0162:彼の星が蒼く輝くとき◆HDPVxzPQog
真崎杏子は、戸惑っていた。
突然、現れた男――クロロ=ルシルフルを前にして。
一見、温和な、多少カッコいい事を除けば、普通の男のように思える。
けれども、先程も同じように思えた女(ロビン)に道具一式を奪われたのだ。簡単に信頼は出来ない。
どちらかと言えば自分でも気丈だと思っている杏子だけれど、固まってしまっていた。
敵なのか味方なのか、味方を装った敵なのか――
「やあ、お嬢さ」
「何が目的なの?
私、貴方の役に立つようなもの、何も持ってないわ」
盗られちゃったんだもの、とクロロの言葉を遮って言い放つ。言って「あっちゃあ」と口元を押さえつけた。
相手の出方を待つつもりが、余程焦ってしまっていたようだ。
ほら、出鼻を挫かれた男も不審な顔を――
「それはそれは、大変だったんだ?
オレもね、見たことのない場所に無理矢理つれてこられて、どうしようかなって」
予想を裏切って微笑んでいたのだ、目の前の男は。
「何暢気なこと言ってるのよ!」
焦燥しきっている自分に比べ、目の前の男といえば、まるで落ち着き払っているのだ。
「ここが如何いう場所だか知っているの?
殺し合いよ、殺し合いさせられているのよ、私たち!
私はそういうつもりはないけれど、中にはこのゲームに乗っちゃった人もいるんだから!」
この男は未ださしたる危険にも遭遇していないに違いない。でなければこのような太平楽な台詞が吐ける筈もなかった。
自分といえば、つい先刻荷物は奪われ、放送によって友人の、城之内の死を―― そうだった。
確認するまでもなかったことを、口に出してしまい、また、心に黒い闇が迫る。言い寄る気力も、削がれる。
少女の狼狽に合わせて、面持ちを同情するような表情にシフトさせながら、
クロロ=ルシルフルは心の中でほくそ笑んでいた。
近くに感じられた二組のオーラの内、小さな方に先に接触したのには、幾つかの理由があったが、
最も大きな理由は、
もう一組と接触する前に、可能な限り『無力な』ものと行動を共にしているという事実が欲しかったからである。
このゲームは便宜上戦闘ゲームではあるけれども、参加者の多くが初めから殺人鬼・
戦闘狂の類ではないようだ。
それは最初の刻に『主催者』に歯向かった少年の存在を見ても分かるし、
また、目の前に居るようなか弱い少女が参加させられているという点を見ても明らかだ。
ならばこそ、この少女にも使いようはある。
『無力な少女と行動している自分』は一見、ゲームに乗っているようには思われまい。
クロロの能力――
盗賊の極意(スキルハンター)は、どの局面に対しても酷く有用なものではあるが、
無闇に相手を殺し続けるわけにもいかぬという枷がある。『"生きている"相手の能力を盗む』ものだからだ。
対象と接触し、殺さずに其の相手と別れねばならない。ならば、この少女を使える場面も生じてくる。
――精々、利用してやるさ。
内心の高揚を漏らさぬようにしながら、人好きのする笑顔を浮かべた。怯え続ける少女の、心を溶かすために。
「まあ、まあ。そう慌てていてはオレも何が何だか分からないよ。
オレは、君を殺すつもりはないし。
オレが分かるのは、君が如何やら荷物を失っているということだけだ。
其の辺りの話も詳しく聞きたいし、ところで、」
"お腹空かない?"と言いかけたところで、自分を見る少女の瞳が凍り付いてしまっていることに気づいた。
自分を見る――? 否、少女は、自分の後ろの茂みに釘点けになっている。言葉も失って。
ガサ、と踏み分けるような、音がした。何者かが現れたような、そんな音。大きさから言って、唯の動物ではなかった。
――もう一組の方、ね。案外早かったな。出来ればこの娘と、もう少し親交を深めておきたかったが。
気づいているのは自分だけかと思っていたが、相手の方も何か"凝"に類する探知手段を持ち得ているのかもしれないな。
そう思わせるほど、発見されるのが早かった。確かに、少女との接触を決めてからは、"凝"を絶っていたが――
「何をそんなに驚いた目をしているんだい?
誰か、オレの後ろの方に――?大丈夫、驚くことはないさ」
現れるのは、このゲームの中で手を組んでる奴等だ。突然攻撃してくることはないし、交渉も可能な筈。
"無力な"少女と行動を共にしている自分には、少なからず油断する筈だ――
全てが自分の思う通り、巧くいっているのを感じながら、クロロは後ろを振り向く。
然し、其の目に映ったのは、
予想を遥かに超えた巨大な影。筋骨隆々とした一つの巨漢。
世界に名を轟かせる幻影旅団の盟主として、有数の実力者を自負するクロロでさえ、
刹那、足の震えるを止めることの出来ぬ――
それは"男"に生まれたならば、仕方ないことなのかもしれなかった。
誰もが一度は憧れ、誰もが夢破れる、理想の猛者像。最も単純(シンプル)な『最強』の形が、そこにあった。
「一人は男か。ならば何者かは問わぬ。
この拳王の拳によって冥府に送られる事を誇りと思うがいいわ!」
現れた拳王――ラオウは、二名の前に威風堂々と佇めば、クロロの出方を静かに窺う。
背を向けた相手に、不意を撃つなどの卑怯はけして行わぬ。相手は、クロロ一人のみ。
震える杏子の姿など、初めから眼中にさえなかった。
「……下がって。相手はオレにしか、興味がないようだ」
涙目の杏子を手で制止しながら、クロロは自分の運の無さを呪った。
3人を見つけたからといって"凝"を絶ってしまったこと。"円"程の探知能力がないことは、分かっていたのに。
少女を囮にして逃走する、という方法もないではないが、敵は杏子のことを気に掛けてさえいない。
背を向けた途端、貫かれて、死ぬ―― ぞくりとした、予感。
クロロ自身も格闘技術にある程度の自信はあるが、目の前の男は―― 桁が違い過ぎる。
対峙したまま"予知眼(ヴィジョン・アイ)"で予測する全ての行動が、後一歩の所で、自分の死に繋がる。
相打ちで良いのならば、手段は幾らでもあるかもしれん。
けれど、このゲームでは"生き残らなければ"、敗北なのだ。
――未来が見えるってのは、良い事ばかりじゃないんだな
考えれば考えるほど、苦笑が漏れた。
正面切って戦いを挑むのは、得策ではないな。ならば、如何する?
「逃れ得ぬ自らの死を悟ったか」
構えたまま動かぬ、否、動けぬクロロを見遣れば、口元を歪めた拳王は高く、指を天に向けて伸ばした。
「ウヌには北斗七星の脇に輝く、あの星が見えているのだろう?」
「…………答える必要はない」
――"容易に相手の問い掛けには返答してはならない"
似た"
ルール"を持つクロロならば、当然の選択だ。指し示された空さえ、見ることはなかった。
ただ、代わりの言葉を、短く返した。
「アンタの言う星の有無は判らないけれども、オレには別のものが見えている。
いつでもオレを殺せると、余裕綽々のようだが―― 出来れば構えた方がいい。直ぐにな」
こめかみに人差し指を挿す仕草、挑発するように見せ付けて、クロロは時を待った。
"自分が見た光景が確実に生じる時"を。
「フハハハハハハ!吼えるわ、一介の羽虫風情が!
ならばせめてもの情け、一撃をもってして粉砕してくれ――ぬ!?」
拳王の言葉は最後まで言葉にならぬ。瞬時、屈強な上体を包み込む青色の輝きと衝撃。
横合いから撃ち出された光の塊―― 霊丸(レイガン)の強襲だった。
「やったか、幽助!?」
「いや、まだわからねえ」
トレインの逸(はや)る言葉に、光の残滓の残る指を鎮めながら、幽助は肯定も否定も出来ずに居る。
先刻感じた僅かな気配を頼りに向かった先には、三名の人間が対峙していた。
片方は青年と少女。片方は、筋肉の塊のような巨漢。正に一触即発、尋常ならぬ雰囲気だった。
――あの肉の塊の方がゲームに乗ったんじゃねえ?
そう言い出したのはどちらだったかを、幽助は覚えてはいなかった。どちらにせよ、オレの意見に遠からず、だ。
"か弱い少女を守るために、青年が立ち向かっている" そうとしか思えない光景。
ならばやるべきことは一つ、考えるよりも早く、幽助の指先は輝き始めていたワケで――
「よもや伏兵めが潜んでいるとは、不覚を取ったわ」
立ち込める土煙の向こうに、依然変わらぬラオウの姿がある。
身にまとう強大な闘気は、撃ちだされた霊気の威力を軽減し、其の幾らかを無効化する。
全身に激しい痛みを覚えるものの、仕掛けた戦いを放棄せねばならぬ程の手負いではなかった。
ならば、闘技続行に支障なし。
多少、場に放られたコマが増えただけのこと。
全てを粉砕する拳を握り締め、拳王は不敵な笑みを浮かべた。
少女と、盗賊と、拳王と、探偵達と。
運命に翻弄される彼らの対峙する空。
北斗七世の傍らに、誰のものか――蒼星が瞬いた。
【栃木県/午前】
【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
[状態]左腕に軽傷
[装備]ウルスラグナ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾二発)
[道具]荷物一式
[思考]1:ラオウに襲われている二名を救出
2:スヴェン、イヴ、リンスを探す
3:幽助に協力する
4:ゲームからの脱出
【浦飯幽助@幽遊白書】
[状態]健康(頭部軽ダメージはほぼ完治)
本日の霊丸の残弾2/4
[装備]新・無敵鉄甲(右腕用)@るろうに剣心
[道具]荷物一式
[思考]1:ラオウに襲われている二名を救出
2:桑原、飛影を探す
3:トレインに協力する
4:ゲームからの脱出
【真崎杏子@遊戯王】
[状態]歩き疲れ、ラオウの出現に困惑
[道具]無し
[思考]1:ロビンを追う
2:遊戯、海馬を探す
3:ゲームを脱出
【クロロ=ルシルフル@HUNTER×HUNTER】
[状態]健康
[道具]荷物一式(支給品不明)
[思考]1:能力、アイテム、情報などを盗む
2:ラオウの襲撃から逃れる
3:霊丸(レイガン)を盗む
4:可能ならば杏子を利用
[盗賊の極意]:予見眼(ヴィジョン・アイ)
【ラオウ@北斗の拳】
[状態]:胸元を負傷、霊丸による多少のダメージ(闘気で軽減)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、不明
[思考]:1.目の前の事態に対処、打倒する。
2.いずれ江田島平八と決着をつける
3.主催者を含む、すべての存在を打倒する(ケンシロウ優先)
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最終更新:2023年12月23日 04:43