0416:幕間 ◆HKNE1iTG9I
柱に掛けられた時計の針は着実に時を刻み、程無くして三度、この世界から陽が消える。
城塞と、吹き付ける風。彼方には、惨烈なまでに紅い太陽。
望んで、欲して。その灼熱に心焦がされてまで欲した、魔界にはない至高の恵み。
遥か眼下にその輝きを収め、大魔王バーンは一人、豪奢なテラスに佇んでいた。
「おやおや、またココにいらっしゃったんですか?」
振り返りは、しない。必要もない。
フリーザにもまた、その反応は予想通りであったのだろう、まるで気にした様子もなく、
淡々と、しかし抑えきれない高揚を押し殺したような声で、言葉を続ける。
「どうです?私から見ると、今のゲームは限りなく近いと思いますけど」
大魔王バーンの理想郷に。
降り注ぐ太陽の恵みの下、強いものが弱いものを喰らい、奪い、搾取して、唯々純粋に、
今死なないためだけに、今死んでいない存在すべてが無限に闘い続ける理想郷。
――もしも、魔族から太陽が奪われなかったら、存在したはずの世界。
忌々しくも美しい、彼の世界を全てを縮小したようなこの遊戯の舞台。
惨劇の場で、切なくも煌めきを孕んで行われる、生きるための、シンプルな、唯只シンプルな闘い。
届かない夢のその先を、届かなかったあるべき世界を、唯一重に、己が瞼に焼き付けようとするかのように。
紅い太陽を見続けていたバーンは、徐に闖入者…いや、協力者へと向き直る。
「フリーザ王か。ハーデス公はご一緒ではないのですかな?」
「ホホホ、ハーデスさんは随分とお疲れのようですからね。気を利かせて、私がアナタを呼びに参ったというわけです」
外見は、あくまで小柄な魔物。
だが、人の足が絶えて久しい古井戸を覗き込むような、苔生して打ち棄てられた坑道に吸い込まれるような、
深い、深い、終わりの見えない力を湛えた存在が一柱。
例えて言うならば、未踏の地にて悠久の時を過ごしてきた老木。津々と叡智を溢し、深々と降りつもる雪のような魔力と共に。
知識を、知恵を。この世の全てを識るような、遠い、遠い真理を宿した存在が一柱。
「しかし、王も物好きな方だ。王ほどの力をもっておられるのに、脆弱な勇者達の戦いに退屈しないとは」
「ホホ…お気遣いなく。ワタシもこれ以上なく楽しんでいますから。
それに、このようなゲームが開かれた星とあっては、非常に高価に売れるというのもありますしね」
「フリーザ王…」
「申し訳ございません。ワタシは、貴方やハーデスさんとは違って、俗物なのですよ」
柱に掛けられた時計の針は着実に時を刻み、程無くして三度、この世界から陽が消える。
城塞と、吹き付ける風。彼方には、惨烈なまでに紅い太陽。
「しかし、天体の運行までも変化させるとは…ハーデスさんも、中々に恐ろしい方ですねぇ」
「過ぎた謙遜は嫌味と取られますぞ。王も、肉体的には余やハーデス公よりも遙か頑健なはず」
「それこそ嫌味というものです。ワタシの右手は、まだ痛むのですよ」
「左腕、かつ指一つで竜の騎士の一撃を止めておいて、尚、そのようなお言葉を仰られるのですからな」
そもそも、自明のことだが、この舞台はいわゆる地球と呼ばれる星ではない。
地球という惑星には、所謂日本列島を縮小したような島々は存在していない。
あくまで、舞台そのものは、地球という星の日本列島という島々に非常に似通っているが、
一度この群島を出れば、地球とは似ても似つかない地形を確認することができるだろう。
気候を操作しているのは、恒星間飛行すら可能なフリーザ軍の技術力の賜物だが、
天体の運行を制御しているのは…自転速度を、公転速度を、舞台から見える天体図を、
限りなく地球に即して再現させているのは、神であるハーデスにしか為しえぬ事象。
「して、王よ。余を探しておられたというが、何用ですかな?」
「いえ、そろそろ放送時間ですので。
ワタシたち主催者が、キチンと役目を果たさないと、頑張って殺し合ってくださっている方々に失礼でしょう?
貴方の優秀な部下も、まだ頑張っておられるようですし。
フレイザードさんでしたっけ?まったく、羨ましい限りですよ」
「王の部下、
ナッパとやらも参加していたら奮戦されていたと思いますぞ」
「ホホ……褒め言葉と受け取っておきましょう」
この場にそぐわぬ笑い声が響き、フリーザは踵を返す。
宮殿の奥にと向かう、その堂々たる後ろ姿は、深い闇の奥へと霞んでいく。
その様は、参加者たちの末路を暗に示しているようで。
「では、余もそろそろ参らせていただきましょうか。申し訳ないが、先に準備をしておいていただけるかな?」
「それでは、お待ちしておりますよ」
――気配も闇へと呑まれて消える。
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カツリ、カツリと、無機質な廊下にひとつの足音が響く。
フリーザは、最も純粋な観戦者として、このゲームを愉しんでいた。
結局のところ、フリーザにとって重要なことは、このゲームの成否ではなく、
バーン、及びハーデスの不興を買わないことのみに尽きるのだから。
無論、舞台となった惑星を、異星人に高値で売り付ける算段があるというのも、
このゲームを観覧すること自体を楽しんでいるというのも誤りではない。
誤りではないが、それはあくまで付随的な目的。
フリーザが何より欲しているものは、ただ単純に、呆れるほどにシンプルな、今や定型詞のように語られる、
絶大な権力を手中にしたものが欲する、ただ一つのもの。
つまり。
『不老不死』
唯、それだけ。
参加者に対しての興味はあれど、ハーデスのように執着はなく。
殺し合いへの愉悦はあれど、バーンのような尊敬はなく。
宇宙の帝王、フリーザにあるものは、『不老不死』への飽くなき憧憬、唯、それだけ。
そして、共にこのゲームを主催している他の二人には、この願いを理想に近い形で叶える能力を持っている。
―『死者蘇生』-
――『凍れる時の秘法』――
だから、だからこそ、実力の上では自分より数段劣ると考えている、たかだか一介の星の神や魔王とやらに、
あれ程尊大な態度を許しているのだ。
自分の部下を見せしめとして差し出し。
自分の所有する惑星を、舞台として提供し。
あまつさえ、直々に放送を行うためにバーンの元まで出向く。
確かに、序盤は注目していた参加者も存在した。
例えば、
太公望など、仙人の類。
例えば、パピヨン、ムーンフェイスなど、ホムンクルスの類。
例えば、黒い核鉄とやらを埋め込んだ、
武藤カズキ。
例えば、依り代を代えていくことによって、永い時を生きることができる、
大蛇丸。
例えば、「ユダの痛み」を持つ、
ダーク・シュナイダー。
例えば、石仮面を被った、
東城綾。
不老不死の体現と思われていた参加者たちは、完全と思っていた参加者たちは、
その不死性が試される舞台の中で、次々とその不完全性を露呈し、惨めに、哀れに命を散らしていき、また命を散らしつつある。
こんなものは、己の求めていた不老不死では無い。
だからこそ、フリーザはバーン・ハーデスへの期待を膨らませていく。
その右手…バーンの本体を殴りつけた際に砕け、未だに動かすことのままならない右手に。
不死への飽くなき渇望を刻むため、敢えて癒さずにいる右手に一瞥をくれ、フリーザは歩みを進め続ける。
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(ペガサスが堕ちたか――)
エリュシオンまで攻め込まれ、タナトスとヒュプノスが倒され、
女神のニケによって消失の間際までさらされ、愛する自分の肉体を失った屈辱。
神たる自分に、土を舐めさせるという非礼を働いた、女神の聖闘士。
筆頭でもある、神話の古来にも自分の肉体に傷をつけた、あの傲岸な天馬座の聖闘士。
今のハーデスには、肉体がない。
最初の大広間で、第3の主催者として現れたのは、種を明かせば立体映像とでもいうべきもの。
幸い、制限下にあった聖闘士達は、自分の小宇宙がどこから発生しているのかということを、
あの短時間、かつ異様な状況では把握し切れなかったようだが……
つまり、第6放送でのフリーザの言葉は、事実の一面を衝いていたものでもあった。
力は未だに戻りきらず。それどころか、グレイテスト・エクリプスに匹敵するだけの能力を行使し、
満足に喋ることすらできない程に消耗しつつも、ハーデスは天馬座の死にある種の感慨を覚える。
この遊戯とやらを超えて、あの下賤な人間は、再び自分の前に立つとでも考えていたのだろうか?
それは、ハーデス自身にも分からないこと。
それでも、冥府の神は、次の放送……天馬座の名前を呼ぶのは自分だろうと考えている。
これは、ハーデス自身の意思。
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結局のところ、このゲーム自体は主催者にとって手段であって目的ではない。
だから、参加者たちの生にも、死にも意味はなく。
決断も、葛藤も。決意も、逃避も。
唯々、命は消費され。
放送が流れる。
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【場所不明/夕方】
【チーム:主催者】
[共通思考]:無し
【フリーザ@DRAGON BALL】
【バーン@ダイの大冒険】
【ハーデス@聖闘士聖矢】
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最終更新:2024年07月30日 14:01