私の名前は鉄鉱石。
根無し草の風来坊だ。
マスターは居るには居たが今は居ない。
だから西へ東へ風の向くままに進んでいる。
こんな生活をしていると、他の者に寂しくないかと問われることは多々あるが、寂しいとは特に思わない。
自ら望んでマスターをつくらずにいるようなものなのだから。
根無し草の風来坊だ。
マスターは居るには居たが今は居ない。
だから西へ東へ風の向くままに進んでいる。
こんな生活をしていると、他の者に寂しくないかと問われることは多々あるが、寂しいとは特に思わない。
自ら望んでマスターをつくらずにいるようなものなのだから。
残滓
小鳥がさえずり、柔らかな日差しが差し込む。
良い朝だ。
「マスター、そろそろ起きたらいかがかな」
幸せそうに眠っているマスターに声を掛ける。
「ん……あぁ、もうそんな時間か」
左手で頭をかき、右手で目を擦りながらマスターは体を起こした。
「おはようマスター」
「おはよう、鉄鉱石」
「食事の用意は済んでいるよ。 すぐに来てくれ、冷めてしまうのでね」
「分かったよ。 それにしても、鉄鉱石は早起きだねぇ」
そう言うと、マスターはにこやかに微笑んだ。
「マスターが寝ぼすけなだけだと思うがね」
言葉尻が冷たくなり過ぎないように軽く微笑みながらそう返す。
「あはは、まいったね」
彼は先ほどとは大して変わらない、眉毛だけがハの字になった表情をした。
普通の微笑みより、そっちの微笑みの方が似合っているのだから困ったものだ。
良い朝だ。
「マスター、そろそろ起きたらいかがかな」
幸せそうに眠っているマスターに声を掛ける。
「ん……あぁ、もうそんな時間か」
左手で頭をかき、右手で目を擦りながらマスターは体を起こした。
「おはようマスター」
「おはよう、鉄鉱石」
「食事の用意は済んでいるよ。 すぐに来てくれ、冷めてしまうのでね」
「分かったよ。 それにしても、鉄鉱石は早起きだねぇ」
そう言うと、マスターはにこやかに微笑んだ。
「マスターが寝ぼすけなだけだと思うがね」
言葉尻が冷たくなり過ぎないように軽く微笑みながらそう返す。
「あはは、まいったね」
彼は先ほどとは大して変わらない、眉毛だけがハの字になった表情をした。
普通の微笑みより、そっちの微笑みの方が似合っているのだから困ったものだ。
私はマスターより一足先に部屋を出て、食卓に着いた。
少し経った後、着替えを済ませたマスターが顔を出した……いまだ眠そうな顔を浮かべながら。
「……マスター、先に顔を洗ってきてはどうかな」
「ん……そうするよ」
そう言うなり、マスターはのんべんだらりとした歩調で洗面所に向かった。
全く、毎朝こうなのだから。
偶にはすっきりと起きられないものかね。
少し経った後、着替えを済ませたマスターが顔を出した……いまだ眠そうな顔を浮かべながら。
「……マスター、先に顔を洗ってきてはどうかな」
「ん……そうするよ」
そう言うなり、マスターはのんべんだらりとした歩調で洗面所に向かった。
全く、毎朝こうなのだから。
偶にはすっきりと起きられないものかね。
…
……
………遅すぎる。
ただ顔を洗うにしてはあまりにも遅すぎる。
毎朝そうであるのだが、仕方が無いので様子を見に行く。
予想通り、いつも通り、洗面台に突っ伏してマスターはまどろんでいた。
「マスター、そこは寝るところではないよ」
私が言い終わるや否やマスターはガバリと体を起こした。
「あぁ、ここで眠るとそのまま起きられなさそうだねぇ」
「全くだ。 毎朝のことながら、マスターには感心させられるよ」
「ははは、まいったね、どうも」
毎朝そうであるのだが、仕方が無いので様子を見に行く。
予想通り、いつも通り、洗面台に突っ伏してマスターはまどろんでいた。
「マスター、そこは寝るところではないよ」
私が言い終わるや否やマスターはガバリと体を起こした。
「あぁ、ここで眠るとそのまま起きられなさそうだねぇ」
「全くだ。 毎朝のことながら、マスターには感心させられるよ」
「ははは、まいったね、どうも」
折角の食事も少し冷めてしまったが、いつも通りのことだ。
最早気にならない。
今朝も恙無く食事が始められる。
「いただきます」
「いただきます」
私とマスターは同時に食事を始める。
特にこれといった意味は無いのだが、初めて食事を共にした時からそうなので、なぜだかそういう習慣となってしまっている。
「ん~、いつもながら鉄鉱石の作る食事は美味しいな」
「お褒めに預かり光栄だね」
やはり作った料理を美味しいといわれるのは嬉しい。
それがマスターならば尚更だ。
……表に出すのは少々苦手だが。
「けど毎朝毎朝作ってもらうのは申し訳ないなぁ、今度は僕が作ろうか」
その言葉に思わずクスリと笑ってしまう。
「マスター、その言葉が何度目か覚えているかい?」
「む……まいったね、どうも」
そういうとマスターは恥ずかしそうに頭をかきながら微笑んだ。
最早気にならない。
今朝も恙無く食事が始められる。
「いただきます」
「いただきます」
私とマスターは同時に食事を始める。
特にこれといった意味は無いのだが、初めて食事を共にした時からそうなので、なぜだかそういう習慣となってしまっている。
「ん~、いつもながら鉄鉱石の作る食事は美味しいな」
「お褒めに預かり光栄だね」
やはり作った料理を美味しいといわれるのは嬉しい。
それがマスターならば尚更だ。
……表に出すのは少々苦手だが。
「けど毎朝毎朝作ってもらうのは申し訳ないなぁ、今度は僕が作ろうか」
その言葉に思わずクスリと笑ってしまう。
「マスター、その言葉が何度目か覚えているかい?」
「む……まいったね、どうも」
そういうとマスターは恥ずかしそうに頭をかきながら微笑んだ。
その日の午後、マスターに一通の封筒が届いた。
なんだろう、とマスターは首をかしげ疑問に思いながらも封を切った。
開けて早々、マスターは頭をかき 「やれやれ、まいったね、どうも」 とぼやいた。
「一体なんて書いてあったんだい、マスター」
普段はあまり見せない反応に興味を抱いた私はそう問うていた。
「あぁ、大したことじゃない。 けど、何日……もしかしたら何週間、何ヶ月になるかもしれないけど、僕は家を空けなくてはならなくなってしまったよ。
というわけだ、悪いけど鉄鉱石、留守番を頼まれてくれるかい?」
そんなことを聞かれると断るわけにもいくまいて。
それに、マスターはどんな無茶と思えた約束も今まで一つも破っては来なかったからね。
「お安い御用だ、いつまでも待っていよう」
なんだろう、とマスターは首をかしげ疑問に思いながらも封を切った。
開けて早々、マスターは頭をかき 「やれやれ、まいったね、どうも」 とぼやいた。
「一体なんて書いてあったんだい、マスター」
普段はあまり見せない反応に興味を抱いた私はそう問うていた。
「あぁ、大したことじゃない。 けど、何日……もしかしたら何週間、何ヶ月になるかもしれないけど、僕は家を空けなくてはならなくなってしまったよ。
というわけだ、悪いけど鉄鉱石、留守番を頼まれてくれるかい?」
そんなことを聞かれると断るわけにもいくまいて。
それに、マスターはどんな無茶と思えた約束も今まで一つも破っては来なかったからね。
「お安い御用だ、いつまでも待っていよう」
なに、そのあとマスターはどうなったかって?
息災で帰って来たよ。 言っただろう、約束を今まで一つも破ってこなかったって。
どうなったかを強いてあげるなら、天寿を全うしたよ。
それで終わりかって?
終わりといえば終わりなのだけれど、今際の時にマスターは言葉を残してくれたよ。
今でもその言葉は心に残っている。
どんな言葉かって?
あっさり言うのも憚れるが、まぁ君になら良いだろう。
マスターは私に……
息災で帰って来たよ。 言っただろう、約束を今まで一つも破ってこなかったって。
どうなったかを強いてあげるなら、天寿を全うしたよ。
それで終わりかって?
終わりといえば終わりなのだけれど、今際の時にマスターは言葉を残してくれたよ。
今でもその言葉は心に残っている。
どんな言葉かって?
あっさり言うのも憚れるが、まぁ君になら良いだろう。
マスターは私に……
そこで目が覚めた。
全く、何て夢を見るのかね、私は。
全く、何て夢を見るのかね、私は。
――私の名前は鉄鉱石。
マスターのことを人に話すこと自体ありえないと言っていいのに、ましてやあの言葉まで言わんとするとは……。
――根無し草の風来坊だ。
夢の中であっても嫌というものだ。
――マスターは居るには居たが今は居ない。
あの時の話は誰にも言うまいと決めた。
――だから西へ東へ風の向くままに進んでいる。
あの時の言葉は誰にも言わないと誓った。
――こんな生活をしていると、他の者に寂しくないかと問われることは多々あるが、寂しいとは特に思わない。
だというのに、この夢だ……少し自分が嫌になる。
――自ら望んでマスターをつくらずにいるようなものなのだから。
それにしても、随分と懐かしい話だ……。
――とはいえ私も乙女は乙女。
まさかこんな形で再確認するはめになるとはね。
――鉄の名を持っているからといって鉄の女というわけでも無いらしい。
とんだ偶然、いや皮肉だな……と一人笑う。
――偶にはセンチメンタルな心持になることもあるのだろう。
「やれやれ、まいったね、どうも」