0182:モルモット ◆GzTOgasiCM
「…ふむ、なんとか逃げ遂せたみたいだな」
太陽が頭上に光輝く中、日光さえ遮り、暗く、不気味な雰囲気が漂う森の中、男が一人呟く。
男は己の傷ついた体を少しでも回復させようと努めているようだ。
その者の名は
藍染惣右介。
趙公明と対峙していたが、自身のダメージにより退却を余儀なくされ、ここまで逃亡してきたのである。
「ホイミを使えば多少、早く回復することが出来るが、あまり多用すると鬼道が使えなくなる可能性がある。
…急を要するとき以外は使わないほうが良いな」
異世界の呪文は死神達が使用する鬼道より力を消費する。恐らく全く違う呪文体系ゆえだろう。
ここでホイミを多用すれば、いざというときに鬼道を思うように使えないかもしれない。そう判断した結果だった。
「…しかし、先刻の、
趙公明といったか…実に興味深い」
妖怪仙人。人間の姿をしているが全く異質なるの存在。自分達死神や、虚とも全く違う。
そして、その
趙公明は言った。長い年月を経て人間の姿に変化した、と。
つまり奴の正体は動物や植物といったものに違いない。人間界によくある昔話に出てくる化け狸や化け狐、それらと同じだ。
よくある昔話と同じ存在…だが、決して馬鹿に出来た物ではない。
「私が今腰かけているこの木や、ここに転がっている小石、私に踏まれている雑草、
これら全てがあの
趙公明という者と同じ存在になる可能性を秘めているわけだ…思いもしなかったよ」
長い年月…それはどれぐらいだろうか?10年?100年?もしかしたら1000年以上かもしれない。
しかし、死神である自分にはたっぷり時間がある…大虚どもと同じく、良い駒になるだろう。
「一度、ゆっくりその過程を聞きたいものだ…妖怪仙人になるまでのね」
藍染は冷笑を浮かべる。その瞳は現実を見つめていない。彼の目に見えるのは天に立つ自身の姿。
いかなる存在もその足元にひれ伏し、全て藍染の意のままに運ぶ。
藍染にとって、全ての存在が彼の道具に過ぎない。全ての敵を駆逐し、天に立つための。
「さて…このダメージだとしばらく琵琶湖に向かうわけにはいかないな。出来る限り回復してから…となると夜ぐらいか。
…あの二人が情報をばらまき、広がるのを待つには丁度良い」
あの二人とは勿論以前接触した越前と新八のことである。
彼らは今、琵琶湖に向かいながら、脱出という名の餌をばらまいているはず。この閉ざされた世界でこれ以上の餌はないだろう。
だが、あの越前という少年は明らかに不審に思っていたようだ。
無理もない、いきなり支給品を奪っておいて脱出できると言っても、そう簡単には信用できないだろう。
しかし、だからとってこの餌に食いつかない訳が無い。自身が脱出手段を持ち合わせていない時点で他人にすがるしかないのだ。
たとえ、毒入りの餌だとしても、彼らにはそれを飲み込む以外、とる道はない。
「さて、これからの手順を確認するか」
無論、琵琶湖で行うであろう計画の手順である。
藍染はデイバックからメモ帳とペンを取り出すと、これからの予定を箇条書きで書き記していく。
「まず、最初に行うのは各自の能力と支給品、各々が得た情報の交換だな。
…勿論私は一切なにも与えるつもりは無いが」
藍染は邪悪な笑みを浮かべ、ククク、と一人笑う。全てを嘲笑うかのように。
「次に、キメラの翼を所持しているもの、ルーラを使用できるものを探す」
キメラの翼、今藍染が一番求めているアイテム。自分が望んだ場所に行けるという魅力的な道具。
勿論、一度行った場所にしかいけないのだが、藍染は文書のみの知識であるため、そのことを知らない。
「出来ればキメラの翼がベストなのだが…見つからなかった場合のことを考えるとルーラも必要だ」
ルーラ、これもキメラの翼と同様の効果を持つ異世界の呪文。
藍染がルーラを使える者を探し求めるには理由がある。それは先程も述べた、キメラの翼が無かった場合のためだ。
このゲームには各自様々なアイテムが支給されている。だが、果たしてそう都合よくキメラの翼が支給されているだろうか?
いくら100人以上参加しているこのゲームでも、支給されている確率はかなり低い。
このキメラの翼が存在している世界のアイテムだけが支給されているならまだ可能性はあるが、
現にこの雪走や盤古幡、ウェイバー、斬魄刀が自分の手にある。つまり違う世界のアイテムも支給されているのだ。
……キメラの翼が支給されている確率はもう絶望的と言っていい。
だが、無いかもしれないからといって、あの世界、そう、あのアバンの書に記されていた世界を諦めることは出来ない。
ならばどうする? …残された手は一つ、このルーラという呪文を使える人物を探す、これしかない。
出来れば他人の協力が必要なルーラを使いたくはない。
その使い手が必ずしも脱出を目指している人物とは限らないし、なにより自分と敵対して一切協力を拒むかもしれないからだ。
そんな人物に協力を仰ぐことになれば…素性を偽って騙すか、完膚なきまでに叩きのめし従わせるしかないだろう。
非常に手間のかかる作業だ。出来ればやりたくない。しかし、現状ではこれに代わる案もない。
藍染がルーラを習得できれば何も問題ないのだが、それは無理だった。
僧侶属性である藍染はルーラを覚えることはできなかったのだ。そのためキメラの翼を求めていた。
しかし、
太公望達から逃走し、彼らの名前を確認するために参加者リストを眺めていてあることに気付く。
リストに記されている藍染が知る名は3つ。
更木剣八、
朽木ルキア、
黒崎一護。
そして
太公望達も仲間を探していたことから、彼らが知る者も複数いることになる。
…あのアバンの書の世界の者が複数参加しているかもしれない。そしてルーラの使い手も。
確率は低いかもしれないが、キメラの翼が支給されている確率よりは高いはずだ。
きっと見つけ出す。キメラの翼、ルーラの使い手、この二つのうちどちらかを。
「…そして一番重要なのが…実験だ。脱出のな」
いくら藍染にとってこの世界が小さな柵に囲まれたものだとしても、柵の前に落とし穴でもあればより難易度は増す。
確証のないまま大虚ども呼び寄せ、反膜を使って脱出しようとして失敗し、結果死亡では話にならない。
藍染は自分の力に確固たるものを持っている。しかしそれは決して自惚れではない。
何に対しても綿密な計画を立て、100パーセントを目指す。それこそ藍染の自信の源泉。
「今のところ…モルモットに適しているのは…あの二人だな」
藍染がターゲットに定めたのは越前と新八、この二人のどちらか。
この二人をモルモットに選んだ理由、それはごく簡単である。
二人が何も能力を持たず、脆弱な人間であるためである。
もし、実力者や能力者を選定した場合、大虚の反膜に包まれ脱出に成功した場合は何も問題はない。
だがもしも主催者たちに妨害され、藍染一人の力では脱出は不可能だったとき、そのときが問題なのだ。
彼らなりに力を駆使し、脱出に成功してしまうかもしれない。藍染の力を踏み台にして。
それだけは許されない。脱出に成功しうる力を持つのは自分だけでないとならないのだ。
…全ての支給品、能力を奪取し、用済みとなった世界から脱出するために。この実力者や能力者達も自分の獲物なのだ。
力を奪った後、戦闘になり殺害するかもしれない人物の協力を前提に脱出手段を講じることは出来ない。
そのため、一人で脱出できることが大前提なのだ。
「その点、あの二人なら何も問題はない」
越前か新八なら脱出に失敗した場合、何も出来ず立ち尽くすか、主催者どもに首輪を爆破され死ぬだけだ。
その失敗は必ず無駄にはならない。新たな情報として生き、次の脱出の機会に役立つはず。
反膜が現れて失敗、反膜すら現れず失敗、反膜に包まれた瞬間爆破、どの場合でも貴重な情報になる。
モルモットならたくさんいる。焦らず何回も続け積み重ねていけば良い。
簡単な話だ…どんな邪魔が入ろうとも、妨害があろうとも自分にとっては小さな柵に変わりない。
あの主催者達もだ。彼らがどんなに強大だろうと自分には関係ない。
―—今のうちに上から見下ろして眺めておくが良い。私を箱に入れたモルモットのように見つめておくが良い。
直に分かる。お前達こそ私のモルモットだということが。
「さて、実験するのはいいが、集まった人間達はどうするか」
正直に言えば今回の計画の目的は実験を行うことにあるので、人が集まらなくてもいいのだ。あの二人さえいれば。
しかし、二人と遭遇した時点では体力を酷く消耗しており、すぐに実験を行って不慮の事態が発生したときに、迅速に対処できない可能性があった。
それゆえ時間稼ぎとして二人に人を集めるように仕向けたのだ。勿論情報やアイテムを集める目的もあるのだが。
「フ、そう悩む必要もないな。私の斬魄刀を使用すればあらゆる事態に対処できる」
藍染は眼を閉じ、大人数が集まった場合のことを想定し、思考を重ねる。
大人数で魅力的な能力や支給品、ルーラの使い手やキメラの翼を持つ者がいなければ、わざわざ斬魄刀を使う必要は無い。
成功すればそれでいいし、失敗すれば深い絶望に囚われ、殺し合いが始まるかもしれない。
その間に逃亡し、次の機会を待てば良い。
魅力的な能力や支給品、ルーラの使い手やキメラの翼を持つ者がいる場合は、適当な幻影を見せて実験を見せなければ良い。
失敗し、モルモットが死亡した場合も、何者かがモルモットを殺害する幻影を見せれば良い。
勿論これら以外の事態も考えられる。しかし自分なら難なく乗り越えることが出来るだろう。
簡単な話だ。何も問題はない。
「私一人でも問題なく計画を遂行できるが、協力者がいればもっと楽に出来るかもしれんな。
…最も、私の眼鏡に適う人物なんてそうそういないが」
藍染が自嘲気味に薄気味悪く笑う。自分以外の生命を冷徹に見下した笑い。
だが、その邪悪な笑顔も急に止む。藍染の脳裏にある人物が浮かんだからだ。
瀬戸大橋付近で出会った長髪の男、
大蛇丸である。
あのときはお互い深刻なダメージを負っていて事なきを得たが、もしあのとき戦いになっていたとすればただでは済まなかっただろう。
たとえ傷を負っていなかったとしてもだ。
それにあの男を一目見た瞬間、あるオーラを感じた。それは自分と同じ全ての頂点に立とうする者。
そのためには他人の生命さえもおもちゃのように扱い、ゴミのように捨てることが出来る、そんな自分と同じオーラを発していた。
奴ぐらいの者なら安心して協力を頼める…とはいっても、完全に信用はしないが。
大蛇丸さえ自分のモルモットに過ぎないのだから。
…まぁ計画を実行する前に奴に会えたなら考えてもいいかもしれんな…
藍染はまた邪悪な笑みを浮かべ、今まで書き記してきたメモを破るとくしゃくしゃに握り潰し、ボッと一瞬で燃やし尽くす。
その炎はまるで藍染の野心の如く真っ赤に燃え上がり、メモを灰すら残さず燃やし尽くした。
彼の野心は今は静かに火を灯している。しかし、いつ何時この炎のように燃え上がってもおかしくないだろう。
これだけ彼の野心を刺激する逸材が転がっているのだ。彼の野心に火がついたとき、その火を止められるものは少ない。
彼の野心は正に灼熱のマグマ。暴走したマグマは行く先々のものを飲み込み、通り過ぎた後には無残な焼け爛れた大地が残るのみ。
そして彼の野心が最高潮に達するとき、恐らく灰すら残らない。あのメモを燃やし尽くしたように。
…メモに当たるものが参加者達であることは言うまでもない。
【京都~兵庫の県境/1日目・昼】
【藍染惣右介@BLEACH】
状態:わき腹に軽い負傷、骨一本にひび、中度の疲労(戦闘に軽い支障あり・盤古幡使用不可)
装備:雪走@ONE PIECE、斬魄刀@BLEACH
道具:荷物一式(食料二人分 1/8消費)、盤古幡@封神演技、ウェイバー@ONE PIECE
思考:1 夜まで体力回復に努める
2 琵琶湖へ向かう
3 出会った者の支給品を手に入れる。断れば殺害。特にキメラの翼、ルーラの使い手を求めている。
4 計画の実行
時系列順に読む
投下順に読む
最終更新:2024年01月23日 15:46