「ふむ、それで俺に勉強を教えてほしいと」
「そうなんだよ。 今クーラーぶっ壊れてるから家じゃ集中できなくてさ。ってことで真次郎おま――」
「却下だ」
「これはひどい」
場所はとある公立高校。そしてクラスで昼食中。
んでもって昼食中、尚吾が黒曜石と運命の出会いを果たしたころ、兄の啓吾は友人と交渉にあたっていた。
結果は見ての通りである。
「神奈もつめてーよな。神って苗字なんだからそんぐらいつき会ってやればいいのに」
「苗字は関係ないだろう」
「僕もよかったら見てもらおうと思ってたんだけど……どうしてもダメかな?」
と頼んだのは寝惚け眼の、ちょっと太めの少年だった。
だが、神奈と呼ばれた眼鏡の少年はゆっくりと首を振った。
「ダメだ。めんどくさすぎる。どうしてもっていうなら焼肉一年分持ってこい」
「一年分の焼肉の摂取量が分かんねーよ」
そんな友人のやり取りを前にちょっぴりため息が漏れる。
「そういえば長岡、お前だって結構成績いいじゃん。なんで神奈に見て貰うんだよ?」
「僕、数学がちょっと苦手なんだよ」
「数学だけでしかもちょっとなら別に気にすることもねーでしょーよ…」
交渉の失敗と共にだんだんと話題が脱線していく中でもう一つ啓吾はため息をついた。先生に頼むという手もあったが、クーラーのない学校では夏場はキツすぎる。もうひとり成績がそこそこである長岡天馬に頼むことも考えたが、彼は教えるのが苦手と自負していた。
まぁ、奴のスローテンポさでは日が暮れても十分の一ほどしか進まないような気がするかもと啓吾も考えていた。
「そういえば貴様ら、『ジュエリーメイデン』って知ってるか?」
ふと、神奈真次郎が話題を振ってきた。なんとなく眼鏡も光ってる気がする。来たな、と啓吾は舌打ちする。真次郎がこうなるとしばらくは止まらないのはいつものパターンなのである。
「えっと、直訳すると『宝石乙女』だね……うーん、知らないな」
おまけにこの様に長岡が何も考えずにのったりするからさらに加速するわけである。だけども、たまに真次郎の話は面白いこともあるので完全スルーというのも少しちょっとなってことになっている。
「『宝石乙女』? なんだよ、最近流行りのファッションか?」
ペットボトルの水分の補給しながら傍観をしていた、更にもう一人の友人の猫田修司がぼやいた。
「あ、おれ妹から聞いたことあるぜ。何でも動く人形って都市伝説らしいけど」
「ほう、貴様の妹は博識なのだな……もしやお前ら義兄妹では」
「オイオイ、ちゃんと血の繋がった兄妹だっつーの」
「でもこないだは義妹だって言ってなかったっけ?」
「バッバーロー! あれはいわゆるそのう、そうだったらよかったかもなってヤツだ!」
一瞬、空気が冷えた。修司は冷たい視線を感じなかったことにした。
「で、そのジュエリーなんたらがどうしたって?」
「ふむ、俺も最近ネットで知ったのだがな。『ジュエリーメイデン』ってのは中世ヨーロッパの錬金術師が作り上げた生きた人形と言われている。何の為に作られたかは様々な憶測が飛んでいるが、一番信憑性が高いと言われているのはその錬金術師が『アリス』と呼ばれる究極の少女を作るためというものだ」
いったん口を切ってから、真次郎は三人を見回した。修司は携帯を弄ってたがすぐに閉じて口笛を吹き始めた。啓吾もアリスから不思議の国のアリスを連想してどんなストーリーだったか思い出してたがすぐに口笛デュエットを始めた。天馬だけが真剣に真次郎の話を聞いていた。
「全く、貴様らには向上心というものが欠片もないな。少しは天馬の爪の垢を貰ったらどうだ」
天馬の爪の垢なんて飲んだらすばやさがぐーんとさがるんだろうなって啓吾は思った。
「まぁいい、話を続けるぞ……その宝石乙女たちだが、そのアリスになるために過酷な試練を背負っているのだ。人間に指輪を渡し、力の共有の契約をする。そして、他の人形……姉妹たちと戦う。生き残った人形がアリスというわけらしい」
「なんだか可愛そうな話だね……姉妹同士で戦うなんて……」
「うわ、すげー悪趣味だな、その錬金術師。俺だったら絶対ダッ……いや、えーと……妹と遊ばせたりとかするのによ」
途中からは一応聞いてたらしい修司の感想も貰えて少し満足そうな真次郎だったが、もう一人分の感想がまだなのを思い出し、ボーっとしている啓吾に感想を要求した。
「おい、貴様の感想がまだだが……どうした? ポケットをさぐったりして」
「(放送禁止)でも痒くなったか?」
修司を一発はっ倒してから啓吾は回答の代わりに一枚の紙を出した。
「いや、これなんだけどよ。いつのまにか俺のポケットに入ってたみたいなんだが」
啓吾がそう行って取り出したのは美しい模様が薄く施された一枚の紙だった。
「あれ、なんか書いてあるよ。そっちからみて裏側に」
「そうなんだよ。 今クーラーぶっ壊れてるから家じゃ集中できなくてさ。ってことで真次郎おま――」
「却下だ」
「これはひどい」
場所はとある公立高校。そしてクラスで昼食中。
んでもって昼食中、尚吾が黒曜石と運命の出会いを果たしたころ、兄の啓吾は友人と交渉にあたっていた。
結果は見ての通りである。
「神奈もつめてーよな。神って苗字なんだからそんぐらいつき会ってやればいいのに」
「苗字は関係ないだろう」
「僕もよかったら見てもらおうと思ってたんだけど……どうしてもダメかな?」
と頼んだのは寝惚け眼の、ちょっと太めの少年だった。
だが、神奈と呼ばれた眼鏡の少年はゆっくりと首を振った。
「ダメだ。めんどくさすぎる。どうしてもっていうなら焼肉一年分持ってこい」
「一年分の焼肉の摂取量が分かんねーよ」
そんな友人のやり取りを前にちょっぴりため息が漏れる。
「そういえば長岡、お前だって結構成績いいじゃん。なんで神奈に見て貰うんだよ?」
「僕、数学がちょっと苦手なんだよ」
「数学だけでしかもちょっとなら別に気にすることもねーでしょーよ…」
交渉の失敗と共にだんだんと話題が脱線していく中でもう一つ啓吾はため息をついた。先生に頼むという手もあったが、クーラーのない学校では夏場はキツすぎる。もうひとり成績がそこそこである長岡天馬に頼むことも考えたが、彼は教えるのが苦手と自負していた。
まぁ、奴のスローテンポさでは日が暮れても十分の一ほどしか進まないような気がするかもと啓吾も考えていた。
「そういえば貴様ら、『ジュエリーメイデン』って知ってるか?」
ふと、神奈真次郎が話題を振ってきた。なんとなく眼鏡も光ってる気がする。来たな、と啓吾は舌打ちする。真次郎がこうなるとしばらくは止まらないのはいつものパターンなのである。
「えっと、直訳すると『宝石乙女』だね……うーん、知らないな」
おまけにこの様に長岡が何も考えずにのったりするからさらに加速するわけである。だけども、たまに真次郎の話は面白いこともあるので完全スルーというのも少しちょっとなってことになっている。
「『宝石乙女』? なんだよ、最近流行りのファッションか?」
ペットボトルの水分の補給しながら傍観をしていた、更にもう一人の友人の猫田修司がぼやいた。
「あ、おれ妹から聞いたことあるぜ。何でも動く人形って都市伝説らしいけど」
「ほう、貴様の妹は博識なのだな……もしやお前ら義兄妹では」
「オイオイ、ちゃんと血の繋がった兄妹だっつーの」
「でもこないだは義妹だって言ってなかったっけ?」
「バッバーロー! あれはいわゆるそのう、そうだったらよかったかもなってヤツだ!」
一瞬、空気が冷えた。修司は冷たい視線を感じなかったことにした。
「で、そのジュエリーなんたらがどうしたって?」
「ふむ、俺も最近ネットで知ったのだがな。『ジュエリーメイデン』ってのは中世ヨーロッパの錬金術師が作り上げた生きた人形と言われている。何の為に作られたかは様々な憶測が飛んでいるが、一番信憑性が高いと言われているのはその錬金術師が『アリス』と呼ばれる究極の少女を作るためというものだ」
いったん口を切ってから、真次郎は三人を見回した。修司は携帯を弄ってたがすぐに閉じて口笛を吹き始めた。啓吾もアリスから不思議の国のアリスを連想してどんなストーリーだったか思い出してたがすぐに口笛デュエットを始めた。天馬だけが真剣に真次郎の話を聞いていた。
「全く、貴様らには向上心というものが欠片もないな。少しは天馬の爪の垢を貰ったらどうだ」
天馬の爪の垢なんて飲んだらすばやさがぐーんとさがるんだろうなって啓吾は思った。
「まぁいい、話を続けるぞ……その宝石乙女たちだが、そのアリスになるために過酷な試練を背負っているのだ。人間に指輪を渡し、力の共有の契約をする。そして、他の人形……姉妹たちと戦う。生き残った人形がアリスというわけらしい」
「なんだか可愛そうな話だね……姉妹同士で戦うなんて……」
「うわ、すげー悪趣味だな、その錬金術師。俺だったら絶対ダッ……いや、えーと……妹と遊ばせたりとかするのによ」
途中からは一応聞いてたらしい修司の感想も貰えて少し満足そうな真次郎だったが、もう一人分の感想がまだなのを思い出し、ボーっとしている啓吾に感想を要求した。
「おい、貴様の感想がまだだが……どうした? ポケットをさぐったりして」
「(放送禁止)でも痒くなったか?」
修司を一発はっ倒してから啓吾は回答の代わりに一枚の紙を出した。
「いや、これなんだけどよ。いつのまにか俺のポケットに入ってたみたいなんだが」
啓吾がそう行って取り出したのは美しい模様が薄く施された一枚の紙だった。
「あれ、なんか書いてあるよ。そっちからみて裏側に」
『まきますか まきませんか
どちらかに丸をつけてどこかに置いておいて下さい
……人工精霊プワゾン』
どちらかに丸をつけてどこかに置いておいて下さい
……人工精霊プワゾン』
「……なんだこれは」
「いや、こっちが聞きたい」
真次郎が、まじまじと啓吾の取り出した紙を見つめていたが、直に突き返した。
「どうせ誰かのイタズラだろ。それかもしくは手癖のワルい一途な後輩のラブレターかもしれん」
「どこにポケットに意味のわからん文面のラブレターを紛れ込ませる後輩がいるんだ」
「もしかしたら学園際の企画かもよ。どうせだから印つけてみたら?」
天馬が勧めた。勿論彼にはなんとなく意外の何の意味もない。ホントになんとなくで言ったのだ。
そして迂闊にも啓吾は暑さでボーっとしてたこともあり、
「んー、そうだな。どうせ郵送するわけじゃねーし……」
特に何も考えずに適当なとこに丸をつけ、再びポケットにしまうことにした。その後はとりとめもない雑談が続き、それから解散ということになった。
「いや、こっちが聞きたい」
真次郎が、まじまじと啓吾の取り出した紙を見つめていたが、直に突き返した。
「どうせ誰かのイタズラだろ。それかもしくは手癖のワルい一途な後輩のラブレターかもしれん」
「どこにポケットに意味のわからん文面のラブレターを紛れ込ませる後輩がいるんだ」
「もしかしたら学園際の企画かもよ。どうせだから印つけてみたら?」
天馬が勧めた。勿論彼にはなんとなく意外の何の意味もない。ホントになんとなくで言ったのだ。
そして迂闊にも啓吾は暑さでボーっとしてたこともあり、
「んー、そうだな。どうせ郵送するわけじゃねーし……」
特に何も考えずに適当なとこに丸をつけ、再びポケットにしまうことにした。その後はとりとめもない雑談が続き、それから解散ということになった。
「ただいまー……おーい、尚吾? いないのかー?」
いつもなら尚吾が几帳面に迎えてくれて、煎餅でもさしだしてくれるハズなのだが今日は反応が全くない。しかし、鍵もかかっていたことだし本屋にでも行ってるのかもと特に気にすることなく自分の部屋へと向かった。
そして絶句した。
「……なんだ、こりゃ……?」
自分の部屋になかったハズのもの、それも気づかないような小物でなく、眠ったまま出陣したって間違いなくぶつかるという位置に巨大な宝石箱があったのだ。
はて、自分はこんなものを頼んだだろうか。確かに彼はたまにネットショッピングやオークションといったものを利用するから、送られた荷物を弟が部屋に運んだだけとも考えられる。にしたってこんなでかい宝石箱を頼んだ覚えはない。
「もしかしたら注文ミスかもな、あの時みたいに」
啓吾はあの時を思い出し一人でゲンナリした。ちなみにあの時というのはワケあって真っ二つになり物置の最奥で封印されているキノコのような物だけが知っているのだ。しかしこんなデカいとなると大金がかかっていそうな気もする。だけど、一度寝惚けながらメールで金額だけを確認した時はそんな大した金額でもなかったはずだった。
「注文ミスだったら送り返せるかもしれんしな……どれ、ちょっと中身を拝見してみるか」
ちょっとした好奇心から啓吾は宝石箱を開けた。
「……人形……か……うわ、よくできてるな」
啓吾の言葉通り、中に入っていたのは少女の人形だった。関節を見なかったら人間と勘違いする人すらいるだろう、そう思わせる程の精巧さだ。
「最近の人形ってのはこんなでかいのもあるのか……それにしてもこりゃ凄いな。あまりアイツにみられたくないが、ひょっとしたら十年くらいすればプレミアつくかもな」
ろくでもない物だったら送り返そうかと思っていた啓吾だったが、予想以上に珍しい中身に何度かへーとかほーを連発する。
それから少しして、箱の底の金色のネジ巻きに気づいた。さらに何となく背中に手を回した時にネジ穴らしき穴にも気づいたようだ。
「こいつを巻くのか? ってことはこれって動くのか。すげーな、最近の玩具の技術は」
何の躊躇いもなくネジを巻こうとする啓吾だったが、一瞬脳裏に昼間の真次郎の話が思い出された。
いつもなら尚吾が几帳面に迎えてくれて、煎餅でもさしだしてくれるハズなのだが今日は反応が全くない。しかし、鍵もかかっていたことだし本屋にでも行ってるのかもと特に気にすることなく自分の部屋へと向かった。
そして絶句した。
「……なんだ、こりゃ……?」
自分の部屋になかったハズのもの、それも気づかないような小物でなく、眠ったまま出陣したって間違いなくぶつかるという位置に巨大な宝石箱があったのだ。
はて、自分はこんなものを頼んだだろうか。確かに彼はたまにネットショッピングやオークションといったものを利用するから、送られた荷物を弟が部屋に運んだだけとも考えられる。にしたってこんなでかい宝石箱を頼んだ覚えはない。
「もしかしたら注文ミスかもな、あの時みたいに」
啓吾はあの時を思い出し一人でゲンナリした。ちなみにあの時というのはワケあって真っ二つになり物置の最奥で封印されているキノコのような物だけが知っているのだ。しかしこんなデカいとなると大金がかかっていそうな気もする。だけど、一度寝惚けながらメールで金額だけを確認した時はそんな大した金額でもなかったはずだった。
「注文ミスだったら送り返せるかもしれんしな……どれ、ちょっと中身を拝見してみるか」
ちょっとした好奇心から啓吾は宝石箱を開けた。
「……人形……か……うわ、よくできてるな」
啓吾の言葉通り、中に入っていたのは少女の人形だった。関節を見なかったら人間と勘違いする人すらいるだろう、そう思わせる程の精巧さだ。
「最近の人形ってのはこんなでかいのもあるのか……それにしてもこりゃ凄いな。あまりアイツにみられたくないが、ひょっとしたら十年くらいすればプレミアつくかもな」
ろくでもない物だったら送り返そうかと思っていた啓吾だったが、予想以上に珍しい中身に何度かへーとかほーを連発する。
それから少しして、箱の底の金色のネジ巻きに気づいた。さらに何となく背中に手を回した時にネジ穴らしき穴にも気づいたようだ。
「こいつを巻くのか? ってことはこれって動くのか。すげーな、最近の玩具の技術は」
何の躊躇いもなくネジを巻こうとする啓吾だったが、一瞬脳裏に昼間の真次郎の話が思い出された。
「『ジュエリーメイデン』ってのは中世ヨーロッパの錬金術師が作り上げた生きた人形と言われている――」
もしかすると、この人形がそれなのでは? けれどその考えはわりとあっさり捨てられた。
(んなファンタジーみたいなこと、あるわけねーよな)
そしてネジを巻き、床に寝かせた。このとき友人の話を信じておくべきたったのかもしれない。
(んなファンタジーみたいなこと、あるわけねーよな)
そしてネジを巻き、床に寝かせた。このとき友人の話を信じておくべきたったのかもしれない。
残念ながらそんなことあった。
「……あれ? これ、今動……!!」
今まで人形らしく微動だにしなかった人形が、突如音を立て始めたかと思うと、驚く啓吾の目の前でゆっくりと立ち上がり始めたのだ。
「ちょ、ウソぉぉぉぉぉぉぉぉ!? マジで!? あの話マジでぇぇぇぇぇぇ!?」
驚愕の余りオーバーに後ずさりまくって壁に後頭部を打ち付けて啓吾は悶えた。なんだか隣の弟の部屋も騒がしいような気がするがそんなことを気にしてられる状況じゃない。
そんな啓吾を気にもせず、いつのまにか床に立ち啓吾を見つめていた人形が口を開いた。
「おまえが、私のネジを巻いたか」
「しゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ」
啓吾はシャシャシャ星人になった。
「私のネジを巻いたかと聞いている」
啓吾がパニック真っ最中なのに気づいてないか、はたまたちっとも気にしてないのか、シャシャシャ星人に星籍を変えた啓吾に問答無用で人形が詰め寄った。
「人形が、喋ったぁ!?」
「巻いたのかと聞いてるんだ。答えないとぶっとばす」
一時は精神崩壊に逃げようかと思った啓吾だったが、人形のただならぬ気迫に無理矢理冷静を取り戻さざるを得なくなった。
とりあえず人形のぶっとばす宣言が実行に移されないうちに素早く深呼吸して気持ちを強引に落ち着ける。
「あ、ああ……ま、巻いたけど……悪かったか?」
「そうか、お前がわたしのマスターなのか」
結構まんざらでもなさそうな様子で人形がうんうんと頷いた。
「お前の名前は」
続いて人形が質問をぶつけた。遠慮は欠片も見当たらないようだ。
「……高崎啓吾」
文句を言うのをなんとかこらえた啓吾はそれだけを素早く告げた。
「そ、それよりお前は何なんだよ? もしかしてその、『宝石乙女』って奴じゃ……」
そう言いつつも啓吾の内心ではそうでないことを真摯に祈っていた。もしこの人形がそうだったということになればそれはすなわち、人形同士の争いとやらに自分も巻き込まれることになる。啓吾は心の中でひたすら祈った。運命の女神さまとかに必死に祈った。
でも女神さまは啓吾の方を振り向きもしてくれなかった。
「ごめいとう。わたしは宝石乙女(ジュエリーメイデン)の第8ドールの雲母だ」
雲母と名乗る人形は無い胸を張ってそう答えた。
そして、最後にこう一言付け加えた。
「まいったか」
一方啓吾は魂が抜けかかっていた。三途の川の向こうでお婆ちゃんが見えた。それでも啓吾はなんとか魂を取り戻したが、
「OK俺、落ち着いてタイムマシンを探すんだ」
精神が戻ってなかった。
「それでは啓吾。この指輪にくちづけしろ」
雲母は啓吾の精神を顔をつねることで乱暴に戻し、遠慮をかなぐり捨ててとんでもないことをのたまった。
「え……って何ぃぃ!? 何だよそれ!!」
「契約をする。お前がわたしのネジを巻いたからには契約をしなくてはならない」
「だ、誰がそんなことするかよ!! 俺にその手の趣味はねーっつーの!」
今度は問答無用のキックが入った。
「これはお前にとっても重要なことだ。契約しなかったりしたら……」
その時、実にタイミングが良いのか悪いのか、ドアが勢いよく開け放たれた。
「ひゃああああ!! ……あ、に、兄ちゃん!?」
「きゃああああ!! ……あれ、き……雲母ちゃん……」
転がりこんで来たのはいないと思われた弟と、さらにもう一体の人形だった。
「ウッシャアア!!! ウシウシウシィィィィ!!」
「キチチチチチチチチコココココココココ」
おまけに血気盛んなミノタウロスっぽい人形と首がとれてむっちゃ怖いクマに人形も飛来してきた。何だか……というかどうみても転がり込んだ二人を狙ってる。殺意マンマンだ。
「な、なんだよこれ……」
「わたしたちは姉妹同士で『アリス』になるために戦わなくてはならない。こいつらはその姉妹のだれかの使い魔のようなもの。きっと、そこの黒曜石というわたしの姉を狙いにきた。たぶんマスターと思われる少年もついでに狙われてる」
それから、雲母が啓吾の顔を見つめる。
「どうする。このままだとあの二人はやられるし、きっとわたしたちもやられるぞ」
啓吾に選択肢は残されていなかった。いや、あったとしても一つしか選ぼうとしなかっただろう。
状況は未だに把握しきれていない。だがこれだけは分かる。自分の大切な弟が襲われているということ、そして……
「分かったよ! ホラ、手を出せ!」
啓吾が雲母の指にはめられた指輪に唇をつけた。
「ないす」
指輪が輝き、二人を包みこんだ。
今まで人形らしく微動だにしなかった人形が、突如音を立て始めたかと思うと、驚く啓吾の目の前でゆっくりと立ち上がり始めたのだ。
「ちょ、ウソぉぉぉぉぉぉぉぉ!? マジで!? あの話マジでぇぇぇぇぇぇ!?」
驚愕の余りオーバーに後ずさりまくって壁に後頭部を打ち付けて啓吾は悶えた。なんだか隣の弟の部屋も騒がしいような気がするがそんなことを気にしてられる状況じゃない。
そんな啓吾を気にもせず、いつのまにか床に立ち啓吾を見つめていた人形が口を開いた。
「おまえが、私のネジを巻いたか」
「しゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ」
啓吾はシャシャシャ星人になった。
「私のネジを巻いたかと聞いている」
啓吾がパニック真っ最中なのに気づいてないか、はたまたちっとも気にしてないのか、シャシャシャ星人に星籍を変えた啓吾に問答無用で人形が詰め寄った。
「人形が、喋ったぁ!?」
「巻いたのかと聞いてるんだ。答えないとぶっとばす」
一時は精神崩壊に逃げようかと思った啓吾だったが、人形のただならぬ気迫に無理矢理冷静を取り戻さざるを得なくなった。
とりあえず人形のぶっとばす宣言が実行に移されないうちに素早く深呼吸して気持ちを強引に落ち着ける。
「あ、ああ……ま、巻いたけど……悪かったか?」
「そうか、お前がわたしのマスターなのか」
結構まんざらでもなさそうな様子で人形がうんうんと頷いた。
「お前の名前は」
続いて人形が質問をぶつけた。遠慮は欠片も見当たらないようだ。
「……高崎啓吾」
文句を言うのをなんとかこらえた啓吾はそれだけを素早く告げた。
「そ、それよりお前は何なんだよ? もしかしてその、『宝石乙女』って奴じゃ……」
そう言いつつも啓吾の内心ではそうでないことを真摯に祈っていた。もしこの人形がそうだったということになればそれはすなわち、人形同士の争いとやらに自分も巻き込まれることになる。啓吾は心の中でひたすら祈った。運命の女神さまとかに必死に祈った。
でも女神さまは啓吾の方を振り向きもしてくれなかった。
「ごめいとう。わたしは宝石乙女(ジュエリーメイデン)の第8ドールの雲母だ」
雲母と名乗る人形は無い胸を張ってそう答えた。
そして、最後にこう一言付け加えた。
「まいったか」
一方啓吾は魂が抜けかかっていた。三途の川の向こうでお婆ちゃんが見えた。それでも啓吾はなんとか魂を取り戻したが、
「OK俺、落ち着いてタイムマシンを探すんだ」
精神が戻ってなかった。
「それでは啓吾。この指輪にくちづけしろ」
雲母は啓吾の精神を顔をつねることで乱暴に戻し、遠慮をかなぐり捨ててとんでもないことをのたまった。
「え……って何ぃぃ!? 何だよそれ!!」
「契約をする。お前がわたしのネジを巻いたからには契約をしなくてはならない」
「だ、誰がそんなことするかよ!! 俺にその手の趣味はねーっつーの!」
今度は問答無用のキックが入った。
「これはお前にとっても重要なことだ。契約しなかったりしたら……」
その時、実にタイミングが良いのか悪いのか、ドアが勢いよく開け放たれた。
「ひゃああああ!! ……あ、に、兄ちゃん!?」
「きゃああああ!! ……あれ、き……雲母ちゃん……」
転がりこんで来たのはいないと思われた弟と、さらにもう一体の人形だった。
「ウッシャアア!!! ウシウシウシィィィィ!!」
「キチチチチチチチチコココココココココ」
おまけに血気盛んなミノタウロスっぽい人形と首がとれてむっちゃ怖いクマに人形も飛来してきた。何だか……というかどうみても転がり込んだ二人を狙ってる。殺意マンマンだ。
「な、なんだよこれ……」
「わたしたちは姉妹同士で『アリス』になるために戦わなくてはならない。こいつらはその姉妹のだれかの使い魔のようなもの。きっと、そこの黒曜石というわたしの姉を狙いにきた。たぶんマスターと思われる少年もついでに狙われてる」
それから、雲母が啓吾の顔を見つめる。
「どうする。このままだとあの二人はやられるし、きっとわたしたちもやられるぞ」
啓吾に選択肢は残されていなかった。いや、あったとしても一つしか選ぼうとしなかっただろう。
状況は未だに把握しきれていない。だがこれだけは分かる。自分の大切な弟が襲われているということ、そして……
「分かったよ! ホラ、手を出せ!」
啓吾が雲母の指にはめられた指輪に唇をつけた。
「ないす」
指輪が輝き、二人を包みこんだ。
「てて……何だ、指が熱っ……」
うぉっまぶしっな閃光に目が眩み、再び目を開いた啓吾は、とんでもないものを目撃した。ズバリ、雲母がいつのまにか手に持っていた鋸でクマーとミノタウロスを華麗に捌いてる光景であった。
「……強ぇーな……こいつ……」
啓吾はしみじみと呟いた。威勢がよかった割には、二対の人形はあっさりと機能を停止した。
「さてと」
鋸から、緑色の光球になったものが宝石箱に戻ったのを確認し、雲母は今度は部屋の隅で呆然としていた黒曜石と、少年こと尚吾の二人の方に向き直った。
「きぐうだな、黒曜石。まさか同じ家にくるとは思わなかった」
「う、うん……久しぶりだね、雲母ちゃん」
雲母は呆然する兄弟を無視って姉妹に挨拶をする。
「へぇー。黒曜石、この子ってキミの姉妹の?」。
「あ、そうなんですよ。先ほども説明した、私の姉妹の雲母です」
「よろしくね、雲母ちゃん。あ、僕尚吾っていうんだ」
しかも尚吾までがさっきとはうってかわってとんでもない早さで状況をあっさり把握し、平然とドールらと会話してのけた。
「よろしく。お前、こいつの弟なのか」
「うん。実はさっき黒曜石と契約してもあるから……黒曜石のマスターってことになるのかな、多分」
「知ってる。さっき入ってきた時に指輪をはめてるのをみた」
「あ、マスターのお兄さん……始めまして。私、宝石乙女の第五ドールで黒曜石っていいます」
「なんなんだこれドチクショーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
啓吾は叫んだ。いや、吠えた。全てのやるせない気持ちを詰め込んで吠えた。
うぉっまぶしっな閃光に目が眩み、再び目を開いた啓吾は、とんでもないものを目撃した。ズバリ、雲母がいつのまにか手に持っていた鋸でクマーとミノタウロスを華麗に捌いてる光景であった。
「……強ぇーな……こいつ……」
啓吾はしみじみと呟いた。威勢がよかった割には、二対の人形はあっさりと機能を停止した。
「さてと」
鋸から、緑色の光球になったものが宝石箱に戻ったのを確認し、雲母は今度は部屋の隅で呆然としていた黒曜石と、少年こと尚吾の二人の方に向き直った。
「きぐうだな、黒曜石。まさか同じ家にくるとは思わなかった」
「う、うん……久しぶりだね、雲母ちゃん」
雲母は呆然する兄弟を無視って姉妹に挨拶をする。
「へぇー。黒曜石、この子ってキミの姉妹の?」。
「あ、そうなんですよ。先ほども説明した、私の姉妹の雲母です」
「よろしくね、雲母ちゃん。あ、僕尚吾っていうんだ」
しかも尚吾までがさっきとはうってかわってとんでもない早さで状況をあっさり把握し、平然とドールらと会話してのけた。
「よろしく。お前、こいつの弟なのか」
「うん。実はさっき黒曜石と契約してもあるから……黒曜石のマスターってことになるのかな、多分」
「知ってる。さっき入ってきた時に指輪をはめてるのをみた」
「あ、マスターのお兄さん……始めまして。私、宝石乙女の第五ドールで黒曜石っていいます」
「なんなんだこれドチクショーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
啓吾は叫んだ。いや、吠えた。全てのやるせない気持ちを詰め込んで吠えた。
こうして高崎家に二体目のドールが来たのであったとさ。めでてぇめでてぇ。