0246:そして彼女の行き着いた先



放送でガラの名前が呼ばれD・Sは立ち止まった。
ボリボリと頭を掻くと、苛立ちを隠そうともせず傍の木を殴りつける。
「あのバカ、オメーみてぇな三枚目は俺様みたいな超絶美形主人公と違って、
 生き返れねぇって言っといただろうが……この俺様に無許可で逝くとはいい度胸だ。
 主催者どもをぶちのめした後地獄から首根っこ掴んで引っ張って来て、
 ラーメン鼻から食わせながら土下座させてやるぁーーーーーーーーーーー!!」
ひとしきり叫ぶと彼は落ち着きを取り戻したのか、空を見上げた。
「ヨーコさん、どうしてっかなー。ハーレムもいいがヨーコさん見つけんのが先かなー……
 でもヨーコさんハーレム許してくんねぇだろうから、隠れて作るしかねぇんだよな……」
彼にハーレムを作らないという思考はなかった。
などとブツブツ呟いている内に、前方から駆けて来る少女の姿が見えた。
「おぉ、女はっけ~ん!」
D・Sはヨーコのことは見つかるまで考えないことにし、そのしばらくの間は己の欲望に忠実に行動することにした。


「いやァああああーーーーーーーーーーー!!」
目の前にいるいやらしい笑みを浮かべた長躯の男から逃げ出そうと、さつきは踵を返そうとする。
しかし今来た方向には筋骨隆々で凶悪そうな男がいたのを思い出し、たたらを踏んだ。
「くっくっく……どうした? 逃げようとしたんじゃなかったのか?
 まぁどっちみち逃がさなかったけどな」
「ひッ!」
振り向けばそこには既に間合いを詰めていたD・Sの姿が。
D・Sは逃げようとするさつきの腕を捕らえ、近くの木の幹にその身体を押し付けた。
「きゃあッ」
「おっと騒ぐなよ……安心しろ、傷つけたりはしねぇ。お前は大事な俺様の女だからな」
(力がこれ以上入れらんねえ……これ以上は攻撃と判断されるってことか……クソッ)
実際さつきの腕を掴んではいるものの、力が入っていない為拘束力はなく、さつきはいつでも逃げ出すことは出来た。
しかし恐怖で身体が強張り、既にさつきはまともに動くことすら出来なかった。
涙を流し、死にたくない一心で命乞いをする。
「お、お願い……殺さないで……死にたくない」
「おーーおー、随分と怖い思いをしてきたみてぇじゃねぇか。
 どれ、俺様の目を見な。このダーク・シュナイダー様が味方になってやろう」
「え……」
言われるままにさつきはD・Sの瞳を覗く。
その瞬間、さつきは恐怖を忘れ胸が高鳴った。
先ほどまで悪鬼のように思っていたD・Sの素顔は、良く見ると端整な顔立ちで自信に溢れている。
銀に流れる髪、凛々しい眉、その深く透き通った瞳はさつきの心の中に強く染み込んだ。
(なんて、綺麗な男の人……何であたしはこの人から逃げようとしたんだろう)
頬を赤らめ、瞳を潤ませて見つめてくるさつきにD・Sはほくそ笑む。
(クックック、どうやら上手くいったようだな。最初からこうすりゃ面倒がなかったんだ)
D・Sが行ったのはチャーム、魅了の魔法。相手の心に干渉し、自らの虜とする術である。
魅了の効果によってさつきは警戒心を解き、D・Sを受け入れるべき相手として心を開いたのだ。
ようやく信頼できる(と、思わされた)相手と巡りあい、さつきは安堵してその場に座り込んだ。
「怖かった……怖かったんです。防人さんが死んで……東城さんも変わってしまって……
 誰も、誰もあたしを助けてくれなかった。だから逃げて、何もかもから逃げ出してしまおうって……」
震えながら呟くさつきにD・Sは眉をしかめる。
(チ、よっぽど追い詰められてやがったようだな。
 そこに無理な精神干渉を行ったから大分不安定になってやがる。めんどくせぇが一度落ち着かせるか)
「俺様が敵じゃないことが判ったか?」
「はい、逃げ出したりしてすいませんでした……でも、怖かったんです。
 防人さんがアビゲイルって人に殺されてしまって……あたしもうどうしたらいいかって」
「あん? アビゲイルだぁ!?」
思わず大きな声を出したD・Sにビクッと身体を震わせるさつき。
D・Sはさつきを落ち着かせることも忘れて問いただす。
「し、知ってるんですか?」
「やい、詳しく話しな。っと、そういやまだ名前も聞いてねぇな、名乗れ。
 俺様は魔導王ダーク・シュナイダー。お前のご主人様だ」
「あたし、さつき。北大路さつきです。でもあたし、あなたの召使いとかじゃ……」
「いーからさつき。アビゲイルの話をしな」
「……はい」
傲慢なD・Sの物言いにさつきの心に再び警戒心が湧き上がってくる。
魔素の薄いこの世界ではD・Sの魔法は効きが悪い。
魅了の魔法も例外ではなく、その効力は時間が経つに連れて弱まってきていた。
それでも弱ったさつきは目の前の男が味方だと思い込み、不信感を振り払って事の顛末を話す。
一通り話を聞き終わったD・Sは少し考え込んだ。
(闇の僧侶であるアビゲイルの野郎が戦闘で相手を殺したんなら、首を切断したのは魔法の筈だ。
 だが剣を使って切断したってことは、そりゃ戦闘の結果じゃなくアビゲイルが望んだことっつーわけだな。
 わざわざ野郎が首の切断を必要とすることっていやぁ……)
D・Sは自らの首に嵌っている冷たい鉄の感触を確かめる。
(首輪だ。旧世界の魔法や闇の僧侶魔法に通じている野郎なら―—魔導に関しちゃ俺のほうが上だがな、ケッ―—
 この首輪を研究することで外すことができやがるかも知れねぇ。
 それに攻撃できねぇなんてこのふざけた呪いも奴なら解ける、か?
 しかも俺様の為に献上用の女を二人も用意してる。アイツもわかってきたじゃねぇか、ククク……)
これからの行動方針は決まった。アビゲイルと合流することだ。
だがさつきがここに来る途中で遭遇したという、傷だらけの男が気になる。
普段のD・Sならどんな相手が来ようと意に介さないが、今は攻撃ができない。これは大きなハンディである。
(しょうがねえ、この女を使うか。魅了が効いている間は俺が攻撃されることはないしな)
「おい、これからアビゲイルの所へ向かう。案内しな」
「え? そんな!」
あんな殺人鬼の元へわざわざ向かうなんて何を考えているのか。
いや、目の前の男はアビゲイルのことを知っているようだった。
(も、もしかして仲間だったの? それじゃこの人も……)
この世界の中で唯一自分を護ってくれた防人を殺した人間の仲間。
さつきの中に再び湧き上がる恐怖はD・Sの魅了の魔法を打ち消した。
(に、逃げなきゃ……でも何処へ? どうしたらいいの、防人さん……!)
混乱しているその時、D・Sは懐から装飾銃を取り出し、さつきの前に放った。
「俺様に歯向かう奴はお前がその銃でぶち殺せ。援護はしてやる」
しかしそんなD・Sにさつきは反応せず、目の前に放り出された銃をじっと見つめていた。
「? やい、聞いてんのか!?」

(逃げる……何処へ? あたしはきっとこの男の人からは逃げられない。
 あたしを護ってくれた防人さんはもういない。真中がここにいてくれてもどうにかできるとは思えない。
 でも逃げなきゃ。どうやって? 逃げて、逃げて……それでどうするの?
 逃げても、逃げても……きっと逃げ切れない。ここは殺し合いの場所だから。じゃあ、あたしは……)

目の前には銃がある。

(なんだ、簡単なことだった)

さつきは銃を手に取り、銃口をこめかみに当てた。

(真中、ごめんね。先に防人さんの所にいくね……防人さん、あたしは――)

「オイ、コラ! ちょっと待てぇ!」



――――――――――――――――――ダァンッ……



そうして――北大路さつきは、この世界からの完全な逃避に成功した。



「クソ、イラつく……」
D・Sは突然自殺したさつきにしばらく呆然とした後、彼女の支給品を回収し、アビゲイルの元に向かうことにした。
「生きてりゃこの俺様が幸せの絶頂にしてやったのによ。もったいねぇ」
さつきの支給品は高性能時限爆弾だった。
見た目は、大きな電卓っぽい機械に爆弾本体であろう黒い箱がくっついている。
3秒から60分までタイマーをセットすることができ、解除するには設定されたPASSコードを打ち込むしかないようになっている。
しかし徹底して待ちの性格をしていないD・Sにとっては、この上なく使いづらいアイテムであった。
「チッ、どうも支給品のクジ運は悪いようだな」
かく言うD・Sの支給品は、アノアロの杖という身に着けることで発火能力とそれに対する耐火能力を得られるアイテムだった。
これも爆炎の支配者たるD・Sには無用の長物である。
炎の威力も制限されているとはいえ自分の呪文の方が強い。
毒づきながら支給品の確認を終えるとD・Sはさつきの死体を見下ろした。
「………」
特に何も言葉を発することなくD・Sはさつきに背を向け歩き出……そうとして立ち止まった。
目の前には胸に傷のある筋骨隆々の男が立っていたからである。
さつきを追いかけてきていたケンシロウであった。


「……その少女を殺したのはお前か」
「おい、オメーなんか勘違いしてねぇか。俺様はこの女をハーレムに加えようとしてやっただけだ。
 そしたら勝手にくたばりやがった。せっかく幸福の絶頂になる機会だったってぇのに惜しいこったぜ」
ケンシロウはその言葉を聞くと、拳を鳴らしながらゆっくりとD・Sに向かって近付き始めた。
拳銃でこめかみを撃ち抜かれた少女。D・Sの手には拳銃。そして二つのザック。
加えてD・Sの、人が死んだこの場での不遜な態度。ケンシロウが最後に見た怯えた少女の表情。
既にケンシロウの中で答えは出ていた。
「貴様のハーレムに女はいらぬ。地獄の鬼どもこそが相応しい」
「ケッ、その第1号がテメーだってか!? 上等だ、このダーク・シュナイダー様に逃走の二文字はねえ!
 やってやるぁ!!」
D・Sにとって男を相手に弁解して誤解を解くつもりなど毛頭なかった。
売られた喧嘩は全額言い値で買い取るのが彼の流儀だ。
「喰らえ、ガンズン=ロウ!!」
D・Sとケンシロウの間に炎の壁が生まれ互いの視界を遮る。
D・Sは直接攻撃することができないため、間接的にしか攻撃することができない。
まずは視界を遮り、時間を稼ぐつもりだった。
「火炎招来! 不滅なる燃焼よ……」
しかし……ケンシロウは正面から炎の壁を突き破りD・Sに向かって突進してきた!
「おおおおおおおおおおおっ」
「何ィッ!?」
普段のD・Sのガンズン=ロウなら1000度もの高温を発することができる。
しかしこの世界の制限下ではその温度は500度近くまで下がっていた。
闘気をその身に纏うケンシロウならばその壁を突き破ることは可能である。
ケンシロウはそのままD・Sへと肉薄するが、間合いに入る直前にD・Sの呪文が完成した。
「……我が導きに従え! ダ・フォーラ!!」
D・Sの召喚に応じ、二体のサラマンダーが出現しケンシロウに攻撃を加える。
精霊であるサラマンダーたちにはD・Sにかけられている呪いは関係なく、直接ケンシロウを攻撃できるのだ。
しかし……
(二体だけかよ!? しかもこの魔力の消耗、1分が限界か?)
本来十数体の精霊を呼び出せるはずが二体しか呼び出せず、かつ消耗の激しさにD・Sは焦る。
しかもその精霊も……
「あたぁっ!」
手に持つ灼熱の槍でケンシロウを突き刺しにいったサラマンダーは、カウンターの剛拳をその身に受け消滅した。
(霊体を素手で破壊したぁ!? どんなオーラの強さだ!?)
もう一体のサラマンダーはケンシロウから離れ、熱線を撃ち出す。
その熱線も簡単にケンシロウは回避し、掌底を翳す。
「北斗剛掌波!」
掌から迸る闘気の奔流がサラマンダーを直撃し、木っ端微塵にする。
「手品は終わりか。ならば幕を下ろすぞ」
(この野郎……だが、認めたくねぇが拳士としての格はあのジオよりも上か。
 俺様に逃走の二文字はねえ! ねぇが……)
その瞬間、一瞬にしてD・Sの懐に飛び込んできたケンシロウの蹴りが鳩尾にヒットした。
「ほあたっ」
「ぎゃぼっぉ!」
D・Sの身体は蹴りの衝撃により空に浮き、そのままケンシロウの追撃を喰らう。
「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた、あたぁっ!!!」
「ぐべらぼッ」
数十発もの連続蹴りにその身を貫かれ、D・Sの身体は無数の木片となって散った。
「むう!?」
そう、その場に散らばるのは肉片でなく木片。
ケンシロウがD・Sと思って攻撃していたのはD・Sの背後にあった木であったのだ。
幻術。D・Sの得意とする相手の目を眩ませ攻撃を回避する呪文だ。
「ぎゃーっははははは! ぶゎーかぁ!」
ケンシロウが声のするほうを振り向くと、D・Sは西の方角に向かって走り去っていくところであった。
「逃げるのか」
「俺様に逃走の二文字はねぇが、戦略的後退の五文字はある! オメーも覚えとけ!
 次にあったその時は、オメーの胸の傷にキャンドルおったてて生クリームでデコレーションした後、
 ラーズに喰わせてやっからなぁ!」
「逃さん!」
追おうとするケンシロウを阻む為にD・Sは呪文を唱える。
「ダムド!」
ケンシロウの前方の空間が爆烈し、ケンシロウは咄嗟に身を庇う。
そして爆煙が晴れたその視界にはD・Sの姿はどこにも見えなかった。
ケンシロウは一旦追跡を諦め、さつきの死体の傍へと寄る。
眼を見開いたまま死んでいるさつきの瞼をそっと閉じると、ケンシロウは彼女を埋葬した。
墓標もない簡素な墓を目の前にケンシロウは拳を強く握り締める。
「おおお、ダーク・シュナイダーァアアア! 貴様の肉片一片たりともこの世には残さん!!」
これ以上犠牲を出すことは出来ない。
ケンシロウは強い決意を胸に秘め、D・Sの去った西へと向かって歩き始めた。





【岐阜県山のふもと/午後】
【ケンシロウ@北斗の拳】
 [状態]:健康
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢
 [思考]:1.D・Sを倒すため、西へ向かう。
     2.斗貴子の仲間・核鉄を探し出し、名古屋城へ戻る。
     3.2を達成できなくとも午後6時までにいったん名古屋城へ戻る。
     4.ダイという少年の情報を得る。
     5.名古屋城で合流不能の場合、東京タワー南東にある芝公園の寺へ行く。

【岐阜県山のふもと→西へ/午後】
【ダーク・シュナイダー@BASTARD!! -暗黒の破壊神-】
 [状態]:左腕に銃創、極度の魔力消耗(休息しない限り呪文は残り一、二回程度)
     右腕打撲、『六芒星の呪縛』による攻撃封印(翌日の午前まで)
 [装備]:装飾銃ハーディス@BLACK CAT
 [道具]:アノアロの杖@キン肉マン、高性能時限爆弾、荷物一式(食料二人分)
 [思考]:1.一旦西へ向かい、ケンシロウを撒いてからアビゲイルの元へ向かう。
     2.ヨーコさんのことは見つかるまで気にしないことにする。
     3.攻撃できないことに苛立っている。
     4.男は殺す、女はハーレムに加える。
     5.ゲームを脱出して主催者殺害。


【北大路さつき@いちご100% 死亡確認】
【残り85人】

時系列順で読む


投下順で読む


212:少女を壊す追い討ち ケンシロウ 303:その遭遇、幸か不幸か
212:少女を壊す追い討ち 北大路さつき 死亡
212:少女を壊す追い討ち ダーク・シュナイダー 255:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年03月26日 19:52