。あの子供を見るのだ。あの顔は明らかにダメージを負っている顔だ。
 見たところ出血は無いようだからおそらく内部のダメージだろう。
 そんな子供を放っといて、あの袴の男は悠々と書物を読み耽っている。
 仲間なら心配して近寄ったり、看護するなりするものだ。おそらく主従に近い関係。
 どうやらあの袴が主で、あの子供は何らかの理由であの男の下におるのだろう」
太公望はその異様な光景を眺め、そう察した。
だが、太公望の関心はそれにはなく、彼らがゲームに乗っているか否か、どのような能力を持っているか。
その二点がひたすら気になっていた。どのような能力を有しているかは定かではないが、
あの子供がダメージを負っていることから、彼らが戦闘を行った(どこで誰と戦ったかは分からないが)ことは明白。
それが自衛のためなのか、自ら戦闘を仕掛けたのかはわからない。用心に越したことは無いだろう。
「富樫よ、多少予定が変わるが、ここで奴らを観察するぞ」
富樫は静かに頷く。ここはあの二人から多少距離があるとはいっても、どのような能力があるかは定かではない。
警戒のため声も最小限に抑えておく必要がある。居場所を悟られないためにも。
(あやつらは今しばらくここで休憩をとるつもりだのう。行動を開始する前に見極められれば良いのだが)
彼らが動き始めたとなると、必然的に追尾しなければならない。
その場合、太公望と富樫の目的である四国へ渡ることを断念せざるを得ない。
それはまだいい。一番危惧すべきことは彼らが都市へ向かうこと。
人を探すのならば都市へ向かうのは間違いではない。しかし太公望たちが一番に優先するのは自身の安全。
仲間を探す者、ゲームに乗った人間、その他の目的を持った人間、様々な人が集まり、
かつ山林に比べて身を隠す場所が少ない都市は武装が貧弱な太公望と富樫にとって危険極まりない場所である。
彼らがそのような場所へ向かうなら彼らの監視を中止せざるをえない。
太公望たちがあくまで監視を行うのは、自身の安全度が極めて高い場所にいることが絶対条件なのである。
(さて、どうするかのう…彼奴等に何かしらのアクシデントでも発生すれば見極めれるのだが…)



目の前の美しい長髪の女性を見て思い出す。
(アテナ……沙織さんは一体どうしているだろうか。 )
星矢はハーデスとの聖戦後のことを何も覚えていない。
エリシオンにて、星矢はハーデスの剣からアテナを守るためにその身を犠牲にし、心臓を貫かれた。
星矢は薄れゆく意識の中、確かに感じ取ったのだ。壮大で心安らぐ小宇宙と、アテナと地上の愛と平和を守ろうとする小宇宙。
アテナと一輝達の小宇宙がハーデスの邪悪な小宇宙を見事打ち倒すのを。
ハーデスが倒れたことによって漆黒の闇に彩られた冥界は崩壊し、地上は光を取り戻した。そして光溢れる地上へ帰ったのだ。
星矢が覚えているのはここまで。アテナと仲間と共に地上に帰ったあとの記憶は何も無い。
自分が生きているのか死んでいるのかさえ分からない。だが、今となってはそんなことはどうでもいい。
星矢の頭の中で渦巻いている疑念、それはハーデスが生きていたこと。
あのとき、俺たちはアテナと共に確かに冥王ハーデスを打ち倒した。それは間違いない。
なのになんであいつは生きている?なんであの場所にいた?
星矢は主催者と名乗る者たちの中にハーデスがいるのを見つけたとき、言葉を失った。
全身を黒衣のローブで覆っていて顔は確認できなかったが、あの禍々しくも、神々しく偉大な小宇宙…ハーデスに間違いなかった。
俺達の戦いは無駄だったのか?ヤツは何度でも蘇るのか?…様々な思いが脳裏に浮かぶ。
死してなお、地上の平和とアテナを守るためにその誇りすら捨ててハーデスの尖兵として蘇ったサガとデスマスク達。
サガ達の真意を知らずとはいえ、かつての仲間と命を懸けて戦ったムウ達。
そして…神しか通れない嘆きの壁にて、アテナと俺達のために命を散らした十二人の黄金聖闘士。
彼らの死は無駄だったのか?俺達が流した血は意味が無かったのか?
…いいや、無駄じゃない。少なくとも俺達は生きている。一輝、サガ、デスマスクもいる。
必ずみんなの力を合わせて他の主催者もろとも倒す。これ以上の犠牲を出さないためにも。
「どうしたの?涙なんか流して…辛いことでも思い出したの?」
星矢はいつのまにか涙を流していた。思い出していたのはアテナと仲間達のことだけではない。
先程までサッカーを心底楽しそうに語っていた…石崎のことを思い出していた。
(俺達があのときハーデスを確実に倒しておけば…石崎さんは死ぬことはなかった。
 このゲームに参加することはなく、大好きなサッカーを続けられたはずなんだ…!
 大好きな仲間と大好きなサッカーを……だけど石崎さんはもう二度とできないんだ…)
そう思うだけで涙が頬を伝う。止め処なく流れる涙。どうしようもない思い。
しかし星矢は涙を拭う。その後悔と悲しみの涙を決意に変えるために。
「いいや、なんでもないよ。ちょっと昔を思い出していただけだって」
そう、今度こそ守りきろう。この女性を。きっと守りきってみせる。
それが石崎への罪滅ぼしと誓い。もうこれ以上平和を願う人を犠牲にはしない…!
「そう…辛かったらいつでも話してね。お姉さんが力になってあげるから…あ」
目の前に二人組が見えた。まだ年端も行かぬ子供と、袴でオールバックの男……あれはアイゼン!
「麗子さんはここから銃でサポートしてください…あいつは俺が倒す」
まだあの二人に気づかれていない。ここに麗子さんを置いていけば戦いに巻き込むことはないだろう。
そう考えた星矢は銃でサポートという名目で麗子をここに留めたのだ。
「分かったわ、でも無茶は駄目よ。危なくなったらすぐに逃げなさい。いいわね?」
普段の正義感の強い麗子ならまだ子供である星矢を止めたのだが、
星矢からは常人の大人を超えた、何か力強いものを感じた。だから星矢を信じたのである。
「ああ、分かったよ麗子さん。それじゃ行ってくるよ」
そう言うと星矢は静かに歩き出す…アイゼンの元へ。

……今、まさに戦いが始まろうとしていた。





【岡山県北西/黎明】
【藍染惣右介@BLEACH】
 [状態]:わき腹負傷、骨一本にひび
 [装備]:刀「雪走」@ONE PIECE、アバンの書@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式(食料三人分)、スーパー宝貝「盤古幡」@封神演義
 [思考]:出会った者の支給品を手に入れる。断れば殺害
     特にキメラの翼を求めている。

【岡山県=ゾルディック北西/黎明】
【キルア@HUNTER×HUNTER】
 [状態]:回復中、戦闘は可能
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式、爆砕符@NARUTO
 [思考]:藍染の手下にはなったが、従うつもりは毛頭無い。
     隙を見つけ、拷問にかけるつもりでいる。
     また、脱出の術を持っている者、探している者と出会えば
     そちらに寝返る可能性が高い。

【岡山県北西/黎明】
【太公望@封神演義】
 [状態]:健康
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式、宝貝『五光石』@封神演義、怪しげな液体、支給品不明(本人確認済み)
 [思考]:目の前の二人組み(藍染とキルア)を見極める。

【岡山県北西/黎明】
【富樫源次@魁!!男塾】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式
 [思考]:目の前の二人組み(藍染とキルア)を見極める。

【マシンガンチーム】
【岡山県北西/黎明】
【星矢@聖闘士星矢】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考】1.麗子を守りつつ藍染を倒す。2.ハーデスを倒す。

【秋本・カトリーヌ・麗子@こち亀】
【状態】健康
【装備】サブマシンガン
【道具】荷物一式
【思考】1.星矢に協力する。


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039:天に立つ男 地に倒れる男 藍染惣右介 077:多勢に無勢
039:天に立つ男 地に倒れる男 キルア 077:多勢に無勢
023:太公望と富樫(仮)・2 太公望 077:多勢に無勢
023:太公望と富樫(仮)・2 富樫源次 077:多勢に無勢
060:守るべきもの 星矢 077:多勢に無勢
060:守るべきもの 秋本・カトリーヌ・麗子 077:多勢に無勢

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最終更新:2024年08月15日 07:40