0101:京都観光しようかな ◆lEaRyM8GWs





とりあえず大阪へ行ってみよう、というのが海砂と城之内の考えだった。
人が集まる場所といえばやはり都市、そう思って琵琶湖を離れ歩き出した。
海砂に支給された仕込み傘は重く、女性には扱いにくいため、城之内が預かっている。
京都府南部までたどり着いた城之内達はいったん休憩しようと茶屋へ入った。
さすがは京都、風情あふれる美しい景色と建物。茶屋も落ち着いた雰囲気が素敵だ。
あえて言えば、美味しいお茶や甘味が出てくればなお万々歳なのだが。
茶屋の厨房や近くのお土産屋を調べたが、食べ物の類はひとつも出てこなかった。
仕方なく二人はデイバッグから食料を取り出す。
全員に支給されているだろう食料は人それぞれ違うらしく、
海砂の鞄にはカロリーメイトと菓子パン、城之内の鞄にはコッペパンがギッシリ。
どちらも普通に食べれば2日分はある。
「畜生ッ、俺は味気ないコッペパンだけ食ってろってのか!?」
愚痴を言いながら城之内はコッペパンをかじる。
ちゃぶ台の向かい側では甘いメロンパンを頬張る海砂。
何やらやりきれないものを城之内は感じていた。
「なぁ、メロンパンとコッペパン、1個交換しようぜ」
「えー?」
「海砂さんの傘持ってあげてるじゃないか」
「もうっ、仕方ないなあ。1個だけだからね!」

比較的平和な一時を過ごす城之内と海砂。
しかしその一時は笑い声に引き裂かれる。
「ハハハハハ! 素晴らしい、実にエレガントだ!!
 派手さは無いが風情にあふれるこの街並み、実に見事だよ!」

城之内と海砂は慌てて荷物をまとめ、息を潜めた。
声は外から聞こえる。
殺し合いをしろ、だなんて言われているのにあんな大声を上げる男。よほど腕に自信があるに違いない。
「どっ、どうする? とっとと裏口から逃げるか?」
「み、見つかってないみたいだしこのままやりすごせるんじゃない?」
「でも、もし食べ物を探してこの茶屋に入ってきたら……」
「不吉なこと言わ――」

「おお、これはなかなかいい雰囲気の甘味所だ。どれ、ちょっと覗いてみよう」

ガラガラと戸口が開く音。
城之内と海砂の顔が青ざめる。
「あっ、あなたのせいよ! あんな不吉なこと言うから現実に……」
「俺のせいか!? いや、それどころじゃない。早く逃げよう」
「で、でも独り言を聞く限りとても殺し合いをしそうな人には思えないし、説得できるかもしれないよ?
 城之内君、ちょっと行ってきてよ」
「えぇっ!? お断りだ、もしこのゲームに乗ってたらどうすんだ!」
「僕も興味があるな、どうするんだい?」
と、部屋の隅に身を潜めていた2人にかけられる声。
「ヒッ」と悲鳴を上げながら茶室の襖を見る。襖が左右同時に勢いよく開かれる。
そこには奇妙な服を着た金髪の紳士が立っていた。手には赤い棒を持っている。
「だっ、だっ、誰だあんた!?」
「僕の名は趙公明。君達は何というんだい?」
趙公明の紳士的な態度に警戒心をわずかに緩めながら、城之内は海砂を庇うように前に出る。
「俺は城之内ってんだ。こっちは弥海砂……あっ、あんた何者だ? ずいぶんおかしな服だけど……」
「おかしな? このエレガントなセンスを理解できないとは悲しいね。
 でもまあお互い違う世界から来ているようだし仕方ないかな? 君の服はカズキくんに似ている」
「カズキって誰だよ?」
「僕の身体に傷を負わせた前途有望な少年だよ。今度出会ったらゴージャスな戦いをしたいものだね」
不良として何度も喧嘩した事のある城之内は本能的に察知した、
趙公明がカズキという少年を思い浮かべて闘争心を燃え上がらせているのを。
こいつは殺る気だ。喧嘩が大好きな奴だ。力と力のぶつかり合いを欲している奴だ。
城之内は咄嗟に傘を突き出す。マシンガンの仕込まれている傘だ、これを食らえばお陀仏間違いなし。
傘の先端から弾丸が吐き出される。が、趙公明はその弾道を読んで事前に回避行動を取っていた。
「ほうっ、鉄の弾が飛び出す武器か。何かあるとは思ったがなかなか強力な物だね」
言いながら床を蹴って城之内に迫った趙公明は、如意棒で手首を殴打し傘を叩き落とす。
「ぐあっ!」
痛みを堪えながら城之内は顎目掛けて思いっきり蹴り上げるが、
趙公明が軽く顎を引いただけで空振りに終わってしまった。
「うーむ、カズキくんと違って君には期待できそうにないな。もっとエレガントに戦えないのかい?」
「うるせぇっ! 海砂さん、俺が引きつけてる間に早く逃げ……」
「彼女ならもう逃げたよ」
「何ィッ!?」
趙公明が指差した窓は開け放たれており、海砂の背中がどんどん遠ざかっている真っ最中だった。
そして角を曲がって見えなくなる。そりゃ逃げろとは言ったが、言う前に逃げる事はないじゃないか。
「嘆いている暇は無いぞ城之内くん!」
趙公明は如意棒で城之内の胸を突いた。
アバラが折れ、尖った骨が肺に突き刺さる。
「ガハッ!」
城之内は胸を押さえてヨロヨロと後ずさり、倒れる。
のどから灼熱が込み上げ、口から赤黒い液体がゴポッとあふれ出す。
「このまま苦しませるのも可哀想だ、楽にしてあげよう」
「……ゲホッ、ぐっ、遊……戯、しず……」
趙公明は如意棒を振り上げ、城之内の首に狙いをすまし、振り下ろした。

趙公明は置きっぱなしになっていた仕込み傘とデイバッグを拾い、血の匂いの満ちる茶室を出て中身を確認した。
「おお、これは美味しそうな食べ物だ。見慣れない物だが甘い匂いがする、点心かな?」
メロンパンを取り出した趙公明はそれを頬張る。
「ふむ、なかなかいける」
メロンパンを一個食べ終えた趙公明は水を少し飲んだ後、茶屋を出て周囲を見回す。
「夜明けか、美しい。だが観光するなら太陽の照る昼間の方がよさそうだな」
いつ誰に襲われるかも知れない状況下でありながら、趙公明が考えるのは京都観光。
殺し合いも楽しいが、エレガントな街並みを見て回るのも悪くない。
近くにある寺に入り、庭の美しさに瞳を輝かせる。
澄んだ空気の中、緑のコケに彩られた石や、枝の整えられた木々。
「美しい。しばらくこの庭を堪能してから動き出すとしよう」

海砂はハァハァと息を切らせながら、建物の陰にうずくまる。
城之内は無事だろうか? 自分を守ろうとしてくれた人を見殺しにするのは辛い。
しかし一番大事なのは月だ。生きて月と再会し、彼の考えに従う。そのためには死ぬ訳にはいかない。
もしかしたら趙公明が追ってくるかもしれないと考えた海砂は、疲れた足に鞭打って歩き出そうとする。
が、その前に水を少し飲んでおこうと鞄を開く。
するとコッペパンが入っていた。
自分の鞄にはメロンパンやカロリーメイトが入っていたはず。
なぜ?
答えは簡単、城之内の鞄と間違えて持ってきてしまったのだ。
自分の愚かさを呪いながらも海砂は考えを改める。
仕込み傘は城之内に預けてしまった、しかし城之内の支給品は彼が持ったままだ。
まだこの鞄の中に入っているのではと思い鞄を調べると、手のひらくらいの鉄の塊が出てきた。
XLIVと彫られているが、これはいったい何だろう?
説明書を探し、それが核鉄という治癒力を高める物だと知った海砂は、それを持って歩き出した。
なるほど、確かにさっきより歩くのが楽だ。あくまでも少しだが。
これを月に渡したらどう思うだろう? 彼の疲れや傷を癒してあげられるだろうか?
彼の笑顔を思い浮かべると、核鉄の癒し以上の力が身体の奥から湧いてくる海砂だった。
京都は危険、大阪も京都に近いから危ないかもしれない。漠然と京都から離れようと海砂は歩く。





【早朝】
【京都府南部】
【弥海砂@DEATHNOTE】
 [状態]:健康
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式、核鉄XLIV(44)@武装錬金
 [思考]:1.とりあえず京都を離れる。
     2.夜神月との合流
     3.夜神月の望むように行動

【京都府南部のお寺】
【趙公明@封神演義】
 [状態]:左足に軽傷
 [装備]:如意棒@DRAGON BALL、神楽の仕込み傘@銀魂
 [道具]:荷物一式×2(一食分消費)
 [思考]:1.太陽が昇ったらじっくり京都観光する。
     2.エレガントな戦いを楽しむ。太公望、カズキを優先。


【城之内克也@遊戯王 死亡確認】
【残り 112人】


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046:死帳万華鏡 弥海砂 171:奔る、奔る
059:妖艶の妖狐 趙公明 137:麗しき貴族”C"
046:死帳万華鏡 城之内克也 死亡

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最終更新:2024年08月15日 07:00