0235:トンネルを抜けると





――――福岡県にて、

志々雄真実は考える。今までの行動、そしてこれからの行動を。

更木との九州探索では機会があったにもかかわらず、誰一人殺すことができなかった。
己の悲願、国盗りを達成するには少しでも多くの者を殺さなければならない。そのことはよく理解していたのに。

原因は三つ。そのための対処法も三つ。

一つ目は更木剣八という男の性格。
戦闘狂であり、剣の腕も立つというこの世界に最も適した男。
しかしこの男は戦うこと、そして勝つことに価値を見出している。
そのために負けを認めたヒソカには逃げられ、緋村抜刀斎の連れに執着せずこちらにも逃げられた。

だから別れた。今後行動を共にしても効率が悪いだけだ。
あの男は放っておけば勝手に戦い、勝手に殺していくだろう。

二つ目は得物の不足。
無限刃が手に入れば文句はないが、とにかく武器が欲しい。
釣り竿ではろくな戦闘は期待できない。

三つ目は他の人間が徒党を組んでいるということ。
これが一番厄介である。
ヒソカや抜刀斎の時のように外野が手を出すこともあるだろう。
先刻の豚鼻のブ男のような強者が集まれば面倒なことはこの上ない。

ならばどうすればよいか。どうすれば最も効率よく参加者を殲滅できるか。
その答えは奴らを分断すること。
隣のたけしのように、友人を殺され仇討ちに走りたい者もいるはず。
だが周りに仲間がいると、そういった醜悪な考えをしまい込むことはよくある事だ。
だからそういう人間を一人にして、憎しみの芽の成長を早めてやる。育った憎しみはいつか花開き、暴走する。
暴走した憎しみは冷静な判断力を失わせ、目の前の人間が仇かどうかも分からぬままに傷つける。

ようするに自分のすべきこととは、
武器を持つ者、復讐者にはなりえない強い正義を持つ者を積極的に殺していくこと。
そして憎しみの種を日本中に蒔き散らすこと。

これからの行動方針が決まると、志々雄はにやりと笑みをこぼした。


「志々雄ぉ、なにが可笑しいさ。記憶の片隅で眠っていた優しかったあの頃でも思い出したのかぁ」

たけしはスグルと離れることに別段不安を感じてはいなかった。
なぜなら彼の強さが分かっていたから。彼ならばそう簡単にやられたりしない。心配は無用である。
それよりも横にいる包帯の男に興味を抱いた。
剣八と行動していたことから、ゲームに乗っていることはゆうに予想できる。
しかしたけしは難しいことは考えていなかった。頭ではなく、肌で感じるもの。
志々雄真実の放つカリスマ性、リーダーの資質に自然と引き寄せられたのだ。

「また訳の分からねえことを…」

志々雄は苦笑しながら答える。
二人はこの調子で成り立たない会話をし続けた。


海が、そして陸――本州が見えてきた。

「おお!あれがひょっとするとムー大陸的な新大陸か!?」

鉄橋が見える。志々雄はたけしの声に大した応答もせず、橋に向かおうとした。
が、ここで志々雄はあるものに気付く。そのあるものは、血痕。
そして先程より小さな笑み、本当にわずかな微笑を浮かべた。

たけし、こっちだ」
「ん?あさっての方向だぞ。それはいかがなものさぁ」

異論を唱えるたけしを無視し、志々雄は歩いていく。
志々雄の向かうその先にはトンネルが。橋が目立つためにその分見つけ難くなっている。
トンネルは大きく口を開け、闇へと志々雄とたけしを導いていった――――



玉藻京介は二人の少年を抱え、暗い道を歩いていた。

先程の何者かの襲撃。それを逃れるために一輝が足止め役を請け負ってくれた。
その後確かに襲撃者の邪悪な気配は失せた。しかし……一輝の放つ力強い気配もまた消え失せた。
一触即発が予測されるあの気配。それが同時に感じられなくなったということから考えられることはただひとつ。

相討ち。それ以外には考えられない。
ということは両者が気絶したか、もしくは…

こんなこと想像したくない!

玉藻は自分の脳裏に浮かんできた望まぬ光景を必死でかき消そうとする。
しかし現状ではそれがもっとも真実に近いことは間違いないだろう。
玉藻は悔しそうな表情をつくり、一輝の顔を思い出す。あの自信に満ちた顔を。
そして思い出す、彼との誓いを。
そしてまた思い出す、自分の成すべきことを。

いま自分が抱える二人の少年を守る。それこそが自分の使命。


カツーン、カツーン。

暗いトンネルの中を靴音が反響する。
そして自分たちが来た方からもう一つ、いや二つの靴音が響いてきた――――



うっすらと明かりで照らされるトンネルの中。
入り口から出口までの距離は――どちらが入り口などと決まってはいないが――50mほど。
志々雄らはトンネルの中央で動いている人影を発見する。
人影は一人にしては大きすぎる。誰かを抱えている、そんな状況。例えば、怪我人を背負っているとか。
志々雄は歓喜した。ようやく獲物に巡り会えた、と。
その眼光は百獣の王の迫力。その視線の先には手負いのトムソンガゼル。

玉藻も背後の変化に気付き、後ろを振り返る。
隠密を心掛けていたつもりだったが、腕からの出血が道標として残ってしまっていたのである。
玉藻の目に映るのは、包帯に包まれたエジプトの木乃伊の風貌の男。
そして…少年? 体格、雰囲気は小学生のものだが、顔だけは中年男性。
老人が赤子に化ける妖怪は聞いたことがあったが、これでは真逆だ。
まあ自分の同族を封印している少年にあった今、妖怪の一匹や二匹に驚くことはなかったが。

志々雄は眼前の獲物を睨みつける。そしてそれらが自分の糧となるものだと認識する。
こいつ等なら自分でも十分殺れる。そのためにはこいつ――たけしは邪魔だ。
「おい、たけし
たけしが何かを言い出す前に。目の前の人間と交流を持つ前に。
自分の呼びかけに、たけしが答えようとする。
その一瞬の隙を狙い、たけしの鳩尾に一撃を加える。
「 ! し、志々雄?」
うずくまるたけし。その首筋に志々雄はさらに手刀を打ち込む。そしてたけしは完全に気絶する。
「悪ぃな、あとで起こしてやるからよ。少し…待ってろ」

玉藻は相手がこちらを睨みつけていることに気付く。
その視線には明白な殺気が乗せられている。
この状況は危険だ。妖力、体力が枯渇している今、大して戦闘はできないだろう。
玉藻は狼狽する。トンネル内をピリピリとした緊張感が包む。
すると突然こちらを睨む男は、その横の親父顔を昏倒させる。
不可解な事態。自分で自分の動揺が分かる。
しかし…一輝との誓いを破る訳にはいかない!なんとしてでも二人を守る!

「俺の名前は志々雄真実。あんた個人に恨みは無えが、俺の野望のために死んでもらう」
「不届き者めが。我が名は玉藻。長き歳月を経て、妖の力を得た妖狐である」

玉藻はその真の姿――妖狐の姿――を現す。黄金色の体毛に包まれた獣面が、返すように木乃伊男を睨みつける。
これで戦いの意思を無くしてくれればよいのだが。普段の彼からは想像できない弱気な願い。
しかし志々雄は妖狐の姿を見て、逆に嬉しそうな顔をする。

「まさか化け物だとはな。こいつは良かった。
無抵抗の一般人を手にかけたんじゃ、只の弱いもの苛めになると心配してたところだ」
「戯言を…単なる人間に妖狐を倒せるとでも思っているのか!」

挑発しあう両者。しかし玉藻の言葉には精一杯の虚勢が。
志々雄の言葉には手負いに対する『油断』、いや『余裕』が感じられる。
『余裕』を見せるが、一切の隙は存在しない。

おもむろにバッグからカプセルを取り出す志々雄。更にそれからあるものを取り出す。

釣り竿?まさかそんな物で戦うつもりか?
玉藻は憤りを覚える。しかし冷静に、この場を切り抜ける術を考える。
力は残り少ないが、待ちに徹してはナルト達が危険。
事情も話していないのだ。目覚めた途端戦闘の真っ最中では何をするか分からない。
何より二人は、自分が敵だと思い込んでいる可能性もある。
火術をもって牽制し、敵の隙を作る。そしてその隙に二人を連れて離脱する。

作戦を講じ、その実行に玉藻は移った。

「火輪尾の術!」

狐面の異形は妖しき炎を生み出し、それを目の前の包帯男に向け放った。

(ちっ。これほどまでに弱っているとは。役小角レベルにも達していないではないか)
玉藻はほぞを噛む。だが、妖狐の火炎は常人に対してならば、いくら弱体化していても十分有効なはず。
志々雄真実からは少しの霊気、妖気も感じられない。怯ませることぐらいならできよう。

火炎が志々雄へと襲い掛かる。

「なんだあ!この程度なのか、化け物の力ってのは!正直…拍子抜けだぜ!」

志々雄は吼えるとともに釣り竿を横薙ぎに振るった。
唸る釣り竿は炎に焼かれるかと思いきや、逆にその狐火をかき消した。

驚愕する玉藻。 馬鹿な!火輪尾の炎を常人がかき消すだなんて!
彼は一つの思い違いをしていた。
志々雄真実とはかがり火を踊らせるほどの剣気を放つ剣客。そんな彼を捕らえるには玉藻の炎は力不足であった。

釣り糸だけは燃えたが、竿と本体は全くの無傷。
志々雄は更に釣り竿を鞭のように振るい、玉藻の顔面を狙う。
確かに相手の実力に動揺した玉藻ではあったが、彼もまた実力者である。
冷静に攻撃を見極めて、紙一重の回避。そして、相手の懐にもぐりこむ。

「そちらこそ。妖狐の力を嘗めすぎではないか?」

玉藻は釣り竿の中央部を掴み、志々雄が握る柄のすぐ上を脚で思い切り踏みつける。
地面に叩きつけられ、テコの原理によって折られる釣り竿。
武器破壊。これが玉藻の考えた戦いを制する方法であった。

安堵する玉藻。思えば、先程から焦りを感じすぎであった。もっと落ち着けば無駄に心を削るようなことは無かっただろうに。
玉藻は反省の意味も含め、今の行動を振り返った。

しかし志々雄はまだ『余裕』のままであった。

武器を破壊し『油断』した玉藻に、志々雄は蹴りを繰り出す。
敵の突然の攻撃に隙を見せてしまった玉藻は、胸部から踏み潰されるようにして押し倒された。
志々雄は仰向けで倒れた玉藻の上に座り込み――狂った瞳で獲物を睨みつけた。

志々雄は右手に残った折れた釣り竿を、クルリと逆手に持ち直す。
そして組み伏せた玉藻の頭上に、それを高々と掲げた。


――玉藻は二つのことを思い出した。いや、“思い出させられた”のほうが相応しいか。
その一つは人間界に暮らすようになってから見た、あるテレビ番組の映像。
その番組は、アマゾンかどこかの奥地に棲む狩猟民族のドキュメント番組。
その中で最も勇敢な狩猟戦士は、濁した河に生きる巨大魚に鋭い銛を突き立てていた。

もう一つは、四百年もの昔、まだ自分が只の狐だったころの記憶。
何の力も持たない弱者であった当時。自分は人間の声に怯え、人間の姿を恐れていた。
そんなある日、一匹の仲間が人間の罠にかかってしまった。その時の仲間は特に力の無い存在に見えた。
そういった大自然の摂理のなか、自分が弱者に組み込まれていたあの頃の記憶。


今の光景にその二つの映像がリンクする。
志々雄の振り下ろす折れた釣り竿が目の前に、文字通り“目”の前に迫ってくる。
近くでなければ気付かなかった、釣り竿の折れ口。

その荒々しくささくれた折れ口が――――――――左目に突き立てられる。



「ぐあぁぁああぁああああぁあっ!!」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ
いたイいたイいたイいたイいたイいたイいたイいたイいたイ
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ――――――

激痛。それが玉藻の脳を支配する。ささくれた木は眼球の更なる奥をかき混ぜる。
脳漿に達したかもしれないそれは、神経に激しい電気を乗せて自分を主張する。

「クククク…ハハハ、ハハ、ハ―――ハッハッハッハ!!」

玉藻に残されたもう一方の瞳に映った志々雄真実は、高く高く笑い声を上げている。
トンネル内に響き渡る声は、玉藻のひどく疲弊した脳を激しく揺さぶる。
彼はもう感覚を忘れていた。自分の顔に突き立てられた一本の棒。
それだけが意識下に存在していた。

狐の異形は転がり回り、包帯の修羅鬼は狂喜している。
まさに地獄絵図。そんな中突然、志々雄の笑い声が止んだ。
修羅の視線の先には一人の少年が。

「お目覚めか、小僧?」


跡部景吾はごくごく普通の中学生であった。
普通、と言っても彼の家は超が付くほどの富豪であったし、テニスにおいては全国区の実力を持つ者であったが。
そんな彼は記憶を、この世界に来てからの記憶を遡っていた。

…俺はナルトと一輝と出会い、福岡の無人の市内を探索した。
ナルトが何者かに狙撃され、ビルの中でピエロと化け物に遭遇した。
その後、ピエロは去り、化け物がナルトを暴れるように仕向けた。
理性を失ったナルトを化け物から逃がすために、たしか俺は…

しかし跡部の前に広がる光景は記憶のどれとも重ならないものであった。
何故薄暗いトンネルの中にいるんだ。いつのまにナルトは気絶したんだ。
何故あの化け物は苦しんでいるんだ。奴の顔から生えているものは一体何だ。
そして―――あの包帯の男は一体何者なんだ。

疑問が泡のように頭の中に生まれてくる。ただその泡が消えることは無い。
そして澄み切った一つの事実――――自分たちは今危険だ。

「お目覚めか、小僧?」

ミイラ男がこちらを見ている。その視線はあのピエロの視線によく似ている。
そうあのピエロの放った『殺す』という強い意志の含まれた視線に。

「う、うおおおおおぉぉぉぉ!!」

殺さなければ、こちらが殺される。
大自然の非情なシステムを肌で感じた跡部は、右腕の篭手を突き出しミイラ男に突撃した。
あの一撃が決まれば立ち上がれるはずが無い。そんな希望を掌に託して。

しかし捕食される運命の生き物が、肉食の野獣に敵うはずも無く。
志々雄は最低限の動きで跡部の突進をかわし、足払いをかけて跡部を転倒させる。

「くくく、勇気ある行動は褒めてやるがな、怖いってのが丸分りだぜ。
緊張と恐怖で動きは硬いし、命のやり取りってのをしたことが無えんだろう?」

志々雄の諭すような言葉。圧倒的優位に立つ者だけに許された言葉。

くそっ。びびってんのは認めてやるよ。
だけどな、これさえ決まれば貴様なんてイチコロなんだ。くたばれ!

転んでもまだ跡部は掌を志々雄に押し当てようとする。
跡部の右手が志々雄の体に触れようとしたとき。
志々雄はその右手首を掴み――掌には触らぬように気をつけ――跡部をうつ伏せの形にしてねじ伏せた。
ひびの入った右腕を捻り上げられ、跡部は苦痛の表情を浮かべる。

「この篭手に……何か仕込んであるのか? 随分必死じゃねえか」

あまりに露骨に狙いすぎた起死回生の一発。
その『何か』に感づいた志々雄は、うつ伏せる跡部の肩を足で押さえ、捻りあげた右手を力一杯引いた。

  ゴキッ

嫌な音が鳴り肩が外れる。

「ぐあぁっ!」
跡部の悲鳴。
志々雄はそれに構わず、力なくなった少年の右腕から篭手を剥がし取った。

「さっきのからすると…掌になんかあんだな」
志々雄は話しながら篭手を自分の右手に装着する。
そして倒れる跡部を今度は仰向けにし、先程の玉藻のときのように組み伏せる。

跡部の心の中は、直前までは生意気な声で満たされていた。
なぜなら自分の弱さを心のどこかで否定していたから。
なぜなら自分だけは大丈夫、という根拠の無い自信があったから。
俺の人生はこんな馬鹿げたゲームで終えるほど安いものではない。
プライドの高い天才的中学生テニスプレイヤーは希望を絶やさなかった。

しかし今の彼にそのような余裕はもう無い。
なぜなら最後の一発逆転の希望を奪われてしまったから。なぜならその一撃の威力を知っていたから。
そして、なぜなら自分のリアルな死を予感することができたから。
一方的に搾取され、一方的に虐殺される。自然界における強者と弱者の間の掟。
その絶対的真実を覆すことなどはできないのだ…

跡部はある種の真理に辿り着いた。もう生き延びようとも思わない。そんな絶望が心を支配する。
黒く染まった心の中には二筋の光が。一つは過去の栄光。氷帝学園のチームメイト達の姿。
もう一つは現在の仲間。ナルトと一輝の二人と一緒に立つ自分。
しかし志々雄真実に与えられた恐怖の前では、どれほどの光も霞んでしまうのであった。

跡部の虚ろな表情に志々雄の篭手をつけた右腕が覆い被さる。

「すまねえな。恨むなら、てめえを恨めよ。弱いくせに俺の『道』の前に突っ立ってたてめえをよ」

志々雄の詫びに誠意は感じられない。あくまで社交辞令のような形だけのもの。
そしてその真意には志々雄の信じる正義が込められていた。
その正義が凶器である右掌を少年の顔に押し付ける。そして――――


               ズドン


たったこれだけで跡部景吾の命は奪われた。
整えられたその顔立ちに面影は無く、グチャグチャに潰れた『何か』となっていた。
滑らかなブラウンの髪の毛も既に彼のものとは思えなく、ピンクの液体、固体がこびりついていた。
彼の記憶も人生も才能も人格も思想も夢も希望も未来も、全てが一瞬で奪われた。
これがこの世界の弱者の末路なのか。だとすれば…あまりにも理不尽。


そして奪いし男は返り血をペロリと舐めて拭う。
――まさかこれほどの威力とは。安慈の二重の極み以上じゃねえか。
予想以上の力に、驚きとともに喜びを感じる志々雄。篭手の感触を今一度確かめる。
そして、彼は次なる獲物――うずまきナルト、へ歩み寄る。

その時志々雄の背後に気配が一つ。とても力強い気配がたった一つ。
振り向くとそこに立っていたのは……

残された右目で見たものは、跡部景吾の殺害される瞬間。彼の顔面が吹き飛ばされる映像が、網膜に焼き付く。
不甲斐無い自分。誓いも守れない弱い自分。
もう、御終いだ…… 終了を呟く絶望感が痛む脳味噌を停止させようとしていた。
そんな時、あの残忍なる男がナルト少年に近づいて行くことに気付く。

まだ御終いじゃない。御終いにしてはいけない。

玉藻京介は再び立ち上がり、隻眼で志々雄真実の背中を射抜いた。
苦痛に耐え、歯を食いしばる。
そして振り向く志々雄を目で威嚇する。その少年に手を出すな、と。

彼を動かすものとは一体何なのか。
同族に対する誇りか。否!それは――――人間への『愛』。
守りたいという強い意志が、玉藻の半死の体を立ち上がらせたのだ。

「そ…しょう………てを……な」

玉藻は既に声を出す能力すら失っていた。あまりにも弱々しく哀し過ぎるその姿。
精密な作戦を考えることも、高尚な術の言霊も諳んじることもできない。
しかし、それでも少年を守りたい。
玉藻は全身の力を振り絞り、志々雄とナルトの間に割って入った。

「さすが化け物。生命力も人並みじゃあないってことか。くくく、これなら充分だ!」
志々雄の正義は、捉え方によっては弱いもの苛めと一緒。だから相手にも強さを求める。
敵と己の命の削り合いの中で、正義を誇りたいのである。
力尽きたと思った化け物からは、まだ溢れんばかりの闘志が感じられる。
自らの手で殺すに相応しい敵。志々雄は心を躍らせた。

「うらあっ!」
志々雄の両の拳――右手も篭手をつけたまま握り締められている――が玉藻を襲う。
玉藻は命の火が消える覚悟で全身に力を込め―――――――志々雄の攻撃を受けた。

ひたすら攻撃を受ける。膨れ上がる最後の力をもってすれば、志々雄を倒すことも夢ではないのに。
全身に鉄拳を受け、膝を地に付く玉藻。しかし倒れることはなく必死で攻撃を受け続ける。
その姿はまるで壁。いや、“まるで”ではなく“まさしく”壁なのだ。彼は自分の全身でナルトを守る城壁となったのだ。

玉藻の真意に気付くと、志々雄は攻撃を止めた。

つまらねえ。化け物のくせして、抜刀斎みたいな考えをしてやがる。
無抵抗の人間を殴り続けても何の達成感も得られない。一度期待したがために、その落胆は大きい。
そして自分はこの化け物の気まぐれ、奇妙な人間臭さに救われた可能性すらある。
そのことに、もっと言えばそんな自分に憤慨した。

志々雄は心の中の苛立ちに対しさらに苛立つ。
そしてそれを晴らすために、ほぼ無抵抗の玉藻の顔に手を伸ばす。
満身創痍の玉藻はその手を払うことすら叶わない。
志々雄は、目の前の狐面から惨たらしく生えた木の棒を掴み、更に奥へと押し込んだ。



そして妖狐は絶命した。

廃人同然の意識の中、彼は最後に何を思ったのだろう。
盟友、鵺野鳴介の安否か。それとも誓いを守って散った少年、一輝の冥福か。それとも………

玉藻は鵺野と関わり、人の『愛』を知った。
この世界ではその『愛』をもって力を発し、その力を『倒す』ためではなく『守る』ことに使った。
最後まで『愛』を通すことができた男、玉藻京介
間違いなく彼は、史上最も誇り高かった妖狐であろう。


志々雄真実は未だ眠る少年に話し掛ける。
「運が良かったな。貴様を殺す気が失せちまった。」
淡々と、それでいて威厳を放ちつつ話す志々雄。ナルトが聞いていないことは分かっていように。

「恨みたきゃ恨め。憎みたきゃ憎め。俺は逃げも隠れもしねえぜ」
その言葉には、堂々とした人斬りの自信と、全てを利用する維新志士の自信が含まれている。
死者の置き土産を探る志々雄。そしてナルトの耳元で呟く。


「この世は『弱肉強食』。強ければ生き、弱ければ……死ぬ」


それだけを言い残し、包帯の人斬りは仲間を抱えてトンネルを抜けていった。


―――薄暗いトンネルの中には、少年が一人。死体が二人。
悪鬼に蒔かれた憎悪の種は果たして芽を出すのか、花開くのか。
これを決めるのは唯一生き残ったこの少年次第である。





【福岡~山口間・海底トンネル内/日中】

【志々雄真実@るろうに剣心】
 [状態]:全身に軽度の裂傷 、戦闘による疲労小
 [装備]:衝撃貝の仕込まれた篭手(右腕)@ONE PIECE
 [道具]:荷物一式、三人分(水少量消費)
 [思考]:1:長時間戦える東北へ向かう
     2:無限刃、その他武器を手に入れる(刀が好ましい)
     3:少しでも多く参加者が減るように利用する
     4:全員殺し生き残る

【たけし@世紀末リーダー伝たけし!】
 [状態]:気絶
 [装備]:パチンコ@ONE PIECE(鉛星、卵星)、キメラの翼@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1:ゴン蔵を殺した犯人を倒す(ただし大体の位置が分かるものの犯人はわかっていない)。
     2:主催者を倒す
     3:志々雄について行く
     4:仲間を探す(ボンチュー、マミー、バッファ、ウォーズ、ラーメン)

【うずまきナルト@NARUTO】
 [状態]:気絶、空腹、体力・チャクラ消耗大、九尾封印
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式(1日分の食料と水を消費済み)
      ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
      フォーク5本、ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
 [思考]1、気絶。玉藻に憎しみ。
    2、サクラ、シカマルを探す
    3、主催者をやっつける

※玉藻は妖狐形態で死んでいます
※玉藻と跡部のその他の道具は放置されています


【跡部景吾@テニスの王子様 死亡確認】
【玉藻京介@地獄先生ぬ~べ~ 死亡確認】
【残り92人】

時系列順に読む


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211:すっぱい15 跡部景吾 死亡
211:すっぱい15 うずまきナルト 236:血溜まる部屋、そして恐慌の世界
211:すっぱい15 玉藻 死亡
219:別離 志々雄真実 302:『嘘』つきな『真実』
219:別離 たけし 302:『嘘』つきな『真実』

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最終更新:2024年05月28日 23:49