私はドジ。自分でもよく分かっている。いくら気をつけても治らないほどに。
お皿を割った回数なら他の子達に比べて特に多いと思う。いや、多分確実。
だから、よく怒られた。マスターによっては、殴られたりも……。
……お手伝いをするのが、本当は怖かった。
このまま姉様達みたく誰にも仕えずに、自由な生活を送りたいとも思ってる。
でも、私にはまだその権利はないから……。
お皿を割った回数なら他の子達に比べて特に多いと思う。いや、多分確実。
だから、よく怒られた。マスターによっては、殴られたりも……。
……お手伝いをするのが、本当は怖かった。
このまま姉様達みたく誰にも仕えずに、自由な生活を送りたいとも思ってる。
でも、私にはまだその権利はないから……。
だから、どうせなら目覚めたくない……このまま、ずっと眠っていたい……。
◆
92年と4ヶ月、21日ぶりに目を覚ましたのは、誰もいない狭い部屋の中だった。
見慣れない内装、テーブルらしきものに置いてあったご飯。あのときのご飯はとても美味しかった。
そして、どこからか聞こえる水の音。雨の音もあったけど、それとは違う……シャワーの音。
私の螺旋を回した人は、入浴中だった。
見慣れない内装、テーブルらしきものに置いてあったご飯。あのときのご飯はとても美味しかった。
そして、どこからか聞こえる水の音。雨の音もあったけど、それとは違う……シャワーの音。
私の螺旋を回した人は、入浴中だった。
「つまり、蛋白石ちゃんはずっと人に仕えて生きてきた……ってこと?」
テーブルを挟み、私の前に座っている人。
小柄な体、湿った髪、男の人なのに女の子みたいな顔。
第一印象は、優しそうな人……でも、それが違ったこともよくある。
……この人に、わずかな恐怖を感じていた。
「はい。それが私達宝石乙女に課せられた使命ですから」
「そうなんだ……じゃあ、僕よりずっと年上なんだ」
螺旋を回してくれた人が、苦笑を浮かべている。
「それにしても、人形かぁ……でもご飯は食べるんだよね」
「はい」
「……あ、あまり贅沢は出来ないよ? 僕お金持ちじゃないから」
「大丈夫です。私も色々お手伝いしますから」
本当は、お手伝いなんてしたくない。
また怒られて、痛いこともされて……私が悪いのは分かっているけれど、それでも……。
「そっか。ま、まぁ……僕が君を動かしちゃったことだし、ちゃんと責任は取るよ」
そう言って、困った顔で笑う……私の新しいマスター。
テーブルを挟み、私の前に座っている人。
小柄な体、湿った髪、男の人なのに女の子みたいな顔。
第一印象は、優しそうな人……でも、それが違ったこともよくある。
……この人に、わずかな恐怖を感じていた。
「はい。それが私達宝石乙女に課せられた使命ですから」
「そうなんだ……じゃあ、僕よりずっと年上なんだ」
螺旋を回してくれた人が、苦笑を浮かべている。
「それにしても、人形かぁ……でもご飯は食べるんだよね」
「はい」
「……あ、あまり贅沢は出来ないよ? 僕お金持ちじゃないから」
「大丈夫です。私も色々お手伝いしますから」
本当は、お手伝いなんてしたくない。
また怒られて、痛いこともされて……私が悪いのは分かっているけれど、それでも……。
「そっか。ま、まぁ……僕が君を動かしちゃったことだし、ちゃんと責任は取るよ」
そう言って、困った顔で笑う……私の新しいマスター。
早速、試練はやってきた。
「じゃあ、このお皿をテーブルに持って行ってくれるかな」
食器かごから、大きな皿を一枚取り出し、私に手渡してくる。
一瞬言い訳でもして逃げようかとも思った……けど、それは私達の使命に反すること。
――いつも我慢してやってきたこと。きっと気をつければ大丈夫。
今まで、何度自分に言いつけてきただろうか。
「はい」
ためらうのをやめて、マスターからお皿を受け取る。
真っ白の大きなお皿。床に落とせば、すぐに割れてしまう。
「今日は久々にたくさんおかず作ったから、その皿使うのも久しぶりだよ」
お鍋の中をお玉でかき混ぜながら、マスターは嬉しそうな顔を浮かべている。
人形が動くというだけでも、普通の人は驚くのに……どうしてこんなにのんきで
いられるのだろう。
不思議な人……でも、作っているご飯はいい匂いだった。
「あっ」
……雑念を抱きすぎた。
私の足は見事に段差で躓き、お皿は手から宙に飛んでいく。
――カシャンと、乾いた音。
お皿は、畳の上でバラバラに割れていた。
「あ、う……」
私はどんな顔をしていただろうか。
顔の熱が引き、青ざめていたのか。それとも涙目で震えていたのか。
どちらにしろ、出会って1日目でやってしまった……。
「蛋白石ちゃんっ」
また、怒られる。
跪いたまま、強く目を瞑る。
怒鳴られるか、殴られるか……。
「大丈夫? どこか怪我とかしてない?」
……マスターの手は、私の肩に置かれていた。
怪我? 傷つくことはあっても、私達は血が流れていない。痛みはあっても、
たいしたことはない。
「あ、指先切れてるね。待ってて、絆創膏持ってくるから」
状況が掴めなかった。
マスターが何をしているのか、全く分からない。
私はいつも通りドジをして、またお皿を割ってしまって……。
この後は、怒られるか殴られるか……そのはずなのに。
「はい、これ……って、絆創膏なんて分からないよね。貼ってあげるよ」
私の手に、暖かい感触が伝わる。
そして、傷ついた指に巻かれる不思議な物。柔らかい感触。
「よしっと。じゃあ破片は僕が集めておくから、蛋白石ちゃんはゴミ箱取ってきてくれないかな」
「え、あ……あの……」
「ん、ゴミ箱は向こうだけど?」
どうしてだろう。
この人は怖い顔一つ浮かべずに、床に落ちたお皿の破片を注意して集めて。
いつも私がやっていたことを、どうして彼がしているのだろう。
「……わ、私が一人で、やりますから」
「いいんだよ。蛋白石ちゃん、指怪我してるし」
「でも、こんなかすり傷で……」
「そうかも知れないけど、少しでも痛いのは嫌でしょ?」
そう言うマスターの顔は、とても優しい笑顔。
そして、大切なことを思い出す……。
「……ごめんなさい。お、お皿……割っちゃって」
私の謝罪を聞いて、今度は苦笑いを浮かべるマスター。
「気にしなくていいよ、どうせ安物だし。それに僕も時々やっちゃうんだよね」
「はぁ……」
「そこの段差、ちょっと危ないよね。今度何とかしないとなぁ……」
破片を集めながら、困ったようにつぶやく。
私に怒鳴ることもなく、ただ困った顔で……。
「……怒らないんですか、お皿を割ったこと」
「怒る……そういうの苦手だからさ。それに僕だってきっと蛋白石ちゃんの前で
やっちゃいそうだし、それで怒るなんてねぇ」
「でも……」
「あと、ちゃんと謝ってくれたから。それで十分だよ。だから気にしないで?」
……こんなに、安心した気持ちになったのはいつぶりだろう。
全身の力が抜けて、手の震えがが止まって。
そして……。
「え、蛋白石ちゃんっ。どうしたの?」
「何でも、何でもないです……うっ」
なぜか、涙が止まらなかった。
こんなに安心してるのに、怒られた後より涙が出てきて。
「あ、あの、その……僕、なんか悪いこと言ったかな?」
また、あの困った顔を浮かべるマスター。
その問いに、声の出せない私はただ首を振ることしか出来なかった。
「じゃあ、このお皿をテーブルに持って行ってくれるかな」
食器かごから、大きな皿を一枚取り出し、私に手渡してくる。
一瞬言い訳でもして逃げようかとも思った……けど、それは私達の使命に反すること。
――いつも我慢してやってきたこと。きっと気をつければ大丈夫。
今まで、何度自分に言いつけてきただろうか。
「はい」
ためらうのをやめて、マスターからお皿を受け取る。
真っ白の大きなお皿。床に落とせば、すぐに割れてしまう。
「今日は久々にたくさんおかず作ったから、その皿使うのも久しぶりだよ」
お鍋の中をお玉でかき混ぜながら、マスターは嬉しそうな顔を浮かべている。
人形が動くというだけでも、普通の人は驚くのに……どうしてこんなにのんきで
いられるのだろう。
不思議な人……でも、作っているご飯はいい匂いだった。
「あっ」
……雑念を抱きすぎた。
私の足は見事に段差で躓き、お皿は手から宙に飛んでいく。
――カシャンと、乾いた音。
お皿は、畳の上でバラバラに割れていた。
「あ、う……」
私はどんな顔をしていただろうか。
顔の熱が引き、青ざめていたのか。それとも涙目で震えていたのか。
どちらにしろ、出会って1日目でやってしまった……。
「蛋白石ちゃんっ」
また、怒られる。
跪いたまま、強く目を瞑る。
怒鳴られるか、殴られるか……。
「大丈夫? どこか怪我とかしてない?」
……マスターの手は、私の肩に置かれていた。
怪我? 傷つくことはあっても、私達は血が流れていない。痛みはあっても、
たいしたことはない。
「あ、指先切れてるね。待ってて、絆創膏持ってくるから」
状況が掴めなかった。
マスターが何をしているのか、全く分からない。
私はいつも通りドジをして、またお皿を割ってしまって……。
この後は、怒られるか殴られるか……そのはずなのに。
「はい、これ……って、絆創膏なんて分からないよね。貼ってあげるよ」
私の手に、暖かい感触が伝わる。
そして、傷ついた指に巻かれる不思議な物。柔らかい感触。
「よしっと。じゃあ破片は僕が集めておくから、蛋白石ちゃんはゴミ箱取ってきてくれないかな」
「え、あ……あの……」
「ん、ゴミ箱は向こうだけど?」
どうしてだろう。
この人は怖い顔一つ浮かべずに、床に落ちたお皿の破片を注意して集めて。
いつも私がやっていたことを、どうして彼がしているのだろう。
「……わ、私が一人で、やりますから」
「いいんだよ。蛋白石ちゃん、指怪我してるし」
「でも、こんなかすり傷で……」
「そうかも知れないけど、少しでも痛いのは嫌でしょ?」
そう言うマスターの顔は、とても優しい笑顔。
そして、大切なことを思い出す……。
「……ごめんなさい。お、お皿……割っちゃって」
私の謝罪を聞いて、今度は苦笑いを浮かべるマスター。
「気にしなくていいよ、どうせ安物だし。それに僕も時々やっちゃうんだよね」
「はぁ……」
「そこの段差、ちょっと危ないよね。今度何とかしないとなぁ……」
破片を集めながら、困ったようにつぶやく。
私に怒鳴ることもなく、ただ困った顔で……。
「……怒らないんですか、お皿を割ったこと」
「怒る……そういうの苦手だからさ。それに僕だってきっと蛋白石ちゃんの前で
やっちゃいそうだし、それで怒るなんてねぇ」
「でも……」
「あと、ちゃんと謝ってくれたから。それで十分だよ。だから気にしないで?」
……こんなに、安心した気持ちになったのはいつぶりだろう。
全身の力が抜けて、手の震えがが止まって。
そして……。
「え、蛋白石ちゃんっ。どうしたの?」
「何でも、何でもないです……うっ」
なぜか、涙が止まらなかった。
こんなに安心してるのに、怒られた後より涙が出てきて。
「あ、あの、その……僕、なんか悪いこと言ったかな?」
また、あの困った顔を浮かべるマスター。
その問いに、声の出せない私はただ首を振ることしか出来なかった。
◇
昨日は本当に大変だった。
突然現れた、宝石乙女の蛋白石ちゃんと同棲することになったり、
その子がいきなり泣き出したり……。
何とか泣きやんでくれたけど、涙目でご飯を食べる姿はちょっと
可愛かったかも知れない。
……さて、朝だ。先日まで降り続きだった雨が、今日はすっかりやんでいる。
「ご主人様っ」
ふすまの開く音と同時に、明るい声が耳に入ってくる。
そして……。
「あっさですよーっ」
「あうっ!」
布団の上から抱きつかれる感触。
大きな胸が体に当たって……うぅ、何なんだ?
「ご主人様、朝ですよー。起きましょうっ」
「う、うん……て、ご主人様?」
「はいっ」
昨日のよそよそしさとは打って変わって、人なつっこい笑顔を向けてくる
蛋白石ちゃん。
……で、ご主人様? それはちょっと恥ずかしい呼び方な気も……。
「た、蛋白石ちゃん……そのご主人様って呼び方は、ちょっと……」
「ご主人様ー、ちゃん付けじゃなく呼び捨てでいいですよ」
「え、そ、そう……でもご主人様っていうのは、ちょっと恥ずかしい……」
「え? じゃあ……旦那様?」
「もっと恥ずかしいからっ」
何なんだろう、このやりとりは。
でも、これぐらい明るい方が僕も接しやすい。
「えーっと……んー、日本語まだ慣れてないから難しいです」
「そ、それなら慣れてる言葉でいいから……」
「じゃあご主人様っ」
「結局そこに落ち着くの!?」
……この子は、どうしても僕をご主人様と呼びたいのか。
「はいっ、ご主人様は、私にとって初めてのご主人様ですからー」
そう言って、明るい笑顔を浮かべる蛋白石ちゃん。
言葉の意味はよく分からなかったけど……とりあえず、これからは
にぎやかになりそうだ。
突然現れた、宝石乙女の蛋白石ちゃんと同棲することになったり、
その子がいきなり泣き出したり……。
何とか泣きやんでくれたけど、涙目でご飯を食べる姿はちょっと
可愛かったかも知れない。
……さて、朝だ。先日まで降り続きだった雨が、今日はすっかりやんでいる。
「ご主人様っ」
ふすまの開く音と同時に、明るい声が耳に入ってくる。
そして……。
「あっさですよーっ」
「あうっ!」
布団の上から抱きつかれる感触。
大きな胸が体に当たって……うぅ、何なんだ?
「ご主人様、朝ですよー。起きましょうっ」
「う、うん……て、ご主人様?」
「はいっ」
昨日のよそよそしさとは打って変わって、人なつっこい笑顔を向けてくる
蛋白石ちゃん。
……で、ご主人様? それはちょっと恥ずかしい呼び方な気も……。
「た、蛋白石ちゃん……そのご主人様って呼び方は、ちょっと……」
「ご主人様ー、ちゃん付けじゃなく呼び捨てでいいですよ」
「え、そ、そう……でもご主人様っていうのは、ちょっと恥ずかしい……」
「え? じゃあ……旦那様?」
「もっと恥ずかしいからっ」
何なんだろう、このやりとりは。
でも、これぐらい明るい方が僕も接しやすい。
「えーっと……んー、日本語まだ慣れてないから難しいです」
「そ、それなら慣れてる言葉でいいから……」
「じゃあご主人様っ」
「結局そこに落ち着くの!?」
……この子は、どうしても僕をご主人様と呼びたいのか。
「はいっ、ご主人様は、私にとって初めてのご主人様ですからー」
そう言って、明るい笑顔を浮かべる蛋白石ちゃん。
言葉の意味はよく分からなかったけど……とりあえず、これからは
にぎやかになりそうだ。