0236:血溜まる部屋、そして恐慌の世界
その部屋には血が溜まっている。明らかに人間用のサイズではない牢に、仰々しい言語が書かれた札。そして、その内には―――――
「―――――?」
その少年が目を覚ましたとき、最初に目に入ったのは赤色だった。
周りの薄暗さなど関係なく、ただただ紅い。
赤色が、目の前に迫っている。
「俺ってば――確か―――」
ズキン。
何かを思い出そうとすると、頭が痛んだ。一瞬思考を止め、また思い出そうとする。
確か――殺し合いの舞台に立たされて――ズキン―――跡部と、一輝に会って――――銃声―――激痛―――ズキン!
―――ピエロと全身タイツ―――同族の男―――殺す―――同族?違う!俺は!―――――ズキン!!!!!!
少年は、起き上がった。
薄暗い周りを見渡すと、跡部が履いていた靴と、そこから伸びる足が見えた。
「跡部!」
少年は、この世界で初めて出会った、同い年の仲間の名を呼び、彼に近づいていく。
1歩。
2歩。
3歩目で、少年は友の顔を見た。
顔のあるべき場所を見た。
しかしそこには、顔はなく、見えるのは紅い血と、それよりもずっと紅く見える【何か】が在るだけだった。
「え」
少年は、それを目にした瞬間、先ほど思い出せなかったことを思い出す。
――――グウゥ・・・!!ウオオオオオオオオオ・・・!!―――――
「違う」
少年はとっさに言葉で自分の考えを否定する。
「あいつだってばよ!あいつが殺したんだ!」
後ずさり、何かを踏みつける。ぐにゃりと、肌と肉の感触。いくつかに分かれている。
「―――――手?」
誰の手だ?まさか、一輝もあいつに――?
振り向いて、少年は見る―――彼が言うところの【あいつ】を。
化け物ながら、美しさを残していた風貌は見るも無残。
半眼に刺さる棒切れ、全身に残る打撲傷。
「あ、あ、あああああああああああっ!」
何故こいつが死んでいる?
(その答えは明白だろう)
(我等がこいつを殺した)
(その小僧も―――――)
「俺じゃ、俺じゃない!」
(殺したいと望んだだろう?)
(ならばどちらにせよ同じこと)
(もう何も考えるな)
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
少年は走り出す。必死で自分の内から聞こえる狂気の声から逃れようと、ただ走る。
荷物も何も放り捨て、疲労すら忘れ、ただ駆ける。
どのくらい走っただろうか、少年は立ち止まる。
まだ狂声は止んでいない、ならば何故立ち止まったか。
足元に、瓦礫に埋もれている人間が居たからだ。
足だけが見えている。
「・・・・・・この、服、は」
確か、自分達を襲った、ピエロの男の物。
周りを見回すと、目に映るのは自分がいた市街地。
「何だ、そんなに走った訳じゃ・・・」
言いかけて、がらり、と瓦礫が崩れる音が聞こえる。
――――罠か!
とっさにそこから離れると同時に、体をそちらに向ける少年。
狂気に満ちたピエロの貌。ピエロの首。ピエロの肩。ピエロの腕。ピエロの腹。
だが、その下には何もない。
「・・・・・・」
少年は、足だけが見えている人間の足を、半ば投げやりに引き摺る。
ピエロの足先。ピエロの足首。ピエロの腿。ピエロの尻。ピエロの腰。
そして、その上には何もない。
強引に絶対的な力でぶち切られている。
こんなことが人間にできるのか?
(人間には難しいだろうなぁ、小僧)
「黙れ」
少年は、平静を保つため、何度か深呼吸をする。
そして、自分の記憶に最後に残る建物へと入った。かすかな希望を持ちながら。
記憶を頼りに、少年は自分のいた部屋を探し当てた。ドアの前で立ち止まる。
(たのむ、一輝・・・俺がやったんじゃない、そう言ってくれ!)
ガチャリ
(ああ、よかった!)
一輝はそこにいた。こちらに背を向けて、立っている。背中に血痕がついている、怪我したなら早く治療しないと―――
駆け寄って少年は声をかける。返事がない。
「一輝?」
体力を消耗しすぎて立ったまま気を失っているのか?
少年は、無意識に一つの結論を避けて考える。
それは、防衛本能ではなく、逃走本能。
少年は立ち尽くす一輝の正面に回る。
焦点が合わず、瞳孔の開いた目。胸部に、正面から見て初めて判る握りこぶしより少し小さな穴が。
まるで、鋭利な爪が貫いたかのように。
一輝は死んでいた。
――――結論は、出た。
「俺が殺した」
(そうだ)
「仲間も、敵も」
(見境なしに)
「何が九尾だ、そんな物は関係ない――――殺したのは、俺だ」
(ここに、来い)
その部屋には血が溜まっている。明らかに人間用のサイズではない牢に、仰々しい言語が書かれた札。そして、その内には―――――
巨大な気に、それに恥じぬ巨体。【尾獣】と呼ばれる中でも格段の能力を持つ、大妖怪。
名を、【九尾】。
(小僧、念のためにもう一度聞く、何をしにここに来た?)
その大妖怪は、一人の人間と会話をしていた。
「力がほしいんだってば・・・」
人間、
うずまきナルトは淡々と答える。人形のように変化なき表情で。
(力か。何故欲す?)
「・・・生き残るため、死なないため」
(ふん・・・それでは駄目だな。正直に言え、後一回だけチャンスをやる)
ナルトは、しばし黙った後、打って変わって感情的に喋りだした。
「俺が、跡部を、一輝を、仲間を殺したんだってばよ!自分の知らない内に!抑えきれないんだ、てめぇの力が!
だから、きっと俺は殺しちまう!シカマルも、サクラちゃんも!こんな気持ちにはもうなりたくないんだよ!もう何も考えたくないんだ!
俺はサクラちゃんを殺した後――――正気に戻りたくなんてない!!だから、もう二度と俺に戻れないぐらいの、チャクラをくれ!!」
ナルトは、全てを吐き出した。九尾が満足そうに眼を細める。
(クァハハハハハハハ!愉快、愉快!貴様が前に来たときとはまるで違うではないか!それでこそわしの人柱力よ!
だが―――――)
九尾は、とてつもない怒りの念を顕にする。
(この下らんゲームの主催者どもの仕業か、わしのチャクラがせいぜい二割程度しか出せん)
「じゃあ、駄目なのか!?」
ナルトは焦る。それを見て、九尾はニタリと笑う。
(案ずるな、貴様の望みは叶う。心の底から、わが解放を望め。主催者ども、元からかけられていた封印すら弱めておる。
もう一つ、この世界で貴様がかけられた封印は、わしが解除してやる。そうすれば、チャクラと体は無理でも、意思だけなら交換できる。)
「お前の、解放・・・・・・」
(怖いか?)
ナルトは、元の世界で今まで出会った人々の顔を思い出す。
イルカ先生―――――許してくれ、なんて口が裂けても言えない。
エロ仙人 ――――――俺、やっぱり火影にはなれない。
我愛羅――――――――お前に偉そうなこと言っといて、俺はこれだ。
サスケ――――――――
大蛇丸は、九尾がここで殺す。せめて、お前だけでも里に戻ってくれ。
「いや――――やるってばよ」
かくしてナルトは、自分の全てから逃走した。
太陽が少し傾いた頃、廃墟と化した部屋で一人の少年が立ち上がった。
「さーて、まずはチャクラの回復からだってばよ」
その口調は、
うずまきナルト。
(こうもうまくいくとはな。蟲毒の世界で、小僧の邪気が高まった、と言ったところか)
その心は九尾。
「見てろよ主催者め!必ずみんなの仇はとってやるってばよ!あの狐野郎、簡単に死にやがって!」
(主催者ども――――――このわしをこのような見世物にした落とし前と、表に出させてくれたお礼、紅蓮の業火で同時に清算してくれる。
だがまずは――――あの同族!わしの一尾分にも匹敵するチャクラが込められた尻尾、アレなら奴が死した後もそこそこチャクラが残っているだろう)
こうして、九尾は血溜まる部屋から抜け出し、ナルトは恐慌の世界から抜け出したのであった。
【福岡県(市街地)/午後】
【うずまきナルト@NARUTO】
[状態]:空腹、体力・チャクラ消耗大、九尾の意思
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(1日分の食料と水を消費済み)
ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
[思考] 1、主催者を殺害する
2、サクラ、シカマルを探し、可能なら利用する
3、玉藻の尻尾(玉藻がぬ~べ~世界で九尾の狐からもらった命)を喰らい、チャクラを回復する
4、参加者はチャクラが十分なら積極的に殺害する
[備考] (ナルトの精神は九尾の部屋で眠っています。
肉体的に瀕死、またはナルトが外部から精神的に最大級の衝撃を受けると、一時的に九尾と人格が入れ替わります。)
※玉藻の封印は、玉藻の死亡と、九尾のチャクラの一部によって解除されたという見解です。
そのため、今のナルト(九尾)はナルトのチャクラ+九尾のチャクラ15%程度のチャクラが上限です。
ただし、九尾のチャクラも使いこなせます。
あと、九尾は基本的にナルトの口調で喋ります。
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最終更新:2024年04月19日 00:03