0141:揺れる草葉と上着、そして動かざる思い ◆SD0DoPVSTQ
朝の風で頭上の木々がざわめく。
その度に少女、
北大路さつきは立ち止まっては真上を見上げ、暫くしてからそれが杞憂である事を理解してはまた東京に向かって歩を進めた。
「防人さん……」
少しぶかぶかな上着をはためかせながら、
防人衛の生存を信じ歩き続けた。
自分を救ってくれた戦士。
彼がそう簡単に死ぬはずがないと自分に言い聞かせながら。
歩く事で、信じる事でさつきは不安と悲しみを無理矢理忘れ去り身体を動かし続けていた。
がさがさ……
草々が揺れる音に混じって何処か近くから声が聞こえた様な気がした。
「多分、都があるのならこっちの方向の可能性が高いわ。人の集まる所ってのは自ずと中心に出来る物だし」
「へぇ意外。貴方、結構場慣れしているのね」
「まぁね、こうみえても昔から何度も危ない事に付き合わされていたし」
聞き間違いではない、確かに女性の声が聞こえた。
しかも次第に此方に近づいてきている様な気がしないでもない。
「ですが、都に着いたからといって改造できる設備があるんでしょうかねぇ。
どうやらこの世界は私のいた世界とも
ブルマさんがいた世界とも文明のレベルが違うようですしね……」
その声と同時に道の脇に生えていた草々からぬっと男の人の顔だけが伸びてきた。
「おや、これまた可愛いお嬢さんじゃないですか!」
草々から生えた顔のまま視線だけぎょろりと此方に向けその男は声をかけてきた。
「ぁ……」
その顔とさつきは視線を交え固まった。
なまじ防人を期待していたところにその顔が突然現れたのだ。
「きゃぁぁぁぁああ!!!」
さつきは尻餅をつくと、自分が逃げてきた事も忘れその突然の不審者に向かって盛大に悲鳴を上げた。
「――で、貴方はそのゲームに乗った男から逃げてきた訳ね」
「はい」
取り敢えずお互いに今の状況を話し合った。
この状況では名前や自己アピールより、どんな状況に置かれているのかを打ち明けた方が大切だからだ。
「取り敢えずこの世界を知っている人がいて助かったわ。私達だけだと勘で進むしかなかったし」
「えぇその位でしたら」
ブルマとリンスはその場で地図を広げ合い、このあたりの都市の位置関係を説明してもらった。
「私達は取り敢えずその、一番近い名古屋……だっけに行ってこのレーダーを改造して人捜しをするつもりなんだけど、貴方はどうするの?」
「私は……」
一瞬、そのレーダーさえあれば真中や他の知り合い、そして
防人衛の言っていた錬金の戦士達を探すのも楽になると思ったのだが、
自分が着ている上着を思い出しその申し出を丁重に断った。
「では、お嬢さん。宜しければそのゲームに乗っている男とやらの特徴を教えてもらえませんか?」
急に横からにゅっと現れたかと思うと
アビゲイルが首だけを90度捻り、さつきの顔を覗き込むようにして見ていた。
「!!……いや、あの……頭を坊主にした男の人で……」
その顔から逃げるように後ずさりしながらさつきは答えた。
「『魔』って書かれた服を着ていたように覚えています」
「魔?坊主?まさかそれって
ピッコロ?」
その二つの単語に
ブルマが反応した。
「ねぇ、その人って……ううん、兎に角その男って緑色で背が高くなかった?!」
「緑色……ではなかったと思います」
「って事は
クリリン君かしら?おでこに模様があったとか鼻が無かったとか……」
ブルマが身を乗り出して質問をした。
「いや、そんな人間離れした格好じゃなくて、見た目は若い男の人で……あ、これ位で背が低かったのが特徴です」
「背が低くて、坊主の若い男の人ね……」
「ちょっと
ブルマ知り合いなの?」
「多分……100人ちょいしかいない中で其処まで特徴が合っているって事は可能性は高いわね。でも何で
クリリン君が……」
「この状況に飲まれてゲームに乗ってしまったとは考えられませんか?」
頭を抱えた
ブルマに
アビゲイルが180度首を回転させ尋ねた。
「いいえ、
クリリン君は何か事情があったとしてもそんなことする人じゃないわ……何度も地球を救ってきた戦士だもの。それは私が保証するわ」
予めリンスと
アビゲイルに情報交換していたときに、元の世界での
クリリンの活躍も話していたのでそれ以上は尋ねてこなかった。
「ということは、そっくりな赤の他人か……」
「この子の見間違い、もしくは……」
「
クリリン君に個人的な恨みがあって陥れようとして失敗したかのどれかね」
その発言によって場が一瞬で凍り付いた。
どちらかが嘘を言っているか、どちらかの情報が間違いか……
「まぁ良いわ。私達はこのゲームに乗る気は無いし、貴方を困らせる気もない。
そうね、
クリリン君の情報を教えてもらったって事でOKにしておくわ」
その沈黙を破ったのは
ブルマだった。
「そうね、これからは別行動らしいし大丈夫よね。それより
ブルマどうするの?」
「私としてはあてのないパーツ探しは後回しにしても、十中八九可能性のある
クリリン君を捜したいんだけど……どう?」
「ふむ、確かに婦人二人に対し護衛が一人というのは些か厳しい。
この雷神剣をもってすれば大抵の輩は追い払えると思いますが、相手にもまた同等かそれ以上の武器があるとすると……」
リンスもその意見に同意して、まずはこの少女が逃げてきたと言った方向に向かって
クリリンを探しに行くことにした。
結局レーダーが完成しても最初に会うのが人殺しの可能性もあるわけで、それなら可能性の高い戦力になる知り合いにまずは会いに行こうという事だ。
「――もう、知らないんだから!!」
相手が提示していた可能性は3つ。
しかし、相手が赤の他人や見間違いという可能性を否定していたということは、即ち残りの自分が嘘を語っていると取られたに他ならない。
相手の身を思い忠告したのに、逆に自分が騙していると思われたのだから腹も立つ。
あの3人組がどうなっても知らないと自分に言い聞かせ、さつきは一人東京に走り出した。
そう、どうなっても知らない……
あの3人が其奴に殺されたとしても。
しかしその思いとは裏腹にさつきの足は次第に遅くなり、遂には止まってしまった。
「防人さん……」
後ろを振り返ると両手を強く握りしめた。
「大丈夫、あの殺人鬼なら防人さんがやっつけて今頃こっちに向かっているはずだから!!」
自分にそう言い聞かせる。
大丈夫なんだ、あの殺人鬼は今頃倒されていて、あの3人組が探していた人とはきっと別人だったんだと。
しかし、それでもさつきの心の中の不安は晴れなかった。
決して防人を信じていないわけではない。
あんな殺人鬼なんて簡単に倒して今頃こっちに向かっているのだ。
だが、もしかしたら劣勢になった殺人鬼が逃げ出したりとか……
「真中、ゴメン。少し送れる」
誰に話すともなくそう呟くとさつきは今来た方向へと再び走りだした。
あの3人だって悪い人じゃなかった。
ならもう一度話せば解ってくれるかも知れない。
さつきが走ると共にキャプテン・ブラボーの上着が揺れる。
「――ブラボーな判断よね……きっと」
さつきには揺れる上着がそうだと頷いているように思えた。
【長野県/午前】
【
リンスレット・ウォーカー@BLACK CAT】
[状態]健康
[装備]ベレッタM92(残弾数、予備含め32発)
[道具]荷物一式
[思考]1、トレイン達、協力者を探す
2、ゲームを脱出
【
ブルマ@DRAGON BALL】
[状態]健康
[道具]荷物一式、ドラゴンレーダー@DRAGON BALL
[思考]1、さつきから聞いた情報を元に
クリリンを探す
2、首輪とドライバーのような物を入手し、大きな都市に行ってドラゴンレーダーを改造する
3、ゲームを脱出
【
アビゲイル@BASTAD!! -暗黒の破壊神-】
[状態]健康
[装備]雷神剣@BASTAD!! -暗黒の破壊神-
[道具]荷物一式
[思考]1、D・S達、協力者を探す
2、ゲームを脱出
【
北大路さつき@いちご100%】
[状態]体力消耗
[装備]ブラボーの上着
[道具]荷物一式(支給品未確認、食料少し減少)
[思考]1、3人組がクリリンに会いに行くのを止める
2、東京へ向かい、カズキ・斗貴子・いちごキャラを探す&ブラボーを待つ
3、
真中淳平を守る
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最終更新:2023年12月16日 22:22