431:交差する思惑 ◆SD0DoPVSTQ
主催者にアプローチするにはどうしたらいいものだろうか。
斗貴子と共に行動するも、
友情マンの頭の中はその事ばかりで占められていた。
この島ではない別の場所にいる主催者達に会いに行く事は、極めて困難であろう事は容易に想像がつく。
自分みたいなヒーローや、無駄に正義感の強い者達を閉じ込める舞台を用意したのは主催者達なのである。
そう簡単に会いに行ける様だと、殺し合いという主催者の思惑通りの展開に傾かない。
たとえ負ける筈がないという自信があったとしても、本来の目的のゲームを遂行する為にその点は厳重に管理しているだろう。
接点も定期的に流れる放送だけであり、こちらからは一切連絡が出来ないようになっている。
――いや、まてよ。
前回の放送で主催者の一人、
フリーザが何か言っていなかったであろうか。
今回は首輪の爆発でお亡くなりになった愚か者がいますので。
いやはや実に……フフッ……滑稽でしたねぇ。あんな手があったとは。
確かにこんな事を言っていた。
つまり、向こうはこちらのやり取りまで把握できているという事ではないだろうか。
盗聴どころか監視されていても不思議ではない。
直ぐに反応が返ってくるわけではないだろうが、こちらの意思を伝える位は出来るという事だ。
しかしそれはそれで違った問題が発生してくる。
友達になりたいという本音を伝えたとしても、そう簡単には信じてもらえないだろう事である。
この島に来てからの自分の行動を振り返ってみて
友情マンは苦笑した。
――とてもヒーローだったとは思えない。これじゃ信じてもらう方が大変だ。
だが自分は誰だ。
友情マンだ。
どんなに心を閉ざした相手でも、熱意を伝え友達になってきた
友情マンだ。
今回も熱意を伝えれば、きっと解り合える筈。
そう、そしてその為の手土産なのだ。
友情マンはこっそりと後ろを覗った。
そこには半信半疑の表情でありながらも、選んできた全ての道を打ちひしがれ、歩むべき道に迷った迷子――斗貴子がいた。
進むべき方針が全て裏目に出て、もう既に他の参加者にも合わせる顔が無い。
通常ならば疑ってしかるべき
友情マンの甘い誘いを信じたくなったのも仕方がない事である。
彼女にはもう自分で自分の道を選択する気力すら残っていなかったのだから……
主催者への手土産。
彼女を主催者の前で殺す事によって、打倒主催者が目的で接触している訳ではない事をアピールできる。
勿論それまでに手強い参加者に出会った時の盾やらなにやらと言った二次的な使い道もあるが、
そういった予想外の事態はなるべく起こらないに越した事はない。
――津村さん、君の犠牲は無駄にはしませんよ。
今は認めてくれないかもしれないけど、私はもう貴方の事を友達と思っていますから。
きっとそのうち困っている私を身を挺して助けてくれると信じています。
頭の中で思考を纏めた
友情マンは歩きながらこっそりほくそ笑んだ。
――あぁ、主催者達と友達になれるって考えると笑いが止まらないなぁ。
どこかで休みながら思考を廻らせてもよかったのだが、この笑みを
津村斗貴子に見せて下手に勘繰らせたくなかった。
自分が先に立って歩く事で、このこぼれ出る笑みを隠す事ができるならそれが良い。
ただそれだけの理由で、人が集まりそうな場所は敢えて避けつつふらふらと歩いていた。
「津村さん、ここで少々待っていてくれませんか?」
友情マンは深呼吸をして表情を整えてから、斗貴子にそう切り出した。
「――」
「ははは、そう心配なさらずとも逃げも隠れも殺しも今更しませんよ」
疑い半分、そして残ったもう半分は、
自分に与えられた新たな道がまた無くなるのかも知れないという不安の表情で、少女の顔は覆われていた。
「――どこにも行かないでくれ。お前をまだ完全に信じた訳じゃない」
「レディ相手にはあまり具体的に言いたくはなかったのですけど、ヒーローも食べたりすれば生理現象も付きまとう訳でして……」
公衆便所を指差して、照れる振りをして
友情マンは答えた。
「私としては別にやましい事はないので、
津村さんに安心してもらえるのでしたらトイレの入り口で待って頂いていても構わないのですが……」
「そうだな、ではトイレの中まで付き合うとしよう」
「――えっ、ここ共用ではなく男性用と女性用に別れていますけど」
「私は構わんぞ。こんな時だし、誰も見てやしないだろうからな」
「はぁ……そうですか」
まさかの返答にそうとしか返すことができなかった。
男性用トイレに入れば一人きりになれるかと思っていたが、そうはいかなかった。
普通の女の子であれば、こんな時であろうが男性用トイレに入りたがらないものだと思ったのだが……
だが流石にトイレの個室の中まで付いてくるという訳でもあるまい。
そうなれば幾らでもやりようがある。
友情マンは恥ずかしがる気配を見せない斗貴子を連れて公衆便所の中へと消えていった。
斗貴子の目の前の男が
友情マンではなく、カズキだったとしたらまた違った反応があったのだろうが、
友情マンはそれを知る由もなかった。
◆ ◆ ◆
「ふぅ、このあたりまで来れば大丈夫かな」
息も絶え絶えな姿で
友情マンは腕にはめていたミクロバンドを操作し、元の大きさに戻った。
何の事はない。
個室の中まで入ってこれないのならば、個室の中で小さくなって、扉の下の隙間からこっそりと抜け出してくれば良いだけの話である。
怪しまれないように、時間を考えて行動するには小さいままで結構な距離を走らないといけなかったが仕方ない。
「このゲーム主催者よ。いや、
フリーザ王よ。私と友達になって下さらないでしょうか!」
友情マンは周りに人の気配が無い事を確認してから、両手両足を大の字に広げ空に向かってそう叫び始めた。
主催者の中でも
フリーザを選んだ理由は簡単だ。
おっと失礼、バーンさん。あの者は貴方の子飼いでしたっけ。
放送で
フリーザはそう言っていた。
そして
フリーザの子飼いであったと思われる
ナッパと呼ばれた男は、自らの手で開始前に見せしめとして殺していた。
自分の手下ですら殺してしまう主催者と友達になるかと思うと、叫んだ今更ながらに身震いする。
しかし主催者達三人の内、一番友達になれそうであったのも
フリーザ王であった。
バーンと呼ばれた老人は既に子飼いがいて、なおかつ現在も活躍中らしいので自分を欲する可能性は低いであろう。
そしてハーデスと呼ばれた漆黒の男は放送を聞いている限り、残りの二人よりこのゲームに関心が薄いと見える。
となれば残った友達になれる可能性が高い人物は
フリーザ王となる。
人物と言っていいのかは甚だ疑問であるが。
しかしいくら手下に冷酷な面があろうと、このゲーム後に他の主催達との主導権争いをするとなれば、その時までは危険はないであろう。
ゲーム後の事に興味が無いのであれば、この叫びだって当然の如く無視するだろうからやはり危険は少ないと思われる。
フリーザ王以外の二人が聞いていたとしても同じだ。
無視されるだけで特に問題はない。
『虫けらが助けてくれと叫んでる』程度にしか受け取られないだろう。
「私とこのゲーム後も良い関係でいられる友達になって頂けると大変嬉しいです」
そう、この布石はメリットはあってもデメリットは少ない。
興味が無い場合無視され、興味がある場合はゲームが終わって暫くするまでは友達となって貰える。
ゲームが終わった後はその時はその時でまた状況に応じて友達を作れば良い。
「さて、そろそろ戻らないと津村さんが疑い始めるかもしれませんね」
友情マンは周囲を見回し誰もいない事を確認してからミクロバンドで再び小さくなって、公衆便所へと駆け出した。
◆ ◆ ◆
「以上がフリーザ様への、緊急報告内容となります」
「兵士Aさんと仰いましたね。報告ご苦労様です」
放送が終わり、終盤の盛り上がり前に一息入れようと休憩していた
フリーザの元に
友情マンの話が届いた。
「――この事はバーンさんと、ハーデスさんには?」
「いえ、まだ……
友情マンの奴めが不届きにも
フリーザ様を名指しでなにか叫んでいましたので、
ご休憩中だとは思いますが、まずは
フリーザ様のお耳に入れた方が良いのかなと。なにかまずい点などございましたでしょうか?」
フリーザの一挙手一投足、一語一語に怯え、兵士Aは身体を震わせていた。
つまらない事で一々報告するなと怒られるか、はたまた報告しなかったら仕事をこなせてないと怒られるのではないか。
兵士Aは
フリーザの怒りに触れて木っ端微塵にされた
ナッパという部下を思い出しながら、相反する可能性の板挟みで苦悶していた。
憧れの
フリーザに名前を覚えて貰っていたという名誉さえも、殺されるのではないかという恐怖の前では気付けずにいた。
「いえ、結構ですよ。『偽りの友情』がですか……」
宇宙一と思える程の力は手に入れた。
惑星を売買する巨大組織という集団もまとめ上げた。
個人相手でも集団相手でも殺される可能性なんて万に一つもあり得ないだろう。
だがしかし、老い――時間には勝てない。
それを克服する為にバーンやハーデスに同等の扱いを許してまでこのゲームを行っている。
ハーデスの『死者蘇生』。
バーンの『凍れる時の秘法』。
どちらも完璧とまでは言えないものの、不老不死に関して、ドラゴンボールしか知り得ない自分よりよっぽど近いと思われる。
どちらにしてもそう易々と力尽くで教えて貰えるような代物でないのは想像がつく。
しかし戦力があるに超したことはない。
この場に連れてきた
ナッパは最初に殺すという条件で連れてこれた唯一の戦闘員であった。
つまりこの場では折角の巨大組織の力が使えない。
個々の力ではバーンとハーデスに負けるつもりはないが、手を組まれると話は違ってくる。
もっともそれが狙いでの三者での共同開催という形になったのであろうが。
そして
フレイザードが優勝してしまえば、バーンはハーデスと組まなくても数の上では有利になってしまう事も事実なのであった。
それはつまり、この三竦みの状態から一人飛び出るという事。
そしてそうなれば不老不死の方法について聞き出す隙が減ってしまうという事。
「兵士Aさん、この話はまだバーンさんとハーデスさんの耳には入れてないという事でしたよね?」
「は、はいっ!」
「そんなに怯えなくても結構ですよ――貴方はこの話を知らなかった、これから起きる事も見なかった。宜しいですね?」
「え……あ、はいっ!」
フリーザの意図する事は解らなくても、自衛の為に了解しましたと兵士Aは叫んだ。
つまりはバーンやハーデスの耳には入れるなと、この事は忘れろと、そういう事らしい。
「もう下がって結構ですよ。引き続き監視と報告の仕事お願いしますね」
「はいっ、失礼します!」
どうやら報告して正解だったと、胸をなで下ろしながら部屋を出て行く兵士Aを
フリーザは笑顔で見送った。
「立場を弁えず、友達などと同等の立場に立とうする愚かさは気に入りませんが、
駒の少ないこの場所では使い道によっては有利に事が運ぶかもしれませんね」
このゲームが終わった時、三竦みから飛び出ているのは誰であるべきか。
バトルロワイアル外の生き残り争奪戦の幕が徐々に開いていく。
【岐阜県/夜中】
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:軽度疲労、右拳が深く削れている、顔面に新たな傷、核鉄により常時ヒーリング
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッヂ@世紀末リーダー伝たけし!
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、子供用の下着
[思考]1:友情マンのトイレ長いな。
2:どうすればいいのか解らない。教えてくれカズキ……
3:友情マンは信じられないが、意見は参考にしよう。
4:どうせ死ぬなら一人主催者に反抗して死ぬのも悪くない。
5:優勝できたならピッコロを復活させよう。
6:他の人に合わせる顔がない。
7:ダイを倒す策を練る。
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:左腕を骨折、全身に軽度の打撲ダメージ
[装備]遊戯王カード(ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴)@遊戯王
(千本ナイフ、光の封札剣は24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(水・食料残り六日と半日分)、千年ロッドの仕込み刃@遊戯王
スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険、ミクロバンド@DRAGON BALL、ボールペン数本、青酸カリ
[思考]1:主催者と友達になろう!
2:主催者達が監視しているなら叫びも届く可能性がある。行動しながら反応を待とう。
3:斗貴子は利用して使い捨て。
4:無理そうなら参加者を全滅させる。
5:最後の一人になる。
【場所不明/夜中】
【フリーザ@DRAGON BALL】
[思考]1:不老不死を手に入れる。
2:このゲームが終わった後、残りの二人の主催者より有利な立場にいたい。
3:友情マンの立場を弁えない行動は気に入らないが、利用できそうである。
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最終更新:2024年08月04日 12:00