0148:Fact or Fiction ◆Oz/IrSKs9w





(…!この臭い、こいつは…)

両隣を林に囲まれている起伏の激しいアスファルトの道路を一人行く巨漢の男、海坊主は…静かな風に乗って微かに届いた異質な臭いに足を止める。

「近いな…」
林の方へ向いて様子を窺うようにしばらく動きを止めた後ぽつりとそう呟くと、その大きな体を感じさせないような身軽な動きでガードレールをひらりと飛び越える。
パキパキ、パキパキと落ち葉を踏みしめながら、ゆっくり林の中へと足を踏み入れていく…




遡る事早朝、謎の若い女からの襲撃を受けて速やかにその場を離れた後、海坊主は移動を続けつつもいくつかの建物を探索していた。
その目的は銃火器やその他武器になりそうな物と、香・冴子・リョウたちを探す為である。

何カ所か探索したがどの場所でも収穫らしい収穫は無く、琵琶湖から離れて最初に立ち入った小さな一軒家の中の、
家具類も何も無いがらんとした空き部屋で朝食を摂っている最中、その悪夢とも言える…死者を告げる声は、響いた。



「な…んだとっ!!?」

己の中で時が止まる。

「死ぬ、わきゃ…ねえだろ!」
奥歯を噛みしめ、食べかけの保存食の缶を中身ごと床に叩きつける。
「死ぬわきゃ…ねえだろ!あの、百回殺しても死なないようなバカが!」
抑えきれない感情をぶつけるかのように床に向けて拳を強く打ちつける。


そんな海坊主の怒りの様にも関係なく、次々と死者の名が告げられていく。
呆然としながらも流れていくゲーム脱落者たちの名前…
結局、知っている名は冴羽リョウだけであった。

「…大嘘付き共が…!」
彼は信じない、受け入れない。
どんな逆境をも越え、どんな危機でも幾度となく生き延びてきたリョウと香のコンビを長く見続けてきた彼にとって、そのような戯言は到底信じられる物では無かった。

「くそったれが…!」
激しい動揺を感じながら憎々しげに天井を向き、吐き捨てるように声を漏らす。
(ブラフに決まってやがる!チッ!香のやつがこんなの聞いちまったら…)

頭をよぎる、過去。
沈みゆく大きな船の中、リョウが一人で船内に残されて船と共に命を散らしたかと思われたあの時…
香は沈みゆく船に向かってまるでこの世の終わりであるかのようにリョウの名を叫び、涙した。
頭をよぎる、その時の香の声…

「…そうか」

気付く。
このブラフを聞けば、あの時と同じように香は絶望してしまうだろう。
考えたくはないが、自ら命を絶つかもしれない。
そうではなくとも、自暴自棄になりゲームに乗った奴に簡単に殺されてしまうかもしれない。
香の場合は考えにくいが、もし違う者が親しい者の死を知った場合は、復讐を考えてゲームに乗る者が出てしまってもおかしくはない。

それらの可能性を考え付き、海坊主は『確信を得た』と言わんばかりに口を閉ざして前を向く。

「あの…くそったれ共がッ!」
ゲーム開始前の主催者たちのあの下等生物を見下しているかのような嫌な笑いを思い出し、怒りと苛立ちを露わにして声を荒げる。

もはや食事を続ける事も頭から全く消え、海坊主は急いでその場を後にする。
一刻も早く、主催者の悪計を止めるために。




(…結構時間が経ってやがるな)

そして、時は四時間ほど後の現在。
周囲に人の気配は全く無い森の中で海坊主は異臭を辿っていき、おそらく臭いの元であろう場所へとたどり着いた。

海坊主は目が見えないというハンデは負っているものの、
そのハンデを補うために通常より遙かに発達した視覚以外の五感を頼りに、その普通の人間には気付き難い僅かな異臭を嗅ぎ付ける事が出来た。

(周囲に死体は無い。戦いがあったのは確実のようだが…しかし…)

嗅ぎ付けたのは二つ。
乾いた血の臭いと…微かな硝煙の名残り。

少し身を屈めて血の臭いの出元を探すが死体や死体や体の一部などは一切見つからない。
地面におびただしい量の血が飛び散っただけであろうとの当たりを付け、続けて硝煙の出元を探す。


「…!!」
地面をまさぐる手に硬く冷たい物体が当たる。

「弾は…まだ有るな。よし…」

それは彼が最も欲していた種類の武器…まごう事無く銃火器である、マシンガン。
すぐ近くに落ちていた参加者のカバンを見つける事もでき、その中からマシンガンの弾や食料類の回収も行ってから少し推理する。
(状況から考えるなら…ここで戦いが起こって怪我人が出て、そいつが相手から逃げ出した…もう一人も急いで追いかけてった、ってのが妥当か?)

しばらくの間いろいろと可能性を探るが結局ヒントが少なすぎて結論は出ず、
海坊主自身も推理する事自体にあまり意味は無いであろうとの結論にたどり着き、周囲を捜索してから元の道へと引き返す。

万能の神などこの世にはいない。
この状況…人間であれば、今ある材料・今持ちうる情報から推理するしかない。
それが的を射ていたにしろ、間違いであるにしろ。

それでもその巨漢の男は、必ず間に合うと信じて歩みを止めない。

マシンガンを背に、その巨漢の戦士は戦場を一人往く。





【福井県/昼】

【伊集院隼人(海坊主)@CITY HUNTER】
[状態]健康
[装備]:排撃貝(リジェクトダイアル)@ONE PIECE(ただの貝殻だと思っている)
    ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(道化のバギーの物を回収)
[道具]:荷物一式(食料・水、九日分)
    超神水@DRAGON BALL
[思考]1:銃火器類を探す
   2:香・冴子・リョウを探す(放送は信じず)
※荷物一式は道中でカバン一つにまとめました。


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085:見えない価値 伊集院隼人(海坊主) 196:揺れる空 ~前編~

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最終更新:2024年01月14日 23:12