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おべんと

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レ「お弁当?」
黒「はい、マスターがどうしても必要だというので」
レ「ずいぶんといっぱい買ったのね」
黒「マスターは男性ですから、これぐらい作らないと」
レ「ふーん……」

  それは寝耳に水というか何というか、とりあえず唐突だった。
主「弁当作れぇ?」
レ「そ、お弁当」
主「……お前さ、俺が朝どれだけ忙しいか分かって言ってるか?」
レ「寝癖頭も直す暇なく、朝食抜きでご出勤。原因はマスターの寝坊ってところ?」
  ……読まれてる。本当のことなだけあって言い返せないのが悔しい。
レ「別に仕事のある日じゃなくていいのよ。今週末ちょっと出かけるから」
主「休みぃ? なおさらやだよ、寝てたいし」
レ「休日は眠って過ごす、なんかおじさんみたい」
  こいつ、人に物頼む態度を知らないのか? そんなこと言われて弁当作る奴なんて普通いないぞ。
主「お前、普通頼みごとがあるときはだなぁ……」
レ「あぁ、作るときはマスターの好きな物で作ってね」
主「もっと礼儀を……は? 何で俺の好物なんだよ」
レ「別にいいでしょー。マスターの朝ご飯だって確保できるんだから」
  まぁ、それはそうなのだが。しかし、いつも俺の飯に文句つけるこの小娘がなぜ突然……もしかして何か嫌なこと企んでるのか? いや、さすがにそこまで性根の腐った奴ではない。それはさすがに分かる。
レ「健康的に新しい朝を過ごそうとか、思わないの?」
主「そうは言うがな、睡眠は大事なんだぞ」
レ「マスターは寝過ぎ。で、作ってくれるの? くれないの?」
  なんかお願いというより命令じゃないか、これ?
主「そんな言い方されて作ろうとか思う奴が――」
レ「……ダメ?」
  どーしてそういう男をくすぐるようなおねだり視線を送ってくるんだ?  つーかこうしてみるとベリルもなかなか可愛いな……って、何見とれてるんだ俺は!? 相手はあの毒舌娘だぞ!!
主「しゃーねぇなぁ、そこまで言うんだったら……」
レ「やった♪」
  って、俺何言ってるんだー! 口っ、勝手に動くな馬鹿野郎!!

  口が勝手にしてしまった約束を守る。なんか納得いかないが、ここで破ったらベリルに何を言われるか。
  という訳で土曜日。せっかくの休みに俺は早起きするハメになった。午前6時……ちくしょーっ、ねみぃよ!
レ「手が止まってるわよ?」
  ……こいつ、意外と早起き慣れてるタイプか。それだったら俺の代わりに飯作ってくれたって……。
レ「立ったまま寝ぼけてる?」
主「違うっつーに。それよりお前、早起き慣れてるんだな」
レ「うん」
  当然といわんばかりにうなずく。
主「それなら俺の代わりに飯作ってくれよ」
レ「ぅ……遠慮しておく」
  ん、なんだ今のぎこちない反応……あぁ、なるほど。
主「へぇ、そうか。遠慮しておくのかー。ふーん」
レ「な、何よぉ、いきなりニヤニヤして。気味悪い」
主「おっと、にやけてたか。これはすまないな、はっはっはー」
レ「……なーんかむかつく」

 小一時間経過。
主「おし、できた」
レ「お疲れさま。で、朝ご飯は?」
主「弁当の残り」
レ「手抜きだぁ」
主「お前がそうしとけばいいって言ったんじゃないか……」
  納得いかねぇ……今に始まったことではないけどさ。
レ「ん、まぁいいわ。それじゃああたし出かけてくるからー」
主「え? 飯いらないのか?」
レ「ちょっと急いでるから。じゃあいってきまーす」
  と、こちらを振り返りもせずに玄関に向かうベリル。そしてドアの閉じる音……何なんだよ、ホントに。

レ「……意外とマスターって、料理上手」
黒「そうですねぇ。私もちょっと勉強になります」
レ「何もお弁当にこんな手の込んだことしなくても……」
黒「それだけレッドベリルちゃんが大切なんですよ、きっと」
レ「そ、そんなこと無いもん。いっつもあの人文句ばかりだし」
黒「仲がいいんですね。じゃあ、そろそろ練習始めますか?」
レ「……内緒、だからね。誰にも」
黒「はい、分かりました。お互い美味しいお弁当作れるように、頑張りましょうね」
レ「……うん」

レ「ただいまー」
  夕刻ごろ、ベリルの声が玄関から聞こえる。
主「おぉ、おかえり。朝飯も食わずにご苦労なことだな」
レ「休日はもっと有意義に使わないと。マスターも見習ってよね」
主「はいはい」
  俺の横を通り過ぎ、飛んでくるのは相変わらずの毒舌。ま、いつものことだけどさ……。
レ「あ、マスター」
  と思ったら、突然改まってこちらに顔を向けてくる。
レ「……お弁当、美味しかった」
主「は? あぁ、そりゃどうも」
レ「……それだけ」
  何だ? いつもに増して変な奴だな。普段はわざわざそんなこと言わないくせに……ま、悪い気分ではないけどさ。
主「そっか。じゃあまた作ってやるよ、今度はお前の好物で」
レ「ふーん……期待しないで待ってる」
  口が悪いのは変わらず、まぁ相変わらずのベリル。だが、今日はなんだか嫌な気がしない。何でだろうな……ま、いっか。減るモンじゃないし。
レ「……いつか追い越すんだから」

主「なんか言ったか?」
レ「べ、別にー」

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