0122:捨てる破壊神あれば拾う死神あり ◆dX0vnX3NOo
「ハァ、ハァ………クソッ、思った以上に消耗してやがる」
海馬を屠った後、
フレイザードは忌々しげにごちた。
右半身から突き出る氷も、左半身から噴き上がる炎も今は消えている。
先刻までこの化け物が発していた、見るものに圧倒的な畏怖を与えるであろう禍々しい威圧感は影を潜めていた。
海馬の荷物を焼き払おうとメラミを唱えるが、消耗の激しさからか、指先からはメラにも劣る矮小な火の玉しか飛んでいかない。
「クソッ、虫ケラが…なめたマネしやがって!
………だが…」
海馬に対して怒りを募らせる一方、フレイザードは考える。
炎の如き凶暴性をもってすでに5人の参加者をその手にかけたこの化け物は、同時に氷の如き冷静さをも兼ね備えていた。
「今の戦い…こいつが青眼の白龍を呼び出してやがったら、勝てなかったかもしれねえな」
言いながら、海馬の亡骸とその血に染まった二枚のカードに視線を落とす。
「クックック…こいつは知らなかったみてえだがな。一度使ったカードは24時間経たねえとまた使えねえってコトをな!
まったくついてやがるぜオレ様は! クヒャハハハハハッ!!」
嬉しくてたまらないといった様子で、フレイザードは二枚のカードを拾って右半身に隠した。
「…あの小娘がいねえな。どこに消えやがった」
辺りを見回すが、黒服黒髪の少女の姿は無い。
(さっきの弾丸爆花散を食らって吹っ飛びやがったのは確かだ。
だが、こいつと戦っている最中にはオレの注意は小娘にまでは行ってなかった。
この辺りに隠れてやがるのか? それともオレが戦ってる間に逃げやがったか……?
捜しに行くことはできる。しかし、今は体力をかなり消耗していやがる。
今の状態でもあの小娘程度のザコを殺すぐらいワケはねえだろうが……
万一、途中で格上の敵にでも会ったらまずい。
第一、時間がねえ…! )
「…ケッ、まあいい。小娘が持ってた火竜鏢は手に入ったし、
いつまでもここでグズグズしてたら首輪がドカンだ。とっとと移動しねえとな……」
緩慢な動作で、本州へ向けてフレイザードは歩を進め始めた。
化け物の冷徹なはずの頭脳が導き出した答えは、しかし――皮肉なことに、
彼(?)の言う小娘にとってしかプラスにならないものだった。
そして、化け物はさらに自分にとって皮肉な事態が起きていたことに気付いていなかった。
数多の礫でできた体。その右半身、体力の消耗のせいかわずかに結束力の緩んでいた脇腹の隙間から、
青眼の白龍のカードが――――抜け落ちていたことに。
「…う………」
深く埋もれた雪の中から、黒髪に黒い着物の少女がのそりと起き上がった。
まだ少しぼんやりする頭が、次第に先ほどまでの出来事を思い起こしていく。
勝つ公式はできている、と絶対的な自信をもって言い放った海馬という男。
その言葉を信じ、あえて目立つよう遮蔽物のない街の外で化け物を迎撃し。
あの男が二匹の怪物を呼び出し、化け物が押さえ込まれ。
止めを刺そうとあの男が何か言ったとき、勝ったと思った。
その刹那―――
「……そうか、私は爆風に吹き飛ばされて…
…化け物は…あの男はどうなったのだ!?」
せわしなく周囲を見回すルキアの視界に、少し離れた場所で何か横たわっているものが入った。
慌ててその場に駆け寄るルキア。
そして、その“何か”が何であるかを知ったとき――――――ルキアは驚愕に目を見開いた。
「…海馬……」
全身の力が抜け、思わずその場にへたりこんでしまった。
(何ということだ…白髪頭の男に続き、此奴まで…
……この男、態度は傲岸不遜だったが…白髪の男と同様、悪人ではなかったのに……)
「…せめて…墓ぐらいは作ってやらねばな……」
海馬の無残な亡骸を前に、
半ば気の抜けたような声で――しかし哀悼の念をこめて、ルキアは弱々しくつぶやいた。
(この男に…私がしてやれることなど、最早それぐらいしかあるまい…)
そう思い、亡骸の右半身を抱え起こすルキア。凍りついた海馬の血が、パラパラとひび割れて落ちる。
血と一緒に、亡骸の右手にされていた時計が落ちた。時計に目が行き、何気なくそれを拾い上げる。
時刻は7時30分前を示していた。
!!
それを見た刹那、それまで頭から抜け落ちていた極めて重大な事実に気がつく。
8時からの禁止エリアに今自分がいる北海道が含まれている、ということを。
一刻も早くここから移動しなければ!
火竜鏢が見当たらないが…探している時間はない!
「…っ……済まぬ………!」
物言わぬ海馬に絞り出すような声で詫びると、ルキアは荷物と武器を手にその場を駆け出した。
(結果的に私を救い、その為に死んでいった二人。奴等の行為を無駄にしない為にも。
そして、この世界のどこかにいる彼奴…
生意気で単純だが、間違いなく私にとって最も心強い存在…一護と合流する為にも。)
「こんな所で…死ぬわけにはいかぬ…!」
体力はあまり回復していなかったが、先程まで彼女を支配していた悲痛な気持ちの中から奔流となって湧き出た生への渇望が、
ルキアに先へ進む力を与えていた。
「ん…?」
そのすぐ後。南西に向かって進むルキアの目に、少し前方に落ちている血に染まった一枚のカードが留まった。
「これは…」
拾い上げて見ると、血で汚れてはいるが青眼の白龍という文字と怪物の絵が見て取れる。
「海馬が怪物を呼び出そうとした札…なぜ、このような場所に…」
あのとき…海馬が呼び出そうとした怪物は現れなかった。
他にも二匹怪物を呼び出していたが、そのときもこの怪物を呼び出そうとしたときも名前を呼んでいた。
なぜこの怪物は現れなかったのか…?
「……考えたところで分かるまい…な」
(この札は、使うためには名前を呼ぶ以外に何か特別な条件が必要なのかもしれぬが…
『俺にとって最高の武器になる』と海馬は言っていた。
…持っていたほうがよいであろうな。)
そう結論づけたところで思考を中断し、再びルキアは駆け出した。
息を切らしひたすら駆け続けながら、なおもルキアは考える。
(あの化け物は…自爆した…しかし、死んだのだろうか…
整が虚になるときは一度爆散したあと新しく体が形成されるが…
あの化け物にも、似たようなことが出来るのかもしれぬ。
………あの化け物は、簡単にくたばるとは思えぬ…
火竜鏢が見当たらなかったのは、奴が生きていて持っていってしまったからなのではないか?
もし…再び奴に遭遇してしまったとき、どうすればよい…?
この札を使うことができれば、あるいは…何とかなるだろうか…
……そういえば、海馬が言っておったな。
私を追ってきたのは遊戯の幻獣王ガゼルというモンスターだった・とか……
遊戯という者は、海馬の仲間だろうか?
そうであれば…この怪物を呼び出す方法を何か知っているかも…
…いや、例え遊戯という者でなくとも…誰か、この札の使い方を知っている者を仲間にできれば…)
考えながらも懸命に駆けるルキア。
やがて、本州と北海道を結ぶ青函トンネルが、視界の奥から徐々に現れてきていた。
【朝:7時50分前後】
【青森県】
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]:中~重度の疲労、成長期、核鉄で常時ヒーリング、南方へ移動中
[装備]:霧露乾坤網@封神演義、火竜鏢@封神演義、核鉄LXI@武装錬金
[道具]:支給品一式、遊戯王カード1枚(詳細は不明)@遊戯王
[思考]:1.核鉄で体力を回復させつつ南へ進む。 強い敵との戦闘は避ける。
2.出会った参加者が現状でも殺せそうなら殺す。ダイ、ポップ、マァム、武藤遊戯を優先。
3.優勝してバーン様から勝利の栄光を。
【北海道・青函トンネル前】
【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]:かなりの疲労、右腕に軽度の火傷(雪に埋もれていたことで若干良くなっている)、移動中
[装備]:コルトパイソン357マグナム 残弾21発@CITY HUNTER
[道具]:支給品一式 ・遊戯王カード(青眼の白龍・次の0時まで使用不可)@遊戯王
※ルキアは青眼の白龍は名前を呼ぶだけでは使えないと思っています。
[思考]:1.禁止エリアに指定されたので一刻も早く本州へ移動する。
2.青眼の白龍を使うことのできる仲間を探す。黒崎一護、武藤遊戯を優先。
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最終更新:2023年12月09日 01:40