リョーマと
太公望を探すために和歌山へと向かっていた勇者一行は、すでに大阪にまで辿り着いていたが、
例によって定期的に流れてくる放送を聞くために、しばらくの間、歩くのをやめた。
できることなら藍染や他のマーダー以外の人は一人も死んでほしくない。
と、そこにいる4人が4人ともそう思っていた。
しかし、その希望は最悪の形で裏切られることになる。
――初日を生き残った皆さん、おめでとうございます――
今回は宇宙の帝王、
フリーザが担当していた。このパーティにはハーデス、バーンの情報はあるが、
フリーザとは面識が無いので(両津が会ったことはあるのだがそれはまた別の話である。)、
その冷酷な発言に全員が背筋が凍る思いで聞いていた。
やがて、放送の中でかつての仲間が次々と登場してくる……
(た、太公望さんが……そんな……まさか?それに、地上最強であるはずの聖闘士も俺以外全滅してしまったとは……)
(
マァムが死ぬなんて……
ターちゃんや太公望も……俺が出しゃばらなければ…あの時太公望を止めていれば……)
(ターちゃんが死んでしまったのか。くそっ!麗子や星矢と合流できると分かっていたなら、わしが無理についていくことも無かったのに……)
(リョーマちゃんはとりあえず無事みたいだけど……太公望さんが死んじゃったら何にもならないじゃない!!!)
かつて無い衝撃が4人を襲った。ゲーム参加前の知り合いを初めて、或いは全員喪った者、先程出会ったばかりの仲間を喪った者と、
それぞれダメージは異なったが、何よりも一番の不幸は太公望の死だ。
数多くの作戦を思いつき、多くの仲間を探し出し、多くの者の希望の対象であったカリスマの死は、
今回の行動目標を元から無意味にするものだった。
「畜生!畜生っ!!何でみんな殺し合うんだよ!!何で協力してあいつらに挑もうって気にならないんだよッ!!!!!」
星矢の一言を皮切りに両津を除く三人の叫び声が大阪中に響き渡った。
そして、その叫び声はとどまる所を知らず、何分もの間、延々と続いた……
しばらくして業を煮やした両津が、
「うろたえるな!!!小僧共!!!!!!!!」
と、一喝し、その迫力に圧倒されたのか、三人は泣き叫ぶのを止めた。その後、再び大阪に静寂が訪れた。
「いつまでもギャーギャーギャーギャーわめき散らしやがって。てめえらここに来てどのくらい経ったんだ?
放送のたびどいつもこいつも大声を張りあげやがって!!
ここで大声あげる意味が分かってるのか?マーダーだっておそらく何人かいるだろう。
そんな隙だらけの格好で襲われていたらひとたまりも無かったぞ!!いい加減環境に適応しろ!!」
4回目の放送。ここまで現実社会では有り得なかったリーダーシップを発揮し、乾や鵺野などを引っ張ってきた両津がついにキレた。
もともと短気な彼の性格上、ここまで感情を抑圧できていたのは奇跡に近いことであった。
しかし、両津の言ったことは全てこの状況では当たり前のことだった。
いちいち味方が死ぬたびに大声をあげられては全滅の憂き目を見るのは明らかなことだからだ。
「ごめんなさい、両ちゃん。でも、これまでに足を引っ張ってたのは私ひとりよ。星矢ちゃんはここまで私を支え続けていてくれたわ。それに、彼はまだ子供なんだから許して頂戴。お願い……」
そう言って再び麗子は泣き出した。(一応、さっきの両津の言葉を聞いていたようで、できるだけ声を抑えてはいたが。)
「そ、そうか。そりゃすまんことをしたな。許してくれ、星矢。」
さすがの両津も女の涙には弱く、できるだけ麗子を傷つけないよう配慮した。
「いや両さんの言うとおり、地上の人々を守らなければならない俺たち聖闘士が泣いてちゃいけない。
両さん、ありがとう。オレ、絶対にみんなを守るよ。」
この後、星矢に続き、ダイも自分の行いを恥じ、両津に謝った。
「分かってくれればいいんだ。
それより、これからは誰が死んでも決して、弱味を見せるな。マーダーは必ずそこに漬け込んでくるからな。」
「あぁ!!」3人が同時に叫ぶ。この4人に友情が生まれた瞬間だった。
「それと……これは星矢に聞きたいが、ハーデスは死人を生き返らせることが出来るってのは本当か?」
放送を聞いていて、ご褒美について疑問を持っていた両津は星矢に尋ねた。
(聖闘士が近くにいるなら聞いてみろ。と、言ったのは実質わし達に対する言葉だろう。)
「え…あぁ、うん。確かにハーデスは死人を生き返らせることが出来るよ。それも何十人も同時に…」
と、そこまで言って星矢は、はっ。と閃いた。いや、星矢だけではない。そこにいる全員が今の言葉で気づいてしまった。
「ハーデスをぶちのめして死んだ参加者を生き返らせる!!」
これは意外な盲点だった。今まで死は絶対的なものであり、一度失ったものは二度と戻らない。と、思っていたのだから。
今の発言で、先程まで絶望感に打ちひしがれていた者の目の色が変わった。
これまでのショックなど無かったかのように生気に満ち溢れた顔に戻っていた。
皮肉なことに、主催者がゲームを円滑に進めようと言い放った言葉は、逆に両津たちの結束を強め、士気を高める結果になったのだ。
「フリーザは蘇らせることができるのは1人までとか言ってたけど、それは嘘なのね。
でも、その餌に釣られてマーダー化する人がいるかもしれないし、油断は禁物ね。」
「あぁ。そして、いくら生き返らせることが出来るからと言っても、今生きている者を疎かにしてはいかん。
よって、しばらくの間、大阪近辺で生き残りの参加者を探したいと思う。
麗子たちと一緒にいたリョーマという少年が主な目標だ。」
これにはみんなが喜び、全員でしばらく相談した結果、捜索時間は2時間ということが決定した。
理由は、明るくなる前に四国に行っておきたいということと、単に大阪は狭いから、それだけあれば十分だということだった。
ちなみに四国への帰還を優先させなかったのは、戦死者がターちゃん一人だけだったので、
おそらくマーダーと相打ちになったか、鵺野に倒されたかのどちらかという結論に至ったからだ。
また、琵琶湖の方は藍染に挑むのは人数が多いほうがいい、ということで先送りになった。
行動方針は、大阪北部から捜索を開始して、そこから時計回りに進み、リョーマを見つけた時点で四国へ向かうことに決定した。
幸いなことに月が出ており、捜索はいくらかしやすい状況だ。危険であることには違いないが。
「いくぞ。出来る限り固まって行動するんだ。ここまで散っていった戦士たちと同じミスを繰り返さないためにもな。」
ここで言うミスとは、別行動のことである。4人とも大勢いた仲間と別れたがために味方を次々と失っている。
こうして、安全かつ効率よく捜索するための準備が整えられ、月夜の下、両津を中心とした勇者達による越前リョーマ捜索が開始された。