0274:無人東京考察記





「おいおい、まるで都市ごと神隠しにでもあったみたいだな」

仙道彰のぼやきは、誰にも聞こえることはなく。
彼は今、日本の首都、東京にいた。
そう。確かに日本の首都。
首都といえば国の中心的都市であり、人の賑わう場所である。
しかし、仙道が歩くそこは――無人の東京。

仙道彰、デスマスク槇村香の三名は、ここ東京で他の参加者の捜索に当たっていた。
参加者の一覧を見てもわかるように、このゲームに参加している者は、なぜか日本人が多いようである。
まだ生き残っているはずの香の仲間、伊集院隼人野上冴子も日本人。
仲間との合流を目指すなら、こういった人の集まりそうな大都市に来る者が多いと踏んだのだが……

「おーい! 誰かいないかー!?」
いくら仙道が呼びかけようが、返ってくる言葉はない。
無人、無人、無人。
そこには、仙道達以外の人間は存在しなかった。

「仙道君、どうだった?」
「ああ、香さん、デスマスクさん。いえ、こっちは収穫なしです。そっちは?」
「駄目だ。上からも探してみたが、人っ子一人見つからねぇ」
デスマスクと香、二人は仙道のすぐ横に聳える建物――この都市のシンボルとも言える、東京タワーの中から出てきた。

この都市に着いたとき、あまりの人気のなさから、仙道は二手に分かれての捜索を提案した。
誰が潜んでいるかもわからない場所で、そんな危険な真似はできないと二人に反対されたのだが、
『大丈夫ですよ、俺にはこれがあります』と、あのダーク・シュナイダーをも押さえ込んだカードを片手に、早々に東京の街を走り去ってしまった。
取り残されたデスマスクと香は、仕方なく東京タワー内の捜索に当たったのだが、結局こちらも成果は仙道と同じ。

誰もいない東京タワーの前、三人は寂しげにたたずんでいた。
「しかしこれからどうする? 東京にこうも人がいないとなっちゃあ、おまえさんの仲間もどこにいるかわからないぜ」
「そうよね……考えられることと言ったら、他の大都市……たとえば大阪なんかに集まっていると思うの」
「そうですね。もし西日本に近いところにいたとなれば、そっちのほうに行く可能性が高い。
しかし、やっぱりこの人気のなさは異常だ。まだ九十人近くは残っているはずなのに、東京を目指す参加者が誰もいないなんて」

考えられることは、三つ。
一つは、参加者が西日本に固まっている場合。
このゲームの開始地点は参加者ごとにランダムのようだし、必ずしも日本全体に均等に割り振られているとも言えない。
下手をしたら、東日本にいたのは仙道たちが出会った数名だけだったということも考えられなくはない。

二つ目は、日本を知る参加者が西日本に固まっている場合。
日本人が多いのはわかりきっているが、その日本人が全員、東京とはかけ離れた地点にいるとしたら。
東京よりもまず、目先の大都市へと向かうだろう。
それでなくてもまだ一日目。東京を目指していても、まだ着けていないという可能性もある。

そして、最悪なのは三つ目。
「ひょっとしたら、ここら一帯にいた奴らは、もう全員脱落しちまったのかもな」
山梨には、ダーク・シュナイダーという危険極まりない輩がいた。
ダーク・シュナイダーが、とは言わないが、彼のような強大な力を持った者が、東京を目指す者を片っ端から一掃してしまったとしたら。
ただでさえ人が集まりやすい大都市。狩人が待ち伏せをするには、絶好のポイントでもある。

「まさか……こうしてる今も誰かに狙われてるなんてことは……」
「いえ、それだったら俺が一人になったときに襲っていたでしょう。たぶん、純粋に今ここには人がいないんだ」
「ここに誰もいないとしても、この周辺に誰かいる可能性はある。いたとしても、マーダーの可能性が高いがな」

デスマスクの危惧が現実のものだとしたら、このままここに留まるのは危険である。
しかし、やはりここは日本の首都。待ち続ければ、そのうち人が集まってくる可能性も十分にある。
だが、忘れてはいけない。彼らには、今もどこかでしぶとく生き残っているであろう、もう一人の仲間がいることを。

「……洋一君のことも心配だし、一度山梨に戻ってみない?」
東京タワー捜索中も、香はずっとそのことが気がかりだった。
ダーク・シュナイダーに襲われたときに死んだと思われた、ついてない少年。
彼と別れてから数時間。彼の生存を知ってからさらに数時間。
これ以上放っておくのは、さすがに可哀想というもの。
ひょっとしたらもうすでに、新たな襲撃者に襲われて「ついてねぇー!」とか言っているかもしれない。
それでも、不思議とまだ死んでいない気がするのはなぜだろう。

「そうですね。このままここに留まっていても、当分は誰も来そうにありませんし。先にそっちと合流しましょう」
「だがもうすぐ放送だぞ? ひょっとしたら、そいつの名前も読み上げられたりしてな」
「もう、そういう冗談はやめてよね!」
これからの行動を決めた三人は、その場を後にする。
目指すは山梨、香がダーク・シュナイダーに襲われた地点。
まだそこに洋一がいるかはわからないが、怪我で動けない状態だったりしたら大変である。

彼らの危惧どおり、東京周辺には何人かのゲームに乗った参加者がいた。
そのうえ、香やデスマスクの仲間も関東にはいない。
それらのことを考えたら、その場を離れたのは正解と言えるかもしれない。
誰とも会わないということは、なんのハプニングも起こらなかったということ。
おかげで、三人のチームワークは着実に高まっていった。

しかし……彼らは知らない。
探し人である洋一が、すでに彼らの予想を遥かに越える不運に巻き込まれていることを。山梨にはもういないということを。
ついてない少年に振り回されて向かう山梨には、なにが待っているのか。
凶悪なマーダーに襲われる可能性もあれば、誰にも会えず、日本中をたらい回しにされるという可能性もある。あくまで、可能性だが。
だがなんとなく……三人の紅一点である香には、世界一ついてない男、追手内洋一の振りまいた不幸の残り香がした――





【東京都/東京タワー周辺/夕方】

【仙道彰@SLAMDUNK】
 [状態]:健康
 [装備]:遊戯王カード@遊戯王
     「真紅眼の黒竜」「光の護封剣」「闇の護風壁」「ホーリーエルフの祝福」…未使用
     「六芒星の呪縛」…翌日の午前まで使用不可能
 [道具]:支給品一式
 [思考]:1、山梨に戻り、追手内洋一を探す。
     2、首輪を解除できる人を探す。
     3、海坊主、冴子を探す。
     4、ゲームから脱出。

【デスマスク@聖闘士星矢】
 [状態]:そこそこのダメージ(だいぶ回復、戦闘に支障なし)
 [装備]:アイアンボールボーガン(大)@ジョジョの奇妙な冒険
     アイアンボール×2
 [道具]:支給品一式
 [思考]:1、仙道に付き合う。
     2、山梨に戻り、追手内洋一を探す。

【槇村香@CITY HUNTER】
 [状態]:健康
 [装備]:ウソップパウンド@ONE PIECE
 [道具]:荷物一式(食料二人分)
 [思考]:1、山梨に戻り、追手内洋一を探す。
     2、海坊主、冴子を探す。

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228:その男が見せる希望 仙道彰 309:悪夢の泡
228:その男が見せる希望 槇村香 309:悪夢の泡
228:その男が見せる希望 デスマスク 309:悪夢の泡

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最終更新:2024年04月20日 08:55