――それは、夜に輝く月のよう。
しかしその月は空には浮かばない。一人の女性が持つには、あまりにも大きな月。
――それは、諸刃の三日月のよう。
守人の証。一人の女性が持つには、あまりにも大きな使命。
だが、彼女はそれを受け入れた、一生の生き甲斐として。
しかしその月は空には浮かばない。一人の女性が持つには、あまりにも大きな月。
――それは、諸刃の三日月のよう。
守人の証。一人の女性が持つには、あまりにも大きな使命。
だが、彼女はそれを受け入れた、一生の生き甲斐として。
「なーに考えてるんだ?」
と、ぼんやりしているお姉さんに一言。
「……あら、どうかなされましたか?」
「いや、俺に尋ねられてもね……ペリドット、なんかぼんやりしてたから」
まぁ、今日はいい天気だしな。こんなに窓から日が差し込んでいれば、陽気で眠気を誘われても当然か。
「そうでしたか。でも大丈夫です、今晩のおかずを考えていただけですから」
「おかずですか、今から」
「はい、おかずです。台所に立つ役目を負うに当たっての、最大のお悩みです」
なんだか主婦的な発言だなぁ、それ。なんだか近所のおばちゃんみたいに見えてきた。でもまぁ、確かにおかずは重要だ……って、いつもいつも頼んでばかりじゃアレだな。
「なぁ、たまには外食しないか? うまいレストランの話を聞いたんだけど」
「まあ、珍しいですね。マスターからお誘いなんて」
「いつもいつも作ってもらってばかりじゃ悪いからな」
「それなら、私はマスターの料理が食べてみたいんですけどね。ふふふ」
「意地悪言うねぇ。俺が料理できないこと知ってるくせに」
「おばちゃんとか思ったマスターだって、充分意地悪ですよ」
……なるほど、俺の考えはお見通しですか。ま、ペリドットの勘が鋭すぎるのは今に始まったことじゃないから。
「で、そのお誘いは受けてくれるのか?」
「もちろんですよ。マスターとのお出かけなんて、初めてなんですから」
「……初めて、か。そうだな、うん」
と、ぼんやりしているお姉さんに一言。
「……あら、どうかなされましたか?」
「いや、俺に尋ねられてもね……ペリドット、なんかぼんやりしてたから」
まぁ、今日はいい天気だしな。こんなに窓から日が差し込んでいれば、陽気で眠気を誘われても当然か。
「そうでしたか。でも大丈夫です、今晩のおかずを考えていただけですから」
「おかずですか、今から」
「はい、おかずです。台所に立つ役目を負うに当たっての、最大のお悩みです」
なんだか主婦的な発言だなぁ、それ。なんだか近所のおばちゃんみたいに見えてきた。でもまぁ、確かにおかずは重要だ……って、いつもいつも頼んでばかりじゃアレだな。
「なぁ、たまには外食しないか? うまいレストランの話を聞いたんだけど」
「まあ、珍しいですね。マスターからお誘いなんて」
「いつもいつも作ってもらってばかりじゃ悪いからな」
「それなら、私はマスターの料理が食べてみたいんですけどね。ふふふ」
「意地悪言うねぇ。俺が料理できないこと知ってるくせに」
「おばちゃんとか思ったマスターだって、充分意地悪ですよ」
……なるほど、俺の考えはお見通しですか。ま、ペリドットの勘が鋭すぎるのは今に始まったことじゃないから。
「で、そのお誘いは受けてくれるのか?」
「もちろんですよ。マスターとのお出かけなんて、初めてなんですから」
「……初めて、か。そうだな、うん」
ペリドット……彼女がうちに来て、もうすぐ半年になる。宝石乙女という人形だというのが彼女の説明だったが、正直今でも人形とは信じがたい。
身の回りの世話をしてくれるし、人間と変わらぬ会話だってできる……分からないことだらけだ、彼女は。
「本格的なイタリア料理なんて初めて食べましたけど、魚介類が多いところは日本食みたいでしたね」
「そうだな、向こうは日本に似て海産物多く食べるからなぁ。ちょっと行ってみたかったりする」
他愛のない会話でも、ペリドットはいつも楽しそうに聞いて、話を合わせてくれる。でも、自分のことはあまり話さない。だから彼女がどういう半生を送ってきたのか、全く知らない。知っているのは趣味や特技といった他愛のないもの。
「今日は天気がいいですね」
満月の浮かぶ空。そういえば、ペリドットは夜空を見上げていることが多い。
「うさぎさんは見えますか?」
「んー、俺には見えないな。ペリドットは?」
「私にも見えません。目が悪いですから」
会話の内容と同じ、どこか子供っぽい笑みを浮かべる。しかし目が悪いとは、眼鏡をかけているのは飾りではないということか。創造主はまた手の込んだことをしたものだ。
「月、好きなのか?」
先ほど浮かんだ疑問をそのまま言葉にする。
「月ですか。そうですねぇ、満月……は、好きです。狼男さんも出ますよ」
「ど、どういう例えだよ」
「ふふふ、怖いですか?」
「そんなわけないだろ……」
デコピンを一つ、もちろん軽く。
「ひゃっ。もう、女性にそういうことはめっ。いつも言ってるじゃないですか」
身の回りの世話をしてくれるし、人間と変わらぬ会話だってできる……分からないことだらけだ、彼女は。
「本格的なイタリア料理なんて初めて食べましたけど、魚介類が多いところは日本食みたいでしたね」
「そうだな、向こうは日本に似て海産物多く食べるからなぁ。ちょっと行ってみたかったりする」
他愛のない会話でも、ペリドットはいつも楽しそうに聞いて、話を合わせてくれる。でも、自分のことはあまり話さない。だから彼女がどういう半生を送ってきたのか、全く知らない。知っているのは趣味や特技といった他愛のないもの。
「今日は天気がいいですね」
満月の浮かぶ空。そういえば、ペリドットは夜空を見上げていることが多い。
「うさぎさんは見えますか?」
「んー、俺には見えないな。ペリドットは?」
「私にも見えません。目が悪いですから」
会話の内容と同じ、どこか子供っぽい笑みを浮かべる。しかし目が悪いとは、眼鏡をかけているのは飾りではないということか。創造主はまた手の込んだことをしたものだ。
「月、好きなのか?」
先ほど浮かんだ疑問をそのまま言葉にする。
「月ですか。そうですねぇ、満月……は、好きです。狼男さんも出ますよ」
「ど、どういう例えだよ」
「ふふふ、怖いですか?」
「そんなわけないだろ……」
デコピンを一つ、もちろん軽く。
「ひゃっ。もう、女性にそういうことはめっ。いつも言ってるじゃないですか」
「子供扱いするなっ」
確かに俺の方が年下なのは認める。だが『めっ』はないだろ。何というか、俺の扱いはいつもこんな感じ。くそっ、なんか悔しい。
……でも、笑顔でこちらを見られると結局文句は言えなくなるわけで。
「ったく。ほら、寒いから早く帰ろう」
「それなら、手を繋いでみてはどうでしょうか」
「……まぁ、それぐらいなら」
差し出された右手を、俺の左手で包む。細い指が、俺の手にしっかりと絡んでくる。
「……暖かい、な」
「はい」
「……帰るか」
言葉数の少なくなった俺を、ペリドットは笑顔で見つめている。好きだと言った満月ではなく、ただ俺の顔を……。
「……恥ずかしいから、あまり見るなよ」
「たまにはいいじゃないですか」
きっと、照れている俺の顔が可愛いとか、そんなことを思っているに違いない。
……俺は、ペリドットに一人前の男と認められることができるのだろうか。ま、考えても仕方ないけどさ。時間もあるんだし、のんびり行こう。
「ずいぶんとゆっくりな歩調ですね」
「今日はそういう気分だ」
「さっきは早く帰ろうと言いましたよ?」
「そういう気分なんだっつーの!」
確かに俺の方が年下なのは認める。だが『めっ』はないだろ。何というか、俺の扱いはいつもこんな感じ。くそっ、なんか悔しい。
……でも、笑顔でこちらを見られると結局文句は言えなくなるわけで。
「ったく。ほら、寒いから早く帰ろう」
「それなら、手を繋いでみてはどうでしょうか」
「……まぁ、それぐらいなら」
差し出された右手を、俺の左手で包む。細い指が、俺の手にしっかりと絡んでくる。
「……暖かい、な」
「はい」
「……帰るか」
言葉数の少なくなった俺を、ペリドットは笑顔で見つめている。好きだと言った満月ではなく、ただ俺の顔を……。
「……恥ずかしいから、あまり見るなよ」
「たまにはいいじゃないですか」
きっと、照れている俺の顔が可愛いとか、そんなことを思っているに違いない。
……俺は、ペリドットに一人前の男と認められることができるのだろうか。ま、考えても仕方ないけどさ。時間もあるんだし、のんびり行こう。
「ずいぶんとゆっくりな歩調ですね」
「今日はそういう気分だ」
「さっきは早く帰ろうと言いましたよ?」
「そういう気分なんだっつーの!」
――それは、兎のいない冷たい月のよう。
そこにあるのは生ではなく、死。
――それは、死神の棲む月のよう。
願わくば、思い人と手を繋ぐ幸福が続く生を。
願わくば、この月が永遠に昇らぬことを。
そこにあるのは生ではなく、死。
――それは、死神の棲む月のよう。
願わくば、思い人と手を繋ぐ幸福が続く生を。
願わくば、この月が永遠に昇らぬことを。
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