0117:吹き荒ぶ戦場の嵐 ◆SD0DoPVSTQ
「無理だ!あんな化け物に勝てる訳無い!!」
ルキアは目の前の男、
海馬瀬人に向かって叫んだ。
あれから街の一角に戻り今までの話を一通りしたのだが、それでも目の前の男は行くと言う。
「其奴が何であろうと、オレの誇り高き龍の僕を汚されてしまってはかなわん!」
コートを翻しながら海馬はいきり立った。
「奴が青眼の白龍を持っている可能性があるなら奪い返すまで!無くてもあのカードはオレにとって最高の武器になる」
「だが、彼奴は刀も効かない化け物だ!それに時間もないし、私の代わりに犠牲になった男の遺言通りにも……」
名前は知らないが自分の代わりに死んでいった男――
坂田銀時の遺言を思い出す。
『その武器をこいつに渡すんじゃねぇ!』
『火竜鏢! 頼む!』
あの化け物にこの武器を渡すわけにはいかない。
銀時の遺言だからだけではなく直感がそう告げている。
「――死んだ奴は所詮この舞台に相応しくなかった雑魚という事だ」
「なっ!!」
自分しか知らないがあの男の行動は決して間違っていなかった。
確かに不真面目で無鉄砲だったかもしれないがルキアの中ではあの瞬間、そして今でもヒーローなのだ。
それをあの現場を見てもいない男に侮辱されてはたまらない。
「巫山戯るな!この武器を彼奴に渡したらどうなるか位説明しただろ!」
「このオレを誰だと思ってる?既にオレの中では時間内に其奴に勝つ公式なんぞとっくに出来ているわ!」
彼はもう此方を見てはいなかった。
彼の視線の先は街の向こう、
フレイザードがいると説明された方向である。
冷たい風が吹きコートがばさばさと翻る。
だが彼は少したりとも震えもせず唯々睨んで立っていた。
思わずルキアはそんな彼から眼を逸らしてしまう。
奇しくも彼女の視線の先は北海道から本州へと繋がるトンネルのある方向。
「貴様如きが逃げようが逃げまいが結果は変わらん。だがその火竜鏢とやらは置いて行ってもらう」
ルキアは手に持った火竜鏢をぎゅっと握りしめた。
「――本当にこれがあれば勝てるのだな?」
「その賭けのチップがこの命であることくらい理解はしている」
ルキアはもう一度火竜鏢を握りしめると心の中で銀時に向かって謝った。
「――なら交換条件だ、私の命もチップとして賭けさせてもらおう」
最後に心の中でこの世界にいる全ての人に謝った。
仇を討ちたいというエゴの為に、最強のマーダーを仕上げてしまう可能性を作ってしまったのだから。
「クカカカカカ、此方から出向こうと思っていたが手間が省けたぜ」
「五月蠅い!貴様なんぞの気迫に負ける私ではない!」
そう言って強がってはみたものの体中が恐れをなして震えている。
あの後海馬の作戦とやらを聞いて自分なりに出来ることを提案してきた。
敢えて一人で堂々と出ていったのはその為だ。
その震えを抑えるためにも海馬から受け取ったコルトパイソンの照準を相手に向けた。
「なんだか知らんがそんな物でオレを倒そうって言うのか?へっ、震えてまともに狙いも付けられない癖にな」
「黙れっ!」
1発、2発、3発。
狙うは相手の目。
見た感じ岩で出来ていない様に見える唯一の箇所だ。
天が味方したのだろうか、ぶれる照準の中で1発相手の顔面に命中した。
「効かねぇなぁ。それよりあの炎のアイテムはどうしたんだ?」
核鉄の力によって唯でさえ高い再生力を増幅され、撃たれた傷が再生する。
フレイザードがルキアに左手を伸ばした瞬間……
「其処のデカ物、オレが直々に相手をしてやる光栄に思え!」
手にあの火竜鏢を持った男が少し離れた場所に立って叫んでいた。
「そうか貴様が合流した奴か。愚かにも自分からのこのこと殺されにきやがって……」
そう言いつつ右手を右半身に伸ばす。
「愚かなのは貴様の方だ!」
フレイザードに向かって海馬瀬人が火竜鏢を投げつける。
「虫螻如きがっ!」
咄嗟に右腕の宝貝『霧露乾坤網』を発動させ、大気中の水分を掻き集め自分の前に小さな水の盾を作り出す。
が、それを予測したかの様に火竜鏢はふわりと浮き上がり盾の上空に通り過ぎると、
いきなり急降下を始め体の中からカードを取り出していた右手に当たった。
「グォ!!」
炎属性の火竜鏢は氷の右腕にとっては天敵であった。
極寒地という地形で強化された右腕であり、しかも相手は一般人であるので切断だけは免れたが、鋭い痛みと共にカードを地面に落としてしまう。
「海馬コーポレーション社長のこのオレがこの程度の稚具を扱えぬとでも思ったか!」
予め予測不能の起動を描くブーメランと聞いていたので、形から動きを予想するのは玩具メーカーの社長にはいとも容易い事であった。
その隙にすかさずルキアはカードを拾い、苦しんでいるフレイザードの脇を駆け抜ける。
「これで良いんだな、海馬瀬人?」
「――あぁ充分だ。もうお前の用は済んだ。足手まといにならない内に下がってろ」
自分に手渡された数枚のカード、そしてその中の青眼の白龍を見つめそう答える。
「糞っ!人間如きにオレがまんまと!」
右腕のダメージを回復させながらフレイザードは二人の人間を睨み付けた。
「記念に貴様に一つ教えてやろう。決闘は絶対的な相手をねじ伏せる力も確かに必要だ。
だが、それを有効利用するための戦術という物もまた必要なのだ」
予め離れて二手に別れて出てきたのは、今までの情報から二人一遍に相手をするにはカードを使用してくる可能性が高いと踏んだから。
そしてカードを使用する際には燃えないように右半身に収納、そして取り出すのも右腕と、姿さえ聞いていれば容易に予想できた。
下手に避けたら胴体にダメージを与えられる必殺コンボ。
その為の火竜鏢である。
ルキアが見た今の彼の表情はフレイザードのそれと同じ、勝利への拘りとそれを見据えた笑みであった。
「貴様に再度決闘――デュエルを申し込む!このオレ、海馬瀬人が真のデュエルとやらを見せてやろう!」
手に持つ四枚のカードを一別して海馬は叫んだ。
「いでよ!忠実なる我が僕、ミノタウルス!」
命令と共に牛頭の化け物が姿を現した。
「ククク……やはりこの方法でよかったのか」
闇遊戯とのゲームの時もそう、それから自社で作ったシステムもそう。
自分たち、海馬と遊戯がこのゲームに選ばれたのならモンスターの召喚方法はそれしか思い浮かばなかった。
「奴を切り裂け!ミノタウルス!!」
巨大な斧を構えながら雪原を駆ける獣人。
「くっ!メラゾーマ!!」
ミノタウルスを撃破するつもりで放ったメラゾーマであったがミノタウルスの斧によって真っ二つに切り裂かれる。
「ミノタウルスの斧に炎の攻撃が通用すると思ったか!」
再度駆け出す化け物、ミノタウルス。
だが、一方の化け物、フレイザードの笑みは消えてはいなかった。
斧には剣を。
左腕に隠された炎の剣を身体から出す為に力を集中させる。
「カードオープン!人造人間サイコショッカー!!」
中指と人差し指でカードを挟みカードを反転させ相手に見えるようにする。
瞬間現れたサイコショッカーから光が放たれ、フレイザードの左腕に隠されていた炎の剣が爆発する。
勿論その隙を逃がすはずもなく、無数にひびの入った左腕にミノタウルスの斧が下ろされ砕かれる。
「ハハハハ、どうだ真のデュエルの駆け引きとやらの味は?!」
ミノタウルスとサイコショッカーの二体のモンスターを従え余裕の表情で、苦しむフレイザードを見下ろす海馬。
「奴を押さえつけろミノタウルス!」
左腕を失ったフレイザードをミノタウルスが羽交い締めにし、動けなくなったフレイザードに対し火竜鏢を投げ付け右半身に突き刺す。
「これで、その水を操るアイテム使うにも集中できまい!!」
海馬瀬人は勝利を確信し、高笑いを上げる。
「まぁ早くも探していた物に再会できた礼として、貴様はこれ以上の痛みを感じぬままこの世から消し去ってやろう。
出よ我が最強にして誇り高き龍の僕『青眼の白龍』!!」
高らかにカードを掲げモンスター名を宣言する。
しかし、唯一彼の愛したモンスター、青眼の白龍のカードからは何の反応も起きず、唯々吹きすさぶ北国の風にコートを翻しているだけであった。
その瞬間をフレイザードの眼は逃さなかった。
「たかが一人の人間如きにこの技を使うときが来ようとはな!弾岩爆花散!!」
その呪文と一緒にフレイザードの身体が爆発し、辺り一面に飛び散る。
その細かく砕かれた破片は近くにいたミノタウルスとサイコッショッカーにまともに浴びせかけられ、
一定以上のダメージを与えられた二体のモンスターは消滅する。
「わぁぁぁぁぁ!!」
「くっ!」
爆風に煽られ飛んでいき気絶するルキア。
海馬は爆発時にサイコショッカーに直撃ダメージを壁となって防いでもらっていた。
「……自爆したのか?」
爆風が収まって眼を開いてみると其処には無数の岩の破片が散らばっていた。
「ふはははははは、勝った!勝ったぞオレは!!」
湧き出る勝利の実感を噛みしめる海馬、だが……
「ぐはっ!!」
突然後ろの岩が自分の身体を貫いて空中へと飛んでいった。
「馬鹿め!勝ったのはオレ、氷炎将軍フレイザードだ!!」
空中にフレイザードの声が木霊する。
「馬鹿な……」
「あん、卑怯?んなもん勝つことに比べれば小さいことだ」
がくりと膝を付く海馬。
「デュエルの駆け引きと言ったなぁ、これがオレなりの駆け引きだ。クハハハハハ」
「――遊戯……貴様なら、貴様ならこの手のタイプの奴でも……がはっ」
身体を貫かれつつ喋り、内臓への負担によって吐血する。
「まぁ貴様からは駆け引きの重要さという物を教えて貰った、遠慮なく死ぬがいい!但しオレ以上に苦しんでな!!」
周りの砕かれた破片が海馬の身体に襲いかかる。
下から上に。
海馬瀬人の身体はその衝撃で浮き上がらされ、血飛沫を撒き散らしながら空中で踊らされ続けた。
「脆い、脆すぎる。苦しませて楽しむ前にいっちまいやがったぜ」
後には再結合したフレイザードと、最早その原型を留めていない海馬の身体だけ残されていた。
「この技をこんな序盤から使う羽目になるとはな!」
再生は核鉄の力が手伝ってくれるが、弾岩爆花散後の再結合は体力と寿命を消費するだけで再生は全く関係ない。
ダメージは消せても、疲労は核鉄によって回復出来ないのだ。
その為多大に疲労したフレイザードは落ちていた霧露乾坤網と核鉄、そして火竜鏢を拾い上げると、
憎らしげに元海馬の身体であった物体を蹴りつける。
ごろんと転がる海馬の死体。
その血の海の中で傷一つ付いていない青眼の白龍のカードが眠っていた。
「遊戯……遊戯と言ったな。そいつもお前から教わった駆け引きとやらで倒してやるぜ。クハハハハハ」
残虐の北の大地。
その地に立つ者は既にフレイザード一人になっていた。
【朝】
【北海道西部】
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]:重度の疲労、成長期、核鉄で常時ヒーリング
[装備]:霧露乾坤網@封神演義、火竜鏢@封神演義、核鉄LXI@武装錬金
[道具]:荷物一式
[思考]:1.禁止エリアに指定されたので一刻も早く脱出する
2.出会った参加者を出来る限り殺す。ダイ、ポップ、マァム、遊戯を優先
3.優勝してバーン様から勝利の栄光を。
【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]:かなりの疲労、右腕に軽度の火傷、気絶中
[装備]:コルトパイソン・357マグナム残弾21発@CITY HUNTER
[道具]:荷物一式
[思考]:1.気絶中
[備考]:青眼の白竜《次の0時まで使用不能》ともう一枚のカードは海馬の死体に抱かれています。
遊戯王カードサイコショッカー、ミノタウルスのカードは消滅しました。
【海馬瀬人@遊戯王 死亡確認】
【残り109人】
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最終更新:2024年08月20日 16:41