0430:僕達のバトルロワイアル








―――僕達は生きる。


「お前~それでも人間か~♪」


―――絶対に許せない、ヤツらがいる。


「お前の母ちゃん何人だ~♪」


―――守りたい人がいるから。


「いい加減にしないと~♪」


―――帰らないといけない、場所がある。


「そのほくろ引きちぎるぞ~♪」


―――伝えたい、想いがある。


「L!O!V!E!お!つ!う!」

「L!O!V!E!お!つ!う!」

「さあみなさんごいっし「黙れメガネ!!」ひでぶっ!」


 ∥ ∥ ∥ ∥


『新八編』

 アレ?なんだこれ、空が真っ白だ。
 アレ?真っ白なのは僕じゃないか。
 アレ?なんで僕こんなところで寝てるんだっけ。
 アレ?こんなん前もなかったっけ。アレ?


 ∥ ∥


 時は少し遡る。

 アビゲイルと別れた後、一行の足取りは重くなる一方だった。
 疲労と不安が、当初あれほどあった気力を蝕んでゆく。
 言葉には出さなくても、どうしても感じてしまう。

(痛い)(疲れた)(もし、いま敵に襲われたら)

 確かに光明はあった。
 アビゲイルの言葉。リョーマの考察。
 ハードルを越える度に、確かにチームの結びつきは強くなっていた。
 ただ、目の前の重たい現実はどうにもならない。時間と共にのしかかってくる。

 新八は移動中に、これまでの経緯を聞いていた。
 出会い。別れ。放送で名を呼ばれた人達のこと。
 悲しみ。怒り。色々な思いが脳裏を駆け巡る。

 そんな感情に打ちひしがれながら、
 しかし一方で、こんなんじゃダメだ、と新八は思った。

 憎っくき主催者達の顔を思い浮かべる。
 そうだ、くよくよしている場合ではない。気持ちを奮い立たせなくては。
 そして、チームにたち込め始めたこの暗雲を振り払わなくては。

 だから、新八は歌った。
 その結果がこれ。殴られ&土下座、いわゆる体罰である。


 ∥ ∥


「てめー状況分かってんのかァ?敵に声聞かれたらどーしてくれんのよ。あぁん?」
「スンマッセン、サクラ様マジスンマッセン」
「ガミガミガミガミ」

 サクラの説教が続いている。
 土下座させられたまま、助けを乞うように新八はこっそり目配せをした。
 視線の先には、二人の男が並んで立っている。

 一人はこの世界でできた最初にして最愛の友。
 苦しみも、悲しみも分かち合ってきた。
 だから、こんな状況でも助けに入ってくれるはず。新八はそう信じていた。

 そしてもう一人、逆毛の、見上げるような大きな男。
 知り合ったばっかりだったが、不思議な安心感のある男だった。
 だから、こんな状況でもなんとかしてくれる。新八は密かに期待していた。

「ひそひそ(仙道先輩、サクラさんキャラ変わりまくりじゃないスか?)」
「ひそひそ(あ、ああ。参ったな、忍者なのにまったく忍んでねえ)」

 その二人、リョーマと仙道が小声で言葉を交わしている。
 きっと、フォローに入るタイミングを計っているのだろう。

「ひそひそ(サクラさんには、逆らわない方が身の為っスね)」
「ひそひそ(ああ、そっとしておこう。まだ死に急ぐような時間じゃない)」

 と、思ったが気のせいだった。というかおーい、聞こえてるぞー。

「ああ!?何か言ったそこの二人」

 案の定である。サクラの矛先が、ひそひそ話している男二人に向いた。
 瞬間、その場の空気が変わった。

「・・・さあ、いこーか」
「はっ!・・・はっ!・・・青学ファイオー」

 仙道のシャドーバスケが始まり、リョーマがラケットで素振りをし出す。
 ―――あたかもそこにボールがあるように。

(ってオイぃぃぃ!この薄情者共ォォォ!)

 そんな心の叫びも、完全に自分の世界に入った二人には届かない。

「てめーが一人で暴走して死ぬなら良いわ。でも私達はチームなのよ。
 チームワークを乱す個人プレイはみんなを危機に陥れ、殺すことになるのよ。
 ってカカシ先生が言ってたわ」
(誰だよ!つーか受け売りかよ!)

「まあまあサクラちゃん。
 新八くんはみんなを和ませようとしたのだから、そんなに怒らないであげて」

 助け舟は予想外の方向から入った。
 サクラを宥めたのは、仙道と行動を共にしていたという、もう一人の仲間だった。

「幸い誰にも見つからなかったみたいだし。ねっ」
「ま、まあ、香さんがそう言うなら私は別に」

 サクラはそう言い捨てると、くるりと踵を返した。
 苛立っているのが、後ろ姿からも分かる。ちょっとムッときた。
 良かれと思ってやったのに、酷すぎではないか。

「新八くんもサクラちゃんを悪く思わないでね。
 今誰よりも責任を感じているのは、あの娘(こ)なのだから」

 諭されて、新八ははっとした。
 もし敵に襲われたら、最前線で戦うのは誰なのか。
 誰が自分達を守ってくれるのか。今、一番神経を磨り減らしているのは誰なのか。

 そんなことも考えられなかった自分を、新八は恥じた。

「分かったならいいのよ。さあ立って」
「はい」

 優しくて、強い人だ。それに比べて自分はいつも人に迷惑をかけてばかり。
 申し訳なさと、感謝の気持ちが同時に込み上げてくる。

「ゴ、ゴメン。僕、僕」
「いいのよ。さあ」

 差し出された手を取り、新八は立ち上がろうとする。
 そしてお礼を言わないと、と思った瞬間、新八は重大な問題に気がついた。

(ヤバイ、この人の名前なんだっけ)

 まずい。いや待て、これ自体は社会ではよくあることだ。
 むしろ誰しも体験する出来事と言っていいだろう。
 そうだ、問題はそうなった後の対処方法だ。新八は必死に寝起きの頭を回転させる。

(もう一度聞くのも失礼だし。ま、いっかここは無難に・・・)

「あ、ありがとうございます。お、お―――お 兄 さ ん !」

「おに・・・?(プチ)」

 その刹那、みんなの顔色が変わる。

 ゴゴゴゴゴゴ・・・

「あれ?今なんか切れたよ。なんか切れてはいけないものが切れた音がしたよ?」
「あ、あたしは、『女』だああーーー!!」

「ちょっ、ギャアアアアア・・・」


 ドゴォ~ンン←香のハンマーが炸裂した音


「ふう、この不届き者め」
「ク、クレーターができてる・・・大した威力・・・まさかこれ程の・・・」
「こんなキャラだったんスね。香さんも」
「し、知らなかった(ガーン)」

 薄れゆく意識の中、そんな能天気な会話が聞こえてきた。


 ∥ ∥


 ・・・っていう感じだったかな。

 うわ、寝起きでボンヤリしていたとはいえ、
 香さんには失礼なことを言っちゃったな。後でちゃんと謝っておこう。

 はあ、実際に何かしようとしても、中々一筋縄ではいかないことばかりだなぁ。
 本当は、自分でも分かってる。僕は何をやってもダメ。
 突っ込み以外は、何も出来ないキャラだって言われた時もあった。

 イカンイカン一人でいると弱気になってしまう。
 こんなんでへこたれていたら、主催者に突っ込むなんて夢のまた夢じゃないか。
 そうだポジティブだ。こんな時こそポジティブに考えなきゃダメだ。
 ポジティブになれ新八、世界とは己の心を映す鏡だ。
 心の持ち方一つで世界は何色にもその色を変えるんだ。
 むしろこの状況を楽しめ新八。ここは無人の世界。
 ここまでの完璧な孤独はそう味わえるものではないぞ。
 心が一気に軽くなるのを感じてい(ry

 <省略>

 銀さん。それからも色々考えましたが、
 何が正しくて、何が間違っているのかなんて、
 結局は僕も、全然分かっていないのかもしれません。

 でも、僕も自分の肉体が滅ぶまでは、
 精一杯、背筋伸ばして生きて行こうと思います。
 きっと、うん。銀さんだってきっと、そうするだろうと思うから。

 で、最後に一つ訂正させて下さい。
 先程はああ言いましたが、実は一つだけハッキリと確信したことがありました。

 銀さん。世の中には姉上より恐ろしい女性がいます。
 しかも、それが二人も目の前に。


 ∥ ∥ ∥ ∥


『香編』

 小休止だった。
 高速道路沿いに、パーキングエリアのような施設があり、
 新八が再び気絶したのを機に休むことにした。そして約10分後。

「アレ?ここは冥土ですか?花畑じゃなくて針山地獄が見えるんですけど」
「よ、良かった。気付いたか新八くん」
「いや新八サン、それ仙道先輩の頭ッス」

 その後、新八はすぐに正気に戻ると、
 まず香に、男だと勘違いしたことを真摯に謝罪した。

 香は笑って許した。
 自身、二日間シャワーすら浴びてない身体だったし、
 当時は、新八もかなり朦朧としていたようだった。
 何より、そんな経験は昔から腐るほどしてきたのだ。

 既に鬱屈した空気はなくなっていた。
 新八、リョーマ、仙道。少年達の顔に笑顔が弾け、楽しげな声が響く。
 そんな平時ではありふれた光景を、香は少し離れた場所で眺めていた。

 甦ってくる思い出がある。
 学生時代の自分。懐かしいような、恥ずかしいような感情。
 人より高い身長がコンプレックスだったことや、同性からラブレターを貰ったこと。
 恋を、恋とも思わない。そんな時代が自分にもあった。

「良かった。なんかみんな元気になったみたいです。
 一時はどうなるかと思ったけど」

 ほっとした口調で言いながら、香の隣にサクラが腰掛けてきた。
 チームに明るさが戻ったのは、新八のおかげだった。
 言葉にはしなくても、みんな知っている。

アビゲイルさんはああ言っていたけれど、
 万が一の時の為にも、適度に体を休めながら進まないとね」

 言ってから香は掌を見つめ、今度はアビゲイルのことを思い浮かべる。
 甦ってくる。澄みきった眼差しと、最後の言葉、握手の温もり。

『たとえ何があっても、どんな事が起こっても、決して後ろを振り返ってはいけません。
 とにかくただひたすらに、がむしゃらに前に進みなさい…
 私は必ず、必ずあなたたちの元に帰ってきますから』

 そして一人一人と握手を交わした後、アビゲイルとは別れた。
 別れの前の、そんなほんの小さなやりとりを、
 香はきっと忘れないだろう、と思った。

 別れの握手。
 あの時アビゲイルは、手の平にどんな想いを込めたのだろう。

 前向きな言葉と明るい態度。
 しかしそれとは裏腹に、アビゲイルはとても悲しい目をしていた。
 そして、そんな目をする人を香は他にも知っている。

 男の人ってどうしてそうなのだろうと、香は思う。
 大切なことは、いつも何も話してくれない。
 アビゲイルだけではなく、思い返せばデスマスク太公望にも似たような所があった。
 そして獠も、普段のひょうきんさは、本当は悲しい過去の裏返し。

 話して欲しい。分かち合いたい。受け止めてあげたい。
 そう思ってしまうのは優しさなのか、エゴなのか。

アビゲイルさんのことは、私も良く知らないです。
 ただ、アビゲイルさんの知り合いは、みんな亡くなったそうです」

 胸の内を少しだけサクラに打ち明けたら、そんな言葉が返ってきた。
 彼女も何かを感じている節があったが、上手く言い表せないようだった。

「でも、私はアビゲイルさんを信じています。
 だから、私も私の任務を果たす。それしか今は頭にありません」

 そうね、と相槌を打ち、香は思い直す。確かに、分からないことは多い。
 ただ、するべきことは分かっていた。だから、それでいい。

「ところで新八サン。
 アンタ主催者に突っ込むって簡単に言うけど、具体的にはどーすんのさ?
 あれだけ前フリしといて『なんでやねん』とかで済むと思ってんの?」

「(ギクッ)フッフッフッ、リョーマくん。それはね、その時のお楽しみだよ」
「ふーん。だから何て言うの?まさか考えてないとか?」
「オイッ!そ、そんな訳ないだろ!ふん、今に見てなよ。
 この僕があいつらにこの世界におけるツッコミ役の大切さを分からせてやるからっ」
「あらら、自分でハードル上げたよこの人。知~らない」
「ああうぜえェェェェ!このツッコミ歴0年の青二才があァァァァ!
 ツッコミってのはなァ!現場の状況と相方のお膳立てによって風林火山の如く采配を振るうべき難解且つ高邁なノウハウなんだよォォォォ!」
「だ・か・ら・考えてないんでしょ?」
「くぁ(仙道のあくび)」

 目を細めながら少年達を眺めていたサクラが、呟くように言った。

「いいなあ、男子って」
「ふふ、そうね」

 胸がいっぱいになった。
 この子達を守りたい、という思いで。


 ∥ ∥ ∥ ∥


『リョーマ編』

 かつて、ある人がこう言った。

―――ラケットは人を傷つける為にあるんじゃない。


 ∥ ∥


 リョーマは石を集めていた。理想は、手の平に収まる位の大きさ。
 また一つ手頃な石を見つけ懐にしまうと、リョーマは一度大きく息をついた。

 疲れはあった。
 ただ、まだ余力はある。少なくともあの二人に比べれば。
 リョーマは少し離れた場所で、ぐったりしている新八と仙道をちらりと見た。
 二人の側には、銃を手に周囲に目を光らせている香がいる。

「ただいま」

 いきなり頭上から声がした。声の主はピンクの髪の女忍者、サクラ。
 傍らに生えていた木の上から、音も立てずに飛び降りた。

「周囲に異常はナシ。
 だけど、依然として兵庫の反応が少しずつこっちに向かってきてる。
 このまま行くと、放送前に接触できるかどうかってカンジかな」

 それがサクラの報告。
 このままお互いに進めば、大阪辺りでその反応とぶつかる可能性が高いようだ。
 危険人物の可能性はあるが、先手はオリハルコンレーダーのあるこちらが取れる。
 対応は、相手を見極めてから決められる。

「もう行く?」
「ん」

 リョーマは曖昧な返事をした。元々、偵察が終わったら出発する予定だった。
 なのに何故サクラは改めて、しかも自分にそれを聞くのか。

 簡単だ。リョーマは再び新八と仙道をチラ見する。
 さっきまでは元気そうだったのに、いまは完全にダウンしているように見えた。
 やはり相当無理をしていたのだろう。

「ねえサクラさん。それより見て欲しいものがあるんだけど」

 リョーマは話を変えた。

「え、なになに?」
「これさ」
「ん?ただの石じゃない」
「サクラさん。例えばここからこの石を投げて、あそこの銅像に当てられる?」

 話しながらリョーマはラケットを取り出し、パーキングエリアの中心部に建っている、
 名前も知らぬ老人の銅像にトップ(ラケットの先)を向けた。
 サクラが鼻で笑いながら言う。

「出来る訳ないでしょ。軽く20mはあるじゃない」

 だが、もし出来るのなら。
 ラケットの修理はした。後は、この石で。

「サクラさん。少し離れて貰っていいっスか」
「え、まあいいけど」

 サクラが身を引く。改めて、リョーマは銅像と向かい合った。
 やれるのか。そして、価値はあるのか。もう一度自問する。

 既にリョーマにはマシンガンが与えられ、扱い方も香に教わってはいた。
 ただこのマシンガンは、威嚇射撃を行う分には効果的だが、
 元々命中率に長けたタイプではないという。

 何より、気に入らなかった。
 全く不慣れで、もどかしかった。おまけに重い。
 だからそんな武器に命を預けるよりは、思い切ってこのラケットに懸けてみたい。
 リョーマが考えていたのは、そのことだった。

(でも・・・)

―――ラケットは人を傷つける為にあるんじゃない。

 知っている。誰よりも分かっている。
 ただ、もう結論は出ていた。


 ∥ ∥


 息を吸い、吐いた。満月の夜。
 銅像が、月明かりに照らし出される。風は無い。

―――打ってこい。

 声がした。
 こんなことが、前にもあった気がする。

―――どうした越前、オレを倒してみろ。

 また声が聞こえた。
 銅像に、かつて自分に挫折を味わわせた男の姿が重なってゆく。
 それはテニスによる暴力を否定した、他でもない本人の姿だ。

(いいの部長?後になってグラウンド走らせないでよね)

 笑っていた。
 雑念が引いてゆく。

―――青学の柱になれ、越前。

(言われなくても、これから奪い取るんだけどね)

 グリップを握り直す。構えた。
 全身全霊が小石とラケットに注ぎこまれてゆく。

―――進化しろ。

 トスを上げた。
 後ろ足に重心を乗せ、ラケットを振りかぶる。
 全身が、まるで弓を引き絞るようにしなりを生じさせてゆく。
 それは自分がこの世に生まれてから、自分が自分であると分かる前から、
 何千回、何万回も繰り返したアクションだ。

―――さあ、打ってこい。

 放られた小石が最高点に達する。
 違う。これは石ではない。テニスボールだ。


「―――打ってやるさ」


 ラケットを真っ直ぐに振り下ろした。

 インパクト。
 弾道が、一直線に部長の姿をしたものに向かってゆく。
 次の瞬間、乾いた金属音が響き渡った。
 何かが吹っ飛んだ。耳、いや鼻か。
 像が傾く。

 そのまま倒れろ。そう思った。
 だが銅像は、後一押しという所で傾きを止め、
 反動に揺れながらやがて当初の立ち方に戻った。

「す、凄い」

 サクラの呆けたような声。

 違う。狙いは脳天だった。
 倒せなかったのは、狙いより下に当たったからだ。
 現に銅像の顔からは鼻が無くなっている。完璧では、ない。

 リョーマはキャップを取った。
 ふう、と息を吐き、一言。


「You still have lots more to work on・・・(まだまだだね)」


 ∥ ∥


「テニスで戦う」

 その後、リョーマはそう言ってマシンガンを香に渡した。
 香も一部始終を見ており、何も言わずにただ頷いてくれた。

 集めた石は、何個かはジャージのポケットに入れてある。
 その気になれば、素人が銃を撃つよりも早く打てる自信がリョーマにはあった。

 ただ、本当は、もう少し練習がしたかった。
 だが時間はない。そして、修理したばかりのこのラケットにも不安があった。
 ガットもどれだけ持ち堪えてくれるのだろう。無駄打ちは、許されないのだ。

 リョーマはベンチに一人腰を下ろし、汚れたラケットを拭いていた。
 皮肉だな、と思う。この期に及んで、まだテニスと離れられない自分がだ。

 手を汚して、初めて見えてきたものがある。
 後悔に囚われ、罪悪感に苛まれ、泣いたこともあった。
 そしてそれをまた、繰り返そうとしている。

 帰りたい場所があるとか、守りたい人がいるとか、
 全てがそれで正当化されるとは思わない。
 ただ、既に決めてしまった道だった。振り返りはしない。

(・・・でも)

 リョーマは手を止め、空を仰いで呟いた。

「楽しくないね。やっぱり」

 そんな些細な問題を、気にしている自分が可笑しかった。

 もうすぐ出発だ。
 リョーマは立ち上がり、もう一度あの銅像を見た。

 感傷は、もう必要ない。
 けれど、悩んだことは、忘れないでいよう。


 ∥ ∥ ∥ ∥


『仙道編』

 出発の準備が始められていた。

 仙道も手伝おうとしたが、病み上がりだから、という理由で無理矢理止められた。
 渋々みんなが用意をできるまでベンチに腰をかけて待っていると、
 一足先に支度を終えた香が仙道の前にきて言った。

「隣、いいかしら?」

 仙道は慌ててスペースを作った。

 その後、幾つかの言葉を交わした。内容は、自分の体調や気分のこと。
 心配をかけている。だが大丈夫、と言えばそれも嘘になる。
 本当は、だるさも、頭痛も消えてはいなかった。
 そんな自分を、みんなは少しでも長く休ませようとしてくれる。

 本音を言うと、ありがたかった。
 ただ、情けない自分が嫌になるだけで。

 鋭い考察を見せたリョーマ。明るさでみんなを元気づけた新八。
 一方で、全くチームに貢献できていない自分。

「―――分かった仙道くん?」
「あ、はい」

 だからと言って、荒んだり、卑屈な態度も取りたくはなかった。
 感情を殺し、だるさを殺し、ただ淡々と受け答えてゆく。
 それが自分に今示せる、せめてもの意地であり、誠意のつもりだった。

「仙道くん、嘘ついてる」

 いきなり、予想外の言葉が心に刺さった。顔を上げる。
 香の、厳しさと悲しさがない交ぜになったような表情がそこにあった。

「耳には入っているけれど、頭には入っていない。そんな顔してる」
「そ、そうすか?」
「うん。あたしには分かるよ」

 仙道は頬を掻いた。上の空だったことが見抜かれていた。
 気まずい沈黙。香の寂しげな横顔が辛い。

 溜息を吐く。本当に、この人には敵わないな。
 だが香も香だ。今の自分から、女々しい言葉や弱音を吐かせて何の意味があるのか。
 とは言え「別に」とか、「何でもない」とか、適当にあしらうこともしたくはなかった。
 しばらく悩んだが、仙道は前々から感じていた素直な思いを言葉にし始めた。

「ずっと考えてた。
 オレがここにいる意味は何だろうって」
「意味?」 

 香が怪訝な表情を向けてくる。

「不思議じゃないすか?まるで漫画に出てくる正義のヒーローや、
 それと戦う悪者や、化け物みたいなヤツらばかり集められたこの世界に、
 なぜ何の力もないオレが、こうして呼ばれたのだろうって」

 それは最初から感じていた、純粋な疑問だった気がする。
 ただ、無意味な問いだと分かっていたし、深く考える余裕もなかった。

 仙道は腕を組んだ。
 だが改めて考えてみても、やはり意味のある疑問に思えない。
 リョーマの発想には遠く及ばないし、むしろただの世迷い言にすら思える。
 香は、自分のこんな戯言を聞いてどうするつもりだったのだろう。
 仙道がうんうん唸っていると、香がふっと笑い言った。

「なあんだ、そんなことでウジウジしてたの?仙道くんったらまだまだ子供ねぇ」
「いやいや、ただ単になんでだろうって思っただけっすよ。 
 ほら!何か変な感じになったでしょう。だから言うの嫌だったん―――」

「仙道くん」

 不意に話を遮られ、仙道は戸惑った。近い。
 香の瞳が、仙道の目を真っ直ぐに覗き込んできていた。

「意味はあるわ。あたしが保証してあげる」
「は、はい」
「あなたに会えて、本当に良かったと思っている人が、
 少なくともここにいるんだから。理由なんてそれで十分じゃない?」

 凄いことを言われた気がした。仙道は固まる。
 止まった時間の中で、心臓の音だけがやけにはっきりと聞こえた。
 参ったな。こんな時、なんて言ったら良いのだろう。

「そ、そうですね」

 結局、そう言っていた。
 何を言っているんだオレは。他に言うことなかったのかよ。
 仙道の混乱に拍車がかかる中、事態は意外な所から動き出す。

「ちょっとあんた達なに見てんのよ」

 香が急に叫び、立ち上がった。
 同時に、脇の草叢から飛び出す三つの顔。

「ゲェー、バレたアアアーーッ」
「ほ、ほら言ったでしょ。こんな覗き見みたいなことしちゃいけないって。
 香さんごめんなさい。私、止めたんですけど二人が」
「はあ?アンタ一番ノリノリだったじゃん」
「ちょ、言うなぁ!」
「ぐわっ」
「るせーっ!こそこそと盗撮みてえな真似しくさって!
 絶対に許さんぞぉ小僧共ぉ!!じわじわとなぶり殺しにしてくれるわ!!
 一人たりとも逃がさんぞ覚悟しろーっ!!!!」
「アレ主催者?もしかして主催者来ちゃった?」
「みたいだね。ホラ早く突っ込みなよ新八サン」

 香が真っ赤な顔をしてハンマーを振り回し、慌てて逃げだす三人を追いかけてゆく。
 木霊する悲鳴。目の前で繰り広げられる阿鼻叫喚の光景を、
 まるで他人事のように眺めながら仙道は心から思った。


「・・・(でも香さん。オレもいま、はっきりと分かったよ)」


「ぎゃっふぁあああ!ヘッヘルプスッ、ヘルプスミー!」
「ちょ、ちょっと新八サン話が違・・・うげっ」
「ダメ~~!か、顔は止めて香さん~~~!」


「・・・(だから、今度はオレの方から伝えたいな)」


「いま死ねっ!
  すぐ死ねっ!
   骨まで砕けろーー!!」


―――オレ、あなたに会えて良かったって。


「「「ぎょえええーーーー」」」
「・・・・・・(汗)」


 ∥ ∥ ∥ ∥





―――だから、生きる。


 ∥ ∥ ∥ ∥


【二日目/京都府/夜】


 チーム【侍と忍と掃除屋とスポーツマン】
 共通行動方針:1名神高速道路から大坂経由で兵庫に向かう
        2その後、四国に渡り太公望の仲間(ダイ)を捜索
        3三日目の朝には兵庫に戻る
        4道中、対主催の仲間を集め、太公望の情報を伝える
        5新八に詳しい状況説明をして、情報を共有。道中、オリハルコンレーダーの反応に変化があればそれも話し合う。


 ※主催者の監視手段について

 視覚による監視は、精密機械によって行われており、
 第五放送から第六放送の間に、一部の監視機器に故障が生じたのではないかという仮説を立てています。




【春野サクラ@NARUTO】
 [状態]:頭にたんこぶ、仲間の治療のためチャクラを少し消耗、太公望の情報を受け取りました。
 [装備]:マルス@BLACK CAT
 [道具]:荷物一式、食料・水16食分、ドラゴンレーダー(オリハルコン探知可能)@DRAGON BALL、兵糧丸(2粒)@NARUTO
 [思考]:1.決して振り返らない。
      2.アビゲイルさん…
      3.四国で両津と合流(その前に一度兵庫に寄る)
      4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。
      5.仲間を集める。
      6.戦闘要員として四人を守るが、極力死ぬような無茶はしない。
      7.主催者の打倒。

【仙道彰@SLAM DUNK】
 [状態]:微熱、小疲労、負傷多数(サクラによって治療済み)、軽度の火傷
     太公望から様々な情報を得ている
 [装備]:如意棒@DRAGON BALL
 [道具]:荷物一式、食料・水16食分
     遊戯王カード@遊戯王
     (「真紅眼の黒竜」「光の護封剣」「闇の護風壁」「ホーリーエルフの祝福」…二日目の真夜中まで使用不可能)
     グリードアイランドのカード[漂流]@HUNTER×HUNTER、雷神剣@BASTARD!! -暗黒の破壊神-
 [思考]:1、何があっても香を守り抜く。
      2、決して振り返らない。
      3、四国を巡りダイ、両津と接触。太公望からの情報を伝える。
      4、追手内洋一を探す。
      5、仲間と協力し、首輪の解除。
      6、ゲームから脱出し、仲間とともに主催者を倒す。

【槇村香@CITY HUNTER】
 [状態]:右足捻挫(治癒済み)、太公望から様々な情報を得ている
 [装備]:ベレッタM92(残弾数、予備含め31発)
 [道具]:荷物一式、食料・水16食分、ウソップパウンド@ONE PIECE
     超神水@DRAGON BALL、アイアンボールボーガン(大)@ジョジョの奇妙な冒険 (弾切れ)
 [思考]:1、決して振り返らない。
      2、仙道、新八、リョーマ、サクラを守る。
      3、四国を巡りダイ、両津と接触。太公望からの情報を伝える。
      4、追手内洋一を探す。
      5、仲間と協力し、首輪の解除。
      6、ゲームから脱出し、仲間とともに主催者を倒す。

【志村新八@銀魂】
 [状態]:小疲労、全身所々に擦過傷、上腕部に大きな切傷、たんこぶ二個目、他骨折等(治療済み)
     歯数本破損、貧血
 [装備]:ディオスクロイ@BLACK CAT
 [道具]:荷物一式、食料・水16食分、首輪
 [思考]:1.仙道たちに同行。仲間を集める。
     2.もう一度斗貴子に会いたい。
     3.銀時、神楽、沖田、冴子、の分も生きる(絶対に死なない)。
     4.主催者につっこむ(主催者の打倒)。

【越前リョーマ@テニスの王子様】
 [状態]:頭にたんこぶ、脇腹に軽度の切傷(治療済み)、より強い決意
 [装備]:毒牙の鎖@ダイの大冒険、ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(残弾数不明)
 [道具]:荷物一式、食料・水16食分、修理されたラケット@テニスの王子様
 [思考]:1.決して振り返らない。
     2.新八が無茶をしないよう見張る。
     3.ダイ、両津を探す。キルアを知る者に会ったら、自らの罪を謝罪。
     4.ピッコロって人が死んだってことは、斗貴子さんは……
     5.藍染を殺した人を警戒。
     6.生き残って罪を償う。


時系列順で読む


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428:冷静と情熱の間 春野サクラ :[[]]
428:冷静と情熱の間 仙道彰 :[[]]
428:冷静と情熱の間 槇村香 :[[]]
428:冷静と情熱の間 越前リョーマ :[[]]
428:冷静と情熱の間 志村新八 :[[]]

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最終更新:2024年08月04日 10:08