0317:頼れる存在
「そん、な……? キルアちゃんが……?」
第三放送を聞いた麗子は、思わず自分の耳を呪った。
キルアに
富樫源次……この世界で出会った人間が、二人も死んだ。
その衝撃に、ついに彼女の足は折れてしまった。
「うっ……うっ……」
嗚咽を漏らし、悲しみに耐える。
痛々しく、危なっかしく。そんな麗子を見下ろす星矢は、何も声をかけることが出来なかった。
星矢自身、放送から受けた衝撃は麗子と同程度のものだ。キルアや富樫のこともそうだが、無視できない名前がもう一つ。
フェニックス一輝。サガに続きまた一人、聖闘士が死んだ。
「…………クソ」
殺戮を止めることはできず、藍染もまだ野放しにしている現状。こんなことで本当にハーデスを倒すことが出来るのだろうか。
さすがの星矢でも、不安を感じずに入られなかった。
「……そうだ。リョーマちゃん……リョーマちゃんは……?」
涙を堪え、麗子が数時間前に分かれた少年の名を口にした。
一人きりで大阪に向かって行ってしまった少年。歳はキルアとそう変わらないだろう。
思えば、キルアもリョーマも同じような別れ方をした。麗子は、二度も少年を一人きりで野に放ってしまったのだ。
「ひょっとしたら……リョーマちゃんも!?」
悪い予感がよぎる。
「リョーマちゃん、リョーマちゃん、リョーマちゃん、リョーマちゃん、リョーマちゃん、リョーマちゃん、リョーマちゃん、リョーマちゃん……」
錯乱したかのようにリョーマの名前を呟く麗子。星矢はもう見ていられなかった。
「麗子さん……立って。少し休もう」
これでは四国に向かうどころではない。
星矢は、麗子を連れて適当なところで一時休憩することにした。
どこかの山小屋。
麗子は、放心したかのような虚ろな眼をしながら椅子に座っていた。
考えるのは、死なせてしまった少年のこと。
何故あの時少年を引き止められなかったのか。
彼がどんなに強かろうと、キルアは子供だ。どうして、大人である自分が付いてやれなかったのか。
警察官として、大人として、自分は誤った選択をしてしまったのではないだろうか。
リョーマは……今頃どうしているのだろう?
ひょっとしたら……既に……
「あ……」
また悪い想像をしてしまった。
だが決して考えられないことではない。
「リョーマちゃん……」
少年の無事が知りたい。
麗子は、ただそれだけが望みだった。
山小屋の外で、星矢は周囲の警戒をしていた。
薄暗い山の中にひっそりと明かりを灯す小屋。もし誰かが寄ってきたら厄介だ。
その場合、星矢は麗子を守りきらなければならない。命を懸けてでも――いや、自分が死ぬわけにはいかない。
これ以上麗子を悲しませるわけにはいかないのだ。
「あいつは……どうしてるのかな」
思うは、やはり数時間前に別れた小生意気な少年のこと。リョーマが死ぬ姿なんて想像できないが……
死ぬことはないと思っていた仲間の聖闘士が二人も死んだのだ。何が起こってもおかしくはない。
おそらく、麗子の本心はリョーマを探しに行きたいはずだ。
星矢自身もリョーマのことは心配だし、それで麗子の精神が安らぐならばそうしてやりたい。
だが、頭にはどうしても藍染のことがよぎる。一刻も早くあの男を止めなければ、更なる被害者が出ることは必至。
そのためには
太公望とも合流しなければ。
「……どうするのが、正解なんだろうな」
星矢は決めかねていた。
四国まで最早目と鼻の先だと言うのに。
こんな時にもっと人手があればいいのだが……
「……!? そこにいるのは誰だ!?」
考えていた矢先、草陰から人の気配を感じ取った。
「どうやら気づかれちまったみたいだな」
出てきたのは熊……のようにも見えたが、れっきとした人間だった。
やたらと毛深くてがっしりした体型の男。その服装は……
「あんた……警察官か?」
星矢が質問すると、男はハキハキした態度で答える。
「そうだ。わしの名前は
両津勘吉。実はだな……」
「両津……両津さんだって!?」
両津が話を切り出す前に、星矢は叫んだ。
その名を、知っていたから。
「両津さん……? あの、大丈夫?」
両津の後ろから出てきた新たな影は、小柄な少年。両津の仲間だろうか。
しかし今の星矢はそんなことは深く考えなかった。
目の前の男が本当に両津勘吉だというのであれば、なによりもまず、やらなければいけないことがある。
「あんたに会わせたい人がいるんだ!」
「あ!お、おい」
星矢は、半ば強引に両津を山小屋に連れ込んだ。
扉が開いても、麗子は眼を向けることが出来なかった。
頭の中は越前リョーマという少年のことで一杯だったから。
「…………子…………麗子!」
しかし、その声は耳に入ってくる。
聞き慣れた、ヤケに音量の大きい声。ところ構わず叫び散らかし、いつも豪快に笑っていた声。
そう、あの亀有公園前派出所でいつも聞いていた――
「麗子! おい、麗子!」
「――――両ちゃん?」
覚醒した麗子の瞳に映っていたのは、同僚の両津勘吉その人だった。
「――なんだって!? 太公望が行方不明!?」
星矢麗子組、そして両津ダイ組がこの遭遇で得たものは、実に大きなものだった。
第一に情報。
てっきり四国にいるだろうとばかり思っていた太公望だったが、昼ごろには既に関西に舞い戻り、今は行方知らずという。
これは四国で太公望と仲間になったというダイからの情報。
このダイなる少年はゲーム開始時、主催者の一人であるバーンに向かって行った少年。十分信用に足る人物だ。
そのパートナーを務めるのは両津勘吉。紛れもない麗子の同僚である。
彼はつい数時間ほど前にダイと仲間になったばかりで、太公望との直接的な面識はないという。
この二人の情報から、このまま四国に行っても太公望とは会えないということがわかった。ならば……
「今はどこにいるか分からんが……とりあえずわしらは太公望が向かったという和歌山を捜索してみようと思う」
「和歌山っていったら大阪の近く……」
「リョーマちゃんに会えるかもしれない!」
さっきまで放心状態だった麗子も、両津との再会でどうにか持ち直すことが出来た。さらに両津達が成そうとしている目的に歓喜する。
「麗子さん……」
「ええ。お願い両ちゃん、私達にも太公望さんの捜索を手伝わせて。
私達の尋ね人も同じ人だし……それに他にも探してあげなきゃいけない子がいるの!」
麗子は両津に懇願した。四国に渡る必要がなくなった以上、今は一刻も早くリョーマを探してあげたい。
太公望が向かった場所とリョーマが向かった場所がすぐ近くなのも都合が良かった。
「わしはもちろん構わん。せっかく麗子に会えたんだし、仲間は多いに越したことはないからな。ダイ、お前ももちろんいいよな?」
「うん。それはいいんだけど……大丈夫?麗子さん、随分疲れているように見えるけど……」
ダイが心配しているのは、麗子の心労。第二第三と立て続けに知らされた知り合いの死に、受けた精神ダメージは大きい。
「心配要らないわ!まだ小さい星矢ちゃんやダイちゃんが頑張ってるのに……私だけ休んでるわけにはいかないもの!」
それでも、麗子は強かった。
「――これは、ペガサスの聖衣じゃないか!」
第二に齎された幸運は、ダイの持っていた荷物。
それこそが星矢の捜し求めていた物、ハーデス打倒になくてはならない物、聖闘士御用達のペガサスの聖衣だった。
「これさえあれば――藍染にもハーデスにも対抗できる!」
麗子もより安全になる――若き聖闘士は、取り戻された力に歓喜した。
しばらくの休息を取り、それぞれの組は再び動き出すことにした。
歩を進める先は全員一緒。
目的は太公望と越前リョーマの捜索。
人手は四人、その内本職とも言える人間が二人。
星矢はダイからペガサスの聖衣を譲り受け、本来の力を取り戻した。
しかし関西には藍染の影。注意を怠ることはできない。
それでも希望は出来た。聖衣を入手した聖闘士に、勇者の称号を持つ少年。
そしてそれらを守る、心強い大人たち。
「もうすぐ夜も深くなる。できることなら朝までには合流しちまいたいが……お前らは大丈夫か?」
「僕は大丈夫だよ、両津さん。早く太公望を見つけ出して……
ターちゃんや公主さんも安心させてあげないと」
ダイは心配ない。こいつはまだ子供だが、勇者を名乗るだけのことはある。
「俺もだ。藍染もまだ生きてるんだし、休んでる暇なんてない。それに……一応あいつのことも心配だからな」
この星矢とかいう奴も大丈夫だな。こいつもまだ子供だが、ダイ並にたくましい。ここまで麗子を守り通してきただけのことはあるぜ。
「麗子は……」
「何度も言わせないで、両ちゃん。私は大丈夫。早く――リョーマちゃんと太公望さんを探してあげないと」
……さすが麗子。わしらの派出所に、これくらいでへこたれる奴はおらんか。
「……よし、分かった! いざとなったらわしがお前ら全員、担いででも太公望を探し回ってやる! だから安心して歩け!」
なんともたくましく、なんとも頼りになる両津の大声が響いた。
【兵庫県山中/夜中】
【太公望+越前リョーマ捜索隊】
【星矢@聖闘士星矢】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]食料8分の1消費した支給品一式、ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[思考]1、太公望と越前リョーマの捜索。藍染の計画を阻止
2、藍染、ハーデス達を倒す。
【秋本・カトリーヌ・麗子@こち亀】
[状態]精神的疲労大
[装備]サブマシンガン
[道具]食料8分の1消費した支給品一式
[思考]1、太公望と越前リョーマの捜索。
2、藍染の計画を阻止
3、主催者の打倒。
【ダイ@ダイの大冒険】
【状態】健康、MP微消費
【装備】出刃包丁
【道具】荷物一式(2食分消費)、トランシーバー
【思考】1、太公望と越前リョーマの捜索
2、ポップ、マァムを探す
【両津勘吉@こち亀】
【状態】健康、頬に軽い傷
【装備】マグナムリボルバー(残弾50)
【道具】支給品一式(一食分の水、食料を消費)
【思考】1、太公望と越前リョーマの捜索。鵺野先生が心配。
2、仲間を増やす。
3、三日目の朝には兵庫県へ戻る。ダメなら琵琶湖へ。
3、主催者を倒す。
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最終更新:2024年06月18日 22:21