0412:アマネミサと異常な愛情





【2日目 夕方 京都府-兵庫県 山間の林道】
それは、今ではないいつか、ここではない何処かでのものがたり。

どこまでも赤い、赤い、赤い夕日と、どこまでも長い、長い、長い影法師。

ずるり、ずるりと。

一人の女性が歩いていく。

―ずるり、ずるりと。

その手に携えるのは、一振りの槍。
それは、まるで、見えない未来を指し示す道標のようで。
その手に握り締めるは、一振りの槍。
見えない未来を切り開くように。見えない未来に、縋り付くかのように。

――ずるり、ずるりと。

右へ、左へ。
彼女の足取りは、踊るよう。彼女の言葉は、歌のよう。
お日様は、とても暖かくて。吹く風は、とても、とても優しくて。
楽しげに、嬉しげに。今にも倒れ伏すかのように。それでも、彼女は歩みを止めず。

―――ずるり、ずるりと。

その顔の晴れやかなこと!
あっちにゆらゆら。こっちにゆらゆら。赤い、赤い、お日様の下。彼女の足跡は、赤い、赤い、絵の具のようで。

その道は既に昏く。街は、未だに遥かな彼方。寄る辺にすべき、光無く。
それでも、彼女は歩みを止めず。顔に浮かぶは、恍惚の笑み。
彼女の行く手は曖昧として。彼女の歩みは朦朧として。
それでも、彼女は歩みを止めず。

――――ずるり、ずるりと。

……実際のところ、彼女、「弥 海砂(アマネ ミサ)」は、自分が勝者となると信じていた。心の底から。
……実際のところ、彼女、「弥 海砂(アマネ ミサ)」は、自分が勝ち残れるわけは無いと理解していた。頭の芯では。

これは、遊戯ではないと分かっていたから。
遊戯では、人は死なない。少なくとも、相手を殺すつもりで行われるものは遊戯ではない。
ゲームで。スポーツで。人は、誰かの命を奪わない。
それが、彼女の生きていた世界でのルール

例えば、単なるカードゲームで人は廃人と化したりしない。
例えば、単なるテニスで、人は吹き飛ばされたりはしない。
さにあらざれば、それは、もはや、遊戯ではない。

……それは、もっとおぞましい、何かだ。

彼女が携えるは、一振りの槍。何の力も持たない、彼女の未来の道標は、唯一振りの槍だけで。
……実際のところ、彼女、「弥 海砂(アマネ ミサ)」は、自分が勝ち残れるわけは無いと理解していた。頭の芯では。
それでも、彼女は歩みを止めず。歌うように、祈るように。誰かと寄り添い、語らい合うように。

―――――ずるり、ずるりと。

  『月、ミサ頑張ってるよ……まだ、誰も殺せてないけど、頑張ってるよ』
               『あぁ、ミサはよくやってくれているよ』

彼女の独白は詩の如く。その声色は、遊戯に興じる幼子のようで。
真っ赤な、真っ赤なお日様の下。歩いているのは、踊っているのは。一人。たった一人。唯只管に、独りの女性。
彼女が語りかけているのは、ここには居ない、誰か。彼女ではない、何か。

  『ねぇ、月……ミサ、優勝できるかな?月を生き返らせることできるのかな?』
『ミサなら大丈夫さ。それに、ミサがピンチになったら、僕が……KIRAが必ず助けに行くから』

風に流れる声は一つで。心に響く声は二つで。
一つの影は、決して、誰とも交わらず。月は影さえ、未だに見せず。
風に流れる声は一つで。
それでも。
それでも、心に響く声は二つで。
だから、彼女、「弥 海砂(アマネ ミサ)」は、自分が勝者となると信じていた。心の底から。

その場に居るのは女性が一人。月は影さえ、未だに見せず。
歌うように、祈るように。誰かと寄り添い、語らい合うように。彼女の言葉に終わりは見えず。

…まさかという思いはあるが、この「月」とは、彼女の想像上の存在にすぎないのかもしれない。
もしそうだとすれば、彼女の精神に異常があることにほぼ間違いない。
あるいは、「月」は実在して、しかしここに書かれているような異常な言動は全く取っておらず、
すべては彼女の妄想という可能性だって捨てきれない。

ここには居ない何か、彼女ではない誰かに愛を囁きながら。
それでも、彼女は歩みを止めず。
――――――ずるり、ずるりと。


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【2日目 午後 兵庫県 山間の林道】

―う。
―――うウう。
―――――――ううううウゥうう。

――ここは、何処?
――ここは、ここは……そうだ、ミサは西に向かってて……

林道の中。真っ黒いカラスと、赤黒い死体。
その二つともに首は無く。カラスの声は、死者の無念を代弁するように。
彼女、ミサが目を覚ましたときには、雨雲はその姿を隠し、その痕跡は霞のようで。
紅い、紅い、そして、とても暖かい、あのとっても、とっても綺麗な雨は、赤黒い泥へと姿を変えて。

――あの女の顔は、もうぐっちゃぐちゃ!いい気味!
――あの時、ミサには月がついてたんだから!強くて、頭も良くて、とっても、とぉ~ってもカッコいい、ミサの王子様なんだから!
――月は居る。ここに居る。だって、ミサには聞こえたもん。ゴメンね、月。ミサ、結構長く寝ちゃってたかな?

冷たい泥の中から、ミサは身体を引き剥がす。その姿に、もう、アイドルとしての美貌は見る影も無い。
美しかった金色の髪は赤茶けた色に汚され、彼女の服は、もはや、雑巾とも大差ないほどにほつれ果てている。
笑いだした膝を叱咤しながら、槍を――今の自分の唯一の武器に全身の体重を預けながら、彼女は立ち上がる。
常人なら、いや、少しでも正常な理性が残っていたならば、自分の身体に限界が来ていることは明白。
それでも、彼女は立ち上がる。

彼女からは、現在進行形で命が失われつつあるはず。
だが、彼女の身体からは通常有り得ないような熱気を発していた。

――ゴメンね、月。ミサ、結構長く寝ちゃってたかな?

その熱を吐き出すかのように、彼女は虚空に言葉を紡ぐ。と――

            『いや、大丈夫だミサ。むしろ、ここで体力を回復できたことのほうが大きい』

夢にまで見た。恋焦がれた。想い人の声が、彼女に響く。

――月!!!!
――やっぱり、津村斗貴子はウソついてたんだ!!
――月はここにいる!ミサと一緒に居る!あの主催者とかいうオバケも、やっぱりウソついてたんだ!!

無論、月は既に死んでいる。これは、平たく言うならば、唯の幻聴にすぎない。
だがそれも、ミサにとっては関係の無いこと。

――あぁ、月がいるって考えただけで、感じただけで、心も、身体も満たされていく。
――頭の芯から、心の底から、暖かいものが溢れ出してくるのが、自分でもはっきりと分かる!!

――ああ、頭が。身体が、熱い……
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                  ――それは、彼女が寒空の下、独り、泥の中で眠りこけていたから。

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――ねぇ、月。ミサは、これからどうしたらいいの?

『そうだな……ミサは何がしたいんだ』

幻聴だから、ミサの望み通りの言葉を紡ぐ。
空は既に青くとも、未だ仄暗い森の中で、熱病に浮かされている女性が一人。
存在しない誰かに向かって、愛情を込めて語りかけるその様は、一言で言うと、異様であった。

――ミサは……月がして欲しいことをしたい。月のためなら、何でも出来る。
――見てたでしょ。この女、ミサがグチャグチャにしたんだよ!ミサのことをバカにするから。
――ミサをバカにするってことは、月もバカにしてるってことだから!!
―――ミサも、キラなんだから!!

『なら、他の参加者も始末してくれるかい?』

――うん!それが、月の望みなんだよね!
――やっぱり、月ってスゴイ!!ミサも丁度、人を殺したくて、殺したくて、堪らなくなってたところなの!

幻聴だから、ミサの望み通りの言葉を紡ぐ。
空は既に青くとも、未だ仄暗い森の中で、熱病に浮かされている女性が一人。
虚空に浮かぶは、想い人の顔。だが、その言葉は、想い人ではなく、彼女自身の心の欠片。

幻聴だから、ミサの望み通りの言葉を紡ぐ。
命を奪えと。ゲームに乗れと。
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                 ――それは、彼女が命を奪うということに快感を覚え始めていたから。

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――ああ、頭が。身体が、熱い……

『まずは、大阪でLを殺して欲しい。もしかしたら、いや、京都あたりまで移動しているかもしれないが……ミサならできるさ』

――京都…京都ね!分かった!ミサ、頑張る!
――でも、やっぱり、月はスゴイ。ミサのことなんて、全部お見通しなんだ!
――京都に行くって考えたら、何だか、不安がすっかり溶けちゃった!!

幻聴だから、ミサの望み通りの言葉を紡ぐ。
Lを殺すことは、第一義ではない…単に、京都へ向かいたいというのが、彼女自身の心の叫び。

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                 ――それは、彼女が、この状況で、故郷:京都から離れることに、心の底では不安を抱いていたから。

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『不安なんて感じる必要は無いさ。ミサならできる。このゲームが終わったら、二人で暮らそう』

――うん!
――絶対優勝して、月を生き返らせて、ピッコロって人に月を生き返らせてもらってから、月と優勝するんだから!
――あれ?

思考の端に、僅かな異物を感じるも、程なく痛みは流れて消える。
そんなのはどうでもいいこと。何せ、幻の月は、ミサの望む言葉を、まるで魔法のように投げかけてくれるのだから。

――ああ、頭が。身体が、熱い……
――でも、やっぱり。月がいるって考えただけで、感じただけで、心も、身体も満たされていく。
――だから、月を生き返らせるために。月と一緒に、ミサミサの冒険の旅は始まっていくのです。

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                                ずるり、ずるりと。彼女は歩き始める。
                 ――ここは幽玄の境。彼女の精神も、彼女の現実も。全ては常に曖昧のまま―

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【2日目 夕方 京都府-兵庫県 山間の林道】

それは、今ではないいつか、ここではない何処かでのものがたり。

どこまでも赤い、赤い、赤い夕日と、どこまでも長い、長い、長い影法師。
ずるり、ずるりと。

一人の女性が歩いていく。
――ずるり、ずるりと。

歌うように、囁くように。最愛の人へ語りかけるように。
彼女は、大好きな「月」に語りかけながら、ゆっくり、ゆっくり歩を進める。
ずるり、ずるりと。一人で。唯一人で。それでも「月」に語りかけながら。

…まさかという思いはあるが、この「月」とは、彼女の想像上の存在にすぎないのかもしれない。
もしそうだとすれば、彼女の精神に異常がであることにほぼ間違いない。
あるいは、「月」は実在して、しかしここに書かれているような異常な言動は全く取っておらず、
すべては彼女の妄想という可能性も捨てきれない。
そんなのはどうでもいいこと。何せ、幻の月は、ミサの望む言葉を、まるで魔法のように投げかけてくれるのだから。

つい先程も、『生きて帰ったら結婚しよう』『何があっても、ミサを守る』等の言葉を受けて、
感激のあまり泣き出しそうになってしまったのだから。

黄昏刻。太陽はそろそろ退場し、ここから先は月の時間。

その道は既に昏く。街は、未だに遥かな彼方。寄る辺にすべき、光無く。
それでも、彼女は歩みを止めず。顔に浮かぶは、恍惚の笑み。
彼女の行く手は曖昧として。彼女の歩みは朦朧として。
それでも、彼女は歩みを止めず。


 あと、夜神月はいい加減死亡フラグを立てるのをやめろ。死んでるからって、この男、ノリノリである。







【兵庫県と京都府の境/森林/夕方】
【弥海砂@DEATHNOTE】
 [状態]:中程度の疲労、全身各所に打撲、口内出血、右足に裂傷、手当て未済、発熱
     意識朦朧、精神崩壊、重度の殺人衝動、衣服が血と泥に塗れている
 [装備]:魔槍@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式×3(一食分消費)
 [思考]1:Lを殺す
    2:会った人を殺す。
    3:強い人に会ったら、逃げるか演技で取り入って、後で殺す。
    4:ドラゴンボールで月を生き返らせてもらう。
    5:自分が優勝し、主催者に月を生き返らせてもらう。
    6:友情マンを殺し、月の仇を取る。
    7:ピッコロを優勝させる。

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409:血塗れの死天使たちへ 弥海砂 420:RED

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最終更新:2024年07月27日 17:37