0190:どうして・・・?





正直、リンスレット・ウォーカーは、隣を歩く男との会話にうんざりしていた。
先ほど会った少女と別れてから、ずっと話しかけてくる。しかも大体が、自分の世界に関する質問。
文化やスポーツ、ファッションやコンピューター関連、そして自分の嗜好について。
一体、何でそんな興味を示すのか、よくわからない。
さっき、自分は男にこう言った。この世界は自分のいた世界の文明レベルに近いということ。
それと、もしかしたら自分が知らないだけで、自分の世界にもニホンという国が存在するのかもしれない。
そう言ってから、質問の量が途端に増えた。
まぁ、この男はキレ者っぽいし、話していく中で、何かしらこの世界からの脱出のヒントを探っているのかもしれない。
そんなことを考えながら、彼女はアビゲイルの相手をする。

アビゲイルは推理していた。自分がいるこの世界の真実を。
先ほど会った少女から、この世界は彼女のいた世界を縮小化したものだということを聞いた。
そして、自分が今まで読んできた書物の知識。他の十賢者たちから得た知識。
アビゲイルは推理する。
この世界のモチーフは、自分たちのいた時代から遥か昔の世界なのではないか。
すなわち、旧世界なのではないか。それが、自分の推理。
そして、隣には、旧世界と同じ文明レベルだというリンスレット。
旧世界の住民。十賢者のジジイ共とは違う、若い女性。今までに得た旧世界の知識とは別の知識を得られるかもしれない。それはただの自分の興味。
そんなことを考えながら、彼はリンスレットに話しかける。

そんな二人の会話を耳に入れず、後ろでブルマは考えていた。
先ほどの少女との会話から得られた情報、自分の仲間が近くにいるという可能性、自分の仲間がマーダーになっているという可能性、それらが頭の中を支配していた。
――クリリン君がこの状況に乗ってしまって、人を殺しているなんて考えられないわ・・・
  きっと、あの女の子の勘違いか何かだわ・・・多分
  クリリン君は間違っても人を殺すようなことはしない・・・!!

そう、クリリンは勇敢な戦士だった。悟空と一緒に成長していく様子を自分は見てきた。
彼は精神的にも十分強い。人を殺すことを好むようなタイプではないし、この状況に狂ってしまって、乗るなんて考えられない。
助けを求める人を守る、それがクリリンであるから。
そして、正義感の強い彼なら、きっとこの状況を打破するのに協力してくれるに違いないはずだ。自分を守ってくれるはずだ。
だからこそ、早く見つけなくちゃいけない。この世界から脱出する大切な仲間なのだから。

そう考えているブルマは、夜明け前からの泣き疲れ・歩き疲れで、あまり体力はないのだが、クリリン求め、西へと駆けていく―――



そして、さつきがクリリンを目撃したという福井県に到着した。
福井県に到着した三人は、さらにもう西へと歩いてゆく。少し開けた場所に出る。
心なしか、辺りが一層静まっているような感じがする。嵐が通り過ぎた後の静けさのような。
寒風が吹く。一瞬の寒さに身を震わす。
しばらく歩くと、脇に黒い影をアビゲイルが見つけた。近くにある倒木とは違う別のいびつな形。三人は十分な警戒心を保ちながらそれに近づく。

「きゃああああぁぁぁ!!」

その影は嘗て防人衛だったモノ。下腹部から下が完全に胴体から離れていて二つに分断されている。
鮮やかなる胴体の断面からは、臓物が零れ落ちている。彼が寝ている地面は、大量の血液を吸い込んで、赤黒く輝いている。
これが三人にとって、この世界に放り込まれて初めて見た死体。
放送やさつきとの会話で死者が出ているということは知っていたのだが、こうして実際に死体を見ると、
改めて自分たちが、こんな悪趣味で不条理な殺人ゲームに参加させられているのだというのを認識させられる。

「ウッ・・・」

悲鳴の主のリンスレットは、泥棒請負業といったアウトローな仕事をしてはいるが、人の死に直接的な関わりを持つことはあまりなかった。
見慣れない死体、しかも酷い惨殺死体を見てしまい、免疫力に乏しい彼女の体は拒絶反応を示す。
朝からろくな物を食べてはいないのだが、嘔吐のため森の奥へと姿を消していった。
ブルマも吐き気はないものの視線を下に向け、死体を直視できない。
ただ、アビゲイルは、無表情で死体に近づいていき、断面に手をあて、観察する。

「ふむ。どうやら、これは剣などの斬撃によるものではないですね。
 彼の肌が焦げています。 おそらく、雷撃系もしくは火炎系の精霊魔術あるいは私すら知らぬ秘法、古代語魔術の類でしょうか――
 それをソドムのようにスライス状に加工し、彼の体を分断したのでしょう。
 もしくはD・Sが所有する火炎魔人イーフリートが守護者の炎の剣によるものとも考えられますが、あちらをご覧ください。
 本来の能力が制限されているこの世界では、おそらく炎の剣もその威力が弱まっていると考えられます。
 あの硬そうな柱を切断するのは難しいでしょう。」

アビゲイルが示す方向に目を向けてみると、路地沿いにある電柱が一本倒れている。
その切断面は、死体と同様、黒く焦げている。
コンクリート製の電柱を刀で切るなんて、物質の呼吸を読むことのできる剣士でもない限り無理だろう。

「雷神剣が本来の力を発揮できているのなら、あの柱を切るなんて簡単なことでしょうが・・・
 それでも、あのような断面にはならないでしょう。熱気を帯びたスライス状の魔法――私の世界とは異なる魔法体系によるものなのでしょう――
 それが彼を殺害した者の能力でしょう。」

その言葉にブルマはハッとさせられる。そして、思い出す。
気円斬―――気を円盤状に練り上げることにより、対象を切断する能力に特化した気弾。
そして、それはクリリンの得意とする必殺技。
ブルマはそれを知っている。

――もし、これがクリリン君の手によるものなら、さっきのあの娘の目撃証言と一致するわ。
あの娘は、クリリン君がいきなり自分を襲ってきたって言っていたわ。
何で、クリリン君の方から、私のようなか弱い女の子を襲うわけなの?

・・・・・・・・・・クリリン君、乗ってしまったのね・・・どうして・・・?

全ての状況を整理し、推測するにブルマは真実に辿り着いた。全ての事情を踏まえた上の最も論理的な答え。それは、最悪な答えだけど。
そしてブルマ防人衛の死体を見つめ、決意する。そこには、いつもの我が儘さは微塵もなく。

――これ以上、クリリン君の手によって、犠牲者を作らせてはいけないわ!
  なんとしても早く見つけ出して、クリリン君を止めなくちゃ!!

クリリンのような実力者、自分の力では止められないことなどブルマは分かっている。
しかし、自分とクリリンは長年の付き合い。悟空とともにクリリンは、自分にとっては、ちょっと手のかかる弟のような存在。
だから、自分が説得して、道を正すことができるはず。否、しなければならないのだ。この人のためにも。
ブルマは使命感を覚えた。クリリンを止めなければならない。大丈夫、きっとできる・・・

「時にお嬢さん、気分が優れない中、すみませんが・・・」

ブルマの思考をアビゲイルが阻む。別に気分が優れていないというわけではないが、
死体を凝視し続けているその様をアビゲイルは心配したのだろう。

「彼の首元をご覧ください。首輪が着いていますが、いかがいたしましょうか?」

ブルマは視線を首元に移す。自分たちと同様、銀色の金属製の首輪が着けられている。
自分たちにはクリリンを探し出すこととは別に、もう一つ目的があった。
首輪の入手。ドラゴンレーダーを対首輪レーダーに改造するためにも、
そして、自分たちに着いている首輪を除去する手がかりを探るためにも、首輪が必要なのだ。
しかし、首輪を入手するために、死体の首元を切断しなければならない。
この人は、見ず知らずの地で(しかも自分の知り合いの手によって)命を落とし、さらに、首元を切断されようとしている。
死者への冒涜。許されることではないのはわかっている。
でも・・・・・

「お願いするわ。」

――生き残るため。首輪を除去するため。みんなを探すため。脱出のため。
そのためには首輪が必要なの。

アビゲイルは雷神剣を持ち替え振り下ろす。一瞬に、かつ正確に死体の首元を切断する。ブルマは思わず死体から目を逸らす。
自分は何もしていないのだが、なぜか罪悪感を覚える。

その時、横の草木がガサッとざわめく。心臓の鼓動が強くなる。
二人は急いで音の出所に目を向けると、一羽の野ウサギが姿を現す。一瞬の緊張が緩む。

少し血で濡れた首輪を拾い上げ、アビゲイルは首輪を観察する。
「この首輪、なかなか興味深いですね。
 これはお嬢さんにプレゼント致しますが、個人的に私も分析したくなりました。
 この辺りに、もう一体ほど死体はありませんかね。」
本人にはそのつもりないのだが、シャレにならない冗談を言いながら、血で濡れた首輪をローブで拭き、ブルマに手渡す。
――ごめんなさい、でも、あなたの死は無駄にしないわ
首輪をバッグにしまいながら、ブルマはそうつぶやいた。


紫の髪を揺らし、やつれた顔をして、リンスレットは戻ってきた。
その足取りはぎこちない。ブルマに声をかける。
「ねぇ・・・・・あの人、埋葬してあげよ・・・・・・・うっ・・・」
首が切断されている死体を見てしまい、再び森の奥へとリンスレットは駆けていった。




走る。今さっき来た道を走り戻る。
走りながらも北大路さつきの思考は止まらない。
先ほど会った気味の悪い大男が、防人衛の首を切断する映像。
そのフィルムが頭の中を何度も強制再生される。

―――――――防人さんが
――――――――――あの大男に殺された!!!

冷静に考えれば、自分が誤解していることに気づくかもしれない。
しかし、あの光景があまりにも強烈すぎて、それを許さない。
勘違いは、悪い方向へ、誤っている方向へと、加速していく。

どうして・・・?
どうして、防人さんが殺されなければいけないの?
あの人たち・・・・・・クリリンという人の仲間だって言っていた。
あの人たちも一緒なんだ。ゲームに乗っているんだ・・・・・・・・

何度も映像は繰り返される。
剣を振り下ろすアビゲイル。首が切断される防人。
剣を振り下ろすアビゲイル。首が切断される防人。
剣を振り下ろすアビゲイル。首が切断される防人。
剣を振り下ろすアビゲイル。首が切断される防人。
剣を振り下ろすアビゲイル。首が切断される防人。
剣を振り下ろすアビゲイル。首が切断されるさつき―――――!?

きっと、私も殺される・・・・・・・・・
殺される前に―――――

木の根っこに躓き、倒れる。今まで考えていた思考が飛ぶ。左膝に痛みを感じる。
足は止まっても心拍数は高いまま。さつきは焦点の合わない眼で前を見つめる。顔は土に埋もれている。

防人さん
私は、どうしたらいいの・・・


数分後、主催者たちの声が彼女の頭の中を流れる。





【福井県/昼、放送前】

【リンスレット・ウォーカー@BLACK CAT】
[状態]気分悪い
[装備]ベレッタM92(残弾数、予備含め32発)(残弾数、予備含め32発)
[道具]荷物一式
[思考]1、トレイン達、協力者を探す
   2、ゲームを脱出

【ブルマ@DRAGON BALL】
[状態]健康
[道具]荷物一式、ドラゴンレーダー@DRAGON BALL、首輪
[思考]1、クリリンを探し出し、殺人を止めるよう説得
   2、大きな都市に行って、ドライバーのような物を入手し、首輪を解析・ドラゴンレーダーを改造する
   3、ゲームを脱出

【アビゲイル@BASTARD!! -暗黒の破壊神-】
[状態]健康
[装備]雷神剣@BASTARD!! ‐暗黒の破壊神‐
[道具]荷物一式
[思考]1、D・S達、協力者を探す
   2、首輪を入手して分析したい
   3、ゲームを脱出

※防人衛の死体は埋葬しました。


【岐阜県/昼、放送前】

【北大路さつき@いちご100%】
[状態]肉体的・精神的に疲労、左膝怪我
[装備]ブラボーの上着
[道具]荷物一式(支給品未確認、食料少し減少)
[思考]1、殺人鬼アビゲイル(思い込み)から逃げる。
   2、東京へ向かい、カズキ・斗貴子・いちごキャラを探す


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141:揺れる草葉と上着、そして動かざる思い リンス 237:リンスレット・ウォーカーの脳内手記
141:揺れる草葉と上着、そして動かざる思い ブルマ 237:リンスレット・ウォーカーの脳内手記
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141:揺れる草葉と上着、そして動かざる思い 北大路さつき 208:恐怖

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最終更新:2024年04月05日 00:45