0082:青眼の白竜を求める者 ◆lEaRyM8GWs





北海道の雪山をスタート地点にされた海馬が札幌までやって来た頃には、もう午前4時頃になっていた。
4時間も歩きっぱなしだった海馬はさすがに疲れていたが、街に入ると冷静に建物の陰に身を隠しながら移動する。
身を切る寒さについ札幌なら温泉があるはずだと考えたが、こんな状況で素っ裸になって風呂に入るなど考えられない。
もしそこを襲われたらと自嘲した瞬間、東の方角で小さな爆発音がした。
(――敵か!?)
海馬は手に持っていたコルトパイソン・357マグナムの撃鉄を上げ、ゆっくりと街の東を目指す。
街の外は平原になっており、まるでRPGでよくある平原にポツンと存在する街を思わせた。
しかし一応道路は街の外まで通っており、その道路の上を黒髪黒装束の少年か少女が走ってくる。
その背後に爆煙と、見覚えのある獣の姿があった。

朽木ルキアは素早い追跡者に破道を当てるのは無理と悟り、道路に向かって破道を放ち目くらましにしていた。
さらに火竜鏢で自分の背後に炎の壁を作り道を阻む。
しかし追跡者、幻獣王ガゼルは炎の壁を迂回しながらも、着実にルキアに迫っていた。
火竜鏢を連投していてはすぐ体力が尽きてしまうため、無闇に使う事は出来ない。
ルキアの体力は限界に近づいていた。
舗装された道路を走るルキアの足よりも、確実に雪面を走るガゼルの方が速い。
せっかく街が見えてきたのに、もう少しで街に入れるのに。
(これまでか――)
せめて火竜鏢が敵の手に渡らぬよう、どこか遠くへ投擲してやろうかと考える。
そして火竜鏢を振り上げたその瞬間、轟音が空気を裂いた。
ハッと街の方を見れば、建物の塀の陰から若い男が半身を出して銃口を向けている。
自分に? 否、追跡者にだ。

「幻獣王ガゼル……まさか遊戯のモンスターが人を襲っているとはな」
遊戯が無闇に人を襲うはずがないと分かっている海馬は、幻獣王ガゼルの主が何者なのかを考えた。
もしかしたらマジック&ウィザースのモンスターカードを、この世界では実体化させられるのか?
だとすれば必要な物は何だ? カードだ!
召喚にはデュエルディスクが必要なのか? カードは何枚ある? 40枚?
カードパックには5枚入っている、もしかしたら5枚だけかもしれない。
どういう風にカードが選ばれた? 自分や遊戯のデッキ? それともマジック&ウィザースの全カードからランダムで?
疑問はいくらでも湧く。
だが何より重要なのは遊戯のカードがこうして実体化し、獲物を襲っている事実。
「フフフ、もしかしたら俺のブルーアイズもこの世界に存在するのかもしれん……」
最強の下僕、青眼の白竜。
もしこの世界に青眼の白竜のカードがあるならば、それは自分が使うべきなのだ。
どこの馬の骨とも知れない奴らに触れさせる訳にはいかない。
「まずはあの黒い奴だ。あいつから情報を聞き出さねば……」
あくまでも情報のため、自分の望みのために、海馬は引き金を引いた。

ルキアが不慣れなせいかもしれないが、全力で投げた火竜鏢よりも幻獣王ガゼルの足の方がわずかに速かった。
ゆえに火竜鏢で幻獣王ガゼルを倒すのは至難。しかし、いかに幻獣王ガゼルといえど銃弾には敵わない。
金に物を言わせて様々な悪事を働いてきた海馬には多少の銃の心得があった。
さらに名銃工・真柴憲一郎が冴羽リョウのために調整したコルトパイソン・357マグナムは、
正確無比な照準と優れた威力、射程を持つ。
海馬の放った弾丸は幻獣王ガゼルの身体をかすめ、幻獣王ガゼルは牙を剥いて威嚇し、
狙いをルキアから海馬へと変えて猛スピードで駆ける。
「いかん!」
火竜鏢を構えるルキアだが、自分の腕ではとても幻獣王ガゼル以上のスピードは出せない。
銃が三発目の弾丸を吐き出したところで、海馬は塀の陰に身体を引っ込めた。
札幌の街に駆け込んだ幻獣王ガゼルは、海馬の隠れた建物目掛けて疾走する。

幻獣王ガゼルは血走った目で獲物を探した。
海馬が隠れていたのは旅館で、玄関へと続く道の脇には綺麗な庭があり、塀の陰にはしゃがんで銃を構える海馬がいた。
視界の端で獲物の姿を捉えた幻獣王ガゼルは急ブレーキをかけて方向転換しようとし、
動きが止まった一瞬を狙った海馬に眉間を撃ち抜かれた。
衝撃に頭が跳ね上がり、あらわになった喉にもう一発。
計2発の弾丸を浴びたガゼルは、ドサリとその場に崩れ落ちた。
「フンッ……モンスターとは優れたデュエリストがいてこそその真価を発揮する。
 遊戯に巡り会えなかった己の不運を呪うがいい」

遊戯!?
見覚えのあるような男の言葉に、幻獣王ガゼルは身を震わせた。
遊戯、遊戯、遊戯、遊戯、遊戯……自分が真に仕えるべき少年、武藤遊戯
今すぐ彼を探したい。今すぐ彼を守りたい。
しかし、召喚者の命令という絶対の強制力の前では、幻獣王ガゼルの意志など存在しないも同然だった。

あの小娘を殺せ。他の獲物でも構わない、殺せ。殺して武器を奪え。

頭の奥底から響く声に従い、幻獣王ガゼルは立ち上がろうとする。
しかし間近まで歩み寄った海馬は、ガゼルのこめかみに銃を突きつけ、引き金をしぼった。
眉間とこめかみの両方から銃弾を撃ち込まれたガゼルの頭は完全に破壊された。
すると幻獣王ガゼルの全身は唐突に砕け散る。デュエルの戦闘で破壊された時のように。

ルキアが街に入ると、旅館の塀から銃を構えた海馬が姿を現した。
「あの化け物は……」
「俺が始末した。貴様、なぜモンスターに追われていた?」
嘘をつけば撃つと言わんばかりの鋭い眼光。
しかし特に嘘をつく理由の無いルキアは正直に答える。
「分からぬ。恐ろしい敵から逃げ切れたと思ったら、突然現れ追ってきたのだ」
「恐ろしい敵? なるほど、そいつが召喚したのかもしれん。
 ではもうひとつ訊ねよう、貴様はこのゲームに乗っているのか?」
「こんな莫迦な殺し合いに乗る気は無い」
「……そうか。ならばついて来い、安全な場所で話をしよう」
海馬は銃から手を離さず、顎で街の奥を指した。
こんな街の入口にあるような旅館、とてもじゃないが危なくて使えない。
ルキアはこの男を信用していいのかと考えながらも、おとなしくついて行く事にした。
そして海馬は――
(フンッ。優勝するにしても脱出するにしても、利用出来る者がいるに越した事はない)
ルキアを信用する気などなく、事を有利に進めるための道具としてしか見ていなかった。


「……何だ?」
雪山にあった洞窟の中、ふと異変を感じたフレイザードは、幻獣王ガゼルのカードを取り出した。
すると幻獣王ガゼルのカードの絵から煙が昇り、絵や名前が消えていく最中だった。
「さっきの轟音……まさかやられたのか?」
あの小娘の使った術とはずいぶん感じの違う音だった。ならば何者かと合流し、助力を得たのだろうか?
「チッ……やっかいな事になりやがったぜ」
まだ疲労の抜けきらないフレイザードだが、洞窟から出て西へと歩き出した。
自分にとって冬と雪の寒さなど何の障害にもならない。
核鉄のおかげで体力は少しずつではあるが回復している、歩いていても体力の消費より核鉄の治癒力の方が上だろう。
ならば体力の回復と獲物探し、両方一緒にやるほうが効率がいい。




【早朝】
【北海道札幌】
【海馬瀬人@遊戯王】
 [状態]:軽度の疲労
 [装備]:コルトパイソン・357マグナム残弾24発@CITY HUNTER
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1.安全な場所でルキアから情報を出来る限り引き出す。
     2.青眼の白竜のカードを探す。ルキアを襲った敵が持っている可能性を考えている。
     3.優勝・脱出を問わず元の世界へ帰る。元の世界で遊戯と決着をつけたいため可能なら遊戯とともに脱出。

【朽木ルキア@BLEACH】
 [状態]:かなりの疲労、右腕に軽度の火傷。
 [装備]:火竜鏢@封神演義
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1.とりあえず海馬について行く。
     2.仲間を集めてフレイザードを倒す。仲間は一護優先。


【北海道南西部】
【フレイザード@ダイの大冒険】
 [状態]:軽度の疲労、成長期・核鉄で常時ヒーリング
 [装備]:霧露乾坤網@封神演義、炎の剣@BASTARD!! -暗黒の破壊神-、核鉄LXI@武装錬金
 [道具]:荷物一式
      遊戯王カード@遊戯王(『青眼の白竜(次の0時まで使用不能)・サイコショッカー(罠破壊)他二枚』)
 [思考]:1.西へ向かって歩く。
     2.ルキアを殺して火竜鏢を得る。
     3.出会った参加者を出来る限り殺す。ダイ、ポップ、マァムを優先。
     4.優勝してバーン様から勝利の栄光を。

[備考]:幻獣王ガゼルのカードが消滅しました。


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073:最期に想うはビデオと 朽木ルキア 117:吹き荒ぶ戦場の嵐
073:最期に想うはビデオと フレイザード 117:吹き荒ぶ戦場の嵐

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最終更新:2023年11月19日 18:58