0262:死神の眼×4





放送4時間前。

大阪のとあるレストラン。

一人の少女が、もふもふとコッペパンを食べている。
(人間、食欲を前にすると罪悪感なんて消えちゃうもん!ミサは悪くないっ!)
自分の身代わりになって死んだ城之内の残したコッペパンを頬張りながら、
ミサは10人は座れるであろうテーブルで一人、誰にも聞こえない言い訳をしていた。
遊戯という者を妲己というモデル系の超・美女に探すように頼まれてから、どれほど時間が過ぎたことか。
「大体、何でレストランに御飯がないの!?責任者出てこーい!!」
冗談気味に言ってから、もしあの角の生えた化け物(死神の目には“フリーザ”と名が映っていた)がひょっこり出てきたらどうしようと思い、思わず身震いする。
「ふう、お腹も一杯になったし、ユウギんを探しにいこっと………その前に」
コッペパンを食べ終わったミサは、水を補給しようと厨房に立ち寄った。
蛇口をひねる。
水は出ない。
「……節約、しないとね」
食料が島内にないことは京都の時点で知っていたが、まさか水すらないとは。
「はあ………ラ~イ~ト~!早く会いたーい!」
愛する男の名を呼びながら、ミサは店を飛び出した。



放送2時間50分前。

大阪のとあるたこ焼き屋。

(………………………)
一人の男が、眠りについている。薄く、浅い眠りに。
周囲に警戒を怠らず、それでいて頭は休ませている。
手元には、店内で見つけた大量の紙類(壁紙を剥がしたもの含む)。
男が眠りに着く前、予期できる一つの事態に対応するために弱った体を酷使して見つけた道具。
今のところこの道具の恩恵に与っていないのは幸か不幸か。

男、藍染惣右介は未だ眠りに――――――ガララララ。
と。
ガラス戸が開く音がして―――――
眠りから、醒めた。



放送3時間50分前。

ミサは、ひたすら大阪の町を散策していた。
「ユウギ~ん。何処ー?」
空しく街に響く声。
あまりに長い時間探し続けた為か、徐々にミサは無神経かつ大胆になっていた。
「ユ~~~ウ~~~~ギ~~~~ん!!!!」
チョウコウメイのような危険人物に見つかるかもとか、そういうことは一切考えていないような声で叫ぶミサ。
しかしその危険を伴う大声にすら何の反応も無い。
(むうー。まさか、もう妲己に会って、大阪を出てたりして)
不吉な予想が脳裏をよぎる。
「ま、まさかね。会ってたら迎えに来てくれるだろうし」
天文学的に希望的な観測を行い、歩き続けるミサ。大声を出したせいか体力が予想以上に擦り減っている。

「ちょっと休

ドォォォォォォォォン!!

もうかな、わっ!?」

遠くから爆音が響く。どの方角からかはわからない、しかしそれはミサの恐怖心を再び駆り立てるには十分だった。
(やっばー、静かに探そっと………)
こそこそ移動しだしたミサは、期せずして爆音の発生源の方向に向かっていた。



放送3時間10分前。

(も、もう駄目………)
休みもとらず(途中色々な店を覗きはしたが)歩き続けたミサの体力は限界に近づいていた。
(一旦帰ろうかな………妲己とも、会った場所から離れないって約束したし)
実際は妲己は「離れない」とは明言していないのだが、黒の章のインパクトでミサはそこまで確認しなかった。
黒の章。
(駄目駄目、それでもし妲己が合流した後あっさりユウギんを見つけちゃったら、あの強くなれるビデオがもらえないかもじゃん!)
あれを手に入れられなかったら本末転倒だ。
愛する月を守る事が自分にとっての最高の幸せ。その為には力が必要。最もここから出られるなら話は別だが。
交差点が見えてきた。
「よーし、ちょっと探す方向変えてみよう!」
ミサは気を取り直し、自分から見て右手の方向にくるりと体の向きを変える。

死神の眼の視界に映る。

道の真ん中に―――――――

名前の見えない、人影が。弐つ。



放送2時間50分前。

「え?」

腹から槍を生やし、ほんの少し驚いたような表情の死体。
頭がなくなり、誰なのか判別すらできない死体。

そして前者の首は――――――

「きゃあああっ!?」

あるべき場所から離れ、足元からほんの少し驚いたような表情でミサを見上げている。

(な、何よ!?何でこんな……え?)
後ずさったミサは、二人の首輪がなくなっていることに気づく。
それが意味するのは、この二人が死んだ後、この場に現れた者がいるという事。
現に、足元に転がる男の首は、この場には見当たらない得物で引き裂かれている。乱雑に。
ミサは踵を返すと、脱兎のごとく駆け出した。その場に残してある二つの荷物にも気づかず。
(やばいやばいやばいやばいやばい!あんな事ができる奴がいるなんて……)
ミサも元の世界でデスノートによる殺人を犯したことはあるし、自分の死を受け入れた経験さえある。
だが、あのような惨たらしい死体を見たことは無かった。
吐き気がこみ上げてくる。まさか、チョウコウメイに殺されたであろう城之内もあんなふうに……!
(何でもいいから、建物の中で休もう!)
ミサは、通りで一番目に付く蛸の装飾が施してある建物のガラス戸を開けた。

―――――ガララララ。



放送2時間30分前。

たこ焼き屋に不似合いなカウンターにミサは座り、ぐでっと体を倒している。
(ふう、少しは落ち着いたかも)
ミサは水筒を取り出して少し水を飲んだ。
「…………おトイレ行きたくなっちゃった。あるかな?」
店内を見回すと、【この先御手洗】と機械的な文字で書かれた張り紙の横に細長い通路。
「………水出ないんだよね………………外でするよりましだけど」
ミサはアイドルである自分との葛藤に何とか勝利し、通路を進んだ。右手に紳士用トイレ、正面に食材倉庫、左手に婦人用トイレ。



実況のHさん「不適切な表現が予測されますので一時描写をカットします」



「あー、すっきりした♪」
ミサは満悦の表情でトイレから出てきた。
予想に反してトイレの中には汲み置き式で水が溜めており(明らかに飲めるようなモノではなかったが)、
何とかアイドルとしての威厳は保てた、といったような表情で。
ふと、左手にある部屋を見る。
「………食材倉庫かー。どうせ何も無いだろうけど、一応覗いてみようかな」
中から人の気配はしない。
ドアノブに手をかけ、回す。
ドアを押し、壁に当たるすれすれのところまで押し切る。
そして部屋に半歩入ったところで―――――後ろから。
頭に、硬いもの――銃?が当てられて。

「喋れば殺す。ゆっくり振り向いて、私の指示に従ったほうがいい」

(………本気だ。殺される。ライト。もう会えないの?)
ミサは恐怖のあまり身動きすらできない。それを見て何を思ったか、男は、「ああ」と言って頭に突きつけていた物を下げる。
「悪いね、驚かせたかい?こちらを向いてくれるかな?言うとおりにしてくれれば危害は加えないよ」
優しい声。だが、この状況ではそれは恐怖に値する。
ミサは意を決して振り向くと、そこには柔和な表情の男。指を銃のように形作っている。
「いき」
「喋らないでくれ、と言ったがね」
相手の外見とハッタリに少し安心して罵声を浴びせようとしたミサの声は空しく掻き消される。
よく見ると腰に帯びている刀に手をやっている。
(………………じゃあどうやって意思表示しろって言うのよ!)
「ああ、何か言いたいことがあったらこれに書いてくれ。ただしとても小さな文字でね」
男は紙をミサに手渡す。
ミサは急いで鉛筆を出し、"いきなり何すんのよ!!!"と走り書きして男に示した。
「ああ、説明しないとね………とりあえず、部屋に入ろうか」

「まあ、こんなところかな、私の話は」
男の名前は藍染惣右介というらしい。ミサはこれまで聞いた話を整理して紙に書き綴り、床に置く。

"まず、あなたはこのゲームから抜け出す方法を知っている"
「そう」
"それを行うために、できるだけたくさんの人を集めたい。だけど、せっかく集めた仲間が殺された"
「ああ」
"その仲間は、外で死んでた人の内、頭を吹き飛ばされてた人"
「そうだ、もう片方の男から私を守るために命を落とした。その後、私は片方の男の連れに傷を負わされて休んでいた」
"その時、敵をやり過ごすために自分の持つ五感をパーフェクトに催眠しちゃう能力を使って、
監視があるとすれば同時にあの主催者達にも催眠をかけようとした"
「していれば、の話だがね。もしそうなら絶対に成功する。していなければ比較的安全に事が運べる」
"自信あるのね………もし主催者にぜんぜん効いてなかったらどうするの?"
「それはない。私の能力は絶対だ。相手が誰であろうと、どんな状況であろうと効果は変わらない」
藍染の過信とも言える自信にミサは少し不安を覚えたが、同時に頼もしいとも感じた。
どこか月に似ている雰囲気もあるし、脱出方法なんて眉唾物だったが、妙に信じられた。それが妄信だとは思わず、続けて質問する。
"で、私を脅した理由だけど、ミサだけ筆談してるのに関係あるの?"
この文章を見ると、藍染はミサの後ろに回り、ミサの手をとって耳元で囁く。
(ここからはもし盗聴しかなかったときのことを考えて私も筆談する)

〝ご名答。五感を支配すると言っただろう?私の能力に堕ちた者は幻覚に対して疑問を抱く事すら困難になる。
故に、今幻覚にかかっている者にとって私はバラバラの死体で、外に転がっている。本来の私の姿も声も認識できはしない。
だが、君が私と会話していると、流石に変だと思われてしまうかも知れないからね。
監視があるとすれば、今君はここで一人で何かを書いているようにしか映っていないだろう。
それもこうして顔に近づけないと読めないような何かを、ね〝
藍染はそう書いてミサの眼前に紙を運ぶ。
ミサはそれを読むと、「ふむふむ」と自分の書いた文に納得したかのような声を出し。

〝なるほど、納得納得。ところで、その脱出方法に制限人数はあるの?〝
「ある」
藍染はミサから離れると簡潔に言い放った。
「もし一緒に脱出したい人がいるなら、その人だけを探して連れてきたまえ。他の人に伝えると君達が脱出できなくなるかもしれない」
〝………わかった。なんかちょっと罪悪感だけど、ライトだけ探してくる〝
「そうかい、じゃあ次の放送まではここで休むといい。この核鉄にも、もう少しお世話になりたいしね」
脇腹を押さえて話していた彼に、ミサが自分と月を脱出させてくれる、という条件で貸した核鉄を見せながら優しい笑顔で言う藍染。

〝うん、ところで〝
ミサは、最初に藍染の顔を見た時から気になっていたことを紙に綴った。
〝あなたの支給品って、もしかして名前を書くとその人を殺せるノート?〝


藍染は興味深そうな顔をして、「なんだい、それは?」とミサに尋ねた。

〝違うの?〝
あからさまに残念そうな顔で、藍染の顔を見るミサ。
「何故それを私が持っていると?」
ミサは少し言葉に詰まったような素振りを見せ、「秘密よ?」と囁いて紙に文を書き始めた。
自分が今まで月にしか明かしたことの無い秘密を。脱出への希望を与えてくれた男に向けて。



まもなく三度目の凶報が始まる。

「――――――面白い」
食材倉庫の一角で藍染が漏らした言葉には二つの意味がある。

一つ目はデスノートという信じがたい効果を持つアイテムへの興味。
キメラの翼ほど有用ではないし、自分の趣味にも合わないが、それらを差し引いても十分手にする価値はある道具だ。

二つ目は、そのアイテムの存在する世界そのもの。デスノートを使った犯罪(ミサは裁きと呼んでいたが)が社会問題になっているらしい。
現世でそんな噂を聞いたことはないが、ミサから聞き出した彼女の能力、【死神の眼】。
顔を見た相手の寿命と名前がわかる。ただしここでは寿命は見えないらしいが。
それを彼女に与えた存在、【死神】。人間大の化物然とした風貌を持つ生き物。
それらの寿命と名前もミサには見えないというが、それは元の世界で【死神】だった自分にも適応された。
デスノートを所有している人物の寿命はミサの眼でも見えないらしく、
ここでは誰の寿命も見えないので、ルールが変わったと思い、名前も見えない自分に期待をかけてみたらしい。

(我々【死神】とは形状が明らかに違う。狛村のような例外もいるにはいるが、
寧ろヴァストローデ級の虚が死神を騙っていると考えた方がまだましだ。だが連中はそんな無意味なことはしまい。
つまり、だ。アバンの書の世界や趙公明の世界のような完全な異世界だけではなく、我々の世界に酷似した世界もある、ということか)

ほんの少しの歴史のずれで生まれるパラレルワールドと言ったところか。

「――――――面白い、実に面白い」
再び言葉を漏らし、天を仰ぐ。その死神の眼には小汚い天井など映らない。
映るのは、自分が立つべく天の座。そして、全てを蹂躙し、その座に立つ自身の姿のみ。
「私が天に立つ」
藍染はそう呟くと、小さな寝息を立てるミサを愛おしげに見て、来る放送を待った。





【大阪府市街地(たこ焼き屋、食材倉庫)/1日目・夕方・放送前】

【藍染惣右介@BLEACH】
[状態]:周囲を警戒、骨のダメージはほぼ完治、中度の疲労、MP5%程度(戦闘ほぼ不能・盤古幡使用不可)
[装備]:雪走@ONE PIECE、斬魄刀@BLEACH、核鉄XLIV(44)@武装練金
[道具]:荷物一式二個(一つは食料二人分 1/8消費)、盤古幡@封神演技、首輪×2
[思考]:1 夜まで体力回復に努める
    2 琵琶湖へ向かう
    3 出会った者の支給品を手に入れる。断れば殺害。特にキメラの翼、ルーラの使い手、デスノートを求めている。
    4 計画の実行
    5 次の放送で実験の結果を検分、その後行動方針を決める。

備考:大蛇丸が持っていた荷物のうち2つは、
   二人が同士討ちになった、と後に来た参加者に思わせるために現場に残してあります。
   主催者に能力が通じたかどうかは不明。 ただ藍染はほぼ確信しています。ミサには雪走、斬魄刀以外の道具(特に首輪)は秘密。
   脱出方法における人数の限界をミサに騙ったのは、自分の真意を知るものに接触させず確実にモルモットにするためです。

【弥海砂@DEATHNOTE】
 [状態]中度の疲労、睡眠中
 [装備]なし
 [道具]荷物一式
 [思考]1:藍染と別れた後夜神月と合流し、藍染の事を伝え、共に脱出する。
    2:夜神月の望むように行動
    3:遊戯を探してダッキの元へ連れていく(ほぼ自分の中で無かったことに)

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239:その鏡真実を映さず 藍染惣右介 285:なぜ藍染惣右介の名前が呼ばれなかったのか?
251:武藤復活! 弥海砂 285:なぜ藍染惣右介の名前が呼ばれなかったのか?

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最終更新:2024年04月19日 00:42