0207:Medding Voice~翻弄する声~
「嘘だ!…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッッ!!」
慟哭。
無人の住宅街に響き渡る…青年の慟哭。
「死ん…だ…?ブラボー…が…?」
「あ、あの…?大丈夫?」
「そんなのッ…嘘だッッ!!!」
「きゃっ!!」
あらん限りの力で寄りかかっていたコンクリートの壁に自らの拳を打ちつける。
目の前の青年の突然の豹変に驚き、思わず身を竦める女性…
弥海砂。
「死ぬわけ無いッ!!あのブラボーがッッ!!」
「ち、ちょっ…血が…!」
「うそだあぁッッ!!!」
ズガッッ!!!
壁が震える。
その壁には紅い血飛沫。
「あんなに強い…ブラボーが…あの…ブラボー…が…?そんな…わけ…」
両手を付いたまま壁にすがるような形で力無くズルズルと膝を落とし、まともに焦点の合わない眼差しでうわ事のように呟き続けるカズキ。
(あ~ん!気まずい!こんな時なんて声掛けたらいいか分かんないし!
月が無事だったからガッツポーズ取りたい気分だけど、そんな空気じゃないし…フェ~ン!どうしよ~!)
カズキの尋常でない様子にただオロオロするしかないミサ。
「えっ…と、とにかく、カズキ君…だっけ?カズキ君の仲間の人の所に戻るんでしょ?」
「………」
「えっと、だから…」
最初出会った時、片や『刃物を携帯している怪しい男』、片や『息を切らせたへとへとの女』。
最初はそんなお互いにかなり警戒していたものの、少しずつ話をしていく内に互いにゲームには乗っていない事同士である事も分かり、
情報交換を始めた少し後に始まった…定時放送。
それまでしどろもどろながらも優しく気の良い青年の話し方であったカズキが、死者の名を告げられ始めてすぐに豹変した。
「…ね!とにかく戻ろうよ!私も付いていったげるから!」
半ば強引にカズキの腕を取り、よろよろとしたような頼りない足取りのカズキを引きずるようにしながら連れていこうとする。
すでに疲れきっている身ではあるが、こんな様を見せられてしまっては見捨てるわけにもいかず…
(もしかしたらカズキ君……カズキンの方がいいかな?…カズキンの仲間の中に月の事知ってる人が居るかもしれないし…
そうじゃなくても、月のまだ知らない情報を集められたら月が喜んでくれるだろうし!とにかく、何としてもカズキンの仲間に会っとかなきゃ!)
「おっ……もぉ~いッ!!」
「…ブラ…ボォ…!!」
視界が歪み…前が見えない。
今…自分がどこにいるのか、分からない。
誰が自分を支えているのか、分からない。
自分は…誰だ?
――戦士・カズキ!――
…ああ、そうだったね、キャプテン・ブラボー。
俺は……戦士だったよね。
――…護る力を!それが戦士の力だ!そのために強くなれ!戦士カズキ!――
分かってる。分かってるよブラボー。
でも…俺は、護れなかった。
……あなたを。
――カズキ…――
…誰?…斗貴子さん…?
――君には…本当に…すまないと思ってる…!――
何故…謝るの?
斗貴子さんが謝る事なんて…
――私が、君を…――
…違うよ、斗貴子さん。
俺、嬉しいんだ。
だって…
斗貴子さんを護れる『力』が、手に入ったんだから…
けど……ブラボーは……!
「斗貴子…さん…ッ!!」
「えっ!?痛っ!!」
突如ミサを乱暴に振り払い、あさっての方を向いたまま立ち尽くすカズキ。
「何よっ!いきなり!………カズキン?」
ミサの事など忘れたかのように、ふらふらと逆方向に向かって歩き始めるカズキ。
「ちょ!ちょっとぉ!どこ行くの!?カズキンっ!!」
「斗貴子…さん、俺が…護らなきゃ…斗貴子さん……!」
「カズキン!ど~しちゃったのよ!カズキィ~ンッ!!」
――カズキィ~ンッ!!――
「…?あらん?カズキちゃん?」
大蛇丸との邂逅の後、仲間の元へ戻ろうと中道を早足に歩いていた妲己は、少し離れた場所から聞こえた聞き慣れない女性の声に眉をひそめる。
(カズキちゃん、もしかして仲間になりそうな子でも見つけたのかしらん?)
口元に手を当てて一思案し、声の元へと歩を進める…
「…貴女、カズキちゃんのお友達?」
「え!?ワッ!!?だ…誰っ!?」
「わらわはカズキちゃんと一緒に居た者よん。それより、いったい何があったのかしらん?」
いきなり横に現れた怪しげでセクシーなコスプレ(?)姿の美女に驚き、オーバーリアクション気味にのけぞって怪訝な顔になるミサ。
「…え?カズキンと?えっと……(怪しい!明らかに怪しいってば!…けど、凶悪な殺人鬼って風には見えないし…)」
その女性の全身を観察するかのようにじと目で見回す。
「いやん!(はぁと)積極的な娘って…好きよ?」
「げ!いや!そーじゃなくて!」
「フフ、性別を問わずに視線を釘付けにしてしまう美貌だなんて、わらわって罪なオ・ン・ナ(はぁと)」
「………(ライト…世の中のためにも、こういう人はノートに名前書いてもいいよね?)」
目を伏せて諦めたような薄ら笑いを浮かべるミサにもお構いなしにクネクネと身をよじる妲己。
「……とまあ、冗談はさておき。カズキちゃんにいったい何があったのかしらん?もしかして、さっきの放送で…?」
「あ、はい、なんか…脱落しちゃった人の名前聞いてから…急にカズキン、シリアスモードになっちゃって…」
「シリアスモード?」
妲己には思い当たる節があった。
先ほど呼ばれた『防人衛』の名は、すでにカズキから聞いていた。
おそらくその知り合いが死んだ件でショックを受けて…我を失っているのだろう、と。
「…まったく、カズキちゃんったら手の掛かる子ねん。ま…手の掛かる子ほど、可愛いものだけれど。で?カズキちゃんは?」
「えっと、あっちに…」
ミサが指さした方角は、東。
「ふぅん…」
「………?」
すぐに追いかけるでもなく、その先の方角を向いたまま何やら考え込む妲己。
この女性自らがカズキの事を『仲間』だと言っていたにも関わらず、何故かすぐに追おうともしないその不審な行動に、
ミサはその真意が理解できず警戒を強める。
(名古屋に行く道は確かあっちよねん。遊戯ちゃんを呼びに行ってから追いかけてもすぐに追いつけるけれどん…
…確か、さっきの放送では遊戯ちゃんのお友達も呼ばれてたはず。遊戯ちゃんと合流してもすぐに出発できるかどうかは分からないしん…)
脱落者の中には遊戯から聞いていた『海馬』という人物の名もあった。
朝の様子を思い出し、遊戯もまた再び激しい悲しみに暮れているであろう様子は想像に難くなかった。
「…なら…」
天秤に掛ける。
遊戯とカズキ。
すぐに三人合流できるとしても、少しの間だとしても別行動になってしまう場合、どちらを優先するか。
「……カズキちゃん…ねん」
「……え?」
ポツリと呟かれたカズキの名に、ミサの頭には疑問符が浮かぶのみ。
「…ねえ、貴女。この近くにわらわたちの仲間の『遊戯ちゃん』って男の子が居るはずなんだけどん、呼んできてくれないかしらん?」
「え?何で私が!?」
「お願いよん!わらわはカズキちゃんを追いかけなきゃいけないし…貴女しかいないのよん…!」
「え…ええッ!!?」
突然目を潤ませて涙ながらに懇願する美女にどうリアクションを取ればいいか分からず、戸惑うミサ。
「わらわたちは名古屋の方に行く予定だったから、すぐに遊戯ちゃんにもこっちに向かうように伝えてくれないかしらん?」
「で、でも遊戯って人の顔も知らないし!」
「大丈夫よん!すぐ近くに必ず居るはずん!とっても疲れてたから、どこかで休憩してるのよん
…もし引き受けてくれるなら、貴女にとっても良いモノをプレゼントしてあ・げ・る!」
「……えっ?プレゼン…ト?」
かなり嫌そうな顔をしていたミサだが、その言葉を聞いて顔色が変わる。
自分のカバンをごそごそと探る妲己。
「はい!コ・レ!その名も…『まさか一度見るだけで貴方もこんなに強くなれる!?不思議アイテム!黒の章っ!』よん!」
「………は?」
「……信じてないわねん。ま、無理もないわん…ここだけの話、わらわはこれを見てすっ……………ごく、強くなれたのん!ほら!」
妲己が身を屈めたかと思った瞬間、バッ!と十メートルほど宙に飛び上がる。
「え!?ええええッッ!!!?嘘ッッ!!?」
信じられない光景に、目を丸くして声を上げる。
「…ハッ!ふう…どお?信じてもらえたかしらん?」
「は…はい!(スゴい!これなら…あのチョウコウメイにも負けないかも!?月、絶対喜んでくれる!!)…じゃあ、早速!」
「…まだよん!」
「…え?」
喜々としながらビデオを受け取ろうとしたミサだが、それはヒョイっと手の届かない後ろへ回されて腕が空を切る。
「遊戯ちゃんを呼んできてくれたら、その時にプレゼントしてあげるわん。それに…一つ約束して欲しいのん」
「そんなぁ~…それで、約束って?」
「このアイテムの事、遊戯ちゃんたちにはナイショにしてほしいのん。
わらわがこんなアイテムに頼って強くなった、ってバレちゃったら…悲しいけど、軽蔑されちゃうからん…!」
シクシクと声を上げながら泣き、顔を手で覆う。
「遊戯ちゃんたちにはナイショだから、わらわにはコレはもう不要なのん。だから貴女にプレゼントしたい、ってワケ!
…引き受けてくれるかしらん?」
顔を上げ、天女のような優しい顔でミサの顔を上目遣いで見上げ、返事をじっと待つ妲己。
「…分かった、ミサに任せておいて!絶対遊戯君を連れていくから!
…だからなるべく追い付きやすいように、この辺からあんまり離れないでね!」
「ありがとう!!貴女ならきっとそう言ってくれると思ってたわん!!」
パァ!と明るい微笑みを浮かべて固く握手を交わした後、善は急げとばかりに互いに分かれて別々の方向へ散る。
「約束だからね~っ!」
「…フフ…わらわの頭脳には、いつもホレボレするわねん…!」
今回の嘘には意味があった。
黒の章は出来るだけ早めに手放しておきたかった事。
別に持っている事自体は万一遊戯たちにバレてしまったとしても、いくらでも言い訳はできるために大きな問題ではなかったが…
有効活用するためには、このような形で手放すのが一番理想的であった。
(強い子に見せてもわらわには得は無いわん。むしろ、いらぬ敵を増やしてしまうだけ…
今の子みたいな『弱者』に渡してしまうのが、一番効果的だし面白くなるわん。)
あれは人間の一番醜い部分を連ねた内容の映像。
見てしまったら、おそらく普通の人間なら……その先は簡単に想像がつく。
太公望がいくらあんな子に襲われても、簡単にやられるわけはない。
大した働きは期待できずとも、敵となる者を少しでも排除してくれたら万々歳だ。
それにそういう事は早めにしておかなければ、後々になって人数が減ってからでは効果も薄い。
むしろ自分たちの障害になってしまう可能性の方が高い。
「さて…わらわの大切な仲間、カズキちゃんはどこに行っちゃったのかしら…ねん」
足取りも軽く、その美女は笑みを絶やさず道を急ぐ。
【大阪府/日中】
【弥海砂@DEATHNOTE】
[状態]重度の疲労
[装備]核鉄XLIV(44)@武装練金
[道具]荷物一式
[思考]1:遊戯を探して妲己の元へ連れていく
2:夜神月と合流
3:夜神月の望むように行動
【武藤カズキ@武装練金】
[状態]精神不安定
[装備]ドラゴンキラー@ダイの大冒険
[道具]荷物一式(一食分消費)
[思考]1:斗貴子さん…!
2:仲間と武器を集める(斗貴子・杏子を優先)
3:蝶野攻爵に会い、状況次第では相手になる
【蘇妲己@封神演義】
[状態]:健康
[装備]:打神鞭@封神演義、魔甲拳@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式(一食分消費)、黒の章&霊界テレビ@幽遊白書
[思考]1:カズキを追い、カズキ・遊戯と合流でき次第名古屋へ向かう
2:仲間と武器を集める
3:本性発覚を防ぎたいが、バレたとしても可能なら説得して協力を求める
4:ゲームを脱出。可能なら仲間も脱出させるが不可能なら見捨てる
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2024年04月03日 15:12