0180:選別 ◆GzTOgasiCM
サガ…あんたはまた死んでしまったんだな…これで三度目だぜ。
一回目、そう、あの十二宮での戦いで正義と悪の心の葛藤の中、アテナ、沙織さんに詫びて死んだ。
二回目はハーデスにより、仮初の命を与えられ、逆賊の汚名を着ながらもアテナと地上の平和のために戦って、
俺達の腕の中で塵となって消えた。
そして今回だ。ははは、笑えるよな…今度こそ、アテナの名の下に地上の愛と正義のために戦える…はずだったのにな。
たとえまたハーデスに与えられた命だったとしても。この世の生きる全ての生命を邪悪なものから守護する。それが聖闘士の使命だから。
さぞ…無念だったろうな…サガ、俺もあんたと一緒に戦いたかったよ。今度こそハーデス達主催者を倒すため、
黄金聖闘士の長のあんたと肩を並べて、金色の光を放つ聖衣を纏ったあんたの大きな背中に身を預けて共に戦える、と思ってたんだぜ…俺。
だけど、安心してくれ。サガ、あんたの無念は俺が晴らすよ。聖闘士としての役目をきっと果たしてみせる。
まだ見ぬ仲間を集めて、ハーデス達を倒してみせる。絶対にいるはずさ、俺たちのように正義のために戦う人たちが。
そして、皆で元の世界に帰るんだ。光溢れるあの世界へ。
そしたらさ…おれ、沙織さんにちゃんと言うよ。あんたはきっと正義のために戦ったってことを。
だから…見守っていてくれ…双子座の黄金聖闘士、ジェミニのサガよ…
「…ここは」
星矢は目を覚ますと辺りを見回す。木造の建物に申し訳程度にあるベッドに、自身がうつ伏せになっていた机。
あとは日光で変色したタンス。ベッドには麗子が横たわっている。その美しい金髪に窓辺から日差しがそそぎ、麗子をより美しく見せる。
だがその反面、顔はとてもげっそりしていて、疲れているのが手に取るように分かった。
星矢はそんな麗子を心配し、机から立ち上がり窓から空を見上げると、
お天道様が自分達が見た位置より遥か上にあり、よりさんさん光り輝いていた。
これは思ったより寝てしまったな…もう昼過ぎだろうか?と星矢は思うと腰のポケットから時計を持ち出し、
まだ昼前だということを確認した。
「そういえば…キルアがいないな、どうしたんだ」
星矢は部屋の周りを見渡し、キルアがいないと知ると、小屋の外に出て、今一度見渡す。しかしキルアの姿はどこにも見当たらない。
仕方ないので小屋に戻り、机の椅子に座りなおすと、その脇にデイバックが置いてあったことに気づいた。その数は三人分。
「ああ…そうか、そうだったな」
星矢はそのバックを見て、おぼろげながら思い出す。
藍染に逃げられ、
太公望達と別れた後、星矢達は藍染を追って琵琶湖まで来たのだ。キルアはどうやら違う目的もあるみたいだったが。
その途中、あの放送が流れた…その放送の中には自分達が知っている名も。
その放送を聴き、星矢は悲しみの余り、涙を流しそうになるが、なんとか涙を止める。
自分と同じようにショックを受け、顔面蒼白になっている麗子の顔が目に飛び込んできたからだ。原因は分かっている。
彼女も俺と同じ、仲間が死んだんだ…大原部長という、長年付き合った上司を失った。
そんな顔を見ると星矢は人前で涙を流そうとした自分を恥じる。辛いのは俺だけじゃない、麗子さんもだ! と自らに言い聞かせる。
麗子は気丈にも皆に自分は平気だと訴え、先頭に立って琵琶湖へ向かったが、その足取りはまるで羽を失った鳥、鎖を掛けられたが如く重かった。
そんなこんなで琵琶湖に辿り着く。星矢とキルアはここまでの道程で敵に出会わなかったことに感謝した。
この状態で戦闘になれば間違いなく麗子の命はなかったからだ。
気丈に振舞っているが、その動作が彼女のショックの度合いを如実に物語っている。
琵琶湖に着くと、二人はそんな麗子を見かね、琵琶湖の近くにあった小屋で休もうと提案する。
麗子も二人の気持ちを汲み、素直に応じた。小屋に入り、デイバックを机の付近に置くと、キルアはある提案をした。
麗子はここで休み、星矢もここに残り彼女を守る。キルアは琵琶湖付近の森に入り、藍染や誰かいないか捜索するというものだった。
一人じゃ危ない、と星矢と麗子はキルアの身を心配するが、見張りや偵察は得意というキルアの強硬な主張に折れ、その案に従った。
そしてキルアは昼までに戻ると言い残し、外に出、森へ駆け抜けていった。
残った星矢は麗子にそれまで眠るといい、と言うと麗子も素直に聞き入れ、死んだように眠りこむ。
寝て休めば、いくらか気持ちも落ち着くだろうと、星矢は思い、麗子の寝顔を見つめ、
そうこうしているうちに星矢も眠りに落ちてしまったのだ。
「まいったな…これで誰か来てたら完全に無防備だったぜ…」
こつん、と自分の頭を小突くと星矢は反省する。
これで紫龍や氷河がいればきっと嫌味をたくさん言ってくるに違いない。
「でも…良い夢見れたな…」
夢、それはサガの夢。共に肩を並べ、迫り来る敵と二人で協力して戦う姿。
戦いが終わるとサガは振り向き、星矢にこう言った。アテナを、地上の平和を頼む、と。
その顔は悪の心に囚われ、醜く歪んだ顔ではなく、神の化身と言われ、神々しい小宇宙を放つ清らかな微笑でもなかった。
そう、普通の人なら誰でもする、照れ隠しの笑い。身近に感じさせる、親しみのある笑顔。
星矢は勿論そんなサガの顔を見たことはない。星矢が見たことがある顔といえば、悪の面と正義の面の二つだけ。
彼の普段の表情なんて見たことがなかった。生きていれば、これからも見れたかもしれない表情。
だが、それはもう叶うことはない。それゆえ、星矢は夢の中とはいえ、胸が締め付けられたのだ。
「…麗子さんも良い夢見てたらいいけど」
星矢は思い出す。彼女がベットに横たわる前にポツリとこぼした言葉を。
「もう、部長の出勤姿や、鞄をロッカーにしまう姿、私がお茶を汲んで渡したときに言ってくれる、ありがとうの言葉やあの笑顔を見ることはもうないのね…
何年も一緒にいたのに…これからもずっと同じだと思っていたのに…」
思い出すだけで胸が痛む。彼女達は戦いとは何の縁もない世界からやってきて、彼女の上司はゴミのように命を散らした。
なんで巻き込んだ…日々を平和に生き、小さな幸せを胸に抱いて生活している人たちをこんな、血で血を洗う世界に…!!!
星矢は怒りに燃える。こんなゲームを始めたハーデス達主催者に向けて。
こんなことが無ければ石崎さんも…麗子さんの上司も…死なずにすんだ。今もいつもどおりの生活を笑顔で営んでいたはずなんだ!
もう二度と戻ることは無い日常のかけら。無くなったのは一欠けら。だが、一つ欠けてしまえばその日常は消えてなくなる。
全く違うものになってしまうのだ。それが分かっているから、残された者達は悲しむのだ。
「…今度こそ必ず倒す…たとえ俺一人になっても…冥王ハーデス!!!」
星矢は改めて誓う。アテナに。サガに。逝ってしまった者たちに。必ず奴を倒し、皆を必ず助ける、と。
誓いを立てたあと、星矢は椅子に座り、もたれ掛かると……通り過ぎていった者達の顔を浮かべ、一筋の涙を流して、泣いた。
ギィィィィィィ
静寂が支配する小屋に、扉の軋む音が鳴り響き、何者かが侵入する。
その者の背格好は、ハーフパンツにTシャツ、そして頭髪がツンツンしており、身長は小学生ぐらい。
そう、キルアである。昼前になったので約束したとおりに戻ってきたのだ。
キルアは小屋に入り、麗子がまだショックから寝込んでいると分かると、ため息をつき、星矢のほうへ振り向く。
「おかえりキルア。それでどうだった?」
「残念ながら誰もいなかったよ。ったく、これで数時間無駄にしたよ」
キルアはそう言うと表情こそ変えなかったが、明らかに肩を落としていた。
そうか、と言うと星矢はやつれた顔で未だ眠り続けている麗子を見つめ、今後のことを考えていた。
しかしその思考もキルアの一言で中断される。
「あのさ、俺、星矢達と別れて大阪方面に向かおうと思う。ここに俺の友達はいなかったし、大阪も近いから今すぐにでも発つよ」
キルアの急な言葉に星矢は言葉を失う。出来たら行って欲しくはない…が、友達をすぐにでも探したい、という彼の気持ちも分かる。
友達が今、危険な目に遭っているとしたら、と想像しただけで今すぐにでも駆け出して行きたいはずだ。
星矢はキルアに視線を移すと、キルアはバツの悪そうな顔をして下を向いている。
このタイミングでこの場を離れることに彼なりに罪悪感を感じているようだ。
星矢は彼のそんな顔を見て、笑顔でキルアの肩に手を置く。
「ああ、分かったよ。少しでも早く友達が見つかることを祈ってるぜ」
彼はここまで来てくれた。ならば今度は俺が彼のために笑顔で送ろう、そんな気持ちから出た星矢なりの気遣いだった。
その笑顔でキルアの曇った顔が少しだけ晴れる。星矢がそういうとキルアは即座に自分のバックを持ち、小屋の入り口に立つと、
「星矢、死ぬなよ」
とぶっきらぼうに呟き、全速力で駆けていった。
星矢はそんなキルアの姿が見えなくなるまで、へへへ、と鼻を人差し指でさすりながら見送っていた。
(お前も…死ぬんじゃないぞキルア)
「…ちょっと急過ぎたかな…悪いとは思ったけど」
キルアは全力で森を駆け抜けながら呟く。星矢は笑顔で見送ってくれたが、キルアの胸中はやはり重く沈んでいた。
星矢はこれから麗子を守りながら自分の命も守る、それは大変なことだと分かっていたから。
「藍染の言う脱出方法も、俺たちには使えないと分かった今、あいつ戦うのは得策じゃない。
…それに、俺はゴンを探さなきゃいけないんだ」
キルアの脳裏にふと重傷を負っているゴンが浮かぶ。そんなゴンの後ろから刃物を持った男が近づいてきて…
そこまで想像が浮かんだところでキルアは頭を左右に振り、今、脳裏に浮かんだゴンの悲惨な姿を必死に振り払う。
絶対にそんなことにはさせない。早く、早くゴンの元に行かなければ。
キルアにとっての優先順位は何においても親友ゴンを守ること。そのためには何を犠牲にしても構わない。
「だけどあのネーちゃん、まだ寝てんのか?」
キルアは彼女らがいるであろう方向を冷ややかに見つめる。
この殺し合いという状況下の中、甘えは許されない。身近な者を失ったとしてもだ。
例えショックを受けたとしても、迅速に立ち直らなければならない。
星矢も未だにショックを引き摺っているが、戦闘は可能だし思考もはっきりしていて問題ない。
片や麗子はどうだ。立ち直るどころか、未だに寝込んでいる。立ち直るにはまだ時間がかかりそうである。
(あれはもう…いらない)
暗殺者としての性か、非情かつ合理的な判断が下る。麗子は足手まといだと。
あの状況下で戦闘になった場合、死ぬのは麗子でない。星矢である。
星矢とは少しの間しか行動を共にしなかったが、彼の性格はある程度把握はしている。
彼はゴンと同じだ。直情型で視野が狭く、これと決めたものは頑として貫き通す男だ。
そんな男は必ず自分より弱い、いや、どんな人間であれ守ろうとするだろう。
星矢はとてつもなく強い。だが、身動きの取れない者を守りながら勝利を収めるのは到底不可能だろう。
結果、待っているのは星矢の死である。
(どちらの命を取るしたら…決まっている、星矢だ)
星矢は脱出の際に起こる主催者との戦闘にて必ず主戦力になる。
それになにより主催の一人、ハーデスと名乗る者と戦った経験と情報を持っているのだ。失くしてはならない存在。
それに引き換え、麗子は一般人で特殊な能力や卓越した技術、膨大な知識も持ち合わせていない。
銃の腕前は大したものだが、弾丸に限りがあるこの状況では、それが無くなれば最早足手まといでしかない。
(…もし、星矢がゴンだったなら)
キルアの脳裏にある光景が浮かぶ。あそこにいたのがゴンであるならば…
何者かが侵入し、麗子の命を奪おうとする。しかしそれをゴンが阻み麗子を守るが…力及ばず血に染まり倒れるゴンの姿が。
キルアは今まで出会った数人を思い出す。
星矢は言うに及ばず必要だ。太公望のあの知能はブレーンとして対主催には必要不可欠。
富樫も特出した能力を持ち合わせていないが、その体力と戦闘経験があるので足手まといにはならない。
…どう考えても麗子だけは……いらない。
キルアは立ち止まる。その両手に力を込め、暗殺者としての冷徹な表情、冷酷な目をし、
自分が走ってきた方向を見つめる。獲物を見つめるが如く。
(…今のうちに…殺るか?)
今、彼らが戦闘になれば、上で述べたとおり星矢の命はないだろう。
仮に戦闘にならず今は無事であっても、いつかは麗子が持つ銃の弾は尽き、足手まといになるときが必ず来る。
そのとき、誰か死ぬ。戦力外の者を守るため。それは星矢や主戦力となる者達だ…そしてゴンも。
ならば今のうちにその可能性を排除しなくては…より、脱出の際の危険性を低下させるために。
「…ってなにマジになってんだ俺。暗殺稼業は廃業したってのに。
こんなこと考えてる暇があるんならさっさとゴンを探すか…」
それを実行した場合のことを考えるキルア。もし選別を実行し、あわよくば誰にも見つからず数人を葬ることに成功したとしよう。
殺害した人の持ち物、支給品は勿論回収する。脱出の際に起こるであろう決戦に備えて有益な人物に渡すためだ。
だが、頭の回る奴ならすぐに気付くだろう。一人の人間が大量の支給品を持っていることの意味を。
そのとき、どんな弁明をしても無駄だ。選別の理由を述べたとしても正義感の強い者ならなおさら怒り狂うだろう。
勿論ゴンもだ。そうなれば全ておしまいだ。自分はゲームに乗ったものとして始末されるのは目に見えている。
それならまだいい。もし、ゴンが自分を庇いでもすれば本末転倒もいいところだ。
ゴンもゲームに乗ったものとして自分と同じく始末されるだろう。
始末されないにしろ自分達は追放、二人で行動する羽目になり、脱出の可能性は限りなく低くなる。それでは駄目だ。
キルアはまた全速力で駆け出す。
先程脳裏に浮かんだゴンが死ぬという惨劇、そして自身が思い描いた、脱出のための『選別』の計画から逃げ出すかのように。
だが、いくら走ってもその悪夢は消えない。今、キルアは全速力で駆けているのはゴンを守るため。
ゴンを一刻も早く見つけ、必ず守り通す。そのためにはなんでもする。
そしてこの『選別』もゴンを守るために必要なこと。キルアにはそのことが分かっていたから。
【滋賀県琵琶湖西の小屋@昼】
【星矢@聖闘士星矢】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】荷物一式 (食料1/8消費)
【思考】1 麗子が目を覚ますのを待つ。
2 藍染を倒す
3 麗子を守り主催者を倒す
【秋本・カトリーヌ・麗子@こち亀】
【状態】ショックで寝込んでいる
【装備】サブマシンガン
【道具】荷物一式 (食料1/8消費)
【思考】睡眠中
【滋賀~奈良の県境@昼】
【キルア=ゾルディック@HUNTER×HUNTER】
【状態】少々のダメージ(戦闘に支障無し)
【装備】なし
【道具】爆砕符×3@NARUTO、荷物一式 (食料1/8消費)
【思考】1 ゴンを探す。
2 隠密行動を取り、大阪周辺を探索
3 『選別』について悩んでいる
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最終更新:2024年02月14日 00:30