0083:少女の行く道
ある住宅街に立ち並ぶ一軒の家、その家の一室で少女はまどろみから目を覚ました。
立ち上がり窓越しに外を見る。暗闇だった空は大分薄れ、周囲も明るさを取り戻しかけている。
(夜明け……みたい……)
少女、
真崎杏子は、まだはっきりとしない意識でそう思った。
深夜に行動するのを避けようとした彼女は、住宅街にある適当な家に入り身を隠していた。
(遊戯…城之内…海馬君……皆どこに居るんだろう……)
今ここには居ない仲間達の事を思い浮かべる。彼らは無事なのだろうか……
脳裏に浮かぶ三人の顔。それとは別に、雰囲気の違うもう一人の遊戯。
ある日突然彼に宿ったもう一つの人格。それは彼女にとっての思い人であり、最も大きな存在だった。
しかし彼は本来、自分達と共に生きる存在ではない。人にはそれぞれ帰る場所がある。
遠からず、彼は自分が帰るべき場所に行かざるを得ない。だからこそ逢いたい。
彼があるべき場所へ帰る時か…このゲームで自分が死んでしまう時か…それは定かではないが、
残された時間は少ない、そう直感していた。
それに彼ならば、この状況を打破してくれるのではないか。
根拠は無い。根拠は無いが、少女にとってその少年はそこまで大きく、信用に値する人物だった。
(逢いに行こう…彼に)
デイパックを背負い玄関へと向かう。その途中、杏子は支給品を確認していない事に気付いた。
「何か役立つ物だといいんだけど…」
荷物を漁りカプセルを取り出す。どう開ければいいか少し戸惑ったが、先端部分のスイッチを押し再び離すと、
ボンッ!という音と共に煙が立ち、支給品が床に落ちた。煙が晴れたそこにあったのは……
「……嘘」
黄金色の鈍い輝きを放ち、それ自体も黄金で出来ている棒状の物体。先端には眼球を模したような球状の物体が付いている。
遊戯が持つ千年パズルと形こそ違うが似通った点が多々見られた。
そしてそれは、かつて杏子を始め、城之内を操った忌むべき物でもあった。
「千年……ロッド……!?」
今は遊戯が所持しているはずの杖が、何故か自分の手元にある。
一体どうして…!? そう思うが答えが出る筈も無い。このゲーム自体、既に常識を超越したものなのだから。
恐る恐る床に落ちたそれを拾い上げる。柄の部分を引いてみるとそれが抜け、内部に収容されていた刃が姿を現す。
仕込杖になっているようなので護身用にはなるだろうか……
抵抗はある。自分にとっては禍禍しい代物。こんな物を持ち歩いていたら、また意識を奪われてしまうのではないかという不安。
しかし杏子自身は、単に身体能力が優れている一般の学生である事に変わりは無い。
常軌を逸した者達相手に素手で対抗するのは難しいだろう。ならば武器があった方が都合が良いのは明らかだった。
表情を曇らせながらもロッドを手に取る。それなりに重さはあるが持ち歩くのに支障は無い。
玄関から外に出た杏子はこれからの動向について考える。遊戯を探す、そう言ってもどこに居るのか皆目見当がつかない。
ただ普通の人間ならば、おのずと街を目指す筈だ。山林などに身を隠しているかもしれないが、
そこに留まるにしても生きる為に必要な水などは必須。遅かれ早かれ街を探索する事になるだろう。
(ひとまずこの街を探そう。居なければ次の街、そこにも居なければまた次の街。
遊戯自身も私達を捜そうとする筈だし、捜し続けていればきっと逢える。必ず………)
少女は心の中でそう繰り返す。そうでもしなければ不安に押し潰されそうだった。
そして少女は歩き出す。誰も居ない街中を。不穏な光を宿す錫杖を握り。
少女の行く先にあるのは再会か、無情な現実か……それは少女も含め、誰にも知る由は無かった。
【栃木県 住宅街/黎明~早朝】
【真崎杏子@遊戯王】
[状態]:健康
[装備]:千年ロッド@遊戯王
[道具]:荷物一式
[思考]:1.街の探索。遊戯を捜す
2.城之内・海馬と合流。
3.ゲームを脱出。
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最終更新:2023年11月19日 12:55