0421:フレイザードの世界2 ◆PN..QihBhI
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「オレはある魔族の魔力によって造り出された生命体だ。
だから、その魔族が死ねばオレも死ぬ。
一蓮托生って奴だ。気に入らねえ」
「まあな、最初は必死だったぜ。
何の実績も無いオレに、結果が伴わなければ、待っているものは屈辱と死だ。
だから、そこに手柄があるならば、灼熱の業火の中にも、形振り構わず突っ込んだ。
女子供だろうが皆殺しにして、瞬く間に一つの国を壊滅させた」
「戦いが好きなんじゃねえ。戦い以外に、オレを証明出来るものがねえんだ。
だが、勝利の瞬間の快感が、仲間の羨望と眼差しが、オレの心を満たしてくれる。
それを哀れだとかぬかすヤツも居たがな。へっ、余計な御世話だぜ」
「だが、最近たまに考えちまうのさ。
オレは何処まで強くなればいい?あと何人殺せば栄光に手が届く?
戦いに終わりはあるのか。強さに終着点はあるのかってな」
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山形県。
雪に覆われた閑静な住宅街。
塀に囲まれた、道幅の狭い袋小路。
風の穏やかな、静かな夜だった。雪も既に止んでいる。
始まりはこの舞台の最北の地、北海道。
そこから大地を炎が舐め尽くすように戦い、殺しながら南下してきた。
だから、この周辺に自分以外の参加者が残っている訳がない。
そう言い聞かせ、鉛の如く重くなった巨体を、塀に預ける。まさに満身創痍だった。
フレイザードは力なく項垂れ、吐き出した息の白さを、ただ見つめていた。
戦いの連続だった。倒れても、立ち上がった。倒れても、倒れても。
負傷や疲労ならいずれ癒える。だが今回の疲れは、いつもと何かが違っていた。
『それとも、生きる事が虚しくなったのか?』
脳裏に焼きつき離れない声。疲労よりも、この声が
フレイザードを苦しめる。
事の発端は、
ピッコロに出生を尋ねられ、何となく話に乗ってから。
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「な、なにィ?」
『―――或いは臆病風に吹かれたか。
何度殺しても、ヤツらはゴキブリのようにしぶとく湧いて来る。
それが、戦う前から弱音を吐くようではな。どうやら、貴様の死も近いようだ』
朦朧とした脳内に、雑音のように侵入し思考を掻き乱す幻聴。
それはほんの数時間前の記憶であり、電車内で起こった一幕。
「てっ、てめえ。喧嘩売ってんのか?」
そして幻覚。不明瞭な視界に映し出される、一対の対照的な幻影。
ひとつは腕を振り翳し、激昂する
フレイザード自身。
「見損なうなよ。オレはバーン様の尖兵として、戦う為に造られた魔造生命体だ。
戦いは手柄を立てる場でしかねえし、人間は殺しの対象物でしかねえ。
オレの目的は、勝者となる事だ。勝者にさえなれば、全てが手に入るからな。
栄光は語り継がれ、歴史に刻まれる。名誉は不朽のものとなり、誰もがオレの前に跪く」
もうひとつは冷笑を浮かべ、悠然と車両内の椅子に着座する
ピッコロ。
『果たしてそうかな』
「なんだと」
『貴様は言っていたな、戦いに終わりはあるのか、と。
教えてやろう。生きている限り戦いは永劫に続く。強さに際限など存在しない。
強者を倒しても、何れまた次の強者が貴様の前に現れるだけだ。
敗北は死。逃走は恥。積み重ねた功績も、一度の失態で崩れ去ってゆく』
「な・・・な・・・」
『貴様とて実は気付いているのだろう。栄光や手柄など、何れは忘れ去られるのだ。
かつて世界を恐怖に陥れた、この大魔王とて、例外ではなかったのだぞ。
一時の栄華など、悠久の時の流れの中では泡沫の夢に過ぎぬ』
「や、止めろ。それ以上」
『現実を見るが良い。
只でさえ貴様は、造り手の都合で造り出された、
造り手の魔力ありきの脆弱な存在ではないか』
『貴様は人間でもなければ、我々魔族とも違う、むしろ道具や兵器に近いシロモノなのだ。
その程度のモノが、栄光だとか歴史を語るだと。笑わせるな』
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ピッコロの言葉が、鋭利な刃物のように肺腑を抉った。
己の存在価値が否定されてゆく。その怒りに、その痛みに、
尚も喋り続ける
ピッコロの言を遮り、
フレイザードは腹の底から絶叫した。
『呪うのなら、己の運命を呪うのだな。この私のよ―――』
「ならば、ならばオレは、何故オレとして生み出された。
オレが魔族でもなく、人間でもなく、ただの兵器や道具に過ぎないのなら、
この怒りは、この憎しみは一体何だ?
オレは認めねえ、認めねえぞ。オレの存在は、オレの戦いは無駄じゃねえ」
後一言、ほんの後一言の刺激で、この理性という名の防波堤は決壊するだろう。
それでも構わない、と思える程の憤怒が、熱く、津波の如く心に押し寄せて来た。
しかし、
ピッコロはふっと笑って、目前に詰め寄った
フレイザードに一言。
『貴様はまだ若い。何れ分かる時が来る』
話はそれで終わった。沈黙の中、電車の奏でる機械音が無機質に響いている。
―――こ、殺す。こいつは、必ずオレの手で殺す。
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「ハッ?」
フレイザードは、弾かれたように上体を起こした。
忌々しい記憶を見せられている間に、いつしか眠っていたようだった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
荒い息を吐きながら周囲を見渡す。視界には
ピッコロや電車の姿など微塵もなく、
当初と変わらない、雪に覆われた白い家並みが、月明かりに照らし出されていた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
意識が鮮明になるにつれて、
フレイザードは思い出す。
半死半生でここまで辿り付いた事、電車内の戦い、そして
ピッコロの無様な死。
「クッ・・・クックックックッ・・・
カ、カッカッカッカッカッカッ・・・」
様々な感情が込み上げてきて、
フレイザードはひとしきり笑った。
勝利の実感に、達成感に、カタルシスに暫し酔い痴れた。
「・・・・・・」
やがて笑い疲れて
フレイザードは俯く。
至福の時間が醒めると共に、現状の把握と情報分析が脳内で加速してゆく。
(今が大体19時から20時、体力は凡そ20%ってところか。
あの天候の中を歩き回ったにしては悪くねえ治りだが、
この有様でこれ以上動き回るのは、流石に自殺行為だな)
しかし、次の放送の頃には、また戦える状態に戻れると、
フレイザードは確信した。
核鉄の治癒能力に加え、回復力そのものが以前より上がっているという実感がある。
激戦を潜り抜け、何度も死線を彷徨った。その経験の賜物だろうと思えた。
成長している。御託などでは得られない、確かな感触がここにあった。
(そうさ、オレは間違ってねえ。
自分の宿命を呪ってみたところで何になる。過去の栄光に縋り、現状を嘆いて何になる。
オレにはそんな理屈は必要ねえ、必要ねえんだ)
死人の論理など、今となっては負け犬の遠吠えでしかない。
確かに大きな壁だったと思う。勝敗は紙一重だったのかもしれない。
それでも勝者の名は、
フレイザードであり、敗者の名は
ピッコロだった。
(だが、待てよ)
一方で
フレイザードには、
ピッコロのある発言を機に閃いたアイデアがあった。
それは自分と、自分の創造主であるハドラーとの因果を揶揄した言葉。
『只でさえ貴様は、造り手の都合で造り出された、
造り手の魔力ありきの脆弱な存在ではないか』
(チッ、うるせーな。でも、ひょっとすると)
そしてその言葉がヒントとなり、紡ぎ出された仮説。
フレイザードは、主催者が放送で宣言した公約を改めて思い出す。
『慈悲深い私は、優勝者に『ご褒美』を与えることにしました。
今回新たに追加する優勝者への『ご褒美』は誰か御一人の『蘇生』です』
優勝の報酬。それは主催者の一人、ハーデスによる死者の蘇生。
俄かには信じ難い話だが、もし本当にハーデスがそれ程の力を持っているのならば、
自分とハドラーを縛る、この忌々しい宿命の鎖を、断ち切る事が出来るかもしれない。
確証は無い。しかし、目指す価値はある、と
フレイザードは思った。
「だから、優勝して、手に入れてやる。誰のモノでもない、オレだけの命をな」
呟いた声は、乾いた夜風に乗って、緩やかに流されてゆく。
風の穏やかな静かな夜。雲ひとつない夜空から、月光と星々の瞬きが大地を照らす。
明日は晴れるだろう。だから存分に戦える。もう天候に悩まされる事もない。
考えるべき事を考え尽くして、
フレイザードは目を閉じた。
新しい目的が出来た。不安が消えて、自信に変わった。
(そうさ、オレは間違ってなどいない・・・決して・・・間違ってはいない・・・はず・・・さ・・・・)
そして、
フレイザードは押し寄せる睡魔に身を委ねた。
快い充足感と安らぎが、心を満たしていった。
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そして、闇。
何処までも暗黒で、何処までも虚ろで、
何処か懐かしい。(こ、ここは)
『所詮、この世は全て闇。我らはこの闇より生まれ、この闇に死ぬ。
だから
フレイザード。生きた事に、証など求めてはならぬ。
我らかりそめの生命体に、何かを遺す事など出来はしない』(わ、我らだと)
『それでも、それでも想い果てぬなら、
それでもなお、己を駆り立てる声を感じるのなら、
心のままに戦い、栄光とやらを掴んでみせろ。
手にした栄光と、積み重ねた幾千幾万の屍の上で、やがて貴様は知るだろう。
本当の怒りと、本当の憎しみと、絶望をな。
私はそれを望んでいるぞ。そして待っている』(何だ、何を言ってやがる
ピッコロ)
『生きろ
フレイザード。
言いたい事はそれだけだ』(・・・・・・!)
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夢見ていた。何人にも束縛されない、生命の自由を。
想いを馳せていた。勝者だけが得る、栄光と賞賛に。
感じていた。新たなる、戦いの幕開けを。
夢の中で呟いた。生きてやる、と。
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【山形県、雪の市街地/2日目・夜】
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]:体力・負傷共に全快時の2割未満、氷炎合成技術を習得(少なくとも、回復具合が5割を超えないと使えないと思われる)
放送まで睡眠(放送時まで眠った場合、全快時の60%まで回復)、体組織の結合が不安定(放送時まで眠った場合は回復)
核鉄による常時ヒーリング
[装備]:核鉄LXI@武装練金
[道具]:無し
[思考]1:優勝してバーン様から勝利の栄光を。優勝してハーデスに独立した生命体にして貰う。
2:体力の回復を図る。
3:ある程度回復したら、その後南下して参加者を殺害する
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最終更新:2024年07月30日 23:43