0228:その男が見せる希望 ◆kOZX7S8gY.
「なんだかずいぶんと久しぶりな気がするな」
時刻はすでに昼過ぎ。
仙道は今、神奈川県のとある体育館にいた。
神奈川県――仙道の母校、陵南高校があるはずの場所。
陵南高校――神奈川に位置する、仙道の学び舎。
の、はずだった。
しかしここには……この世界の神奈川県には、陵南高校は存在しなかった。
いつもの見慣れた校舎も、通学路も、そして自分の家さえも。
建物の配置、施設の有無、それは確かに、仙道の知る神奈川県と酷似していたが、何かが違う。
小一時間ほど神奈川を歩き回って確かめたが、細かいところで、仙道の知るそれとは風景が違うのだ。
今、仙道がいる体育館は、どこかの私立高校のもの。
初めは陵南高校への道を辿ってここに来たはずなのだが、
次第に自分の知る道並みとは違っていき、辿りついたそこには仙道の知らない校舎が立っていた。
神奈川県民である仙道でも知らない学校。
陵南高校があるはずの場所に立つ、自分の知らない建物。
やはりこの世界は、日本のようで日本ではないのかもしれない。
(まあ一日も経たずに静岡から神奈川まで徒歩で移動できたんだ。明らかに狭いよな)
とにかく、この世界に陵南高校は存在しない。
仙道が在籍していた、陵南高校バスケット部も。
「しっかし……体育館の癖してまさかバスケットボールまでないとはね」
体育館の用具倉庫。
普通なら授業で使用するはずである、あらゆるスポーツ用具がそこにはなかった。
仙道が慣れ親しんだバスケットボールも、体育館には付き物な飛び箱やマットといった器械体操の類の物も。
こんな設備の悪い学校のバスケ部はさぞ大変だろうと思いながら、仙道は目線を上にやった。
「唯一体育館らしいのは……あれだけか」
仙道の視線の先にあるのは、一つのバスケットゴール。
それだけは間違いようのない、バスケットプレイヤーである仙道が、試合のたび貪欲なまでに追い求める物。
ボールもゼッケンもタイマーもない、バスケットゴールだけが残された、寂れた体育館。
環境こそかなり違うが、そこは紛れもなく、仙道のフィールド。
体育館の中に立つのは、仙道ただ一人。
だが、目をつぶれば今でも蘇ってくる。
あの、壮絶な光景が。
あの、熱いゲームが。
全て、神奈川を移動している最中に流れた第二放送で告げられた名前。
同時に、参加者一覧の中で自分が唯一最初から知っていた名前でもある。
それら全てが呼ばれてしまったということは、どういうことか。
(あの三人が一気にいなくなったんじゃ、湘北の戦力もガタ落ちだろうな……なんて)
仙道はおもむろにバスケットゴールの前に立ち、瞬間、
その場の空気が変わった。
(……流川、お前のプレーがもう見れないと思うと残念だよ)
なにを思ったか、仙道は腰を落とし、腕を上下に振り始める。
――あたかもそこにボールがあるように――
(三井さん……俺がもう少し早く駆けつけていたら、あなたを死なせずに済んだかもしれない)
仙道は腕を上下に動かしたまま、右足を軸にステップを取る。
時にターンし、時にフェイントをかけ、それでいてドリブルをする腕を休めない。
――あたかもそこにディフェンスがいるかのように――
(晴子さんってのは、あの赤木キャプテンの妹さんかな? あの人と魚住さんのぶつかり合いは本当に凄まじかった)
仙道のリズムを捉えた動きは、どれほどの者を魅了できるだろうか。
たとえその意味を知らぬ者でも、たとえボールがなくても、凄みは伝わってくる。
そして仙道はゴール下、誰もいないはずのそこに、合図を送る。
――あたかもそこにチームメイトがいるかのように――
(桜木……お前は天才じゃなかったのかよ)
仙道の前に現れたのは、派手な赤髪の幻影。
自分を天才と称し、奇抜なプレイを見せてくれた面白いやつ。
(ま、抜くのは簡単だったがね)
仙道が空想のボールを大きく放り投げる。
その先には、確かに実在するバスケットゴール。
しかしボールはゴールリングに弾かれ、ガァンと豪快な音を鳴らした。ような気がした。
そして、仙道が飛ぶ。
仙道の行動は、シャドーボクシングのバスケット版といえるかもしれない。
空想のボールで、空想のチームメイトと、空想の相手をイメージにプレーする。
トレーニングとしては全く無意味と思える仙道の行動。
(この世界には存在しない。バスケットボールも、チームメイトも、競い合うライバルも)
――バスケットが存在しない――
大きな跳躍が、仙道のユニフォームを揺らした。
「遅いなぁ、仙道くん」
「思い出にふけってるんだろうよ。ここはあいつの故郷の街に似ているみたいだからな」
体育館の外、とある高校の校庭では、
デスマスクと香が仙道を待っていた。
ダーク・シュナイダーを退けた後、東京方面へと移動してきた一行は、この学校で足止めを食らっていた。
それというのも、仙道が「ちょっと見ておきたい」とここの体育館に立ち寄ったためである。
「しかしこれからどうする? 神奈川はまったく人気がないし、このまま東京を目指しても良いが……」
「洋一くんが気がかりよね……」
香が気にかけているのは、てっきり死んでしまったかと思っていた、ついてない少年。
ダーク・シュナイダーとの戦闘の際に姿を消したが、先ほどの第二放送では彼の名前は呼ばれていなかった。
つまりは、まだ生きているということ。
「探すにしても……来た道を戻ることになるし」
「ああ。東京付近なら、あんたの仲間も見つかるかもしれねぇ。
その追手内ってやつには悪いが、ここまで来たんだ。探しに行くのはもう少しあとにするか」
「でも……こうしている間にも、もしかしたら三井くんみたいに……」
香の脳裏に、三井の死の光景がよぎる。
もう、目の前で人が死ぬのはごめんだ。
だが、
「なに、ついてないとか言いながらもちゃんと生きてたんだ。案外悪運は強いのかもしれねぇ。
探しにいくのはここらへんを見て回ってからでも遅くねぇだろ」
「そうね……それもそうかもしれない」
こうして捜索を先延ばしにされるのも、
追手内洋一の不運がなせる業かもしれない。
仙道が体育館内に消えてから、もう三十分ほど経っただろうか。
「仙道くんは……もう知り合い全員殺されちゃったのよね」
「……そうみてぇだな」
しばしの無言。
二人は今、仙道が一人体育館でなにをやっているか知らない。
「まさか……知り合いがいなくなっちゃったのを悔いに自殺とか……」
「おめぇはあいつがそんなヤローに思えるのか?」
「それは……思えないけど」
香は仙道という人物はよく知らない。
が、自分で口にしておいてなんだがそんなことをするような弱い人物には見えなかった。
「なんていうか、仙道くんと一緒にいると不思議と安心させられる。こんな状況でも、彼ならなんとかしてくれるんじゃないかって」
「奇遇だな。俺も初めてあいつに会った時、同じことを感じた」
ただの運動神経がいいだけの少年のはずなのに、彼からはなにか、計り知れない希望を感じてしまう。
それが、
仙道彰という男。
それから一分後、体育館の扉が開けられる音が聞こえた。
「お、やっぱりあいつに心配は無駄だったみたいだぜ」
「そうみたい」
二人の待ち望んだ、仙道彰の帰還。
「すいません香さん、デスマスクさん。ずいぶんと時間をかけてしまって」
仙道はいたって爽やかに登場し、その顔には微量な汗が輝いていた。
この姿を見ると再度感じてしまう。
仙道彰という男に見える、希望を。
「さあ、いきましょうか!」
『仙道なら、きっと――』
【神奈川県・とある高校/日中】
【仙道彰@SLAM DUNK】
[状態]:若干の疲労、気持ちのいい汗
[装備]:遊戯王カード@遊戯王
「真紅眼の黒竜」「光の護封剣」「闇の護風壁」「ホーリーエルフの祝福」…未使用
「六芒星の呪縛」…翌日の午前まで使用不可能
[道具]:支給品一式
[思考]:1、首輪を解除できる人を探す。
2、東京周辺で海坊主、冴子を探す。
3、東京周辺を捜索後、追手内洋一を探す(山梨に戻る)。
4、ゲームから脱出。
【デスマスク@聖闘士星矢 】
[状態]:そこそこのダメージ(戦闘に若干の支障あり)
[装備]:アイアンボールボーガン(大)@ジョジョの奇妙な冒険
アイアンボール×2
[道具]:支給品一式
[思考]:1、仙道に付き合う。
2、東京周辺を捜索後、追手内洋一を探す(山梨に戻る)。
【槇村香@CITY HUNTER】
[状態]:精神的に疲労
[装備]:ウソップパウンド@ONE PIECE
[道具]:荷物一式(食料二人分)
[思考]:1、海坊主、冴子を探す。
2、東京周辺を捜索後、追手内洋一を探す(山梨に戻る)。
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最終更新:2024年03月14日 20:27