0259:獣、本州へ
福岡市街。ビル屋上。
ナルトの姿をした尾獣・九尾は久しぶりの「外」の空気を楽しんでいた。
十数年前、木の葉の里で赤ん坊であったナルトの体内へ封印されて以来、虎視眈々と「本体」の乗っ取りを画策してきたが、
まさか、このような状況で自由の身になれるとは思いも寄らぬ幸運であった。
「見慣れぬ国よのォ・・・」
暴れ足りぬ。九尾の本能が疼き、静かな街並みをすぐにでも破壊したい衝動に駆られる。
しかし、昔のように欲のままに荒れ狂えば力はすぐに尽きる。
破壊欲を満たすために獲物を探す必要あり。
九尾はすでにナルトの五感を通じて事の成り行きは掴んでいた。
先ほど見つけた死体――――全身タイツが戻らねば、まもなく仲間の悪趣味マスクが来るだろう。
この爪で八つ裂きにする光景を想像し、九尾は笑んだ。
ごごおお
楽しい空想に耽る途中で、腹が大きな音を立てる。
「・・・フン、人間の器は不便でならんの。少し動けばこれかよ」
メシの時間とするか。
封印されていた頃は、人柱力であるナルトが空腹になればすぐに補給を行い、腹を満たしていたため、
深刻な飢餓に苛まされることはなかった。
が、こうして「外」に出でて動けば、空腹は予想外に九尾を攻める。
食欲という破壊とは別の衝動であった。
面倒であったが、肝心の器が動けなくなっては厄介。
九尾は乱暴に荷物を開き食料を貪る。足りぬ。それに味気ない。粗末な食料に苛立ちが増した。
空きっ腹を抱えた九尾はビルの間を抜け、風のような足どりでトンネルへ――――
餌場へと向かう。
目指すはすでに死した妖狐玉藻のチャクラの尾。
奇妙なことに、この化物からは、砂の里の人柱力我愛羅に封じ込められていた一尾よりも、自分のチャクラに近い、懐かしさを感じる。
これを取り込めば消費した分のチャクラの回復ができるだろう。
腹が鳴る。かつて感じたことのない飢餓が玉藻の尾を求めている。九尾は唾を飲み込んだ。
トンネル内部には、薄暗い内壁や地面に血を撒き散らし、倒れている人間と妖狐、惨たらしい2つの死体。
そのひとつから立ち昇る、金色の妖気。
「これだ・・・わしが喰いたかったのはこれだ・・・」
口から溢れた唾を、赤い舌がべろりと拭う。
九尾は喉を鳴らし、にんまりと嬉しそうに笑んだ。
かつて玉藻が九尾の試練に打ち勝ち、最高位の九尾から賜った一尾であり、強力な妖力の源となっている。
しかし、持ち主を失った今となっては、存在は薄まり消え入りそうな様相だった。
九尾はまず、玉藻の眼に突き刺さる木片を引き抜き、血に濡れ、てらてら光る尖った先で死体の胸腹を切り裂く。
生暖かい体内に残るは金色の尾の形をした高密度の妖気。九尾の瞳が歓喜に輝いた。
たまらず手をのばし、その美しい尾を、千切った血肉と共に、餓鬼のように口に運ぶ。
(美味い・・・美味い・・・!!)
九尾は喉を鳴らして、一心不乱に口を動かした。先の戦いで失った以上のパワーが補充されていく。
鮮烈な血の味が口内に広がり、くちゃくちゃと、もの噛む音が暗闇に響いた。
肉の欠片が胃の腑に入るごとに腹が温まり、器の空腹が満たされる。
食事がこんなに心躍るものだとは知らず。九尾はしきりに興奮した。
見る間に両手や歯牙が赤く染まり、滴る血が服を汚す。
(それにしてもこやつ・・・一時的にとはいえ、わしを封印するとは腹立たしいが、たいした奴)
パキっ・・・ゴキっ・・・
尾を奪われ、次第に人の姿を失っていく玉藻を食みながら九尾が呟く。
術者が死ねば効力を失う封印もある。玉藻が緊急で施したのはそれであった。
四代目火影。自来也。木の葉の忍共の他に自分を封印できる者が存在するとは、考えてもみなかった事態である。
「厄介だの・・・」
制限のかかったこの世界では全力でチャクラを引き出しても、せいぜい15%。
他の参加者にも同様の制限が科されていると見て間違いない・・・が、主催者と戦うことを視野に入れれば、情勢は圧倒的に不利。
「フン、ならば」
九尾はこうも考える。
(・・・この忌々しい封印を解ける奴を探すまでよ)
主催者が施した制限を取り払える術者。四代目火影以上の術の使い手を捜す。
この玉藻と名乗った妖狐に近しい者なれば、可能ではなかろうか。
そして彼の者が同属ならば――――騙し、利用した後で、腹から尾を引きずり出し我が糧にしてやろう。
空腹を満たすことがこれほど心地いい行為だとは思いもよらず。
九尾は恍惚の表情で次の獲物へ向けて思いを馳せる。
脳裏に浮かぶは薄桃色の髪の少女。
「サクラ、といったか、あの小娘」
普段ならば中忍ごとき何の利用価値もない上に、憎き木の葉の忍である。
しかし彼女は卓越した医療忍術の使い手、五代目火影の直弟子。すぐ殺すには惜しい。
九尾は汚れた指をべろりと舐めた。
あの娘がいれば戦闘で怪我を負ったとしても無条件で我が傷―――ナルトの傷を癒すだろう。
仲間を信じきるあの瞳ならばチャクラ尽きるまで自分を守ろうとするだろう。
殺すのは、それからで充分。
主催者を殺す前の非常時の食料としてもよい。
「くくく・・・」
同属の味を存分に味わい終わった九尾は満足そうに立ち上がった。
「さあって・・・腹も溜まったし、そろそろ出発するってばよ♪」
さすがに血に塗れた服では怪しまれるだろうと、九尾は道を外れ、清水を求めんと山へと入る。
足どりは軽く、獲物を求めて表情は歓喜に満ちている。
地を這う草木に点々と赤い足跡を残しながら。
【山口県/(1日目)夕方】
【うずまきナルト@NARUTO】
[状態]:九尾の意思
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(食料と水を消費済み)
ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
[思考] :1、身体を洗う。
2、サクラ、シカマル、玉藻の仲間を探し、可能なら利用。不可能なら殺害。
3、術者に能力制限を解かせる。
4、優勝後、主催者を殺害する
[備考]:ナルトの精神は九尾の部屋で眠っています。
肉体的に瀕死、またはナルトが外部から精神的に最大級の衝撃を受けると一時的に九尾と人格が入れ替わります
※玉藻の封印は、玉藻の死亡と、九尾のチャクラの一部によって解除されたという見解です。
そのため、今のナルト(九尾)はナルトのチャクラ+九尾のチャクラ15%程度のチャクラが上限です。
ただし、九尾のチャクラも使いこなせます。
あと、九尾は基本的にナルトの口調で喋ります。
※一輝、ヒソカの荷物は福岡市街に放置されたままです。
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最終更新:2024年05月17日 21:14