0229:止まない風





静かな森で一人の男が佇んでいた。
「ふぅ、それにしてもとんでもねえ化け物だったぜ」
浦飯幽助は茨城県の森まで移動し、戦闘の疲れを癒していた。
「トレインのやつ大丈夫かな・・・」
幽助はこのゲームが始まって、初めて心を許した仲間の存在を気にかけていた。
「あの腕じゃ、強い敵と会ったら・・・」
そこまで思考が辿りつくと、幽助は己の右手にも激痛が走っていることを改めて認識した。
「ちっ、俺も人のことは言えねえか・・・」
幽助の右手はもはや戦闘では使い物にならず、頼みの霊丸も使い切ってしまっていた。
(かと言って、このままじっとしててもしゃーねーか)
そう思い、出発の準備を始めたときだった。
閑散としていた森に突如爆発音が響き渡った。
近くで――といっても、戦闘域からはまだ大分距離はあったが――炎が上がるのが見えた。
「戦闘か!?」
(まさか、トレイン?)

炎が上がったのとは別に、森が揺れ、大気がざわめいていた。
幽助の思考とは裏腹に彼は思いがけない行動をとる。
それは考えるよりも早く、認識するよりも早く、
それは霊感でも、直感でもなく、
ただ人間に生まれ持って与えられた防衛本能による、生きたいという意思によって、
無意識のうちに避けるという選択肢を肉体が選んでいたのだ。

背後から振り下ろされる拳により巻き起こる轟音。
その姿を認識するまでもなく、その人間が先ほどまで闘っていたラオウなる人物――無論名前は知らないのだが――のものであることは明白であった。

その殺気、威圧感全てが桁違いの人間がそこには居た。

(奴は倒したはずだ・・・倒しきれてなかったのか?
もう霊丸はねえ・・・どうする)

ラオウにはケガの痕こそあるが、こと攻撃能力に関しては全く衰えを見せていなかった。
それに対して、休んだとはいえまだまだ満身創痍の幽助。
「ちっ!本当に化け物かよ」

(ここは一旦逃げるか?・・・いやダメだ!ここで逃げたらまた他のやつが犠牲になっちまう)

浦飯幽助は不良であったが、その心根には確かな正義と優しさがあった。
その信念が彼をその場に踏みとどまらせた。

対峙する両者。
威圧感だけで押しつぶされそうになる・・・対峙するだけで幽助は全身から汗を噴出し、呼吸も乱れてきていた。

(こうなったら一か八か・・・)
幽助はラオウに向かって走り出した。
ラオウの豪腕が幽助を襲う。
ゴキン・・・鈍い音と共に、幽助の右腕は肘の辺りから明らかに変な方向に曲がってしまった。
(ちっ・・・こりゃぁ元にはもどんねえかもしんねえな)
しかし幽助はラオウの懐に潜りこむことに成功した。
払った代償は己の右腕。どうせ戦闘には使えぬ腕。
生きるための代償。
その結果生まれた最初で最後のチャンス。
いかに人間を超えている幽助の拳といえども、ラオウの鋼の肉体には歯が立たぬだろう。
霊力が必要だった・・・
幽助の空っぽのはずの霊力がその一瞬に突如湧き出し、残った左拳に集約されていく。

それは生命の輝き。
それは生きる力。
幽助は己の生命を燃やして霊力を作り出した。
正に己の身をも犠牲にする捨て身の技。

狙うはラオウの胸に残る深い傷跡。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!霊光弾!!!!!!」

激しい打撃音と共にラオウの身は数メートル以上飛ばされていた。

「はぁっ・・はぁっ・・・やったか・・・?」
砂埃の中に消えたラオウの肉体。
幽助には最早指一本動かす気力もなかった。

やがて砂埃が晴れていく。
「はは・・・マジかよ・・・」
それが幽助が最後に放った言葉だった。
砂埃の中から立ち上がった巨身の放った一撃は、確実に幽助の心の音を奪い去った。

「ふぬぅ。見事であった・・・よもやこの身が二度も地に伏せられるとは。褒美にこの拳王の記憶に永遠に刻んでおいてやろう」

拳王は去っていく。
未だ消えやまぬ炎の元へ。
己の傷を癒す間もなく、新たな強者と出会うために。

一人森に取り残された幽助。
その肉体にはかつて聞こえていた心の音はしていなかった。
───ドクン
横たわる幽助に大気が集約されていく。
───ドクンドクン
森が怯えている。
───ドクンドクンドクン
大きなバウンドとともに幽助の・・・かつて幽助と呼ばれていた肉体に大きな変化が見られた。
その肉体には魔族の紋章が浮かび、髪は伸び、心臓の代わりに核となるものが動いていた。

人間としての浦飯幽助は確かに死んだ・・・

しかし・・・これは当人も知らぬことではあったが、
闘神を先祖に持つ幽助は、魔族大隔世により魔族としてこの地に蘇っていたのだ。

森に吹く風は今も吹き止まない。





【茨城県中部の森/日中】

【ラオウ@北斗の拳】
 [状態]:胸元を負傷(大)、肋骨にヒビ、霊丸によるダメージ(闘気で軽減)
     右腕にダメージ、右手ただれ薬指小指喪失
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式、不明
 [思考]:1.炎の方へ新たな強者を求めて行く
     2.いずれ江田島平八と決着をつける
     3.主催者を含む、すべての存在を打倒する(ケンシロウ優先)

【浦飯幽助@幽遊白書】
 [状態]:魔族化、霊丸→妖丸(使用回数不明)
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式
 [思考]:不明(次の書き手さんに任せます)


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188:拳王地に臥す 浦飯幽助 250:魁!!一護白書100%~護る力、暴れる力、虚な力~
188:拳王地に臥す ラオウ 248:日輪の如く、巨星の如く

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最終更新:2024年04月05日 01:25