0004:勇者、起つ! ◆lEaRyM8GWs
故郷を思い起こさせる濃厚な夏の匂いが漂っていた。
ただ違うのは、空気も海も故郷より濁っている事か。
デルムリン島にいるブラスと友達を思い、そして次に、このゲームに参加している仲間を思った。
「
ポップ……
マァム……」
漆黒の海が波打つ海岸にて、勇者ダイは寂しげに夜空を見上げる。
どうしてこんな事になってしまったのか。
仲間同士で殺し合い? 冗談じゃない。
何とかしてこのゲームから脱出し、主催者である大魔王バーン達を倒さなくては。
勇者の力強い決意に応えるように、彼の手には鈍い輝きがあった。
肉を裂くために造られた物。
刃が広く厚く、先の尖った凶器。
一振りすれば人の命を奪い取る事も出来るだろうが、それは元々他者の命を奪うための物ではない。
だのに、それを造り出した者達の意図とは異なる最悪の使い方……殺し合いのためにそれは支給された。
だが案ずる事はない、その刃は平和を愛し人を守る勇者の手に握られているのだから。
そう、勇者ダイが支給された武器。
その名は……!!
出 刃 包 丁 。
魚や鶏肉のあらぎりに用いる。by広辞苑
……まあ、剣やナイフを得意とするダイにとってはどちらかと言うと当たりの支給品かもしれない。
アバン流刀殺法は問題無く使えるだろう。しかし、竜闘気を使った場合、こんな包丁など一瞬で燃え尽きてしまう。
「おれの剣があれば……」
ため息をつきながらダイは出刃包丁を見下ろす。
雑魚相手の場合は出刃包丁で済むが、強敵相手の場合は素手で竜闘気を使った方がマシだ。
竜の騎士の持つ超戦闘能力、竜闘気のパワーに耐え切れる物など、ダイの世界においてはオリハルコンしか存在しない。
「……はぁっ、これからどうしよう? 何とか
ポップと
マァムと合流できればいいんだけど」
聡い方ではないダイはうんうんと唸り声を上げて悩み、とりあえず海岸を歩き出す。
すると、波の音に混じってかすかに女性の声が聞こえる。
耳をすまし、周囲を見渡し、出刃包丁を握る手に力を込める。
暗闇の中、砂浜に埋もれる巨石の陰でわずかに動く影をダイは見つけた。
気配を断ちながら慎重に近づくと、髪の長い女性が胸を押さえて苦しんでいるのだと分かった。
ダイは出刃包丁を握ったまま走り出し、女性はそれに気づいた。
「……何者……!?」
苦しげな、けれど気丈な声。
ダイは包丁を腰のベルトにかけ、無邪気な笑顔を浮かべた。
「安心して、おれは殺し合いなんてする気はないよ」
「……ハァ……ハァ、その言葉、偽りでは……うっ」
突然咳き込みだした女性の元へ駆けつけたダイは、優しい手つきで彼女の背中を撫でる。
「大丈夫かい?」
返事は無い。女性は呼吸を乱したままダイに身を委ね、五分ほど経った頃に落ち着きを取り戻した。
「……すまぬ。下界の空気は私にとって毒のようなものでな、だいぶ慣れてはきたが……」
「空気が毒? そうか、確かにこの辺の空気は汚れてる気がする。山の方にでも行けば楽になるかな?」
「……おぬしは優しい子じゃな。名は?」
美女の背中を撫で続けながら、小さな勇者は元気よく答えた。
「おれの名前はダイ。元の世界じゃ一応勇者って呼ばれてる」
「ふふっ、頼りがいのありそうな勇者じゃな」
ダイの言葉を信じたのか、それとも冗談か何かと思ったのか、美女はクスクスと笑った。
彼女の笑顔があまりにも綺麗なので、ダイは思わず赤面する。
「私は
竜吉公主と申す。ダイよ、よければ
太公望という男を捜すのを手伝ってはくれぬか?
そやつは頭が冴える。この状況を何とかしてくれるやも……コホッ、コホッ」
「
竜吉公主さんっ、無理して喋らないで」
再び咳き込みだした
竜吉公主のため、ダイは自分の鞄から貴重な飲み水を取り出した。
竜吉公主は申し訳無さそうな顔をしながらも、水を二口ほど飲む。
わずかに咳が鎮まった美女は、「公主でよい」と微笑んだ。
【現在地:高知県南部の海岸/1日目深夜】
第一行動方針:空気の綺麗な山などへ行く。
基本行動方針:仲間を集める。ポップ、マァム、太公望優先。
最終行動方針:ゲームを脱出し主催者を倒す
【ダイ@ダイの大冒険】
状態:健康
所持品:荷物一式、出刃包丁
【竜吉公主@封神演義】
状態:不調(少し息苦しい程度・体力常時微消耗)
所持品:荷物一式(支給品不明)
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最終更新:2024年08月10日 02:36