0413:穏やかな春の陽射しの下で
<新潟県、電車内/午後>
トンネルを抜けると、先ほどの雪景色が冗談であったような、
青々とした草木が、潮の香りが、海鳥の声が、そして、変わらぬ血の香りが。
遠くに見える水平線は鈍色をして、空はとても、とても青くて。
鯨のような、白い、大きな雲が悠々と空を流れ。
春の気配と、降り注ぐ陽光は、車内に満ちた血の記憶すら、刹那消し去ってしまいそうで。
疎らに見える、家々の軒下には様々な花が並び、車中にすら甘い香りが舞い込むようで。
ガタン、ゴトンと。
列車が進むは、長閑なという言葉がこれ以上無いほど似合う、田園地帯。
眼下には、母なる海が。頭上には、広大な空が。
穏やかな、本当に穏やかな、春の日差しの中。
あくまで緩やかに、一両の列車が奔って行く。ガタン、ゴトンと。
線路は続く。
フレイザードと
ピッコロを乗せた車両は、穏やかに進んでいく。
規則正しい揺れは、夢見るようで。その心地よさは揺り籠に似て。
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フレイザードにとって、列車での旅は、お世辞にも楽しいとは言えなかった。
考えてみれば当然のこと。
乗り合わせているのは、顔を見るのも忌々しいピッコロ大魔王只独り。
車内に充満している、噎せ返るような血の臭気を不快に感じるような、軟弱な精神を持ち合わせては居ないが、
流石に無言で長時間、蛇蝎のような相手と顔を合わせていれば、気が滅入りもし、不機嫌にもなる。
かといって、この両名で会話が弾むわけでもなく。
人であれば美しいと形容するべきなのだろう、車窓からの風景を楽しむような趣味も無し。
二人で、和気藹々と駅弁(この場合は支給食料だが)をつまむわけでもなければ、
そもそも、光合成を行うナメック星人と、禁呪法で生み出された魔法生命体が食事を必要とするわけでもなし。
ただただ、眼前の魔王を始末する方法を考える。
悠然と腰かけ、瞑目している
ピッコロの態度も腹立たしいことこの上ない。
その態度!その余裕!その傲慢さ!
完全に自分を見下している、超然とした佇まい!
この場で、叩き殺してやれれば、どれほど爽快なことか!!
眼球を抉り出し、脳髄を掻き出し、臓物を引きずり出して哀れに命乞いをさせてやることが出来れば、
どれほど痛快なことか!!
必死に懇願する
ピッコロの内臓をこんがり焼き上げて、程よく凍りつかせることが出来れば、
どれほど愉快極まりないことか!!
それだけで十分な筈ではあった。自分にとって、
ピッコロは目障り極まりない敵。
敵は、完膚なきまでに叩きのめし、蹂躙し、鏖殺するのが氷炎将軍であり、自分の道の筈だった。
このゲームに勝利する、それが最終的な目的であり、今の自分の存在理由。
有象無象の雑魚共を殺し、腹立たしい麦わらの小僧を殺し、ダイを、アバンの使徒共を殺し、
ピッコロを殺し、君臨するのが、栄光を手に入れるのが氷炎将軍たる自分の未来。
そして、目の前には無防備にも眠っているような、緑肌の人外が一匹。
六団長の一人たる自分を、まるで意にかけず、興味を払わず、歯牙にもかけないクズが一匹。
頭を振る。自分は、一体何をやっている?!
もう、勝機は――栄光は、すぐ其処までやってきているというのに!!
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ガタン、ゴトンと列車は進む。
その身に、肌を刺す空気を、眩暈を引き起こす程濃密な血の匂いを。
他の参加者にとっての、紛れも無い危険をその身に載せて、列車はただただ進んでいく。
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フレイザードの苛立ちは募る。
立ち尽くすことしか出来ない、己が身の不甲斐なさへ、苛立ちは只募る。
半身が炎、半身が氷のこの身体。
椅子に腰掛ければ、左半身が乗った座席は無残にも焼け爛れるのも必定。
焼け爛れるだけならばまだいい。
その弾みでスプリングが飛び出し、自分の尻に突き立っては目も当てられない。
尻にスプリングが刺さった弾みで、思わず飛び上がってしまったらどうするのだ。
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<画像はイメージです>
* + ┏━巛 ━┓←火竜鏢
〒 ! + 。 + 。 * 。
+ 。 | |
* + / / <ヒョウエンショウグンイヤッホウゥゥウゥゥゥ
∧_∧ / /
|´∀` / / + 。 + 。 * 。
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〈_} ) | |
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ガタン ||| j / | | |||
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頭を振り、一瞬脳裏をよぎった戯けた映像を霧散させる。
スプリングが刺さったところで、取り立ててダメージを受けるわけでもない。
むしろ、鉱物で出来た自分の身体に、スプリングが刺さるということすら考えがたい。
だが、ダメージ云々の問題ではなく、体裁や精神の問題として、
そんなことが起これば決して立ち直れないというのは充分に分かった。
悠々と椅子に腰掛け、瞑目する
ピッコロを横目に見ながら、
憮然とした面持ちで立ち続けるしかない自分に、更なる苛立ちが募る。
自分の左足から立ち上る、燻すような煙でさえ、偏に
フレイザードの精神を逆撫でしていく。
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ガタン、ゴトンと列車は進む。
その身に、肌を刺す冷気を、呼吸もままならないと感じさせるような濃密な熱気を。
他の参加者にとっての、紛れも無い災厄をその身に載せて、列車はただただ進んでいく。
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――今なら、ヤれるんじゃねぇか?
勝算はある。戦略も。
フレイザードの左腕、炎の半身が掴んだ宝貝は、焔を纏い。
フレイザードの右腕、氷の半身に宿った宝貝は、巨大な氷の曲刀へとその姿を変える。
辺りを包む、血の匂いは変わらず。
戦場の匂い。戦争の匂い。無念を抱いて、この地に果てた者たちの痛切な想い。
鋭利な刃へと化した、霧露乾坤網を半身に構え。
火竜鏢に、渾身の火力を注ぎ込み。
眼前の、未だ黙して語らぬ自称大魔王を睨めつける目に容赦無く。
ガタン、ゴトンと列車は進む。
暴虐な焔と冷徹な凍気の織り成す呪詛と。
規則正しい、
ピッコロの呼吸音のみが車中を満たす。
知らず、自分の口から、只の発声器官であったはずの口から、ヒュウヒュウと耳障りな音が奏でられ。
金属塊を握った左手から、カチカチと、心を逆立てる音が奏でられ。
それでも、眼前の存在は、委細気にかけずと目を閉じたまま。
熱で、空気がゆがむ。
霧露乾坤網に、鍔元に一筋の水滴が生じ、
―刃先へと流れ
――刃より零れ落ち
床面で、弾けた。
「どうした?何を突っ立っておる?」
瞬間、
ピッコロが目を開き、その場にはあまりにも不釣合いな落ち着いた声が、
暴発しそうな
フレイザードの意識を、一息に暴走へと押しやった。
「ヒャッハァ!!」
伸ばした腕は、疾風の如く。
渾身の力を込めて、傲慢な魔王の首筋を断たんと、鋭利な氷刃を振るう。
だが――下らんな、という言葉と共に、魔王は左腕一つで刃を掴む。
これは、想定の範囲内。
「くだらねェたぁツレねぇなぁ、大魔王様よう!!」
今、
フレイザードが振るっているものは、実体を持った刀剣の類ではなし。
宝貝、霧露乾坤網を自身の凍気で即席の刃に変えたもの。
故に、強度は実体を持った刀剣に劣るが、霧露乾坤網によって、
その形状は
フレイザードの望むまま、千変万化にして変幻自在。
徐に立ち上がった
ピッコロは、右の手刀で一息に氷の刃を叩き折ると、
返す刀で
フレイザードの放った火炎の吐息を吹き散らす。
火炎によって水へと転じた刃の破片は、霧露乾坤網の特性により、
さながら網の目のように姿を変え―
「ヒャダルコォ!!」
間髪入れずに放たれた、極寒の吹雪により、再度、固体へと姿を変える。
勝算はあった。
今まで見てきた限り、
ピッコロの
切り札は辺り一面を吹き飛ばす、爆力魔破という技。
この列車内では……少なくとも、列車が”禁止エリア”に居る内は、全力での爆力魔破は使えない!!
「随分と寒そうだなぁ、大魔王様よぅ!直ぐに暖めて差し上げますぜぇ!!」
砲撃音。左半身にパンツァーファウストを構え、碌な照準も合わせずに打ち放つ。
同時に、右手に握った焔の宝貝に、全身全霊の火力を込めて、投げ放つ。
双方の回避は困難、もとより狭い車中、外れても余波でかなりのダメージを与えることが出来るはず―――
――――――轟音――――――
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ガタン、ゴトンと列車は進む。
その身に、耳を劈く騒音を、無秩序に破壊を振りまく閃光を。断末魔のような黒煙を。
他の参加者にとっての、紛れも無い破滅をその身に載せて。
後ろ半両を失ってなお、列車はただただ進んでいく。
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―犬風情が。
――こんな所で襲い掛かってくるとは、一体何を血迷ったのか。
―――所詮は駄犬であったか!!
迫り来る砲弾と、火竜の楔を前にして、
ピッコロの脳裏をよぎったのは、
文字にして数行、時間にして数瞬にも満たない、そんな思い。
砲弾と宝貝、氷の網に捕らえられた状態で、双方の回避は困難を極める。
ならば、どちらを躱すべきか……論を待たない。
「カァッ!!」
気合一閃で氷の網を引きちぎる。
勢いを殺さずに身をひねり、迫り来る砲弾をやり過ごし。
気を込めた右腕で、迫り来る宝貝を叩き落とす。
列車後方が破砕、後部車両が脱線する音と、肉の焼ける匂いに戦意を高揚させながら、
駄犬の首を捻るため、と前方に疾駆せんとした時。
「五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)!!」
車中を覆い尽くすような、白みを帯びた灼熱の壁が迫り来る!!
「小賢しいわァッ!!!」
――爆力魔破!
威力を抑え、範囲を自分周辺に――最小限に絞った爆力魔破で、相殺――――
余波で、幾分かのダメージを負ってしまったが無視できる範囲内。
あの駄犬を縊り殺すのに、幾分の支障も無い!!
見れば、駄犬は両腕を合わせ、何やら次の手を練っている様子。
――あと二回分か!
脳裏に、忌々しい餓鬼、
孫悟空の顔が浮かぶ。一瞬の躊躇はしたものの、
ピッコロは懐から前世の実を取り出し、口に含んだ。
――――――力が漲る――――――
背後から忍び寄る、霧露乾坤網による無数の刃は、大魔王の腕の一振りで辺りの椅子ごと粉砕され。
上空より降り注ぐ刃は、大魔王に一掠りの傷を負わせることも出来ず。
前方より迫る残り火は、気迫一つで儚くも消え。
さては駄犬を打ち砕かんと前方を見据えれば。
迫りて来るは、巨大な光弾。
――まずい!!
逡巡は刹那。悪寒を感じつつ、本能に従って回避。
左右には壁。前方には、何か、非常に不快な、とてつもなく危険な光弾。
回避場所は――――砲弾で打ち抜かれた、上!!
跳躍。
滞空。
そして、鳴り響く機械音――
「コイツァ餞別だ!遠慮しねェでとっときな!」
特大の火球を受け、春の青空に黒煙が広がる―――
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ガタン、ゴトンと列車は進む。
その身に、厄災を、破壊を、どうしようもない破滅を。
体内でどれ程の惨劇が演じられていようと、列車はただただ進んでいく。
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――ヒャ、ヒャハハハ、何だコリャァ?!
円形に、バターナイフで切り取られたような姿になった列車を見ながら、
フレイザードは歓喜に震えていた。
そのために、
ピッコロの後方をパンツァーファウストで破壊し、
フィンガーフレアボムズといった、消耗の激しい呪文で一気呵成に攻め立てた。
ピッコロは自分よりも強い。接近されれば、鎧袖一触で撃破されるのは当然の帰結。
自分の一面、氷のような冷静さで互いの戦力を分析した結果の、歯噛みするような現実。
だから、これは賭け。
幾ら保険があったとはいえ、自分が決行するのを戸惑うほどの賭け。
このままいけば、残り10人を切った時点で、自分が121人目になるとの確信があったからこそ、
決行できた賭け。
消耗は激しい。
だが、得たものは例えようが無く大きい。
ピッコロの死。この新呪文。そして、何よりこの歓喜!!
酔い痴れ、痺れ。歓喜と共に、
フレイザードは哄笑をあげる。
ガタン、ゴトン、と。
…
……
………
ズドン、と。
天地が逆転する。視界がぶれる。無機物の砕ける、乾いた音が辺りに響く。
そう。ピッコロ大魔王は――未だ、死んではいなかった。
「ガ…ガハッ!?」
「駄犬風情が……儂を一時でも心胆寒からしめたコトは誉めておいてやろう」
フレイザードの脳天を砕いたのは、天空からの突き刺さるような蹴撃。
掬い上げる蹴撃で、
フレイザードの決して軽くはない体が襤褸切れのように跳ね上がり、
鳩尾に突き刺さる、鎚の如き一撃を受け、見えない手で折りたたまれるかのように拉げていく。
「どうやら、禁止エリアに出ても、直ぐには首輪が爆発するわけでもないらしい……
バーンとやらはそんなことも教えてくれなかったのか?」
抜き手で、愚かな同盟者の右目を抉り。
体を海老反らせて絶叫する鳩尾に、砲撃のような拳撃を叩き込み。
再度、折れ曲がった相手の後頭部に、大地に沈めんが如き打ち下ろしを見舞い。
表情を変えぬまま、左即頭部を踏みつけ、砕く。
「メラゾー…」
「温いわッ!!!」
肉が焼けるのも気に留めず、
フレイザードの左腕を掴み、力任せに握りつぶす。
そのまま、崩れた左腕を、肘部より引きちぎる。
また、体を仰け反らせて絶叫を上げようとした
フレイザードの喉元に足刀を叩き込むと、
列車前方まで無様に転がっていき、蛙が潰されるような声をあげた。
足元に転がっていた火竜鏢を投擲し、
フレイザードの首筋に突き立てることで、
耳障りな騒音を強制的に中断させる。
「儂が飛べるということも知らなかったのか?」
咄嗟に、焔の中を突っ切り、再度車中に舞い降りることが出来たのは、
ピッコロ大魔王にとって限りなく幸運で、
フレイザードにとっては泣きたいような不運だった。
また、列車の上空にいれば、首輪からのアラームが鳴らなくなるということも、
ピッコロにとっての収穫の一つ。
だから、すぐには殺さない。
未練がましく、両足に纏わり付いてくる霧露乾坤網を引きちぎり。
一歩、一歩間合いを詰めていく。
岩石が、意思を持ったように動き、再度
フレイザードの左腕を形作るが、
一瞥と同時に両目より発された光線によって、有り合わせの左腕を粉砕する。
「命乞いはどうした?どのような弁解を聞かせてくれるのだ?」
「ケッ!テメェが馬鹿面さらしてやがるから、喝を入れてやろうと思ってよ」
フレイザードが立ち上がるのを待っていたかのように(実際に待っていたのだろう)、
ピッコロの指先より光線が迸り、氷炎将軍の両膝を撃ち抜く。
フレイザードは、またもや、ひれ伏すように崩れ落ちる。落ちざるを得ない。
「んん?ピッコロ大魔王様、だろう?……まぁ、どのように呼ぶにせよ、貴様はここで殺すがな」
半壊した車中で。覇者のような足取りで。
ピッコロは、一歩、一歩と間合いを詰めていく。
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ガタン、ゴトンと列車は進む。
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―クソ!
――クソ!
―――クソ!
――――クソ!
―――――クソッタレがぁぁぁッ!
焼けつく憤怒と、凍えつく怨嗟と。
一年足らずの生で身に着けた、あらゆる負の感情を双眸に込め。
しかし、諦観だけは微塵も見せず。
首元に突き立った火竜鏢を氷の腕で掴み、渾身の力を込めて引き抜く。
腕が溶け、蒸気が立ち上るが仕方が無い、むしろ好都合。
左腕が砕かれているが故の、苦し紛れの愚行と
ピッコロは見るだろうから。
右腕に凍気を込める。そうだ。ならば、最初の計画通りに進めればいい。
要は氷炎爆花散だ。
ピッコロは、自分の性格を把握している。
腸が煮えくり返るようだが、自分が無駄死にを心の底から厭い、栄光を魂の底から欲していることを知っている。
だから。
だからこそ、これは読めまい――!!
――氷炎・弾丸爆花散!!!!
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ガタン、ゴトンと列車は進む。
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「駄犬が。やはり、狂ったか――――」
フレイザードが爆散したのを見ての感想は、詰まるところこの程度。
生死を賭した一撃なのだろうが、この大魔王に傷を負わせるにはあまりに非力。
同情を禁じえないほどに無力。嘲笑を禁じえないほどに矮小。
飛来する、拳大の飛礫をことも無く弾きながら、大魔王は歩を進める。
ガタン、ゴトン、と。
ガクン、と。
客車が跳ね上がった、単にそれだけのことだが、意表を突かれた
ピッコロに、
僅かばかりの苛立ちと、焦りが浮かぶ。
氷炎爆花散は布石の一つ。
派手に爆発することで、相手に狙いを悟らせないための。
客車は、踊るように横転し、双方とも客車から放り出される。
二つの首輪が、無機質な機械音の協奏をはじめる。
「クォォオオォォォオオオォッ!!」
初めて。初めて、必死の形相を見せたのは
ピッコロ。
地より浮かび上がり、列車に乗り込まんと宙を舞う。
そこに、無数の飛礫がぶつかり、
ピッコロの脚部に霧露乾坤網がまた、またもや絡みつく。
「フレイザードォォォッ!貴様、儂と共に死ぬつもりか!!」
機械音の鳴り響く間隔は余裕をなくし。
あまりにも多くの飛礫が、粘りつくような水流が、煩わしくも
ピッコロの足を止める。
「いーやッ、駄犬風情がお供たァちょっとばかしおこがましいからよォ、オレはオサラバさせてもらうぜ!キメラの翼!!」
もはや機械音はほぼ連続して鳴り響き、吹き荒れる飛礫の嵐は、潮時と見て虚空へ飛翔する。
また、同時に
ピッコロから急速に力が抜けてゆく。
―このタイミングで前世の実が!?
――前よりも短い!?!
既に、二度前世の実を服用していた副作用、耐性。
――――――――そして――――――――――
あまりにも強い力を持った大魔王を滅ぼしたのは、勇者でも英雄でもなかった。
穏やかな春の陽射しの下で、一つの爆裂音が響く。
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もう、列車は進んでいない。
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<秋田県、雪原/午後>
種明かしをすれば、
フレイザードの思いついた作戦とは単純な二点。
①
ピッコロを禁止エリアに放り込む
②自分はキメラの翼で逃げる
この二つだけ。
キメラの翼で
ピッコロを禁止エリアに転送することが難しいなら、
ピッコロを禁止エリアに放置して自分が安全地帯に転送されればいい。
戦略と呼ぶのも憚られる単純な思考だが、生まれて一年足らず、
この地で様々な相手と戦い、着実に経験値を積み上げてきた
フレイザードにとっては会心の策略。
そして、実行できるのは、列車が禁止エリア内を走っていた、あの時をおいて他に無かった。
あの場で思いつけたのは天啓。
賭けたものは、自分の命。失うものが大きいからこそ、得たものもまた大きい。
多大な経験。
恐るべき、新呪文。
一瞬で首輪が爆発しなかったのは誤算だが、収穫でもある。
吹雪が吹き荒れる中、半死半生の体彷徨う
フレイザードは、
今まで感じたことも無い充実感で満たされていた。
そう、自分は勝った。あの、ピッコロ大魔王に。
勝てなければ、栄光を掴むことはできない。
自分は戦うのが好きなのではない。勝つのが好きなのだから。
今、死ねば、勝利も、羨望も、栄光も……自分の存在理由すら、霧の如く掻き消えてしまうのだから。
だから、今は、ただ耐える。
栄光は、すぐ其処に。
【秋田県、雪原/夕方】
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]:体力・負傷共に全快時の1割未満、氷炎合成技術を習得(少なくとも、回復具合が5割を超えないと使えないと思われる)
体組織の結合が不安定、核鉄による常時ヒーリング
[装備]:核鉄LXI@武装練金
[道具]:無し
[思考]1:優勝してバーン様から勝利の栄光を。
2:体力の回復を待ちながらも、南下して参加者を殺害する
【ピッコロ@DRAGON BALL 死亡確認】
【残り26人】
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最終更新:2024年07月30日 01:01